苦悩?!
ごめんちょっと失礼!
そういって何度目だろう?
この家で一番狭い個室に行くのは…
いくら何だって飲みすぎだ。
私の部屋に転がるジュースの空き缶&ペットボトル
蒸し暑い夜にしゃべり通しだから喉が渇く渇く。
そういった訳で2人して代わる代わりに席を立つ私達。
はっきり言ってお腹も限界だ。
久しぶりの千恵との長話しだ。
千恵のおばあちゃんの話は勿論、山田の話や従兄弟の話までいろいろな話が出てくる出てくる。ずーっと笑いっぱなしだ。
中でも面白いのは従兄弟の話だったりする。
家族の中に女性は母親だけだったからか、千恵に対する過保護加減といったらない。―――千恵はそう言うのだが私にはそれが違う風に見えなくもないのだが。
否、あの眼は違うね。
きっと”ただの”従兄弟だなんて思ってないね。
確信があったりして。
当の本人は全く気が付いていなそうなんだけど。
まあだからこそこうやって話も出来るんだろうけどね。
しかし、不思議と今夜は眠くならないもんで時計を見るともう夜中の3時を回っていた。
明日は部活も休みだしゆっくり寝てればいいからなぁ。
そんなことを思いながら部屋に戻ると
「ねえ、今まで気が付かなかったけれど、隣もまだ電気がついているよ。大和まだ起きているのかな?」
そういわれて隣部屋をみると確かに明かりがついていた。
「さぁどうだろう?私はいつも早く寝るし隣の部屋の明かりなんて気にした事なかったからな。大和のことだからつけっぱなしで寝てるんじゃないの?」
私の言葉に妙に納得したらしい千恵は
「それもそうね」
と相槌をうった。
「そういえば、明日は家庭教師くるの?」
何の前触れもなく触れられたその話題。
すっかり忘れていた陸君の存在を!
「来ると思う……」
さっきまでの勢いがすっかりなくなりいきなりトーンダウンする私。
「まあまあ、あと2日の辛抱だよ。火曜でしょ追試は。」
千恵の言葉に更に落ち込む。
忘れていた英語の恐怖が蘇った。
「そうといえばそうなんだけど…」
この1日サボっただけで私の頭は空っぽになってしまったのではないだろうかと一抹の不安を感じる。
よっぽど顔にでていたのだろう千恵は
「ごめん」
と呟いた。
「謝る事じゃないじゃん。私の方がごめんだって。元はといえば私が追試なんてなるからなんだし。」
ほんとに今更ながらの言葉だったりして。
雰囲気が一気に悪くなりあれだけ弾んでいた会話も途切れ途切れになってしまった。
そのうちにどちらも大きなあくびをするようになり、寝ることにした。
明日はゆっくり起きようね。
そう言ったのに、朝っぱらからの電話で私たちは起こされてしまうのだった。
「何だか慌しくてすみません。」
そう頭を下げる千恵。
「いいのよ。それより大丈夫だといいわね。」
母さんの言葉に私も頷く。
「はい、電話の様子だとそんなにたいした事はないみたいですから。」
そう言って靴を履く千恵。
もう一度深くお辞儀をすると
「あとで電話入れるね。」
と玄関を出て行った。
門の先には先ほど丁寧に千恵のお礼をいった従兄弟君が立っている。
千恵から荷物を受け取りトランクに入れてこちらに会釈すると千恵と共に去っていった。
何だか略奪された気分だよ。
そう口に出すと隣で母さんが
「それもそうね。」
と呟いた。
千恵のおばあさんが風邪を引いてしまったらしい。何でも病院へ逆戻りらしく、お見舞いに行くとの事だった。
千恵は知らなかったそうだが、元々おばさんの所に行く予定だったらしいけど。
私はほんの少しだけ寝た千恵の布団を干すために2階へと上がっていった。
今日も天気はいいらしい。
むき出しになった腕はじりじりと刺すような日差しに汗が噴出していた。
プール行きたいなぁ。
そんなことを思っていると視線を感じた。
大和も布団を干していた。
「はよ。」
「はよ。」
かわす言葉は短くて。
おんなじ外の暑さでもソフトをしているときはいくらだって声が出るのに不思議なもんだ。
「プール行きたいって?」
大和がベランダに寄りかかって話掛けてきた。
「あくまでも願望。今日は最後の追い込みで忙しそうだから。」
そういや何時に来るのだろう。
いつもふらりと現れるから気にもしなかったのだが。
「ご愁傷様。」
横目でこちらをちらりとみながら思ってもないだろう言葉を投げかけてきた。
「そりゃ、どうも。」
負けじと軽く睨みながらそう言うと
「ああおっかねえ〜」
と首をすくめながら大和は部屋に入っていった。
何が”ご愁傷様”だっていうんだ、思ってもない癖に。
右ストレートがカーテンに吸い込まれていく。
思いっきりカーテンに当たってしまった。
結局、午前中は陸君は顔を出さずにお昼となった。
朝食は急いでいた千恵に合せてトースト1枚で終わってしまったから、お昼はがっつり食べたかった。
茶碗にこれでもかって言うほどご飯を盛って、天麩羅をおかずに2杯食べた。
他の家族はそうめんと天麩羅をゆっくりと食べている。
兄貴に至っては
「梓が食わないとゆっくり食えて平和だなぁ」
なんていいながら、器からそうめんを取っていた。
確かに。
大きな器に入っているそうめん。
普段だったらわれ先にと兄貴と奪いあいながら食べてるもんな。
「それはそれは、失礼しました。」
あっかんべーをしながらキッチンを後にした。
陸君が来る前にちょっとだけでもページを開いてみますか。
一日しなかっただけでこんなにも不安になってしまう私って。
それより、自分から教科書を広げているのにはびっくりしてるんだけど。
これも、陸君効果なんだろうか。
はじめは机にいたのだが、居の寝不足と英語の文字そしてお腹もいっぱいというかなりの条件で私は無意識にベットに行ったようで……
気がついた時にはあたりは夕焼け?!
時計を見ると既に6時を過ぎていて!!!
こうなったら、もう一度夜中まで寝てしまった方が懸命かも。
そこまで思ってしまった。
はて、どうしたものか。
ベットの上で胡坐をかくこと20分。
意を決して部屋のドアを開けたのだった。
そして、陸君がいるだろう兄貴の部屋をノックすると
「なんだ〜」
と緊張している私とはうってかわったのん気な声。
そおっとドアを開けると陸上の雑誌を見ている兄貴がいた。
狭い部屋は見渡さずとしても全てが目に入る。
肝心な陸君は部屋にいなかった。
「あの……」
罰が悪そうに話掛けると
「それにしてもお前欲寝てたな。そうそう、陸なら今日はこれないって。言ってなかったっけ?」
これまた非常にのん気な声で。
私の苦悩を返してくれ!!
本気でそう思ったのだった。