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花火大会の後で(大和と健太)

「すっかり寝ちまったなぁ」


「あぁ」




総司を負ぶってきてくれた健太と2人俺の部屋にいる。

成り行きじょう、抜け駆けみたいな事しちまったけど、直接健太から梓の事を聞いた事はないわけだし、あんまり変に言い訳するのも何だしな。


この部屋の温度はすこぶる低いのではないだろうか。

無言で男2人向かい合ってるのだから。

俺は沈黙が痛かった。


「この家、今誰もいないのか?」

タイミングよく健太が話しを振ってくれた。


「そうなんだよ、お袋がいるはずだったんだけど急に仕事になってまってよ。花火大会も直前までは健太や近藤達と行くつもりだったんだけど、お袋と行けなくなった総司がどうしても梓と行きたいって泣き出しちまって。」

うまいタイミングで言い訳ができたようだ。

ほっとした俺にとうとうこいつ言いやがった。


「本当はお前が一緒に行きたかったんじゃねえの?」

顔が本気だった。

俺は言うつもりなんてこれぽっちもなかったはずなのに思わず


「かもな」


って言っちまった。


「かも?かよ。」

直ぐに健太に突っ込まれた。


「そういうお前だってそうだろ?」

俺がそう言うと健太は不意を疲れたように、一瞬息を呑んだ。


「かもな」

健太は俺の顔を見て噴出した。


2人で笑った後、また沈黙が…



「「虚しいよな」」



どちらとも無く言葉が出た。

2人が梓を見ているから解っていることだった。


「んで、康太は結局、あいつと?」

俺の問いに


「ああ、正確にはあいつらと。だけどな。」

健太はそう言った。


まだ、山田が千恵の事で頑張っていた頃に今日の話をした。

てっきり康太も来ると思いきや返ってきた返事は意外なものだった。


「悪い、先約があるんだよ。」

と。

その顔は少し嬉しそうに見えたんだ。

渋る康太を問い詰めると


「琴音がさ、友達と一緒に見に行きたいっていってたんだけど、あいつの親が女の子達だけなんて危ないって反対して。んで俺に白羽の矢が立ったってわけだ。」

と。

だったら健太でもいいんじゃねえの?

そう思った俺の疑問に答えたのは健太だった。


「琴音はわかってるんだよ。康太だったら断れないの。こいつ昔から琴音の頼みは聞かなかった事はなかったからな。」

康太を見ると気のせいだろうか少しだけ赤くなった気がした。


「ふーんそうなんだ。」

俺は何となくだけどそれ以上突っ込んではいけない気がして。


後は今の通り。

俺達は野球部の連中と行く事になったんだけど。

総司の我侭でこうなってしまった訳だ。


俺は康太の事を梓に言ってはいけない気がして黙っていた。

それは健太も同じだったようだ。

いくら最大のライバルが減ると思ったってあいつの悲しそうな顔はみたくないからな。


ふと2人で窓の向こうの梓の部屋をみた。

千恵と話込んでいるのだろう、部屋の明かりは煌々と点いていて、時折楽しそうな笑い声が聞えた。


突然健太が口を開いた。

「マジ驚いた、梓が見えたとき。あんだけ人がいても解るんだよな。近藤達には悪かったけど気がついたら梓の後ろに立ってたよ。それで今日いけないって言われてたお前と一緒だって聞かされて凄い凹んだよ。」


さっきは”かもな”なんて言ってたくせに堂々と戦線布告ってか。

今までは、探り合ってたみたいっていうか、気がつかない振りをしていただけになんとなくこの先が変なことにならなきゃいいな、なんて思ってしまった。


「そっか、悪かったな。でも自分で言って虚しくなるけど、きっと俺だけが誘ったんじゃあいつは来なかったと思うぜ。総司の活躍大だからな。」

乾いた笑いと共に出た言葉だった。


「そういえば、総司のやつ、ませたガキだ。梓と結婚の約束するなんてな。」

健太が言った。


「案外ダークホースだったりして。」

自分の弟ながら……抜け目の無いやつだ。


「お前だけで結構だよ。」

健太にライバルだと思われている事自体驚きだ。


すると健太は

「なんて顔してるんだよ。幼馴染は脅威だろ。今だってこんなに近くにいるんだからな。羨ましいって。」

そう言って俺の肩を叩いた。


どうして、俺の周りはこう暴力的なやつが多いんだ。

健太に叩かれた肩がなんとなく健太の想いを表しているようでむず痒かった。


俺は思わず

「しかし、まあ何だ。俺はとりあえず暴れ姫の恋を見守っていくよ。例え誰にその想いが向かっていたとしてもな。まあ、俺に向いてくれてたら遠慮はしないけどな。」

と言ってしまった。


「誰に向かっていたとしてもか。自分じゃ動かないってことか?」

健太が痛いところを突いてきた。

そりゃ、動きたいさ。

あいつを俺だけのものにしたいって。

だけど、それじゃ駄目なんだ。

あいつが、自分から動かないと、きっといつか駄目になる。

だから、あいつが俺の事をそういう対象に見られるようにそれだけの努力はするつもりだ。

あいつを振り向かせたい。


漠然とそんな事を思った。


「なるほどな。」

健太が呟いた。


あー、もしかして俺口に出してたってか?!

恥ずかしいんだけど……


ちらりと健太を見てみると

「お前らしいよ。でも俺は動いちまうかもしれないな。きっと。」


多分俺達は知っている。

そう遠くない日に梓が悲しんでしまうことを。

その時健太はどんな風に思うだろう?

自分と同じ顔をした弟を好きなあいつの事を。

きっと健太は、梓にとってその日がきたら一番会いたくなくなる顔なのではないだろうか?

否応なしに思い出してしまうその顔をした健太を。


一番辛いのは、梓か健太か。

それとも俺か?


できるなら、ずーっとこのままでもいいのかも知れないな。

無邪気に笑うあいつの笑顔を見ていられるのならばな。


俺達は知らないうちに話込んでいたようで…結局健太は泊まっていったんだ。

いつまでも明かりの点いた隣の部屋を見つめながら。







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