スペシャルメニュー!
やっと、終わった。
まず1教科、終了。
「お待たせー」
グラウンドに行くともうみんなはバッティング練習に入っていた。
「お疲れ!」
千恵がひょいっとボールを投げてきた。
千恵がいるよ〜
「しょうがないから私が相手してあげるよ。」
そういってキャッチボールの相手をしてくれた。
先生もカンナもいいけど、やっぱ千恵なんだよねぇ。
ウキウキ気分でボールを投げた。
キャッチボールを終えると先生がやってきた。
「さっきはありがとうございました。」
そういうと
「全くだよ、お前は。」
と呆れ顔の先生。
何々?と集まってきたみんなに先生は
「お前達の思ってる通りだよ。後ででるプリント手伝わなくてもいいからな。」
なんて余計な事を。
後輩達まで笑っていた。
折角、部活やり始めていい気分だったのに台無しだよ。
「それより、お前は別メニューって言ったよな。」
先生はしてやったりの顔。
「はい。」
返事をすると
足を中心の強化メニューが待っていた。
走りこみ、スクワット、モモ上げーっ、その他いろいろ。
ってボールもバットも使わないの?
最悪だ。
私は投げ込みとか素振りとかそんなことを考えていたのに全く違うものだった。
つまらない。
つまらない。
すると
「嫌なのか?」
と花井先生。
勿論答えは
「はい」
と言いたいところなのだが・・・
「やります。」
そう言ってしまう自分が恨めしい。
じゃあ早速行って来い!
とお達しを受けてしまった。
「梓、一人じゃ嫌なのか?」
「そう言う訳ではないのですが。」
と言いつつ語尾がフェードアウトしていく。
部活のみんなを見渡すと誰も視線を合わせなかった。
千恵は笑ってるし、カンナなんてベロ出してやがる。
只でさえボールに触れる時間が少ないっていうのに、誰も私に同情してくれないってか!
「行ってきます。」
と学校の周りを走ることに。
これ何週走るんだ?
元々身体を動かす事は好きなので走る事は全然苦にはならないのだが、グラウンドではボールを打つ音が響いている。
やっぱりあっちの方が楽しそうなんですけど。
ちょっとむっとしながらも5週走った。
確か、学校の外周は800メートルだったような。
4kか、いいとこだな。
「戻りました!」
そういうと花井先生は顔だけこちらに向けて、
「じゃあ後はさっき言ったメニューを端っこでして来い」
そういって再びノックを始めた。
端っこって…酷すぎじゃん。
そうは思いつつも反論することも出来ず、黙々とメニューをこなしていく。
お陰で太ももがつりそうだ。
明日の朝起き上がれるか心配になってきた。
今日だけってことはないだろうからなぁ。
いつまで続けるか解らないこのメニュー、ちょっと恐怖だ。
ブルブルと頭を震わせて雑念を払った。
集中集中。
すると、陸上部の顧問、山形先生が話し掛けてきた。
「よう、佐藤。陸上部に入る気になったか?」
そう私は以前からこの山形先生に陸上部にも誘われていた、100mも幅跳びも私の方が成績が良かったから。
体育祭でのリレーで陸上部のスプリンターを追い越してしまったから。
プライドもあるのかなぁ。
その時はそんなことを思っていたのだけれど、どうやら違ったらしい。
本気で私が記録を狙えると思っていると花井先生から聞いたことがあった。
私だけでなく花井先生にもアプローチをしていたらしい。
大きなお世話だっつうの。
「全くその気はありませんが」
疲れが溜まってきてろくな返事も出来ない。
山形先生が去った後も一人練習を黙々とこなし、やっと終わった頃にはソフト部の皆も道具を片付けているところだった。
結局バットも触らせてもらえなかった。
ちょっと恨みがこもった目で花井先生をみると
「いいねぇその目。試合で欲しいもんだよ」
と一蹴されてしまった。おまけに
「バットを触りたいのだったら、明日からはそのメニューをもっと早く終わらせればいいことだ。」
と高笑いを始める始末。
鬼だ。
ちょっとしたいじめじゃないかと思うのは私だけなんだろうか?
挨拶だけはみんなと一緒にさせてもらったのだけれど、どうも納得がいかない。
しぶしぶグローブを抱えて部室へ戻ってきた。
「「お疲れ」」
みんなが私に同情の目を向けた。
そんな顔するんだったら一人位付き合ってくれてもいいものだけど……
そそくさと帰り支度を始めて帰ってしまった。
私はいつものように
「千恵ー帰ろうぜ」
というと
「ごめん。今日から帰り迎えなんだ」
と千恵が言った。
そうだった、千恵は従兄弟の家から通うのだっけ。
忘れていたよ。
疲労が溜まった体に頭もついていかなかったらしい。
千恵は
「従兄弟が大学帰りに迎いにくるからそれまで少し話をしない?」
と誘ってきた。
「おう」
私はそう返事をすると、カンナに部室の鍵を預けたのを確認して、部室を出た。
そして校門の前のガードレールに腰掛て一息ついた。
「大変そうだったね。」
人事だと思って、千恵は私の方を向いてクスクスと笑い出す。
「そうだったじゃなくて、大変だよ、全く。」
既に張り出した太ももをさすりながらあの先生の顔を思い出した。
「梓ー私先生から聞いたんだけどね」
と千恵は話出した。
「花井先生、すっごく梓に期待しているみたくてあっちこっちのソフトしてる人にピッチングについて聞いて回ってるんだって。」
一回そこで区切り、私の顔を見つめる。
「ふーん」
さもあんまり興味がありませんとばかりに返事をした。
「またまた強がっちゃって。それでね、ピッチングには腕の筋肉より足、それも太ももの内側の筋肉が重要だっていう結論に達したらしいよ。ボールが手から離れる瞬間の瞬発力っていうの?あれが重要なんだってさ。梓ならきっとどこまでもいけるって思ってるんじゃないのかな?」
確かに、今日のメニューは足中心だったけど、陸上部より厳しかったんじゃないだろうか?初日から飛ばしすぎじゃない?
心の中で悪態をつく。
そんな私の顔を見越して
「多分新人戦だって、狙ってるんじゃないのかな?それまでに梓が仕上げてくるって。だからのんびりしてる間場合じゃないのかもね。梓解らなかっただろうけど、私達だって今日の練習いつもの3割増しだったんだから、私は腕がパンパンだよ。」
そういって私の前に腕を差し出した。
そうだったんだ、そういやあんまりムカついてソフトの練習してるとこ見ないようにしていたからな。
「頑張ろうね」
丁度そう千恵が言った時に、校門から少し離れた場所に青いクーペが止まった。
「あっ暁兄ちゃんだ。じゃぁまたね」
と千恵は駆けていった。
「またなぁ」
と手を振り、ガードレールから腰を上げる。
「うおっ」
太ももが……
家まで歩くの一苦労だよ。
私も乗せていって欲しかった。
本気でそう思ったのだった。