幼馴染=悪魔?
「女の子らしくかぁ」
湯上りの濡れた髪をひっぱりながら、鏡をみる。
日焼けした肌に、ストレートのショートカット。
パジャマでさえジャージだったりする。
私の中の女の子らしくっていうのは、色白の肌に、ふわふわとカールした髪、パジャマはーそれはいっか。
何より、男友達として付き合ってきただけに、あいつの言葉は私にとって晴天の霹靂だ。
何の気なしに言った言葉なんだろうけど。
思わぬ試合になったため忘れていたけど、自分の部屋で一人でいると今日の出来事を振り返ってしまう。
忘れていたといえば!!大和だ。
髪を乾かすのもそこそこに、新聞紙をくるくるっと細長く丸めて窓を開ける。
電器が点いている大和の部屋の窓をその武器で突っついた。
「何だよ、宿題か?」大和が顔を出した。
「終わったって!そうじゃなくて、今日はよくも失礼な事をオンパレードしてくれたじゃない。」
私は怒ってるんだから。そんな私を尻目に
「俺、なんか梓に言ったっけか?」
なんて首をかしげている。白々しい、分かっているくせにすっとぼけやがって。
「あのねーぇ」
私も呆れた顔でかえした。
「あぁ、あれか?康太の時の、それとも健太の時のか?」
やっぱり分かってる!むかっとした。
「両方だよ。」ありったけの目力で睨んでやった。
すると大和は
「失礼って、本当の事じゃねえか。スカート穿いた事ねえのも、責任とるっていったのも。」
今度はニヤリと笑いやがった。
「スカートはそうかもしれないけど、責任とって私がお嫁に行ってどうするのよ!私は嫁に来いっていったんだ。それも冗談で返しただけなのに。間違った事をあの試合中に健太に言う事ないじゃん。」もう一度睨む。
「ふーん。そんな事か。どっちにしたってあんまり変わらねぇって。でもあの一言でうちのエースが立ち直った訳だから俺らにとったら当たりだぞ。それとも誰かに聞かれたくなかったとか?」
嫌な奴だ。
小さな頃から一緒にいるせいなのか、私の心の中を覗いたように的確だ。
全くその通り、冗談と言えど康太に聞かれてしまった事が一番ショックだったりすんだよ。
でもこれを認めてしまうと、明日からの私はからかいの対象間違いない。
普段あいつの近くに居るだけに認める訳にいかなかったりする。
「そんな奴はいねえって。もういい、お前とまともに話した私が悪かったよ、じゃあな。」
一方的にそういうと窓を閉めカーテンを引いた。
その瞬間、”髪は乾かしてから寝ろよ”と聞こえたけど、カーテンのこちら側からアッカンベーをしてやった。
でも、もしかしたら気がついてるのかも知れないとも。
そう考えた瞬間ブルブルっと寒気が襲ってきた。
思えば、小さな頃から大和には何でもお見通しとばかりに散々からかわれてきた。
友達とケンカした時、母さんに怒られた時、その日の私を見て心の動揺を突付いてくるのだ。私も堪らず言い返すのだが、いつものらりくらりとかわされてしまう。
でもその後にはフォローもしてくれたけど。
そういや最近は一方的に突付かれるだけでフォローの何もあったもんじゃない。
大和がいい奴なのは分かるが、かっこいいって思われてるなんて信じられない。
今となっては
幼馴染という名の悪魔だ。
そんな事を考えていたら
「あーずーちゃん」
兄貴だ。
2歳上で幸太郎という。
この声を出す時はどうせロクな用事じゃない。
「な〜に」
兄貴に倣ってブリッコした声出してドアを開けた。
そこには顔を歪めた兄貴が立っていた。
「お前のそんな声初めて聞いたよ。そんな声もでるんだな。」
でたよ。今日2人目の失礼な奴だ。
「今日もですか?」用件は聞かなくても分かっている。
「持つべきものは可愛い妹だね。」
そういうと私のベットの上にうつ伏せになった。
「20分でジュエルのモンブラン2つ。」時間と大好きなケーキを要求した。
「了解!」
兄貴の返事を聞き背中に跨った。
「いくよ。」
同時に両手で丁寧に揉み解す。
「あー気持ちぃ。やっぱり梓が一番だよ。この力加減が絶妙だぁ」
そう高校で陸上部に入った兄貴は風呂上りに私にマッサージの要求をするようになった。
今日のように猫なで声で私の部屋に入ってきた兄貴が私の手を取り、
「この手の大きさ、そしてお前の力強さ、どうみても理想的だ。」
そういって私にマッサージの指導をした。これを覚えておくと絶対この先、役に立つと。
気がつくと兄貴の専属マッサージ師だよ。
まあしてあげる度におねだりもしているから、悪い気はしないけど。
「そういや、さっきロミオと何話してたんだ?」
ロミオって、何だよ!
「別に。」そういってありったけの力で背中を押した。
「やめろって、お前の力、洒落になんないんだから。」
こうして夜は更けていった。
「遅刻しちゃう〜。どうして目覚ましが止まっているのー。」
慌てて着替えを済ませてカバンを持った。
「お母さん、おはよう!兄貴は?」
テーブルに置いてあったトーストにかじりつく。
「おほよう梓、ちゃんと座って食べなきゃ駄目じゃない。お兄ちゃんなら部屋にカバンを取りにいったわよ。」
全くもう、何でこの子はこうなのかしら?と小さい声が聞こえたが聞こえなかったことにしよう。
トーストをほおばり一気に食べる。
手早く顔を洗い、歯を磨いた。
程なくすると兄貴がカバンを持って玄関に向かった。
「お兄ちゃん、乗せてって」
頼む、と顔の前で手を合わす。
「久し振りに聞いたな、お前のお兄ちゃん。ジュエルのモンブラン1個没収な。」
勿体無いとは思うが遅刻よりましだ。交渉成立。
「やっぱり持つべきものは頼りになる兄貴だね。」
「あれ、もう兄貴に戻っちゃうのかよ。まあこっちの方がしっくりくるからな。」
私もそう思った。
「「行って来ます」」
「久し振りだね、兄貴の後ろに乗るの。」
「お前、重たくなったんじゃねえの?」
言い返したいところだが、後ろに乗せてもらってる身、我慢我慢だ。
「あれだよ、トレーニングと思ってさ。」
「トレーニングねぇ。確かにそうかもな。」
兄貴は地元の高校へ自転車通学だ。
中学はその途中にある。
いつもは朝練があるのだが、期末テスト前で今日から部活は休みだ。
そっか朝練ないから目覚まし時間変えようと思って止めたんだった!納得納得。
それにしても自転車だと速い速い。
兄貴と他愛も無い話をしていたらあっという間に学校の近くまでやってきた。10分は短縮できたよ。
「梓、あれ、何だっけほれ大和のライバル。」
兄貴が言った先には、健太と康太がいた。
今日は朝からラッキーじゃん。
それにしてもライバルって。
「図々しいね、大和も。そんな事言ったの?あいつらと大和じゃライバルにもならないよ。あいつら野球センス抜群だから。」
「可哀相な奴。」
兄貴はぽつりと呟いた。
「こればっかりは、誰がみても確かだから。あいつらと比べる比じゃないからね。」
「報われないな、大和も。」兄貴はまた呟いた。
「ありがと兄貴、ここでいいや。」よっと自転車から飛び降りる。
「じゃあな。ちゃんと勉強するんだぞ。」あんたはお母さんかい、と思いつつ
「兄貴もな。」と軽く手をあげ見送った。
健太と康太の後ろに立って、いつものようにカバンを振り上げた。
そこで一瞬、昨日の康太の言葉が頭を過ぎさる。
私はゆっくりとカバンを下ろした。
「おっす。」双子の隣に並ぶ。
「「おう」」さすが双子だ、声も揃ってる。
「珍しいな、お前が普通に登場するの。」康太が言った。
それは康太が昨日言ったからなんだけど・・・
「朝はお弁当がよっちゃうからな。」と苦しかったが笑ってごまかした。
「弁当なんて入ってないくせに」健太の鋭い突込みが小さい声で聞こえた。
「ギャグだよ、ギャグ。細かいことは気にしない。そんなちっちゃい事言ってると嫌われるよ。」
冗談で言ったのに、健太の顔が少し歪んだ。何だ?そんな変なこと言ったか?
「そうそう、昨日の試合のことだけど、」康太が言うと
「次は絶対負けないからな。」
健太が口を挟んだ。
「望むところだ。」
今一噛み合わない会話だったが昇降口に着いて終了だ。
康太が何か言いたそうだったけど、また後で聞けばいいか。
康太は1組、健太は2組、そして私は3組だ。
それぞれの教室に入ってまた学校の1日が始まる。