家庭教師3
コンコン
と窓がなった、大和だ。
立ち上がろうとした私の頭を陸君は押さえつけ、窓を開けた。
「よう!」
と言ったまま陸君をみて大和は固まってしまったようだ。
そんな大和をみて陸君はあの胡散臭い笑顔で
「何かな?大事な用じゃなかったら、今梓は勉強をしているところなので、邪魔しないでもらえるかな?」
と。
大和はぎこちなく
「解りました。」
と言うと私の顔をちらりと見て窓を閉めた。
外の空気を吸ったせいか、少しだけ眠気が遠のいた。
「ちょっといいか?」
このタイミングで兄貴が顔をだした。
「何だ?」
陸君が返事をすると
「母さんが夕飯ってだとよ。」
兄貴の言葉を聞いて陸君はやっと教科書を閉じた。
「今日は頑張っちゃったわよ。」
母さんはにっこり。
見ると今日はすき焼きだった。
最近すき焼きなんてやった事あったか?
「さあ、陸君も沢山食べてね。」
母さんは今日も超ご機嫌だった。
こいつって遠慮ってもんを知らないのだろうか?
大好物の肉がどんどん減っていく。
家の家族は平均より飛びぬけて背が大きい。
兄貴と父さんは勿論な事母さんも例外ではなかった。
だからなのか解らないが家族全員人の家の倍の量じゃないかって程食べる。
本音を言うと学校の給食美味しくって大好きなのだが、いつも大量に食べているせいか食べ終わっても満腹にならないところが欠点だったりするんだよな。
まあお替りはするけど。
そんなこんなで、すき焼きも戦争のようだった。
あれほどあった肉ももう残りわずかで。
母さんがぽつりと
「お兄ちゃんが双子じゃなくて助かったわ」
なんて小さい声で呟いたのが聞こえた。
何だかおかしかった。
食事が終わると、自分部屋に強制送還だ。
食後のコーヒーさえ飲ませて貰えなかった。
部屋へ着くと
「そういえば、追試いつになった?」
と聞かれた。
「火曜になった」
とこたえると。
「じゃあ、土日も1日中ゆっくりできるな。」
と悪魔の囁きが聞こえた。
「えーっ土日も?」
土日までやるなんて考えてもなかったぞ。
「当たり前だ。土日にやらなきゃ無理だろ。追試が金曜にならなかったのが助かった位だよ。」
と言われてしまった。
どっちにしろ無理なんじゃないだろうか。
だとしたらやらない方が・・・
そう思ったのがバレテしまったのか
「俺が、やると言ったらやるんだよ。おばさんに約束しちまったからな。」
とあの嫌ーな笑顔だ。
「でも土曜の午前中はパスしていいだろ?部活があるんだ。」
本当はいいだろなんて思ってもいない。駄目だと言われてもぶっちぎって行くつもりだった。
「部活ねぇ。それは今日、明日のお前次第だな。」
いつになく優しい顔がちょっと怖かった。
それから、ひたすら単語の暗記が始まった。
私のノートもアルファベットで埋め尽くされていった。
これだけやると、覚えようとしなくても、勝手に頭に入るらしくテストに出た長文や問題文はようやく訳せるようになってきた。
約すというのは言いすぎか、丸暗記ってのだからな。
「いい感じじゃん。そのまま続けて。」
そうは言ったもののもう10時になっていた。
それに気がついた陸君がじゃあ今日はこれまでと言った。
長かった。長すぎだぞ。
それにしても、こいつは暇人だ。
そうとしか思えない。
そう思った。