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家庭教師

「ただいまー。」

玄関をみると、いくつもの靴が転がっている。

兄貴帰ってるんだ。


キッチンにいる母さんに顔を見せると、手だけ洗って2階へ上がった。

そして、ノックをするも返事を待たずに兄貴の部屋のドアを開けた


頭を下げながら

「兄貴ー頼みがある。」

そういって顔を上げたら、目の前のは兄貴ではない人達が・・・


皆で一斉に笑い出した。


何がおきてるんだぁ。

きょとんとしていた私に後ろからコツンとお盆がぶつかった。

今度こそ兄貴だった。


「お前人の部屋で何笑い取ってんだよ。」

 

改めて部屋を見ると兄貴の友達が3人いた。

おっ、よく見ると小さい頃から遊んでいた”陸君”がいた。

そういやさっき玄関に靴があったけ、今更ながら思い出した。


「ども」

短く挨拶をした。

陸君以外はまだ肩を揺らしていた。


「よお、梓久し振りだな。しっかしお前変わってないな。そのおっちょこちょいなとこ。」

陸君は白い歯を見せニカッと笑った。

相変わらず胡散臭い顔だこと。

と思っていたら。


「さっすが、幸太郎の妹。こいつの笑顔に赤くもならず、騙されないなんてやるな。」

一緒に来ていた友達に言われた。


騙されるわけないっつうの。


「そうそう梓、幸太郎に頼みがあるんじゃないの?」

陸君に言われた。


「何、頼みって?」

兄貴が変な笑みを浮かべて聞いた。


「後でいいや。」

そういって部屋を出ようとしたら、折角だからと引き止められた。

嫌だと言ったんだが、結局私は、兄貴の部屋にしぶしぶ座った。


「んで?なんだって。」

面白そうな顔して陸君が聞いてくる。

しつこいなとも思ったけど、まあいっかと話をしてしまった。


「なるほどな、で、梓は英語の追試に受かりたいっていうんだな。」

黙って話を聞いていた陸君が言った。


「お前なあ、それは無理ってもんだろ。だって基礎が全くないんだぜ。俺はお手上げだ。」

兄貴の奴、可愛い妹になんて事をいうんだ。

こっちだって無理を承知で頼んでるっていうのに。

兄貴がみてくれないとしたら、補習は決定だって。


そんな私をみてこともあろうか陸君が

「俺がみてやろうか?」

と言った。


それを聞いて反応したのは、大樹という一緒にいた友達だった。

「それがいいんじゃねえの。確かに幸太郎も賢いけど、英語に限っては陸のが上だからな。」と。

思わぬ展開になってきた。

藁にもすがる思いとはこの事だ。

背に腹は変えられないって言うんだっけか?

ありったけの知ってることわざを思い出したりしてみて


「お願いします。」

ペコリと頭を下げた。


すると陸君は

「ただし、俺にも条件つけていい?」


「「条件?!」」

兄貴と声が重なった。


「そりゃあそうだよ。基礎も出来ない子をたった何日かで追試通るようにするなんて、至難の業だぜ。だから、もし通った時は1つ頼みを聞いてもらおうかな。」

意味深な笑いをした。


この際、そんな事は後回しだ。

私は2つ返事で了解した。

兄貴は呆れ顔だ。

そんな顔するんだったら、初めから兄貴がみてくれればいいのに。


「じゃあ、そうと決まれば、早速はじめようか。」

陸君はそういって私の背中を押して兄貴の部屋を出た。

唖然とする兄貴と友達の顔が見えた。


今からですか?と思ったものの、そんな余裕もない私。

言いなりに自分の部屋に戻ると、


「とりあえず、テスト見せてみな。」


私は、カバンから却ってきたテストを陸君に見せた。


陸君は

「はやまったかも」

と小さい声で呟いたが聞かなかったことにしておこう。


こうして、短期間限定の家庭教師が出来たのだった。


早速、机に着かされた。


「なあ、梓。英語の先生って誰だ?夏目?それとも服部?」


「服部。」


陸君は

「なるほどな、俺らの時と同じだ。これなら何とかなるかもだぞ。」


天使の一声が聞こえた。

”何とかなる”いい響きだ。


「っておい、かもって言っただろ。どっちにしろ梓はいっぱい覚えなくちゃならないんだから、覚悟しておけよ。」

そういって頭を小突かれた。


「はい先生。」

そういう私に満足そうに頷いた。


「先ずは、復習だ。取り合えずテストもう一回解いてみろ。」

そうは言うのだが、それが出来ないからこうなった訳で。

テスト用紙を見ながら、途方にくれてしまった。


「梓は何が解らないんだ?」

陸君が言った。


「全部。」

正直に答えた。


「単語は?」


「全く。」

最後の私の言葉を聞いてか陸君は大きなため息をついた。


そして。


「じゃあ、初めはこのテストに出てきた問題文から約すとしますか。梓、辞書は?」


「無い。」という私に


「無い?」と聞く陸君。


「うん、学校に置いてある。」

そういうと、また頭を小突かれた。


「明日は持ってくる事。いいな。」


もはや、嫌とは言えなかった。

仕方なく頷いた。


陸君は、兄貴の部屋に行き兄貴の辞書を借りてきた。

兄貴の辞書は、使い込んだらしく、一枚一枚のページがハラリと捲れる。

私のお気に入りの漫画本のようだった。


「じゃあ、10分あげるから、問題文1つ1つ単語を調べて。」

そういって腕時計をみると私のベットに腰掛けた。


始まって1分と経っていないのに、既に頭が痛いような気がするのは気のせいなんだろか。

何だか、後ろから無言のプレッシャーが・・・

私は今まで一番必死で辞書を捲った。


「はい、そこまで。」

どれどれなんて覗き込む陸君。


「まあ、はじめだからな、こんなもんか。」

そう言って、私の書いたノートをチェックした。


その後もひたすら、辞書とにらめっこだ。

休憩も入れず、みっちり1時間机に噛り付いていた。


学校の授業だって1時間もない。

私は産まれて初めてこんな長い時間を机で過ごした。


緊張していたのだろうか、やっと辞書から解放された時、一際大きくお腹が鳴った。

陸君は抑えることもせず、ゲラゲラと笑った。


「じゃあ、一旦ここまでにしよう。飯食っておいで。」


”やったー。”と思ったのだが、今何と言った?一旦っていったか?

もしかしてと陸君を見上げると、私の思ったことが通じたのか


「食事休憩だよ。」

と悪魔の微笑み。


丁度、その時部屋をノックする音が。

ドアを開けると超ご機嫌の母さんがいた。


「陸君、本当にありがとね。まさか梓が家で勉強する姿がみられるなんて!是非夕飯食べて行って。」

と。

ここは遠慮して”帰ります”って言うところだよな。

なんて思ったのに。


「では遠慮なく頂きます。久し振りにおばさんのご飯が食べれるのに、断るわけないじゃないですか、それに今、梓ちゃんノッてる所なんでもうちょっと進めておきたくて。」

と言いやがった!!!


何が梓ちゃんだ。


陸君をみるとしてやったりの笑顔。

あ〜今日は疲れてるのに。

脳みそまで筋肉痛になりそうだと思った。


夕飯の後もそれが続いたわけでして、兄貴が顔出してくれたお陰で助かったのだが、奴は


「また明日も来るからな。」

とあの胡散臭い笑顔と共に帰って行った。


今日の夢はアルファベットに押しつぶされそうな気がする。

なんて思ったりもしたのだが、身体も頭もフル回転だった私は夢さえ見ずにぐっすり眠れた。


次の日、起きて仰天した。

朝練ぎりぎりの時間だ。

部室の鍵を持っているのは私だったりする。


兄貴としては、まだ出かけるにはえらく早い時間なのに頼み込んで自転車で送って貰った。

何か言われるかと思ったのだが、兄貴は以外にも何も要求してこなかった。

そっちの方がよっぽど怖い。


だけど、今は朝練の方が重要だ。

昨日のことはさておいて、兄貴の背中にありがとうとお礼を言った。


部室の前に着くと朝練開始時刻3分経過。

仁王立ちしたカンナがいた。


カンナや後輩達に平謝りの1日のスタートだった。






















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