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チエ熱

テスト週間も終わり、いつもの日常に戻った。


早い教科はすでに点付けが終わっていて、手元に却ってきたりする。

いつもの事なのだが、点数だけをみたらこれが100点満点のテストだとは思うまい。

50点満点だって怪しいところなのだから。


昨日、結局千恵からの電話は無かった。

自分からしようと思ってもいたのだが、何を話せばいいのかも解らず、何も出来なかったんだ。

学校で直接、話しすればいいかなと。

でも、千恵は今日学校に来ていなかった。

珍しいことだった。

元気がとりえな私と千恵はそれこそ皆勤賞の常連だったりする。

よく大和に”何とかは風邪引かない”なんてからかわれるけど・・・

千恵どうしたんだろう。

山田に聞いてみるか。


昼休み、山田の元へやってきた。

もう梅雨明けが近いのだろう、最近までの愚図ついた天気とは違って抜けるような青空の広がる今、教室に残っている男子は少なかった。

それでも教室をくるっと見渡してみる。

居た。それも教室の隅の席で机にうつ伏せている。

暗い奴代表みたいな格好だ。

ちょっと不安になった。


ずかずかと教室に入って行った。

教室に残っている女子が何事かとばかりにこっちを見ているのが解ったが、そんな事も気にせず山田の前の席に座った。


「山田。」

名前を呼ぶと


「佐藤かぁ。」

と気の無い返事をする。


「どうした?あれから。もしかして何も言えなかったなんていうんじゃねえよな。」


「俺は、−俺は言うつもりだったんだ。でも、逃げられた。」


「はぁ?逃げられた?」

思考回路がついていかない。


「詳しく言ってみ。」

私の言葉に仕方なく頭を上げた山田は昨日の様子を話始めた。


千恵を捕まえ、一緒に帰るはずだったが、校門を出たところで千恵の母さんが車で待っていたらしい。何でも、千恵のおばあちゃんが倒れたそうで病院へ行くのだと。

ざわつく気持ちを抑えながら、家に戻り、夜、電話をしたのだけれど、繋がらなかった。と言った。


「何でそれで落ち込んでんだよ。そんなの逃げたんじゃねえだろ。しょうがねぇって。」


「違うんだよ、俺。昇降口に行くまでの間に何回も話があるって言ったんだ。でも千恵は”聞きたくない”の一点張りで。折角、勇気をだしたから千恵の家に着くまでには言おうとしたのに、このザマだよ。おまけに夜も繋がらないし。昨日で今日の分の俺のエネルギー使い果たしちゃったんだ。俺嫌われてるのかもしれない。」

それだけ言うとまた机にうつ伏せた。


私は頑張れよ。との意味を込めて山田の頭をポンポンと軽く叩いた。

どこからか、視線を感じたような気がした。

廊下をみると、間違いない!千恵の後ろ姿だった。


私は急いで立ち上がり


「千恵ーっ」

と叫んで追いかけた。


千恵を捕まえた。

振り向いた千恵は少し悲しそうな顔をしていた。


「梓、山田はいいの?」

千恵は視線を合わすことなく俯いている。


「それより、話があるんだ。」


「あんまり聞きたくないかな。それに今急いでいるんだ。あいつに聞いたかもしれないけど、おばあちゃん倒れちゃって。今はお母さんついてて落ち着いてるんだけど、年も年だから油断が出来ないって言われて・・・従兄弟の兄ちゃんも病院に来てたんだけどどうしても大学に用事があるからって戻ってくるのに着いてきたの。今日は先生に今週いっぱい休むって連絡と体操着とか取りにきただけだから。」

千恵は一気にそこまで言うとうっすら涙を浮かべた。


「嫌な事って重なっちゃうのかな。」

とぽつりと呟き涙が零れた。


千恵がおばあちゃんっこだっていうのは良く知っている。でも嫌な事が重なるって?

頭の中で?マークが回っていた。


そこへさっきの私の叫び声で気がついた山田がやって来た。


「お前、どうして泣いてる。」

さっきまでは山田だって泣きそうな顔してたのに。


「もう、あんたには関係ないから。」

そういって千恵は走り出しそうになったその時、山田が千恵の腕を掴んだ。


「俺、話があるって言ったよな。」

意を決したのだろう。普段では聞けない低い声だった。


「だから今は聞きたくないって。」

千恵からまた涙が零れた。


「おばあちゃんの事で大変なこんな時にいうのは間違ってるかもしれないって解ってるけど、俺、どうしようもないんだ。自分勝手で申し訳ないって思うけど。気になって、気になってしょうがないんだよ。」

山田の切羽詰まった声に千恵は顔を上げた。


少しの間を置いて、山田は千恵の腕を掴んだまま


「お前の事が気になるんだよ。健太や大和達と笑ってる顔が、俺の事をそっけなく見る顔が。

そんな風に泣いてるお前の事が気になってしょうがないんだ。」

山田の顔はそれ以上赤くならないんじゃないかって思う程赤くなっていた。


「梓じゃなくて?」


「はぁ?」

何で私なんだよ。


「それはちょっとあるかな。なんせ、お前と話す切欠が欲しくて佐藤に近づくチャンスを狙っていたから。」


そういって頭をポリポリと掻き出した。


「私と話す切欠?」

千恵は山田の顔を見上げた。


「あぁ。」

そこまで言うとまた黙ってしまった。


「だから違うだろ、山田。ここまできたらちゃんと言ってやらないと。千恵にはっきり言ってやれ。」

そこまでいうと私は2人から離れて教室に戻ることにした。


「梓。後で電話するから。」

とういう千恵の声に振り返りもせず手だけを挙げて返事をした。


「よう。」

声だけで解る。この声は康太だ。


「よう。」

私も短くこたえた。


「良かったな。機嫌が直りそうで。」


「そうだな。これでこじれるなんてありえないだろ。」

胸のつかえが下りたようだった。


「いい仕事したんじゃねえの。ちょっと迷惑被ったけど。」

と康太が言った。


「迷惑を被った?」

はぁ?って感じだ。康太も山田に相談でもされてたのだろうか?


「いや、こっちの話。」

康太はニヤリと笑った。


かっこいい。見惚れちゃうって。


「お前なぁ。その顔怖いって。」

口をはさんだのは大和だ。


「失礼な奴だよ、お前は。」

康太は笑っている。


「それにしても大胆だな、あの2人。いくら人が疎らだっていったってここ廊下だぜ。あっという間に広がるよ。」


そうだ。自分達っていうかあの2人の事でいっぱいだったから周りに目がいかなかったけど、見てる奴はみてるからなぁ。私はそんな程度にしか思わなかった。


「今野も山田も結構人気あるんだぜ。何ともなきゃいいけどなぁ。特にあのマネージャー山田に本気だったんじゃねえか?」

大和がいうと


「それをいうなら、誰だっけ?今野の事好きだった奴。あいつも相当しつこそうだけど。」

健太が言った。


私にはどっちの話も???だらけだった。


そんな私の顔を見て、梓もたまには女の子の中に入って会話した方がいいんじゃねえ

と2人はまた笑った。


そういうもんなのか?

中学入るとそんなもんなのかもな。


私は自分の事で精一杯なのに。


そして、放課後。

待ちに待った部活の時間だ。


いつものように鍵を開けに部室へと急いだ。

部室までくると、やっぱり健太は既に鍵を開けている。

全くうちの担任ときたら、たまには他のクラスより早く終わらないもんなのだろうか。


「相変わらずだな、お前のとこの担任は。」

健太が鼻で笑いやがった。


「何とかして欲しいよ全く。」


「そういや、山田今日、部活休んだらしいぞ。頭痛いとか言ってたからな。」

健太は面白そうに言った。


「たまにしか、使わない頭使って悩んだから知恵熱なんじゃないか?」

と私が言うといつの間にやら追いついた大和が


「それをいうなら”千恵熱”じゃねぇの」

と言った。


「上手い!座布団3枚やるよ!」

そういって私は今部室から出した、ファーストベース、セカンドベース、サードベースを大和の前に差し出した。

「ついでに運んでくれると嬉しいけど。」


そんな私に大和は

「悪いが、座布団没収してくれ。」

と。


久々に大笑いした。












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