キャッチボール
着替えを済ませ家を出るとまだ大和は出てきていなかった。
何が早くしろだ。
自分の方が遅いじゃねえか。
自転車に跨りながら、グローブを嵌めた手に、ボールを投げ入れる。
何度か繰り返すとやっと大和が出てきた。
「遅ぇよ。」
「お前が早すぎなんだよ。」
こいつは一言”悪い”って言えないのか。
全くもって口の減らない奴だ。
2人並んで公園へと向かった。
ここら辺は都会から少し離れた場所にある。
何でも緑地モデル地だったか、近くにはいくつのも公園があったりする。
小さい子供が遊べる遊具や砂場がある公園だったり、バスケットやサッカー、野球などが出来る公園だったり、最近ではボール禁止なんて公園が多い中、恵まれた環境だったりする。
そうそう中にはドッグランなんてのもあって、休日は人がいっぱいだ。
自転車で5分走ると目的の公園に到着した。
まだあいつらは着ていなかった。
始めは、こっちでいいだろ?そういって大和にソフトボールを投げた。
「いいだろ?って始めからそのつもりな癖して。」
2人でキャッチボールを始めた。
「梓って、やる度に球速上がってないか?すっげー手が痛いんですけど。」
大和は大げさに手を振って痛がる真似をした。
「それはそれは、お褒めに預かり嬉しいですわ。」
力いっぱいボールを投げた。
「うおっ。これで、打てる奴いるのが信じられねえよ。」
「だから、打たせないんだって。」
当たり前だろ?誰が打たせるつもりで投げるんだよ。
暫く続けていると
「早かったんだな。」
健太の声に振り向くと、今度は康太が
「お前のその格好に、その球速。後ろからみたらとても女が投げてるとは思えないね。」
確かに私の格好はタブついたTシャツにジーンズ。
髪はショートしかもキャップを被っているからそうみえるのだろう。
さっきは女の子だって認めたくないなんて思ったけど、康太の言葉にはなんだか複雑だ。
自分で男友達を望んでいるというのに。
「そんな事ないぞ」
えっ大和がフォローしてるよ!思ったのも束の間。
「後ろからだけじゃねえ。前から見ても同じだ。」と。
大和に言われると複雑を通り過ごして不愉快になるのはどうしてなんだろう。
それにしても、最近康太、毒吐くよな。
「大和、俺と交代。」
健太が大和からボールを取り上げた。
大和は
「おう。」
と短く返事を返し健太と交代した。
「ソフトボールだからな。」
私の言葉に
「それがしたかったんだよ。」
と言う健太。
肩慣らしから初め、序序にスピードを上げてきた。
いいテンポだ。
そのうちに健太も本気になってきたみたいだ。
私と同じように下投げを始めた。
センスがいいからか、何度か繰り返すうちにいい感じになってきたのだが・・・
どうも健太の視線が痛いのだ。
きっと私の投球フォームを見ているのろうけど、きっとじゃない実際そうなのだが真剣な顔でじっと見据えられるとどうも落ち着かなくなってくる。
きっと最近の健太のせいだ。
何だか私は堪らなくなって
「ちょっと休憩しようぜ。」
といってグローブを外した。
「お前さぁ、一番ノッてた割には休憩いれるの早くねえ?」
相変わらず痛いところをついてくるのは大和だ。
「いいんだよ、まだ時間はあるんだから。久し振りだから肩壊したら嫌なんだよ。」
そういう私に。
そんな軟な身体してないくせにと大和の呟きが聞こえた。
「それにしても、健太は飲み込みが早いよな。」
康太が言うと
「手本がいいからだよ。」
私が突っ込む。
それに対して健太は
「それは言えてるな。」
やけに素直だった。
ちょっと休憩した後立ち上がった。
「次はこっちでいいぞ。」
野球のボールを持って空へと投げた。
また健太とキャッチボールをするのから逃げたかったのかもしれない。
「康太、やろうぜ。」
康太とするのこそ照れもあるのだが、今はその方が良かった。
「お手柔らかに。」
康太はそう言って私と対峙した。
ソフトボールを持った後に野球ボールを持つと感覚が麻痺するようでやけにボールが軽く感じる。
おかげで一球目はスッポ抜けてしまった。
私が放ったボールは大分上の方へ抜けたと思ったのだが、康太は3,4歩後ろへ下がって高く飛び上がりキャッチした。
「かっこいい」
思わず口に出してしまった。
「惚れちゃった?」
と康太が言った。
惚れてるよ。心の中で呟いた。
「おお、今のはグッときたよ。」
私の顔は赤くないだろうか。
一瞬そんな不安が過ぎった。
平常心平常心。
そんな時
「康太ーっ。俺も惚れたー。」
大和が大きな声で叫んだ。
一瞬で緊張が解けた。
私は思いっきり笑った。
大和のお陰で何とか平常心を取り戻せたようだ。
助かったよ大和。
その後何事もなかったようにキャッチボールをした。
途中康太が
「本当に勿体無いな。佐藤が野球部だったら即レギュラーだぜ。大和のサードも危ういかもな。」
と言って、大和に毒づいた。
「ひっでーな。確かに通用すると思うけど、俺かよ〜。」
大和が嘆いた。
キャッチボールを楽しんだ後は、健太が持ってきたバットで軽く打ってみたり、ノックをして守備練習をしてみたり、久し振りにボールを堪能した。
楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
一年のうちで一番長く明るい時間も気がつけば夕暮れだった。
「そろそろ帰るか」
康太の一言で帰る事に。
帰り際
「コツも掴んだ事だし、今度の試合は負けないからな。」
健太が真っ直ぐ私の目をみて言い切った。
「望むところだよ。」
健太の言うとおり今度はちょっと危ないかもと思ったのは内緒だ。
「やっと明日から部活解禁だぁ!」
夕暮れを見上げながら、明日も晴れる事を祈りつつ家と向かった。
「今日はご機嫌だな。」
そういう大和も楽しそうだったぞ。
「おぅ、久し振りに思いっきり投げられたからな。」
実際ソフト部でも私とキャッチボールの相手をできるのは千恵とカンナくらいだ。
他の子はいくらソフト部と言っても球が怖いといって相手を出来ないのだ。
ちょっと嘆くとこだ。
だから今日は本当に楽しかった。
「何だか風呂場から、微妙に外れた歌が聞こえてきそうだな。」
と笑いやがった。
「お前、変態か?」
むっとしながら大和を睨むと
「勘弁してくれよ。誰かさんが風呂場の窓をあけながら歌を歌うから聞きたくもないのに聞こえてくるんだよ。」
と言いやがる。
「やっぱり変態だ。」
本当にこいつがカッコイイなんて思う奴がいるなんて考えらんねえって。
「マジ、変態は勘弁してくれ。」
大和は本当に嫌そうな顔をした。
「冗談だよ」
そういうと、本当にホッとしたようで大和は軽くため息をついた。
「じゃあな」
「おう、」
短い挨拶を交わしそれぞれの家へと帰る。
やっと終わったテスト週間。
明日からまた部活付けの日々が始まる。
私には追試なんてのもあるけどそれはそれで置いておこう。
そういえば千恵はどうしたのだろう?
すっかり忘れていた親友の一大事。
友達甲斐のない奴だ、あたしって。
後で電話してみよう。
そう思った瞬間
クーぅっとお腹が鳴った。
今日の夕飯なんだろう?
まずは食べてからだな。
こんな私って・・・本当に友達甲斐のない奴だ。
ごめん千恵、とりあえず食べてから考えるからと
自転車を降りたのだった。