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気になるあいつは!

知らず知らずのうちに目で追ってしまう。

いつだって私は彼を捜していたんだ。


「梓、また見てたでしょ。後ろからみてたらバレバレだって。」

休み時間が終わりに近づいた時、千恵がやってきた。


「だって体育してたんだもん。折角の窓際、見ないはず無いじゃん。」


全くもう、でもあんたが女の子かもって思える貴重な時間だからね、なんて千恵は毎度のことながらあきれているようだ。


「それにしてもこんなに離れてて良く見分けがつくねぇ。近くにいたって解らないっていうのに。たいしたもんだよ。」


そう、私の好きな人は一卵性の双子だ。

確かに似ているとは思うけど彼と彼は違うから。


さっきの時間は1組と2組の合同体育。

同じ髪型に同じ身長、同じジャージを着ていたって私は彼を見間違うことなんてありえない。


ガラッと教室の扉が開いた。


「おーい佐藤いるー」

私が顔を向けると返事をするまでもなく目が合った。


「花井先生から伝言。今日は何って言ってたっけ、ん〜忘れた。兎に角学校の用事があるから放課後部活出れないって。後は宜しくだとよ。」


「了解!ありがと」

私は軽く手を上げ返事をすると


「おう、じゃあ伝えたかんな」

といって自分の教室に戻っていった。


千恵はすかさず「どっち?」と聞いてきた。


「健太。」


私が名前を言うと残念!と肩に手を置いた。


健太と康太、双子なんだけど小学校の頃、私より唯一(2人だから唯二か?)背の高い男の子だった。

私は小さな頃から背が高く、後ろから2番目というのにさえなったことがなかった。

双子と言う事で同じクラスになった事がないこの2人も同じだ。

小学生の頃から他のクラスなどでは背の順が前後する事があっても私達3人だけはいつも一番後ろだったりする。それは中学に入ってからも変わらなかった。


季節のせいなのか物思いに耽っていたら、いつのまにか国語の授業が始まっていた。

彼の体育が終わってしまって今日のスペシャルタイムは終了だ。

先生には悪いと思うが、誰にも邪魔されず好きな人をみられるなんてこんな嬉しい事はない。先生は教科書を読みながら何だか言っていたが、早く終わらないかな、とそればかり、私はもう放課後の部活に意識が飛んでいた。


中学2年のこの時期、3年生が部活を引退して私達の代になった。

私と千恵はソフトボール部、彼らは野球部に所属している。

因みに私と健太は部長だ。

放課後のグランドは込み合うのを避けるため曜日毎に割り当てが違う。

ソフトと野球はいつも同じ割り当てだ。

そして今日はグランドを使える日だった。


よっぽど遠い目をしてたんだろう、隣の席の金田大和が私を小突いてきた。


「な〜にぼーっとしてんだよ。次差されっぞ。」


教科書をこんこんと指でつついて今やっている場所を教えてくれた。


「さんきゅ!」


この授業で初めて意識を教科書に向ける。

大和の言うとおり私は音読を指名され無事ことなきを得た。


そんなこんなでやっと放課後だ。

うちらの担任はやたらと話が長い。意味のない話を永遠と、まあよく話す話す。

おかげで大事な放課後が減ってしまう。

挨拶もそこそこにカバンを持つと千恵に一言。


「部室の鍵開けなくちゃだから先に行ってる。」


そういって教室を出た。

階段を下りるとそこにはあいつが。


「よう!」


私はカバンを思いっきり振り上げてあいつの背中へぶつける。

これが私の日課だったりして。

解っているこれは自分の照れ隠しだと。


「ようって、お前なぁ痛ってーよ。」


そういってあいつは私の頭をぐりぐり押すんだ。

「悪い悪い」なんて言いながら私は今日一番の幸せを感じたりしているのだけれど、そんな事は微塵も出さずに隣に並ぶ。

私達はずーっとこんな感じだった。


背も高く、どちらかと言えば男っぽい私。

実際、千恵以外とは女の子とあまりつるまなかったりする。

女の子同士で一緒にトイレになんか行ったことはないし、誘った事もない。

休み時間だって喋っているより外でドッヂボールをした方が楽しかった。

何より裏がありそうな女の子より、さっぱりした男の子と一緒にいた方がずーっと気が楽だった。

それに、こんな風に接していたら、こいつと男友達のように、いつまでも一緒にいられるってそう思っていた。


「お前さぁ女なんだから少しはどうにかなんねえのかよ。この馬鹿力。たまには女らしいとこ見せてみろよ」


一瞬私は固まった。


「康太、お前ねぇ。佐藤にそれを求めるのは酷ってもんでしょう。」


振り返ると大和だった。

こいつも野球部だったりする。

こいつは続けた。


「想像してみろよ、こいつが制服以外のスカートとか穿いてんの見たことあっかよ。俺なんか隣に住んでたってみた事ねえよ。」


うるせぇって!スカートなんて学校だけで十分だっていうの。

それより私は、こいつ、康太が私に女らしくと言われた事がショックだった。


「ふーん。康太は私が女らしい方がいいんだ。」

平静を装い康太の顔を覗きこんで様子を伺ってみる。


康太はそっぽ向いて

「そういう訳じゃねえけどよ」


とぽつり呟いた。

顔は良く解らなかった。


私は何だかその場に居ずらくなって


「部室の鍵もってるから先に行くぞ」

ってその場から逃げ出してしまった。


「佐藤、遅せえよ。後輩待ってっぞ。」


逃げ出してきた先に、殆ど同じ顔があった。

なんとも複雑な気分だ。


「毎度の事だけど、担任が話長くてさ、本当に参るよ。」


片手を挙げて通り過ぎる。

といっても3つ先の部屋だけど。


健太の言うとおり部室の前で後輩たちは待っていた。


「「先輩こんにちは」」


今年の一年は元気がいい。挨拶ってやっぱこうじゃなくちゃと思いながら


「おっす、遅れってごめんな。」

そういいながら鍵を回した。


部室に入りジャージに着替えいつもと同じようにボールやバットを持ってグランドへでる。

体育の時と同じ校庭なのに、部活と意識すると何故だか違う場所に思える。

不思議な感覚だ。


グランドの反対をみると、野球部はもうランニングが始まっていた。

先頭を走るあいつ、いつみてもカッコいい。


いつもこんなに惚けているのかといったらそうでもない。

今までは先輩がいたから、練習に集中していたし、そうでなくても、いつ飛んでくるか解らないボールを相手にしているだけに、練習はきちんと集中していた。・・・と思う。

たまに無意識に視線の先にいるのだが、無意識だけに見逃して欲しいとこだ。


「あ・ず・さ。よそ見してると顔面にボールぶつかるよ。」


千恵とキャッチボールをしていた。にやけた顔してこっちを見てる。

千恵の奴め、調子に乗ってぇ。


「してません。」

ありったけの力を入れてボールを返した。


「ギョッあんた、私になんの恨みがあって!」

別に、フンっだ。


お返しとばかりに、バッシっとグローブに千恵が放ったボールが食い込んだ。

ちょっと痛かった。


「あんた達何やってんの。今日は先生いないんだから、あんた達がふざけてちゃしょうがないでしょ!」

仲間のカンナに怒られた。


「「ごめん」」

2人同時に謝った。


私は部長なんて肩書きがあるけど、しっかり者のカンナには頭が上がらなかった。

キャッチボールを終え、トス、フリーとバッティング練習をした。

いつもだったらこの後は顧問にノックしてもらって、ベースランニングをして部活を終えるのだけど今日はその顧問がいなかった。


「次どうしよっか?」

2年で集まって話をしていたら、


「佐藤〜ちょっとこっち来い!」


野球部の香田先生だった。

先生そんな拡張器で呼ばなくても。まるで怒られに行くようだよ。


「今行きま〜す。」

すぐさま返事をした。

これ運動部の基本ね。


相変わらずでかい声だこと。


千恵の呟きが耳に入った。大きなお世話だよ。


野球部は丁度休憩に入ったところだったようだ。


「佐藤来ました。なんでしょう?」


先生は健太と話をしていた。

「悪いな、こっちに来てもらって、花井先生には了承済みなんだが、お前ら良かったら久し振りにやるか?」


バットを振る真似をしながら聞いてきた。

そんなこと言ったって断るはずないって解ってるしょうに。


「私はもちろん!でも一応、皆にも聞いてきます。3連敗は何でしたっけ?確かアイスだったような。」

ニヤリと返してみた。


すると今度は健太が口を挿んだ。

「お前なぁそれは、先輩達だろ!俺達の代は俺達で勝負しようぜ。なあ康太もそう思うだろ。」


康太は笑って俺はどっちでもいいよと言った。

どうせ今度は勝つのだからと。


「おいおい、おごるのは俺なんだから、ノーカウントにして欲しいとだが、康太がそこまでいうんだから大丈夫だろ。お前達頼んだぞ。」


実際のところ誰も先生におごってもらおうなんて考えてないけど、まあそれは置いといて。

じゃあ聞いてきます。と来た道を戻った。


今話してきたことを部員に告げると、やりいとばかりに千恵を初め皆が賛成した。

結局のところみんな好きなのである。


そうしてソフト部対野球部のソフトの試合が始まるのだった。

さっきも言ったように、今のところソフト部が二連勝中。

男と女。

それも野球部とソフトの試合をするなんて、何も知らない人だったら無謀に思えるかもしれない。

ボールにバットにグローブ、なんせ使っている道具は同じだから。

でもここが味噌だったりするんだよね。


高校生同士だったら野球部が勝つだろう、でもまだ中学生の私達、男の子より先に成長期がくるから体格ではあまり差がでないのだ。


それにソフトと侮ってはいけない。


実は同じバットでも野球とソフトでは真心が違うのだ、つまりボールにあたるポイントが、野球ボール1つ半ソフトのほうが根元にある。


ボールだって大きいから打ち易そうに思えるが近場から投げることでスピード感も違うし、上投げとした投げではボールの回転が違う事も打ちにくい要素なのだ。

だから思いっきり野球部が打とうとすると、高いフライになって内野に落ちてくるのだ。

今までの対決では圧倒的にソフト部に分があった。


「じゃあ始めるぞ。野球部先攻で5回までもしくは部活終了のチャイムが鳴るまで、コールドは無しってことで。プレーボール」香田先生の合図。


「「お願いします」」


本当の試合さながら、きちんと挨拶をして始まった試合。


私はピッチャーだったりする、受けるのは千恵だ。


一番バッター、2番バッターとそれぞれショートフライに打ち取って思った通りの試合展開となった。


次のバッターは大和だった。

が、あえなく撃沈。

あっという間に私達の攻撃になった。


相手は健太がピッチャー、もちろんキャッチャーは康太。

双子のバッテリーだ。


普段は中学生離れした剛速球を投げる健太も、投げなれない下投げになると、球の勢いはグンと下がる。

1番バッターのカンナは三遊間を抜けるヒット。

続く由香里もセカンドの頭上をポンと超えるヒット、3番バッターの千恵までもヒットを飛ばし、あっという間にカンナがホームに返ってきた。


今年も楽勝じゃない?


「よーしっ」


気合を入れてバッターボックスへ。

私のすぐ後ろには康太がいる。


ちょっとドキドキしてるけど集中集中。

ぐっと目の前の健太を睨んだ。

心なしか健太の顔が引きつったような、そりゃあ仕方ないよな3連続ヒットなんて小学生の時だって経験してないだろうから、バットを握りしめて構えたその時。


「タイム!」


康太が立ち上がった。


何だよ、試合はまだ始まったばかり、それもただのレクレーションだっていうのに。


康太はキャッチャーマスクを上げて健太の下に走りよった。

サードの大和も近寄って。


康太は何やら健太の耳に囁いた。


健太はふっと笑いながら私を見ていた。


何だっていうのよ!


私の横を通りすぎる瞬間、康太は私に微笑みながら”遠慮なんてするんじゃねえぞ。”って。


初めっからそんなこと考えてないっつうの。


マウンドに戻った健太は真剣な顔をしていた。

まるで野球の試合をしているように。


でもおいおい、何だか私の事みてないか?見るのはミットだろ。


気をそがれたその時、さっきとは随分と球筋の違う一球が。

「ボールっ」

外角に外れはしたものの、いいとこ点いてくるじゃん。

俄然やる気が出てきた。

再びグリップを握り直す。

いくら球筋がよくなったとはいえ、私にとったらまだまだ打ちごろだ。


来た!いい球、貰った!


打球はわずかにサードベースの脇に。

両方のベンチからはため息がでた。

私達のベンチからは、残念な、野球部からは安堵のため息が。


「流石だな。」


康太は私を見上げながら言った。


「いえいえ、ファールじゃ何にもなりません。」


本当は嬉しかったけど、これは本音だ。

いくら打球が良くてもファールじゃ何にもならない、私のストライクカウントが増えるだけだ。

健太の体力を消耗するだけの意味はない、あいつのタフさは良く知っている。

しかも5回までだしな。


次にきたボールを今度は引っ張らず、センター前に転がしたつもりだったが、運良くセンターの脇を抜け、三塁打になった。


走者は一掃、一気に2点入った。


しかもまだノーアウト。

審判をしている香田先生と目が合った。


私はサードベースの上から、ア・イ・スと口パクをした。その後、康太は先生に小突かれていた。


大和が振り向いた。

「お前さぁ、ちょっとは手加減しろよ。うちのエースが自信なくしたら責任取ってくれんだろうな」


そうは言うが顔は笑っている。

冗談だと思ったので冗談で返した。


「そうだね、お嫁に貰ってやろうかな。」って。


すると何を考えたのか大和は大きな声で

「健太、これで自信なくしたら梓が嫁になってくれるとよ。」


っておい違うだろ。

私は嫁に来いって言ったんだって、ってだからなんでそこでそれを健太に言うんだよ。マジ勘弁してもらいたい。


当の健太は固まっていた。


でもその後、よっぽど私を嫁に貰うのが嫌なのか、いいコースを点くようになって結局私の後は続かず、私もホームに帰ることは出来なかった。


ベンチに戻りグローブを掴むと、今度は千恵が


「鞍替えかい?」


ってそんなわけないだろっ、後で大和とっちめてやる〜。


マウンドに立つ。

ボールを握りしめながら、ふーっと息を吐いた。


次のバッターは健太、次は康太。


ピッチングもさることながら、バッティングセンスも抜群の2人が続く。

健太も段々とピッチングのコツを掴んできたみたいだし、ここで抑えなくてはいけない。


バッターボックスに立つ健太をみた。

只でもでかいのにそこに立つとより一層大きく見える。

こいつらと試合をする相手はさぞかしビビルだろうな。


渾身の力を込めて投げた。


ど真ん中。


ストライクを取ったのは私なのに、球筋を見極められていそうで妙な怖さだ。

千恵は外角の低めを要求してきた。

コントロール悪い私にそこへ投げろと言われても果たしてそこへいくかどうか。


「行ぇー」


放ったボールは低めのど真ん中だヤバっ。


あいつは本気?フルスイングで振ってきやがった。


しかしボールはミットへ。


助かったぁ、あれが当たっていたらホームランだよ。

超やばかった。

カウント2ストライク。


本当の試合だったらここで外すんだろうけど、あいつの本気さ加減をみていたら、勝負がしたかった。


次は千恵がどんなコースに構えようともど真ん中に投げる。


そう決めていた、ボールをジャージのズボンでふいた。


ふとミットをみると千恵はど真ん中にミットを構えていた。


さすが千恵、案外私より私の事を解ってるんじゃないだろうか。


そしてまた息を吐く。


打てるもんなら打ってみろ。



私が放ったボールはど真ん中。

それをあいつはまたフルスイングで、ジャストミートされた。


ジャストミートされた鋭い打球はボールは真っ直ぐに私の右足に向かってきた。


周りでは”危ない”とか”先輩”だとか”梓”だったり、一瞬の出来事なのにやけにはっきり聞こえたりして、私はボールから逃げなくちゃなんて考える間もなくグローブを出した。


本当に出したって感じ。


これは反射神経ってのだ。


結構な衝撃を感じながら打球は私のグローブに納まった。

”ナイスキャッチ”そういったのは打った本人だった。


何だかたった一人投げただけなのに相当な神経を使ったみたいだ。

おまけに次のバッターは康太だ。


「ワンアウトー」


千恵が右手の人差し指を空に突き上げ大きな声をだす。


さっきとはまた違う緊張感。

康太が真っ直ぐ私を見ている。


”これは試合。これは試合。集中しろ”


自分の心の中で呪文のように繰り返した。

康太を見ず、千恵のミットだけを見つめ一球目を放つ。


健太と同じど真ん中。やっぱり双子だ。


まるっきり同じ反応。

ボールを見極めるように微動だにしなかった。

全く敵となると嫌な奴だよ。


二球目、インコースを構える千恵のミット。


こうなりゃ自棄だ!と投げたボールは康太の太ももに向かっていって。

康太はさっきの私さながらの反射神経でくるっと身を翻しボールを避けた。


「傷者になったら、俺もお前に貰ってもらわなくちゃか!」って。


笑っていうな!冗談だって解っているのに私は動揺してしまった。


”タイム”


千恵がこっちにやってきた。


「あんた何やってんのよ。そりゃ嬉しいのはわかるけど、顔赤いよ。まあ私しか気がつかない程度だけど」


そういうと、ミットをとって私のほっぺをパンパンと叩いた。


「気合入れて、頑張れ梓。」


そういって戻っていった。ほっぺがヒリヒリしてる。

今度こそ顔は真っ赤だ。


フーっと息を吐き、気を取り直して試合続行。


康太は次に私が放ったボールを合わせるようにミートしレフト前に運ばれてしまった。


”ドンマイドンマイ”


ショートを守るカンナが声を掛けてきた。


手を上げそれに応える。

ふと大和の声が聞こえたような気がしたが、今はそれどころではない。

緊張したせいか喉がカラカラだった、早くベンチに戻りたい。


健太と康太を相手にした後は何も怖いものはない。


そしてあっけない程すぐにベンチに戻ることになった。


この後、両者一歩も譲らずっていう感じで3回まで進み、4回表、次のバッターが健太というところで部活終了のチャイムが鳴った。


正直ホットした。


結局、点が入ったのは初回のみで3−0でソフト部の勝利だ。

香田先生は約束だからと夏休みの部活でアイスをおごると言ってくれた。

挨拶をしてグランドから部室へと戻ってきた。


「梓先輩、お疲れ様でした。今日かっこよかったです。」


なんて言われて気をよくしたりして。

そして後輩は続けた


「健太先輩と康太先輩と仲がいいんですね。私達からしてみたら健太先輩も康太先輩もちょっと怖そうな顔してて。」と。


健太は兎も角として康太の顔が怖いって?!


私にはかっこよくしか見えないんだけど!


私の心中察したのか、千恵は大きな声で笑いだした。

千恵は言った。


「まあ確かに目は鋭いし、ごつくって、でかくって、声も低いし、今時の顔じゃないよねぇ。どっちかっていったら線も細くってさらさらヘアーの大和の方がカッコイイかもね。」


ええーっそうなんだ。


私には衝撃的な話だった。

後輩達は、うん、うんと頷いていた。


部室の鍵を閉め、本日の部活も無事終了。

千恵と一緒の帰り道。いつもと同じようにくだらない話をしていたのだけど、不意にさっきの部室での会話を思い出した。


「ねえ、千恵。さっきの話だけど。」


皆までいうもなくそれだけ言うと。


「さっきの?あぁあれね。一般論だよ。実際あの2人は厳つい顔してるよ。梓からしてみれば恋は盲目っていうからね。大和にしったってそうだよ。あんたは近くに居過ぎるから解らないだろうけど。いい顔してるんじゃない。」


そうなんだ。ふーん考えた事もなかったよ。

「もしかして、千恵も大和がかっこよくみえたりするんだ。」


素朴な疑問だった。

「だから一般論って言ってるでしょ。」

顔も赤くなるわけでもなく淡々と返事が返ってきた。


一般論ねぇ。


良く解らないや。

そうこうしているうちに千恵の家に着いた。

私の家は千恵の家から徒歩3分、辺りは暗くなり始めた。

なんてことはない歩き慣れたこの道。

少し早足で自宅へ帰った。














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