名前
水の精霊をオズワルドに連れてこられた公園の池で見た私。
生まれたての精霊であるらしく、人になれるような様子もないし、隠れる様子もない。
人間がよく分からない、そう思っているようだった。
やがて精霊が小さく震えて、周りに水滴が散らばったかと思うと、池の中から輪を描くように水が跳ねる。
まるで水のすぐ傍で踊っているようだ。
精霊は時折そのような行動をとるという。
けれど精霊自体が少ないので目にすることはまれだと本で読んだことがある。
珍しい美しい光景。
見入ってしまった私。
そこでオズワルドが楽しそうに、
「少しは元気が出ましたか?」
「……ええ、ありがとう、オズワルド」
自然と口から言葉ががこぼれた。
それにオズワルドも優しく微笑み、
「そういって頂けて嬉しいですよ。貴方には、アニス嬢にはそうやって笑っていて欲しいですから」
「……できれば貴方の隣で?」
「ええ」
「浮気しないのなら、少しは考えてあげるわ」
と、彼が多くの女性に……しているのを揶揄するとそこでオズワルドは、
「もちろんです。私はもともとあなた以外に眼中がありませんし」
「お上手ね。あら、水の精霊が消えてしまったわ」
私は少しドキドキしてしまい、そう返した。
けれどそれ以上オズワルドはその話に吹き込むことはなく、私の変えた話題を口にする。
「いなくなってしまいましたね。名前を呼べばまた現れるかもしれません」
「名前? 名前があるの?」
「ないのなら、つけてしまえばいいのです。例えば……ロゼッタとか」
冗談めかして言った名前に、私は笑ってしまう。だってその名前は、私が以前町娘だった時の名前だ。
面白い偶然だ、そう私が思っているとそこで、
「ロゼッタ、早く。こっちだよ……ああ、もう、だから早くって言ったのに、もう終わっちゃったじゃない」
「そんなことを言ったって、エーデル、アイツが来たから仕方がないじゃない」
そんな明るい声が聞こえたのだった。




