未《ラビリンス》
次に現れたのは体が毛に覆われた愛らしい生き物だった。
「よく来た。お前の名は未だ。力を与える。」
「メー。ありがと神様。…凄い、これで相手を混乱、毒、眠りにつかせれば役に立てる!」
「無理だけはするなよ。」
「頑張る!猫魔人にゃんのすけ!『混乱』しろ!!!」
「……。」
「……。」
「……。」
「……。」
「……。」
「……。」
「……。」
「「「「「………丑さん俺を投げろ!!!」」」」」
「……あれ?」
「未よ。声に魔力を込めたから全員にかかっているぞ。」
「しまった!ああ!卯さんが月に投げ飛ばされた!寅さんが南に!午さんが北に!みんなが散り散りに飛んで行く!」
「む!だが、猫魔人にゃんのすけも投げ飛ばされるぞ!時間稼ぎは出来そうだ!……何処に……月に飛んで行く。」
「……まずい!!」
《想像紫亥》
光りが収まるとそこは両側が見上げても見通せない程巨大な壁に挟まれていて、人が4人横に並んで歩けるくらいの広さの道に1人想像紫亥が立っていた。
「…ここは陣のフィールドの中?」
『創造』銃
手に片手銃を創り出し辺りを警戒する。
「さっきまでみんないたのに…私だけ?…いやバラバラにされただけかな?」
ピロリン♪
「フィールド『ラビリンス』。ここはとある国王が作り出した大迷宮、ある怪物を外に出さないようにするためにここでは入り口と出口が存在しません。…ただしここに入って来た人間の中から運命の赤い糸で結ばれているたった1人と出会い触れれば脱出する事が出来ます。現在人数21人。」
「私たち以外にも結構な人数入ってるし、ふーん。てことは、晴明に会えば……チ、チガウシ!別に晴明が運命の相手ってわけじゃないし!…と、取り敢えず捜すけど!」
紫亥はとりあえず道を歩き始めた。
「あ、目印に何か置いとこ《創造》りんご!」
一つのりんごが地面に落ちた。
「ついでに《創造》バイク!よし行こう!」
紫亥はアクセルを回して走り出した。
道が別れるたびに物を創り出しながらバイクで走る。
ゴリラ→ラッパ→パンツ→積み木→キツネ→ネット→トマト→時計→いす→すいか→カメラ→ラクダ→晴明→犬→ヌイグルミ→…………ん?
紫亥はブレーキをかけて慌てて来た道を戻る!
「晴明いたし!」
「よお、紫亥。」
《創造》メリケンサック
「何がにゃんにゃん倶楽部だ!」
晴明の顔に殴りかかる。
「それ言ったの陣な?」
晴明はそれを躱しツッコム。
《眠氏冥》
「…ここは何処だろ。」
同じく1人で道を歩いていた。左手を壁に付けて同じ道を歩かないように注意しながらかれこれ一時間程歩いていた。
「こんな広いと誰にも出会えないんじゃないかな。……出られなかったらどうしよう。」
一時間、同じような見た目の道を歩いていて肉体的にも精神的にも疲れてきた。
「誰でもいいから会いたい。…でも、鴉ちゃんと2人きりはまずいかな。……それ以外となら。」
左手を壁に付きながら道を左に曲がる。
「……。」
「モー。」
体長2メートル、手に斧を持った牛頭の人と出会った。
「……普通の人でお願いします!!」
冥はすぐさま逃げ出した。
《紫亥&晴明》
「やっと出会えた。」
「こっちも探したし!」
「とりあえず触れて脱出できるか確認してみるぞ。」
「なゃ!べ、別に晴明が運命の相手かなんてわかんないし!」
「いや、だから確認するんだろが?」
「ま、待って!心の準備してから!」
「……待てねえよ。」
「なゃ!!」
晴明は紫亥の手を掴む。
「……。」
「……。」
「……何も起きないな。」
「…そんなの嘘だし。」
「じゃあ、別のやつだな。」
「っ!晴明はそれでいいんだ!」
「いや、仕方ないだろ?違うみたいなんだから。」
「わ、私は晴明が、」
ピロリン♪
「言い忘れていましたが、運命の相手はフィールドにいる中からランダムで決まります。」
「……。」
「…いや、当たり前だろ。フィールドにいる中に運命の相手がいるかもわからないのに。そんなの信じる奴がいるわけない……どうした紫亥?」
「…陣を殺す。」
《創造》ロケットランチャー
「…俺に向いてるんだが?…顔が紅いぞ?」
「うるさい!!!」
辺りに爆発音が響き渡る。
《眠氏冥》
「無理無理無理無理!!!」
「モー!!」
「ギャー!来ないで下さい!狡いよこんなの逃げ切れないよ!歩幅が違いすぎる!」
曲がり角でスピードが落ちるのでギリギリ追いつかれてないが時間の問題だった。
「な、なんとか隙を見て触れて眠らせる。……いやいや、あんな興奮してたら絶対眠らない!」
「モー!モー!」
牛頭の人が斧を投げてきた。
「あ、終わった。」
何故かスローモーションで見える斧の軌道は冥の頭をストライクしていた。…冥は潔く生を諦めた。
「……。」
猫組に移動になってから虎に襲われ、鴉ちゃんに襲われ、最期は牛頭の人か。短いようで辛かったな。
冥は目を閉じる。
ガキィィィン!!!
斧がぶつかる激しい衝撃音が響き渡るが痛みは感じなかった。
「……ん。」
死んでない?
ゆっくりと目を開けるとしゃがみこんで顔の少し紅い東郷鴉が優しく微笑んでいた。
「鴉ちゃん!」
「怪我してない?」
「え?あ、…大丈夫。」
「良かった。」
「……えと、助けてくれたの?」
鴉ちゃんの後ろを見ると地面から拳の形をした岩が突き出していてそれが斧を防いでいた。
「当たり前。…凄い捜した。」
よく見ると息が荒い。まさか、ずっと走って捜してたの!……僕を。
「ありがとう。」
「……えへ。」
鴉ははにかむように笑った。
「モー!!」
だが、まだ脅威がまだ消えてはいない。岩に刺さった斧を引き抜き一振りで拳の形をした岩を砕いた。
「鴉ちゃん!逃げて!」
「大丈夫。」
牛頭の人が鴉に近づき斧を振り上げる。鴉は立ち上がり、
「私の冥に。」
牛頭の人の方に振り返り睨む。
「手を出すな!」
「……あぅ、」
「モー!!」
牛頭の人と冥の顔が別の感情によって真っ赤に染まる。
《紫亥&晴明》
紫亥がいきなりロケットランチャーをぶっ放したのが原因で辺りに一面が黒焦げだ。
パラパラと破片が崩れる。壁に大きな穴が開いた。
「…危ねえ、俺じゃなきゃ死んでるぞ。」
「うう!」
反省はしているようで申し訳なさそうにしている。
「…はぁ、しかし、壁が壊せるってのは盲点だったな。これなら真っ直ぐ進んで行けるから見つけやすくなるな。…お手柄だ。」
「…何で?」
「あ?迷路ってのは曲がってたり行き止まりだったり複雑だから大変なんだよ。それを壁をぶっ壊して進んでいけばすべての道をほぼ繋げることが出来る。誰かが壁の穴の近くに来れば見つけやすいしな。」
「そっか。…ならドンドン壊そう!」
紫亥はさらにロケットランチャーを壁に向かって撃った。
また一つの穴が出来た。その奥に誰かいた。
「た、助けてくれ!」
穴から顔を覗かせて叫ぶ。
「お、さっそく見つけたな。」
晴明が近づく。
「ま、待ってくれ!まずは話を聞いてくれ!」
「あ?なにがだ。」
晴明は立ち止まり、壁の穴から顔だけを覗かせている男に尋ねる。
「決して、決して!俺を攻撃しないと誓ってくれ!」
「…お前が神組の奴の仲間じゃないと誓えるならな。」
「誓う!必ず誓うから!攻撃するなよな!」
「…わかったよ。」
「よし!なら近づいくれ。」
「何なんだよ。………うお!気持ち悪い!!」
晴明が穴を潜り抜けてその男を見て驚く。
「どうしたの晴明!」
紫亥も慌てて晴明に駆け寄る。
「嫌ああああ!!!!」
そこには牛の胴体に人の顔がついた生物が……人面牛がいた。
《冥&鴉》
「モー!!」
「……。」
鴉と牛頭の人が睨み合う。
「私はあなたを許さない。」
《統合》手+壁
鴉が壁を殴る。
ズガンッ!!
「ヴモッ!!」
壁から巨大な拳が現れ牛頭の人を殴った。
《統合》地面+手
地面を殴る。
ズガンッ!!
「ヴモオッ!!」
地面から巨大な拳が現れ牛頭の人を殴りつけ、その巨大な手で掴む。
《統合》地面+牛頭の人
「ヴモッ!ヴモッ!」
地面から現れた巨大な手と牛頭の人が一体化した。…正確には岩で出来た巨大な手に牛頭の人が拘束されているようだ。
「…凄い。」
冥は驚く。自分が手も足も出なかった相手を鴉があっという間に倒してしまったから。
「……僕は本当に駄目だな。」
同時に嫉妬にも似た悔しさを感じていた。
「…冥は強い。」
「…いいよ、そんな気休めは。」
「私の知る誰よりも。」
「あはは。」
「でも強くなくていい。私が冥を守るから。」
「……。」
「私は優しい冥が好き。」
「…ごめん。僕は弱い自分が嫌いだ。」
「そんなことない冥は強すぎる。」
「…ごめん。意味がわからない。」
「冥は最強。でもそんな強さきっといらない。」
「……。」
「だから冥は私が守る。」
「……。」
「だから冥は私が縛る。」
「ごめん鴉ちゃん。本当に意味がわからない。」
「…にゃんにゃん倶楽部に行かせない。」
「まだ言ってたの!」
鴉は冥に優しく触れた。すると冥と鴉の周りが光り出した。
「冥が私をどう思っていても私は冥が好き。その強さも、優しさも、格好良さも、可愛さも、」
「……。」
「でもたとえ、強くなくても、優しくなくても、格好良くなくても私は冥が好き。」
「……可愛さは?」
「冥が気付いてくれたらいいな。強さを持った冥よりもその強さを使わない冥の凄さに。」
「……。」
「今の冥が最強なんだよ。」
「……。」
その光が強くなり鴉と冥はその場から消えた。