巳 《卒業資格》
次に現れたのは手足のないカラダをくねらせてやってきた。
「よく来た。お前の名は巳だ。力を与えよう。」
「シャー、来て早々なんやねんけど、あのネコ魔人にゃんのすけに向かって飛び込んでるの辰さん?」
「ああ、正確には投げ込まれているのがだ。」
「シャー!避けられた!シャ?卯さんのワープゾーン!これで背後からネコ魔人にゃんのすけに攻撃を!ってなんで丑さんの背後に⁉︎しかも子さんと卯さんと寅さんがハイタッチ!意味わからへん!」
「…みんな能力を使いこなしてきたな。」
「みんな誰と戦っとるん⁉︎」
《???》
ここには学園のあらゆる場所が無数の画面に映し出されていた。そのうちの一つの画面、陣達が映し出されている画面を見る一人の男。
「猫組、辰野晴明と眠氏冥。ようやく盾と矛が揃ったな。」
画面を指でなぞりながら映し出された二人を、…愛しそうに、何年も前から待ち望んだように、みる。
「……これで俺様を殺せるかな?……ジン。」
男は画面を見ながら嗤う。
《訓練場》
45分後
「フンフフーーン♪」
顔のツヤツヤな鴉が鼻歌を歌いながら出てきた。
「「「……。」」」
その15分後
「なんで助けてくれないんですか陣君!」
ゲッソリした顔でフィールドから出て来た冥が陣に掴みかかった。
「馬鹿やろ!あれ以上の手助けが他にあるか?…羨ましい。」
「手助けの意味が違う!あんな無理矢理されて、男として……うぅ。」
「……やりたくなかったなら眠らせれば良かっただろ。」
「…いや、それは、」
「なんだよ、手で触れれば確実に眠りにつかせるってさっき言ってただろ?」
確かに冥はそう言っていたはず。
「…そうなんですけど、その、とある状態だとコントロールがうまく出来ないといいますか。」
「とある状態?」
陣がやっぱりこいつ問題児なんじゃね?と冥を見ながら思ってしまった。
「…その、…体が熱くなるとですね、…加減を間違える恐れがあるというか。」
だが、それは誤解とすぐに理解した。今の年齢だとわりかしよくある
「……ああ、東郷の体に興奮して能力に集中できなかったわけね。」
「人が頑張ってぼかして言ってるんですから言わないでください!!」
冥が殴りかかってくるが、腰に……まったく力の入ってない拳は、痛くも痒くもなかった。
「ふむ、……これは恵まれない男性達の怒り!」
陣の拳に魂より熱い何かが宿る。
「ちょっ!なんで陣君が僕より怒ってるんですか⁉︎」
「お前が憎い!」
どうでもいいただの嫉妬。
「晴明君、助けて!」
「…二人ともあんまりアホな事ばかりするな。小目子達が呆れてるぞ。」
「俺を入れるな晴明!アホは冥だけだ!そして止めるな!」
「ちょっ!陣君!何故僕をアホ呼ばわり!そして止まって!」
「訓練場を女とエロい訓練する場所と誤解してる奴なんてアホで十分!」
「そんな誤解はしてないよ!」
「問答無用!」
陣は冥に殴りかかる。
「ああもう!陣君ごめん!」
そう言って冥は殴られ……倒れた。
バタリ。
陣が倒れた。
「…少し眠ってて。」
「……zzz。」
「「「え!!!」」」
晴明や小目子達が驚く。
「…陣を眠らせた?しかも殴られて触れられた時の一瞬で?」
「え?て事は触れたら戦闘不能に出来るの?何それ?ヤバすぎじゃん!」
「なるほど、確かに猫組に入るだけはありますね。」
「冥、強い。」
「そ、そんな都合良い能力じゃないですよ。」
冥はすぐさま陣を揺すり起こそうとする。
「僕の眠りの状態異常は相手の疲労具合で眠りの深さが比例します。完全に覚醒している人には一瞬睡魔がくる程度の効果しかありません。それに眠らせても激しい衝撃を加えればすぐに目を覚ましますし、」
「ふわぁ。」
「ほら、こんな感じで。」
陣がゆっくり起き出した。冥は何故かホッとする。
「……いや、睡魔に全く抗えなかった。冥の能力はやばい。」
「「「うんうん。」」」
晴明と神組三人が同意する。
「そんな事は、」
「これなら神組の奴に殺されないかもな?」
「どういう意味ですか⁉︎」
冥は神組三人を見る。三人はフルフルと顔を横に振る。
「私たちじゃなくてですね。…他の神組の生徒です。」
「え!他にも神組の生徒っているんですか!」
「そりゃいるだろ?たしか、三年にも二人いたはずだよな?」
「一年に1人入れば良いと言われてるのに……去年と今年はすごいですね。」
「まあなぁ。……そのぶん大変なんだけどな。」
「へ?」
「他の12組は三年で卒業だろ?」
「そうですね。」
冥が当たり前じゃないかという顔で陣をみる。
「猫組は卒業出来ないだろ?」
「…そうですね……。」
冥は当たり前じゃないんだという顔で陣をみる。
「じゃあ、神組はどうしたら卒業か知ってるか?」
「…え?普通に三年で卒業じゃないんですか?」
「実は違う。………3年の間に猫組を1人更生させるか退学させる事が条件に神組は卒業出来るんだよ。」
「え?」
冥は神組の三人をみる。三人は一度だけ首を縦に動かす。
「もちろん卒業の年に猫組がいなけりゃそのまま神組として卒業なんだけど。もし、出来なかった場合は元の組に移動しての卒業になる。高待遇がパアになる。」
「………。」
「コネコちゃんたちは来年までにオレ達をなんとかすればいいが、今年卒業の神組の奴らはオレ達を是が非でも……消す気だ。」
「退学じゃなく消す気なんですか!…もしかして今日、晴明君を襲っていた人達は…。」
「3年の神組の奴らの差し金だろうな。…神組での卒業は高待遇だからうまい汁が啜りたい連中はあつまるだろうし。それに猫組での退学イコール生活出来ないって事、つまり死だ。」
「…その、3年の神組の人が僕達を更生させに来る気は……」
「まぁ可能性としては、」
「「「「ないよ」」」」
陣の言葉に晴明と神組三人が否定する。
「冥は陣の噂を知らないの?最悪の変人だよ?」
紫亥が冥に尋ねる。
「知ってるけど。」
「神組の生徒達が陣に何されて来たかも知ってる?更生なんてあり得ないし。」
「陣君!何してんの!」
「いやぁ、大げさだな。星の数ほどあるイタズラを……やっただけだよ。」
「ねえ!何が大げさじゃないの!数えられないほどなの!」
「わかったでしょ。そいつ、マジでヤバいんだって。」
そのせいであたし達も結構ヤバいんだけどね。と紫亥は呟く。
「そんな時に陣君以外の猫組が二人も入ってきたんですよ?」
子子が話し出す。
「僕と晴明君?」
「去年は二人で陣君しかいない状態で卒業資格を得られなかった神組の先輩達だからね?それが今年は問題児とはいえ三人になった。」
「……。」
「二人を全力で消しに来るよ。」