卯 《無敵無敗無謀》
次に現れたのは長い耳を揺らしながらぴょんぴょん跳ねてやってきた。……だが、
「なんてことをするんですか丑さん⁉︎寅さんが体を雷化して光速で僕を受け止めにきてくれなかったら空の彼方まで飛んで行ってしまうところだったですよ!」
「猫魔人にゃんのすけが避けるのが悪い。……やはり、全力で投げるべきだったか。」
「あれで全力じゃないと⁉︎受け止めてくれた寅さんはまだ悶絶してるくらいなのに⁉︎どんだけ馬鹿力なんですか⁉︎」
「さっきのは30%だ。次は60%で投げる。……子よ、準備しろ。」
「それ聞いて、はい♪と言うと思うんですか⁉︎馬鹿なんじゃないですか!全身消滅フィールド!」
「む、……仕方ない。寅を投げるか。」
「何故俺⁉︎……くっ!やめろ!…雷化!」
「むぅ、程よい痺れが気持ち良い。」
「ってなんで咥えられる⁉︎」
「…行くぞ!」
「やめろおおおお!!!」
「寅さーん!!」
「…………。」
一部始終を目撃した動物は、
「……よく来た。お前は卯だ。力を与える。」
フルフル。
「…ただの散歩。……もう帰ります。」
脱兎
ガシッ!!
「待ってよ卯さん。」
「…子、離して。」
「僕たち仲間だよね?見捨てないよね?」
「う。」
「一緒に戦おう!……あの牛魔王と!」
「……う?」
「何を馬鹿なことを言っている。仲間同士で争っても仕方ないだろう。それより見ろ、寅はちゃんと当たったぞ!やはり60%以上なら当たるみたいだ。」
「丑さんこそよく見ろ!寅さんボロボロじゃないか!」
「その分猫魔人にゃんのすけにもダメージを与えられたぞ。……次は70%で。」
「次は誰ですか⁉︎誰を投げるつもりですか⁉︎」
「……子、いけるか?」
「いけるわけないだろ!バーカ!!」
地面が光ったと思ったら全く別の場所にいた。
「…ここは。」
円形の場所に観客席があり何かの闘技場のようだ。
あたりを見渡す冥、そこには襲い掛かってきた三人の生徒もいた。
「最悪だ。あいつのフィールドに入れられちまった。」
「クソッ!今回はどんなフィールドだ!」
「猫組の奴もいるって事はマシかも知れねぇけどな。」
三人の慌てように冥は焦る。話の内容がまったくわからない。このままでは何が起こるのか。
ピロリン♪
突如、謎のゲーム音の後に
「フィールド『グラディウス』」
陣の声で説明が始まった。
「古代ローマの闘技場を模した造りのこのフィールドでは外からの干渉を一切受けません。フィールドからの解放条件は30分生き残ること。もしくは、立っている生物が1になったらです。」
「……。」
まるでゲームのようなナレーションで声が聞こえる。フィールド?解放条件?なんだろうこれは?
冥の困惑が加速する中、一緒に巻き込まれた三人は安堵していた。
「よかった!かなり真面なやつだ!」
「だな!これなら何もしなくても助かるし!」
「敵は一人だけ、しかも何もわかってなさそうな感じだしな。……さっさと潰して30分経つのを待つか。」
「ああ、解放条件が1人だけってのが時間稼ぎな気がするしな。」
「え?な、なんなんですか⁉︎これ⁉︎」
「……本気でわかってないのか。この空間はな、猫屋敷の能力なんだよ。」
「え?」
「あいつが指定した空間にいた奴はあいつの想像した世界に強制的に引きずり込まれるんだよ。ほぼ、転移と言ってもいい。そのうえあいつフィールドでは誰かが解放条件を達成しないと戻れないルールになってる。」
「そんな無茶苦茶な!そんな能力聞いたこともないですよ!」
「ああ、猫組の奴は本当に無茶苦茶なんだよ。能力も性格もな。……誰かが倒さないといけないんだよ。」
そう言って三人は冥の方に向かって歩き出す。
「お前がどんな奴か知らないが、猫組な以上……とんでもない化け物なのは間違いない、俺たちの敵だ。」
「そんな!待って!」
「3対1だが悪く思うな。」
三人が冥に襲い掛かる。
ピロリン♪
「ちなみに、人数が2人以下になるまで猛獣が出現して襲い掛かってきますので時間稼ぎは出来ません。元気に闘ってください。」
声の後に一匹のトラが出現した。
「「「「……。」」」」
三人と冥は動きを止めトラを見る。
「グルゥ!!」
……大型トラックと同じくらいの体格の。
「ふわああああああ!!!!」
残り29分。
《訓練場》
「……あいつ大丈夫なのか?」
火の玉を体に受けながら晴明は陣に尋ねる。
「ん?冥の事?大丈夫だろ、俺も会ったばっかでどんな奴か知らないけど仮にも猫組に落ちてくる人間だぜ?この程度で死ぬはずないさ。」
「…ならいいが、」
「それよりそっちこそ大丈夫か?俺は能力使ってるから手伝うことも出来ないぞ。」
「見ての通り一人で余裕だ。」
体に火の玉を喰らいながらも晴明は陣に向かって手をヒラヒラさせる。
「……みたいだな。任せる。」
陣はその姿を見て苦笑する。…だが敵の生徒達は恐怖していた。
「な!何なんだ!あの化け物は⁉︎なんで火の玉をこれだけ直撃しながら平気なんだよ!余所見して話が出来るんだよ⁉︎」
「てか、あいつ今動いたぞ⁉︎巳組!ちゃんとしろ!」
「ずっとやってるさ!だけど、3人がかりでもほんの一瞬でも気を抜くと動きを抑えられないんだよ!」
「チッ!おい亥組!そのでかいのぶつけてやれ!」
「了解!喰らえ!!」
1人の生徒が持っていた特大の火の玉を振りかぶって晴明に向かって投げつけた。
晴明は逃げようと体を動かそうとするがゆっくりとしか動かない。その間にも特大の火の玉が晴明に近づいていく。
「あ……駄目だ食らうな。」
陣は腕を組んだまま呟く。その一言のあと、晴明に特大の火の玉が激しい衝撃とともにぶつかり爆ぜた。
「やったか!」
それを見た集団は喜ぶが、
「…ッ!おい油断するな!肉体強化『腕力』『スピード』!!」
丑が爆煙の中でわずかに見える影がある事に気付き飛び出す。
そして、腕力を強化した事により右手にかけて筋肉の盛り上がった拳が晴明に向かって突き出す。
「死ね!晴明!」
その拳は晴明の顔面に直撃した。凄まじい威力で火の玉がぶつかった時のような衝撃が広がり風圧で爆煙がかき消える。……ただし、
「……肉体強化してもこの程度か?」
ただし、その一撃を食らっても晴明はその場からまったく動いてはいなかった。
「う、嘘だろ!」
「殴るときはこうやんだよ。」
晴明が構えを見せる。
「に、肉体強化『防御最大』!!」
丑組の生徒のおそらく最大の防御技、その腹に晴明が拳を振り抜いた。その瞬間、晴明の立っている地面がひび割れ、腹を殴られた生徒は大砲でも当たったのではないかという程の距離をぶっ飛び訓練場の壁に激突した。
「「「……」」」
他の生徒達は倒れてまったく動かない丑組の生徒を見て立ったままその場に固まる。
「晴明……丑組に肉弾戦で勝つってどんだけだ、せめて能力使えよ。」
「うるせぇ、それより服が燃えちまった。……陣、着替えないか?」
「ねえよ。…そこら辺のやつから剥ぎ奪れ。……服以外怪我は?」
「あー………んー………あ!ちょっと火傷した。」
「オッケーオッケー、探さないと見つけられないほどね。……なにその体、超合金で出来てんの?」
陣は呆れた顔で晴明を見た後、残りの集団に振り向く。
「…さて、他の奴らもやれそう?」
「ああ、それは問題ない。それよりフィールドに入れたあいつは大丈夫か?まだ出てこないが。」
「冥の事?まだ解除されないから戦闘中だと思うけど…………3対1は厳しかったかな?」
「能力次第だな。……系統は何だったんだ?」
「状態異常系統。」
晴明はそこらで倒れている生徒から服を借りるため脱がして着始める。
「また微妙だな。様子は見れないのか?」
「無理。グラディウスは外からの干渉を一切受け付けないフィールドだから30分過ぎるか1人になるまで解除されない。」
「……。」
「そしてフィールド発動中は俺は能力を使えない。」
「…30分以内にこいつらを片付けろって事か。…余裕。」
「油断すんなよ。」
「任せろ。」
晴明は生徒達を見る。未だに身動き一つ戦う意思すら見られない。それはそうだろう、12組ある中で最も身体能力のある丑組を素手で勝ち、特大の炎の玉を受けてもほぼ無傷の体にいったい何をすればいいというのだろう。
「《付与》。」
そんなことは気にせずに晴明は地面に左手をつけて生命力を流し込むと、4メートル強の大きさの顔を持つ土でできた龍が地面からまるで水柱のように飛び出してきて唸り声をあげた。
「……こいつら、化け物だ。」
「こんな奴らに俺たちが勝てるわけがないだろ。」
「誰だよ猫組の奴ら潰すなんて言ったやつ。」
集団が泣き言とも取れる言葉を言ってる間に土でできた龍は訓練場の上空で静止し、
「お前達から売ってきた喧嘩だ。俺は中途半端は嫌いなんでな。……終われ!」
晴明の最後の言葉の後に集団にむかって襲いかかった。