子 《干支高校の落ちこぼれたち。》
まだ日も登りすらしていない時間から最初に駆けつけてきたのは、小さな動物だった。神は戦いながらも動物に向けて語りかける。
「よく来た。今からそなたの名は子だ。力を与えよう。」
こくりと頷いた小さな動物、子は神とともに戦い始めた。
ここは干支高校。500人に1人の確率で産まれる能力者の悪用や未然の暴走を防ぐため、その能力を十分に発揮できるよう能力者を育成するために設立した日本唯一の学校だ。全学年で1500人の能力者が在籍しており能力の特性で12のクラスに振り別けられクラス替えなどなく卒業までの3年間で能力を使いこなせるように指導される。クラス替えなどがない理由は似たような系統の能力の方が教えやすいからである。
……ただし、例外はある。
「……そんな、嘘だ。」
組移動の看板の前で一人の生徒がその場で呆然と立ち尽くす。
この高校で組移動はほぼない。組が能力の特性よって組み分けされているので例え、進級であっても組が動く事はない。能力の特性が変化するなどの特例がない限りは、………二つだけだ。
一つは、年に1人選ばれればいいと言われる程に優秀な能力者として認められ神組への移動。
もう一つは、3年間では能力を使いこなせないと判断され進級、……というより卒業させられない生徒が集まる猫組。通称、落ちこぼれの留年組への移動だ。
少年の、顔を見ればどちらかなど一目瞭然である。
「……ぼ、僕は確かにあまり能力を使いこなせてはいないけど暴発させることもないし、卒業まであと二年もあるのに……なんで。」
うっすら涙が浮かび始めているその少年の名前は眠氏冥。白髪の髪に中性的な顔立ち、小柄で小動物を思わせる仕草は庇護欲をそそられ間違っても男性には見えない。……少年だ。
「…はぁ、……行こう。」
呆然と立ち尽くしていたが、ここにいても何も変わらないと諦め、ため息と掛け声で自分を奮い起こし冥は猫組に向かって歩き出す。
「…猫組の噂を聞いたことあるけど猫組には最悪の2人がいるんだったよね。たしか、最狂最悪最低の変態と無敵無敗無謀の龍がいるって、……言ってたっけ。」
独り言を当たり前のように呟くあたり、相当参っているようだ。周りに人がいないのがせめてもの救いだ。
「…この事、鴉ちゃんが知ったら怒るだろうな。……って、もう着いちゃった。」
少し歩いただけで目的地に到着してしまった。学校の中なのだから当然ではあるのだが。
猫組と書かれたボードのあるそこは学校の地下にある。薄暗く、電気も付いていない扉の前はとても不気味だ、
「……すごい怖いところだな。」
……入るのも怖いけど、ここに居るのも、とてもじゃないけど耐えられそうにない。冥は勇気を出して教室のドアを開けた。
「し、失礼します。」
覗いてみるとそこには一人の生徒が二つ程くっつけた机をベット代わりに横になって顔に教科書を被せて眠っていた。ドアの音で起きたのか顔から教科書を外し僕を見る。
「…誰だ。失礼する気なら入って来るな。」
「ええ⁉︎す、すみません!そんなつもりじゃ!」
「…冗談だよ。…それで?」
「え?」
「何しに来たんだ?……こんな落ちこぼれの溜まり場に。」
その人は僕を見ながら尋ねてくる。
「……。」
「……喧嘩しに来たような面じゃないな?あれか?迷子か?一年のクラスは上の一階だ。」
そう言って僕の頭をポンポンと叩いてくる。
「…違います。僕は二年です。それに迷子でもありません。僕は…その……猫組に編入しに来ました。」
「……ああ、お前クラスのバツゲームでそう言えとか言われて来たクチか。」
あれ?まったく信じてくれてない。……そうだったらどんなに良かったか。
「たまにいるんだよそういう事する奴。ったく、そんな事言った奴はどこのどいつだ?そいつはちょっとしめる必要があるな。」
「………学校側の人ですけど。」
「…教員からも苛められてんの?大変だな。」
「いじめじゃなくて!本当に編入になったの!この猫組に!」
「……………………まじか?」
「マジです。」
「……お前何したの?」
「特に何も。」
「そんなわけないだろ。…………実は、神組に入るよりレアなんだぜ。……ここ。」
「…………僕のほうが知りたいです。」
「……手違いじゃないのか?……お前、名前とクラスは?」
「眠氏冥です。クラスは羊で…した。……あなたは?」
「状態異常系統の能力か。……俺か?俺は猫屋敷陣だ。昔っからの猫組だ。」
「…何したんですか?」
「寝坊。」
「……。」
……これは答える気がないやつだ。
「……まぁいいや。えーと、眠氏。」
「あ、冥でいいです。」
「わかった。じゃあ俺も陣でいいぞ、冥。」
「はい。陣君。」
「よし。それで、冥。手違いにしろ事実にしろ今日から猫組に入るならお前に三つ程言っとくことがある。
」
「?なんですか?」
「一つは猫組に入るならこの学校にいるほとんどの生徒を敵に回すと思っていてくれ。」
「あなた達はいったい何してきたんですか!」
「日々の賜物ってやつさ。」
「ろくなことじゃないですよね!」
「二つ目は猫組の1年間の生存率は2%だ。」
「なんでそんなに低いんですか!」
「日頃の行いだ。」
「本当、ろくなことしてないんですね!」
「最後に3つ目な、」
「……聞きたくない。」
「最後のは良いことさ。……ようこそ猫組へ!これから俺たちは仲間だ!よろしくな!……死ぬまで。」
「……よろしく。……って最後になんて言いました⁉︎」