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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

王様は最期を目撃する

作者: ひびき

「侯爵令嬢は最後の最期に気が抜ける」の別視点

今作品をあげるに従って、上記作品の後書き(キャラ設定)を少々変更しました。読む分には支障ないかと思います。

前作に続き、読む人を選ぶかと思いますが…暇つぶしにさらっと読んで頂ければ、と。

領地の視察。

王妃を連れての視察の最中、もたらされた火急の報せに何の冗談だと思った。認めたくない報せであった。

だが、事実なのだと遣いは言う。

「……カロア」

「グウェン、直ちに向かって下さい。この場は私が引き受けます」

「すまない!任せた」

言葉少なに私の心情を優先してくれた妻に、感謝してもしきれない。流石は私の妻で、王妃だ。

連れてきていた中で一番足が速く魔法耐久に優れた馬に跨り腹を蹴る。

「間に合ってくれ……ッ!」

体力維持や疲労回復、重力軽減に俊足の魔法を重複して馬にかけ続ける。

流れるように過ぎて行く景色に、しかし私の焦燥は流れてはくれなかった。




  ◇   ◇




「邪魔だ!退け!」

王が単騎で戻った事に慌てふためき門を開けようとしている門兵に、今は構っている暇はない。開門までの間すらも惜しい。飛翔の魔法を瞬時にかけ、馬の腹に今一度蹴りを入れ、号をかけれる。

地を蹴り上げ、そして城壁を飛び越える。

着地する直前に衝撃緩和とダメージ軽減魔法をかけ事なきを得る。


「センスは何処に居る!ローザリア・ミゼディアル侯爵令嬢を処刑するとの報せを受け戻ったぞ!」


口にした言葉に、血の気が引く。

急げ。急がなければ…!

私の姿を認めた者が、すぐさま声をあげる。

「魔封牢です、陛下!」

城内の中で最も血塗られた場所。

王家に仇なす者を、時には拷問にかけ、時には処刑する。そんな血塗られた場所に居るのだという。

くらり、と眩暈を起こしそうになるのを堪える。

「直ちに衛兵と医師を向かわせろ!」

指示を出し、手綱を目的地へと引き、再び馬の腹を蹴り向かう。継続してかけ続けた魔法により、幾度かの呼吸の間で目的地を視界に捉える。

捉えたと同時に、血の気が引く。

四肢を拘束され、項を刃に晒すローザリアの姿など……!


「やめ、――ッ!」


制止の声は、しかして言い終える事が出来なかった。

ぷつり、と刃を支えるロープが切られたのだ。

魔法耐久の素材で作られたギロチンを止める術はなく――――、



「ローザリアアアアアア!!」



馬上から、有らん限りの声をあげる。

届け、届いてくれ、私の声よ!

断頭台の露と消えるその直前に、確かに彼女は私を捉えた。

目を見開いた彼女は、すぐさま笑った。

あの、取り澄ました侯爵令嬢としての笑みではなく、私やカロアの好きな彼女本来のふにゃりとした――――、


…落ちる。


いや、落ちた。


彼女の白が、


銀糸が、


蒼が、


地に、


落ちた。


散る。


いや、散った。


散ってしまった。


彼女の、命が……。


命は、もう、戻らない。


戻せない。




  ◇   ◇




馬から降り、地に落ちたローザリアのこうべにマントを被せ、全ての視線から隠す。

息子であるセンスターダ・キカトフ。

ローザリアの兄であるランスロット・ミゼディアル。

息子の護衛騎士ジュイス・ウィライオク。

宰相の子息セドリック・バルフォア。

魔法師団員のディミトリ・ブレア。

次代の国を支えていく若者達が、そこには居た。

そして、それらの背に守られるようにして居るのは、アリア・サザートン男爵令嬢。

それぞれの親に対応を任せていたのが間違いだった。

件をローザリアから聞いていた私ですら、息子がここまで馬鹿で愚かだとは思わず、対応を怠ったのだ。

「――――センス、これはどういう事か説明してもらおうか」

抜刀し、切り捨てたい衝動を抑える。

報せを受けてからここまで感情で動いてきたのだ。自制などせずに感情のまま切り捨ててしまえば良いものを、王としての理性が勝る。

「父上、領地視察に行かれたのではないのですか?お早いお帰りですね」

「……聞こえなかったか、センス。これは、どういう事か、説明しろ」

のうのうと言ってのける息子に、腸が煮えくり返る。

「ローザリアが悪いのです!アリア…、アリア・サザートン男爵令嬢に対してあるまじき行為をするからいけないのです!」

「裁判もせずに、こんな事をして許されると思っているのか」

「国家反逆罪でしたので。生かしておくことは出来ません!」

「国家反逆?国の防衛に携わり、安寧の一つを担った者に対して、罪だと…?」

結界に一月魔力を注ぎ続けたローザリアが、明日は卒業式なのだ、と。間に合ってよかった、と目の下に隈を作り私とカロアに笑ったのは、つい二日前の事だというのに。

――そうだ。

二日前だ。

昨日の今日ではないか!

それがどうして、こんな事になった。

命の危険はないのかと心配する私達に、防衛に一月携わっていた事は周知の事実なのだから大丈夫だ、と言ったのだ。

だから、安心してしまった。

彼女の語った通りに日々が過ぎていたから、私も、カロアも、大丈夫なのだと安心してしまった。

視察に出てしまった。

後悔してもしきれない。

こうなる事が分かっていたならば、外に出るのは一月ぶりなのだからと、理由などなんとでもつけて式には出さずに養生させるべきだった!


「あ、あの!センスは悪くないんです!センスは私を守ろうと…救おうとしてくれただけなんです!」


許可をした覚えのないアリア・サザートン男爵令嬢……いや、名を覚える事すら苦痛だ。女は私と息子の間に立ち塞がり口を開く。

私の目を見て、頭を下げる事もなく。

王族に対しての、貴族としてのマナーのない行動だった。


貴様が――ッ!


口をついて出そうになる罵声を、左手で口を覆う事で堪える。

唇に触れる銀の冷たさが、冷静になれと訴える。

「あ!王様!その薬指の指輪、駄目です!」

「コレが、どうした」

王である私に指を差し――正確には、指輪を差し、女が口を開く。

「その指輪には、精神作用があるみたいで。センスもランスもジューイもセドもディートも、会った時に様子がおかしくって。でも、指輪を外したら元に戻ったんですよ!とにかく、良くない指輪なんです!外した方が良いですよ!」

親族でも婚約者でもない異性を愛称で呼ぶ。その様の何と異常な事か。

それを良しとする男達も男達だ。

「父上、アリアの言う通りです。私達は指輪を外してから、心が軽くなったのです」

その指輪を渡したのは、私なのだが?

王から贈られた指輪を外す事。それがどういう意味を指すかなど、正常であれば分かろうものだが……。

「……、そうか。センスが言うのであれば、私も外すとしよう」

「ッ陛下!」

ジュイスが、顔を真っ青にさせ叫ぶ。

首から下げたモノを、手が白む程握りしめているその様は、この場で異質であり、そして正常であった。

どうやら、魅了は解けているようだな……。

だが、ソチラに居る事が、もはや罪だ。

指輪を外し、胸ポケットへと入れる。

ローザリアの作った魔法具だ。ぞんざいに扱ったりなどしない。

「王様、外して気分は悪くないですか?」

「大事ない。そなたは、優しいな……」

反吐が出そうだ。

こんな茶番、さっさと終えてしまおう。未だ地に在るローザリアが可哀想でならない。早くこの手で抱き上げてやらねば。

「そんな。でも、王様が無事で、」

「――とでも言うと思ったか」

言葉を被せる。

「な……え、え?何…?」

唖然とする女に、思わず鼻で嗤ってしまう。

「女よ、何を驚く必要がある?」

「あ、あ…え……?」

チリ、と微かな痛みが身に走る。

魅了魔法を解呪する際に伴う痛みに口角が上る。

「私に魅了をかけようとしても無駄だ。解呪の術式を身に刻んでいるからな」

女の顔色が悪くなる。

ローザリアに、指輪だけでは不安だと頼み込んで刻んで貰ったのは正解だったようだ。

「時に女よ。何故指輪が魅了魔法の解呪を果たしていると知っている?何故外させた?」

これはローザリアが発明した術式で、手ずから作った魔法具だ。

魅了の解呪は存在せず、術者が使用を止めなければならないという常識を、ローザリアは覆した。

それも、柔軟性のある術式で、指輪という小さな物に半永久的に作動するように術式を埋め込む事をも可能とした。

限られた者にしか知られていない機密だ。

「え、ええ?だ、だって……あんなの、つけてなかったもの……スチルで、指輪なんて……ヒロイン、の私は、愛されなくちゃ。愛の、指輪なんて、いら…ないから」

愛の指輪、か。

指輪を愛の証とする文化などこの世界にはない。

それはこの女が程度は違えどローザリアと同じく異世界の記憶を有している事。

本来であれば…正しく知識を扱っていれば、国で重宝され優遇される者。少なくも存在する者達への対応はどの国でも悪くなく、またその者達がもたらす国への恩恵は計り知れなく未知数。

しかし、

「この世界は、魅了魔法の使用を禁じている」

まあ、禁じられていても術式があるのだ。隠れて使用する者は後を絶たない。その為、対処する術式も存在する。ローザリアの発明した術式より柔軟性はないがな。

「使用を止めぬ者には、相応の処罰を下すことになっている。この様に、な」

「え、ッ!?」

女の首を鷲掴み、素早く魔封じの術式を流し込み刻み付ける。

「ぎぃゃぁぁぁああああ!」

魔封じの術式は、すぐさま首をぐるりと一周して発動する。

杭が発現し、女の首に突き刺されば、耳障りな叫びが響き渡る。

首を掻き毟りのた打ち回る女に、当然の報いだと嘲笑が浮かぶ。

魔力を封じて魅了魔法が途絶えた筈だが、のた打ち回る女を心配する若者達に、改めて魅了の依存性を知る。術を断ってもこれでは……元に戻るのか?

「僅かな魔力の動きを感知して発動する魔封じの術式だ。その痛みでは、魔法を練る思考すらままならないだろう?……まあ自業自得とでも思え。貴様が考えなしに施行した魅了魔法が、関係のない者を殺め、国を乱したのだからな」

王が直々に対応している事や、現場の惨状に待機を選択していた衛兵へと指示をだす。医師は……必要がなくなってしまった。

「衛兵!この女共々、センスターダ・キカトフ、ランスロット・ミゼディアル、セドリック・バルフォア、ディミトリ・ブレア、以上五名をローザリア・ミゼディアル侯爵令嬢殺害の罪で魔封牢へ入れろ」

衛兵に引きずられる様にして魔封牢へと連れて行かれる最中であっても、女の心配しかしないその姿に、駄目かもしれないと諦めにも似た気持ちが浮かぶ。

王が魔封牢への収容を命じ、自身が罪に囚われているというのに、何故女の心配が出来るというのだ。

魅了とは、どこまで人を壊すのか……。

「へ、陛下。畏れながら、私の名がありませんが……」

私の言葉を、ジュイス・ウィライオクだけが正しく…正常に受け止めていた。

「お前は己を取り戻しているのだろう?……その首から下げているのは、ローザリアの物か?」

「は、はい。必要のない物だと最後に……」

「……そうか。彼女の形見だ、大事にしろよ」

最後にローザリアと言葉を交わし、物を与えられた者へ嫉妬の二文字が浮かぶが……それもすぐに消える。

嫉妬したところで、それを笑って照れてくれる者はもうこの世にいないのだから。

「ジュイス・ウィライオク。追って沙汰あるまで謹慎せよ」

「――――は!」

衛兵を伴い去っていくジュイス。

一人でも未来ある若者が残った事に、僅かな安堵を覚えた……。


「ローザリア……」


地に在り続けた彼女を抱える。

「君は、こんな結末で良かったのか?もっとやりようが……生きようがあったのではないか?」

アカを吸って重くなったマントずらし、隠していたかんばせを見つめる。

白い頬に付いた土を払ってやる。

「いや…。君は、自身が知る未来から外れる事を嫌って…不安がっていたからな……」

瞼は閉じられていて、引き込まれるような蒼は見えない。

閉じられていて良かった…。

蒼に、この情けない顔を晒す事がなくて良かったと思う。


「あの時、歳の差だの気にせずに側室に迎えていたのならば、君は今も――――……」


アカで塗れた唇に指を這わせ、そして唇を合わせる。

あぁ、冷たいな……。

君との二度目のキスは、鉄の味がした。






「おやすみ、私達の愛しいローザ」







グウェンシス・キカトフ

キカトフ国の国王。

魔法に精通していたと伝えられている。

彼の統治は"邪気姫"の件を除けば、概ね安定していたと言われ、現在も人気の王の一人である。


カロリアンヌ・キカトフ

キカトフ国のグウェンシス王王妃。

ローザリア・ミゼディアルを側室にと勧めた一人と伝えられている。

公私共にグウェンシス王を支え、夫婦仲はとても良かったとする資料が多く残されている。


センスダータ

キカトフ国のグウェンシス王嫡男。

アリア・サザートンの魅了魔法により、裁判にかけることなくローザリア・ミゼディアルを国家反逆罪として斬首刑に処す。

廃嫡となっており、王家から名を消されている。資料が少ない為、どのような人物であったか判明していない。


ジュイス・ウィライオク

キカトフ国のセンスダータの護衛騎士。

彼の評価は、ローザリア・ミゼディアルの斬首刑を推し進めた者と無実を証明した者として二分する。

斬首刑が執行される前には、自力で魅了魔法を解いていたというのが最も有力な説である。


ランスロット

ローザリア・ミゼディアルの長兄にして、魅了魔法により斬首刑を推し進めた一人であるが、廃嫡されており資料が少ない為、どのような人物であったか判明していない。


セドリック

キカトフ国のサディアス・バルフォア宰相の次男。

ローザリア・ミゼディアルを、魅了魔法により斬首刑を推し進めた一人であるが、家名より消されており資料が少ない為、どのような人物であったか判明していない。


ディミトリ

キカトフ国の魔法師団員。

ローザリア・ミゼディアルを、魅了魔法により斬首刑を推し進めた一人であるが、家名より消されており資料が少ない為、どのような人物であったか判明していない。


アリア

キカトフ国の男爵令嬢。

後世の小説により、名より邪気姫の通称が有名である。

異世界の記憶保持者であったと伝えられている。

禁じられている魅了魔法を使用し、王族や貴族を動かしローザリア・ミゼディアルを処刑。グウェンシス・キカトフによって魔封じを施され処断される。資料が少ない為、どのような人物であったか判明していない。

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― 新着の感想 ―
[一言] 処刑されてしまった(最後の時には妙に悟ってしまった感があった)侯爵令嬢ですが、ちゃんと理解者が居てくれて良かったです。 侯爵令嬢は自分が知る未来から外れる事を嫌っていたとしても、理解者である…
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