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悪役令嬢奇譚

※ノリノリで一日で書いた物です。

 その後、ちょいちょい修正。

 私は悪役令嬢役として生まれたらしい。

というのも、生前プレイしていたゲームや番外編で多量に発売されたノベルス(細長いほう)に、私の容姿があまりにも酷似していて、名前までそのまま、親の名前や家名まで一緒、果ては婚約者の名前も一発OKでおんなじ、加えてクリソツな見た目の王子様が婚約者としてあるうえに、序盤のストーリー展開もまんまなんだからこれはもうどうにもならんね、と若干死んだ魚の目みたいな顔をして、好き勝手生きようと決めたのである。

 

 はじめに、私はとんでもなく面倒臭がりな性格である、が。

面白いものがあれば、楽しくとびつく出世魚のような性質も持ち合わせている。前世にっぽんよりも高級感あふれる公爵という家に生まれた私は、あらゆる貴族的マナーやら生き方を教えてくれる教師たちに引っ付いた。なぜ? なに? それはどういうこと? 意味? どうして、そうなるんでしょうか。

 それはもう、ありとあらゆる言葉を投げかけ、軽石しか詰まってなさそうだった私の頭の中の隅々にまでも、教師陣からの答えを隙間を縫うようにして吸収していった。したがって、あまり頭は良くはなってはいない、と思う。適当に放り込んだだけの知識だし。といっても、若い体だ、忘れっぽくはないのは吉報である。


 という訳で、素晴らしい学園に入学した。

ストーリー的にも、ここにそれいけ! 新学生! といった風情のどこか懐かしい二度目の人生を謳歌している真っ只中、私は、発見してしまう。

 いや、あえて見つけたのだが……、


「おっ、あれこそヒロイン!」


 舞い落ちる桜の花にまみれた女……!

まさしくあれこそヒロインである。話の進み方によって、逆ハーレム状態の後宮を作り出すことはできるし、一人に一途に進むってのもありだ。もしかしたら、二股も?

そういったとんでも展開にまで人生を持ってけるという、ちゃんぽんヒロイン!

 こうしちゃあいられない、レッツラGO! 勝ちどきをあげろ!


「やあやあ、我こそは、悪役令嬢なり!」

「えっ?」


口上はノリノリすぎて、ドン引きされたようだ。




 ということで、私とヒロインはマブダチになった。

もちろん親友には、ヒロインがどんだけヒロインパワーがあるのか、どういった組み合わせで、どのヒーローを結婚相手として選べるのかを力説しておく。大事なことだからな、二回ぐらい説明した。


「なるほど……、そういう風に会話をしたり、夕方に歩けば、騎士イケメンに出会えると」

「そういうこと」


このヒロイン、特待生として入学するあたり、とても優秀な頭脳をお持ちだ。

 さっそくながら、私との会話でもって、これからの人生設計にあらゆることを考え始めたようだ。


「結婚は地獄のなんたら、っていうことわざもあるけどね、

 まぁ、ヒロインである君なら、どんな優秀な男でもより取り見取り、

 むしろ今、このチャンスを掴まねばどうする?

 といったタイミングなんだよね」


背中を押すために追い台詞を付け加えると、彼女はなるほど、と頷く。

 この学園を卒業したら、成人したとみなされ、それぞれ職業に就く。

ヒロインの場合、彼女垂涎の公務員に就きたいらしい。実際、彼女はそういった未来にいこうと決め、頑張って特待生となり、お金の問題さえもクリアしてやってきたのだ。公務員試験だって簡単にパスしちゃうだろう。

問題は、その成人して働き始めたとき、果たして、出会いはあるか、否か、だ。ワタクシ愛用の面白グッズで職場のみんなの笑いをとりにいき、愛想よくするのも一興だが、酒を注ぐのが上手いだけじゃヒロインとしても、今後が心配であろう。


「親御さんもあれこれ、やきもきしてんじゃない?」


色々とはっぱをかけておく。

だって、どうせ、ストーリーがね。婚約破棄されるだろうとは思うし。それに、この学園は優秀な卵が豊富に出そろっている。ここ以外でお相手を捕まえようとするのは、時間がもったいない、そんな可能性を大いに秘めている。第二の人生を送っているお姉さんの話はちゃんと耳かっぽじいて聞いておけ、な?


 ということで。私公爵令嬢もとい、悪役令嬢であるワタクシ。

ヒロイン協賛のもと、とうとう、婚約破棄の現場に赴いたのである。ギャラリーもいるし、あれこれ罵詈雑言を喚き散らす(予定)の側近たちも準備万端でいるようだ。さてさて、どうなるこうなる。

内心わっくわくしながら、でも、扇で悪役らしく口元を覆って、冷めた視線とやらをヒロインに送って見る。王子はヒロインの言葉をうのみにしているようだった。しめしめ。これで追放という名の引きこもりを存分に楽しめるぞ! やったぜ。


「……君は、悪いことをした、そういう訳だ。

 分かっているのか?」


にしても、王子様、久しぶりに見たなあ。

一応婚約者なんだけど、あんまり記憶に残っていないな……。

こんな金髪碧眼してたキラキラした恰好の王子様だったっけ? うーん。やっぱり覚えてないなあ。

小さい頃は、面通しぐらいしていたはずなんだが。


「……聞いているのか?」


眉目秀麗な殿下が、眉を顰めて私を睨みつけている。

うーん、カッコいいけど、なんというか物足りないな……予定調和だから、だろうか。にしても本当、目元のほくろとか、緑の瞳がやけにガラス玉みたいでビスクなんとかっていう人形みたいだわ……。

っていうと、私も西洋人形みたいな容姿だけど。といっても、目が吊り上っているから、ザ・悪役令嬢、って感じで他人には遠巻きにされやすいけどね。泣いてないぞ! 泣かないぞ!


「……数々の嫌がらせ、相違ないな?」


ええっと、そうそう、この会話の流れから怒涛の婚約破棄のあと……、

家族からも呆れられ、住んでる人よりもすっげぇ牛のほうが多いド田舎に連行されるんだっけ。いやっふぅ、楽しみだぜ! せっかくだから乳搾り体験して、バター作ってやろっと! 絶対おいしいだろうなあー、じゅるり。


「……くっ」


あ、気付けば王子様の話が終わったようだ。くっころ、って言ってるし。

適当に相槌うってたから、スキップモードが勝手に解除されたかのような解放感がある。ふぅ、やれやれ。

私の人生はこれからだ!


 と思ったのですが。

ずんずんと、私の方に近づいてくる王子様。

えっ。

至近距離で、立ち止まり。

小刻みに震えているようだ。どうした、生まれたての小鹿のようだぞ。


「なんで……」

「えっ」

「なぜ、俺のほうを見ない?」

「……は?」


思わず一歩下がろうとしたら、がしっと、両肩に王子様の指が。なんというか、私の今のドレス姿は、二の腕まで出ちゃってるタイプのものなので、すごく、王子様の指力が痛いです。柔肌に穴空きそうです。


「いててて、で、殿下!?」

「どうして、釈明しない? 

この女の言うことは、ウソだということはわかっている……、

 それなのに……」


この女って、ヒロインのことか?

王子の腕を掴んでうるうるした瞳をして、かわいこちゃん特有の上目使いまでばっちり決めていたヒロインが、すごくにこやかにグッジョブな親指を私にしてみせた。えっ?


「ずっと、そうだった……、

 俺と君が出会った時も、君は俺のことなんて目にも留まらず、

 そこらの蝶々を追いかけて、

 蝶々は同じ道をひらひらと飛んでいくんだよー、なんて。

 観察に勤しんでいたな……、

 花を見せてやっても、食べられるのですか? 染めの方向ですか?

 なんて、わけのわからんことを言い出すし……、

 俺は政治的婚約だとはっきり認識していたが、

 それでも君と仲良く付き合いをしていこうと、

 そう試行錯誤していたのに、唐突に笛を吹いてちゃるめらー、

 なんて、言い出す始末……、

 基本的に俺のことはかまわず、無視だったしな」

「え、や、あの」

「本当に嫌われていると思った。嫌がられてるとも。

 ならば、このまま政治的なものとして取扱い、義務はしっかりと果たし、

 互いに好きなように生きていくのかと考えていたら……、

 君は、殺されかけた俺をかばうし……、」

「あー……」


そういえば、そんなことあったっけ。子供相手にしょうもない奴がいるのはストーリー展開上、判明していたので。庇ったのは間違いない。大人を呼びに行くのがスムーズだったワタクシ。偉い!


「ずっと、嫌ってたくせに……、

 それなのに、君は、ずっと怖がっていた俺の傍にいてくれて……、

 落ち着くまで……、

 ……あれっきり、どれだけ俺が手紙を送っても、返事は来ない。

 届いても、中身は定型文だけで……、

 ……、それでいて、

 学園でやっと久しぶりに命の恩人に会えると我慢していたのに、

 この女がずっと横にへばりついていて……、

 ……本当に、な。もう、どうしてくれようか」


すごい至近距離でワタクシを見つめてくる王子様。

なんだろう。この顔、形。整っているのはわかりきっているんだけど、二重にぼやけて見える。あの子供の影がぼんやりと……、


「あっ、思い出した! 

 君、王子様だ!」

「そうだが?」

「あいたたたた」


 そうだ、あのチビっこだ!

泥臭い、今にも眠そうな顔の子供。したったらずな喋り方をするし、動きが鈍いので、基本放置プレイで、私は私の趣味を優先していたんだった! うっかりだ!

 ……、あれ、これオフレコだったっけ。

 殺人ミスった事件のせいで、怖がって怖がって、私から離れなくって……プルプルして。精神が幼児化しちゃったんだよなあ。まぁ、しょうがないといえばしょうがないけれども。気の赴くままがモットーな私には、じっとしているのは辛いことだった。暇なのも。精神が幼児に戻ってしまった子供を扱うのは難しいものだ。たとえ二度目の人生だったとしても。私もがきんちょボディだったのだ、全体重負ぶわれたらペシャンコに潰れる。実際、潰れそうになった。

 だから、婚約者と一定の距離を置いておくべ、なんて思ったんだ。どこまでもついてくるし。すっかりその存在、忘れかけてたけど。というか、ヒロインと初対面であれこれ会話してから、このすっごい力技で私の両肩に指圧力をかけてくる婚約者王子様のこと、思い出したんだよなあ。普通に婚約者として対話していりゃあよかったものを。

 ストーリー展開とはまったく違う進み方をする、ってことにびっくりして。

逃げ出したというのになあ。まったく。

にしても真顔で見つめると、綺麗なお顔してるよね。

頬がめちゃくちゃ赤く茹であがっちゃって……、なんか見てるこっちが恥ずかしいわい。


「俺が、どれだけ、君のことが、す、すす、好きで……、

 す、すすすす……」

「すすすす?」

「……す、好きなんだ!」


あ、と思ったら、ハグされておりました。

それもぎゅうぎゅうに。ギュウギュウ。牛だけに。なんちゃって。もー。

なんて遠目をしていると、視界にヒロインがいた。

彼女、私が貸してあげた面白グッズのひとつ、光る鼻眼鏡とちょんまげを装着していた。なんでだよ。

それ、私の十八番だろ、返してよ。


「好きなんだよぅ……ううう……」


お、王子様……、ギャラリーが、すごい感動してるところ、お取込み中申し訳ないのですが、ヒロインさんが私の面白グッズのひとつ、神器・吹き戻し笛を使い、ピロピロと摩訶不思議な音を出して、側近へその技をみせて喜ばせている。なんでだよ。フェイスマットまで出すんじゃない。可愛い顔がおっさんになってるだろ! なんて必死に脳内突込みを入れていると。王子様があれこれ喋くっていたようだった。もちろん私の耳に入ってない。


「その……返事してくれよぅ……」

「え?」

「……好きだよ、あ、愛してるんだ、

 もう、どうしようも、ないぐらいに」

「は?」


あ、すみません。

ヒロインさんが面白すぎて、とんと話を……、

なんて顔をしていたのがバレてしまったのだろう。

みるみるうちに、殿下の顔が真っ赤に腫れ上がるようになってしまい、仕舞には私の顔をがっちりと掴みとり。


「……この……っ!」


というような経緯でもって、私の第二の人生におけるファーストキスはがむしゃらな殿下の口づけによって血まみれに相成り候。歯と歯ってなんでこう、当たりやすいんだろうね。ド突き漫才の如しな速度で唇が降ってくりゃあ、そりゃあね、血の雨が降りますわ。ははは。


「はははは、はぁ」

「お疲れさまです」


なんて殊勝なことを言いながら、私に面白グッズを返しに来た。

ヒロインさん(10代)。


「結局このキラメキアフロ、使わなかったなぁ」


すごいガッカリしている。

なんでかわからないが、このヒロイン、無駄におちゃらけるのを好むようで、私の話を真剣に聞いていたのも、どうやらそういった展開になっていったら面白そうじゃん、ってことで、マジでふんふん頷いていたらしい。まぁ、普通、私の話なんて、頭おかしい女の妄言とか思ってしまって聞く耳持たぬものだ。それなのに、彼女は私を受け入れた態でいたもんだから、ヒロインはきっとヒロインらしく修正されてるんだなあ、聖女だわ、ははは、なんて考えていた私、ちくしょう!


「ふふっ、でも楽しかったなあ」

「なにが?」


爆笑の渦に巻き込んだ会場のことか?

それとも、血まみれ惨状になってしまった私と殿下のことか?

なんて、呆けていると。

彼女はぶい、と、ピースサインを私にみせつけてきた。


「だって、ボリューム2の通りだったもの」

「は?」

「パート2! 続編よ!」

「え?」


ぞく、へん?

呆けた顔でいると、ヒロインはにやりと、悪役令嬢とタメを張るんではないか、といわんばかりのにやりとした笑みを浮かべた。


「だって、この世界、ボリューム2のヒロイン悪役令嬢物語、愛されて、の難易度プラスアルファ、悪役令嬢かける王子デレデレルートだったんだもの! そして、この隠しアイテム! 出せて嬉しいわ! 思わずガッツポーズしちゃったわ!」


なんだこの子……、生まれ変わりかよぉ! 

それも前世の私より長生きしてゲームを楽しんでたとは……! 

 第一、続編、って。そんなボリュームとかつくってことは、いくつかあるのか。ナンバリングが。 くっ、羨ま……! げふんごふん。

 ……にしても、確かに最っ高に楽しそうに貸してあげた面白グッズ振り回していたし、披露もしていたなあ。どんだけ婚活が大事かって説明しても、なしのつぶてだったのは、恋愛に興味ないと思っていたけれど、他人の恋愛話には食いついていたし……、のわりに、面白グッズ面白グッズと、呪文のように唱えていたのは……、

 はっとした。


「……勲章トロフィー狙いか!」





 

主人公

心のハイテンションが著しい突込み系悪役? 令嬢。

まったくもって公爵令嬢とやらが生かされていない設定。

釣りが上手い。

ヒロイン

ガチゲーマーヒロイン。

とにかくがちんこ勝負が好き。

おちゃらけるのが大好きな十代()

カエルを捕まえてマブダチ令嬢に嫌がらせするのが得意。ドヤ顔も得意。

ヒーロー(王子)

どこか残念臭が漂う。ガチ惚れしているのが主人公なあたり、

とても残念。真面目すぎて可哀想である。

面白グッズ

別名パーティーグッズ。隠しアイテム。入手の難易度は高い。

実は課金アイテムだったりする。

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