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人にはそれぞれ事情があるんです

さくさく書き進めてたらどこで切っていいのか分からなくなって中途半端感が…。


前回載せ忘れてたアイテムの説明をあとがき部分に載せています。

 

 パチッと薪の一際大きな音に肩を震わせて、凛は閉じかけていた瞼を持ち上げた。


 陽が沈んで遠に食事を済ませてしまった凛は、焚き火を挟んで向かい側に横たえた男を視線をやったが、男はぴくりとも動かない。


 周辺を少し見渡せる程度の火だが、凛と未だ意識の戻らない男の顔を互いに視認するだけの明るさはあった。


 あの後、何とか見えるだけの傷を塞ぎきった凛は、血痕を水魔法で流して土魔法で現場を埋め、肉体強化(パワーブースト)の魔法を使って男を背負い、この小さな洞穴(ほらあな)まで男を運び入れた。


 本当は治療を終えた時点で疲れ果てて微睡みに沈んでしまいたかったのだが、男の負った傷が動物…いや、魔物の仕業のようであった為、急いで血の臭いを消してその場を離れなければと考えたのだ。


 鮫やピラニアの様に血臭に釣られて群がられてしまっては、疲労した上に戦闘慣れしていない凛が倒れた男を守りつつその場を凌げるとは到底思えなかった。明らかに部が悪い。


 ここへ辿り着いた時には冗談でなく、膝から崩れ落ちた。


 辛うじてゴツゴツした岩場との接吻を回避して、気力だけで入口に侵入禁止とカモフラージュの結界を張って、男を中途半端に背負った状態で力尽きた。


 およそ二時間後、目が覚めた時に男に押し潰されたままの体勢だったのは仕方がないことだろう。


 もう一度肉体強化(パワーブースト)をかけ直して、アイテムボックスから取り出した数枚の毛布で寝床を拵え、魔術師(ウィザード)霊布(れいふ)を男の身体に巻き付けて寝床に転がしておいた。


 生命力(ライフポイント)は先程の治療で回復しているはずなので、生命力(ライフポイント)自動回復(オートヒール)する騎士の誓いではなく、魔力(マジックポイント)自動回帰(オートチャージ)させる機能を持つ魔術師(ウィザード)の霊布で精神的な疲労を取り除こうと考えたからだ。


 そのお陰か、今では呼吸も随分落ち着いているように見受けられる。


 早ければそろそろ目が覚めるんじゃ………と凛がもう一度男を見ると、ぱっちりと開いた紺碧と目が合った。








 男、シルヴィオ・アイゼンシュタインは始まりの街『コルテアル』の冒険者ギルドから依頼(クエスト)を受け、Dランクモンスター風豹(エアロパンサー)の討伐に出ていた。


 風豹(エアロパンサー)は名前の通り風の属性を持った馬程の大きさをした豹で、中級者(C・Dランク)向けの魔物である。


 一月(ひとつき)程前から依頼板(クエストボード)に討伐依頼が貼り出されていたが、どうやら通常よりも強い個体らしく、腕に覚えのある者が幾人か依頼(クエスト)に出たが、どれも討伐出来たとは聞かなかった。


 依頼(クエスト)に出た者の話によると、討伐ギリギリまで追い込むと一度逃げ出し、次に見つけたときには与えた傷が完全に癒えていると言う。


 しかしDランクの風豹(エアロパンサー)治癒術(ヒール)は使えない。


 そんな不可思議なことが何度も起こるものだから、依頼(クエスト)が貼り出された当初はDランクの依頼(クエスト)だったのが掲示されて二週間足らずで依頼(クエスト)ランクと賞金が上方修正して再掲示された。



 Cランク 討伐依頼(クエスト)

 目標(ターゲット)… 風豹(エアロパンサー)一体の討伐

 期限… 早期討伐が望ましい

 賞金… 5万(クルー)

 依頼人(クライアント)… 冒険者ギルド コルテアル支部



 Cランクの依頼(クエスト)で5万(クルー)はかなり破格の値段だ。


 それに元々近隣の村からの依頼(クエスト)だった筈が、ギルドからの公式依頼(クエスト)に格上げされている。ギルドから信の置かれている冒険者でさえ討伐に失敗しているらしいので、ギルドも事態を重く見たようだった。


「なんだ『銀狼』の、ソレお前が出るのか?」


 シルヴィオが風豹(エアロパンサー)依頼(クエスト)を見ていると横から耳慣れた声が掛かった。


 シルヴィオがふと右を見ると、やはり見慣れた顔がそこにあった。


 レオンハルト・ルドガー、黄金を溶かしたような濃い金髪とこの地方では珍しい紅の瞳を持つ、数少ない上級(Aランク)冒険者だ。


 その名と行使する炎の魔術から『金獅子』の二つ名を冠する。


 お互い単独(ソロ)依頼(クエスト)を受ける一匹狼だが、他のギルド支部を拠点にしていたときに何度か組んだことがあるので、ある程度気心は知れている仲だ。


「お前…コルテアル(こんなところ)に何故…」


 随分驚いた様子でシルヴィオが言うと、対するレオンハルトは呆れたように肩を竦めて見せた。


「そりゃこっちのセリフでもあるんだがな?『銀狼』の」


「俺はコルテアル(ここ)でしか取れない素材を採りにきただけだ」


 でなければ『始まりの街』なんて来るわけがない。


 コルテアルを中心とした南方は比較的大人しく、危険度の低い魔物の生息地であるため、上級(Bランク以上)の冒険者が南方を拠点とすることはほぼあり得ない。


 それこそ組んでいるパーティーに初心者(ひよっ子)を迎え入れた時、経験を積ませる為にしばらく滞在する程度で、シルヴィオやレオンハルトのような単独行動(ソロ)上級者(二つ名持ち)が拠点にするには実入りが少なすぎる。


「お前こそなんでコルテアルにいるんだ…」


「あ?オレはぶらぶらその辺歩き回ってるだけだ」


 特に理由はない、とキッパリ告げるレオンハルトにシルヴィオは隠すこともなく大きな溜め息を吐いた。


 それほど多くを知っている訳ではないが、シルヴィオが知る限りのレオンハルトという男は、その時の気分と自分が楽しめるか否かで物事を押し進めることが多々ある。どうやら今回もその類いの結果らしい。


 つまり、こんなところで顔を会わせたのはただの偶然である。


「んで?受けんのか、ソレ?」


 改めてレオンハルトは先程シルヴィオが目にしていた風豹(エアロパンサー)の依頼書を顎で指す。


 お前が行かねぇんならオレが行くぞ、と顔に書いてある。


「ああ、悪いが少し入り用でな…」


 そう言いながらシルヴィオは佩いていた己の得物を少し鞘から抜いてやる。


「おいおい、そりゃ………」


 シルヴィオが使う業物の長刀(ロングソード)の根元に大きく皹が入っているのを見咎めたレオンハルトは、ひょいと器用に左眉だけ上げて見せた。


 短い付き合いではあるが、シルヴィオはその癖(それ)がレオンハルトの呆れたときの仕草だと知っていた。


「以前蝙蝠竜(ワイバーン)を相手にしたときに少し…な…」


 足場が悪くて無理な体勢で長刀(ロングソード)を使った防御をしたため、要らぬ負荷が掛かってしまったらしく、長年の相棒はそれに耐えきれなかったらしい。折れなかっただけでも儲けものだ。


「ってぇと採取ってのはコルテ石か?それなら北でも手に入っただろう」


「まあコルテ石(それ)もあるが、薬草の類いもそろそろだったからな…まあ、ついでだな」


 南方が初心者(ルーキー)向けだと言われるのは魔物のランクもそうだが、何よりこの辺りは薬草の種類が豊富で、他の地方よりも薬が安価で売られているのも大きい。


 回復役(ヒーラー)がいないパーティーや、魔法で回復する術を持たない一匹狼などが態々薬の買い付けに来るぐらいには品質も保証されている。


「へぇ、じゃあ依頼(クエスト)が終わりゃあ…東経由で北ってところか」


「ああ、恐らくそうなるだろう」


 普段はシルヴィオもレオンハルトも冒険者ギルドの本部がある北方の『ツェツェール』を拠点に活動している。


 いつもならそのまま中央を抜けて真っ直ぐ北へ抜けるのだが、今回は東方の中心都市『ドロス』を経由する必要があった。


 東は工業都市が多く点在する地方で、ドロスはその中でも腕のいい鍛冶師が多く集まっている。


 そこへ行って相棒を打ち直してもらわねば、Cランク以下の魔物を相手取るには全く支障はないが、ツェツェールを拠点に活動するには流石のシルヴィオも相棒なくして生き残る自信はなかった。


「お前の方はどうするんだ?」


「あー、そうだなぁ…オレは行くなら中央か東だな。今回は西を通って来たからな」


 レオンハルトは右手で後頭部をガシガシと掻きながら視線を少し天井にやって、ぼやく様にして答えた。


 どうやらあまりはっきりと旅路を決めている訳ではないらしい。


 まあ、レオンハルトの行き当たりばったりはいつものことなので、今更特に言うことはない。


「ああ、どうせなら『銀狼』に付いてくってぇのもおもしれぇかもな!」


 良いことを思い付いた、とばかりにレオンハルトが破顔して見せるが、逆にシルヴィオは少しばかり顔をしかめた。


 顔にはやめろ、と書かれている。


 シルヴィオがそうなるのも無理はない。何せこのレオンハルト・ルドガーという男はとにかく色んなモノを呼び寄せる。


 良いことも勿論だが、シルヴィオの記憶ある限りその大半はトラブルと呼んで差し支えのないものがほとんどだ。


 この男、俗に言うトラブルメーカーというやつなのだ。


 状況が悪いときには感嘆するほどの強運で幸運を引き当ててくるが、何もない平常時には九割の確率でトラブルを運んで来る悪運の持ち主であった。


 勿論シルヴィオは何度もその『悪運』に巻き込まれているので、多少眉間に皺が寄るぐらいは赦してほしい。


 シルヴィオは賢明にも無言で返し、ボードから依頼書を剥がすとそのまま受付(カウンター)に足を向けた。


 後ろでレオンハルトが何やら喚いているようだったが、シルヴィオは決して振り返らなかった。


 そんな行動も無駄なことだとはわかっている。決めたことは意地でも実行する男なので、どうせ勝手にドロスまで付いてくる。ならば今少しぐらいレオンハルト(トラブル)を回避してもバチはあたらないだろう。


 シルヴィオは先の旅路を思いやって、もう一度大きな溜め息を吐いた。




装備品一覧



・夜の(とばり)(SR)


 現在は黒い外套の形に仕立てられているが、元はゴースト系のボスがドロップした真っ黒い唯の布切れ。

 『名もなき騎士』の布製装備品は基本的に布切れの状態でドロップするため、それを生産職の工房に持ち込んで装備品として仕立ててもらう。

 仕上がりは生産側の腕に依存する。

 ちなみに現在凛が所有する夜の(とばり)は失敗作で、本来なら『認識阻害』ではなく『認識遮断』の効果が付与されるはずだった。

 その為、凛よりもレベルの高いプレーヤーには効果が得られない。

 本人は強いモンスターとだけ戦えるから丁度いい、と失敗作でも愛用していた。



・騎士の誓い(SSR)


 とあるクエストのクリア報酬で自動回復(オートヒール)が付与されたピアス。

 とある国のとある騎士を助けるクエストなのだが、クリアすると「あなたのことを御守りします」とか言いながら何故かプレーヤーの耳に着けるムービーまで流れる。

 ムービーが流れた後は一定時間取り外し不可であったため『呪いのピアス』や『ヤンデレピアス』などと呼ばれていた。ちなみに騎士は無駄にイケメンだった。

 回復量は然程多くないが、かすり傷程度ならたちどころに癒してしまう効果をもつ。



魔術師(ウィザード)霊布(れいふ)(SR)


 その名の通り魔術師系のボスがドロップする唯の布切れで、魔力回帰(オートチャージ)の効果をもつ。

 現在はまだ布の状態なので、生産者の腕次第では追加効果の付与が期待できる。

 『名もなき騎士』の装備品はイベント報酬以外は基本的にプレーヤーが配色を変更できる。

 しかしやはり凛は面倒なのでデフォルトの白い布のまま使用している。



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