どうやらここにはファンタジーがたくさん、なようです
………凛は現在、放置判断をした自分を二時間は正座させてやりたい気分になっていた。
この夢は一体いつ終わるのか、と半ば据わり始めた目で目の前のファンタジーな生き物『其の2』を観察する。
踵近くまである長い金髪と、少し濃い切れ長の碧眼をしたお綺麗な美術品顔の…恐らく、男…。顔だけ見れば海外タレントでも通りそうなものだが、ここはファンタジーな夢の中。そうは問屋が卸さない。
するすると視線を顔から下へ下ろしていくと、奇抜な衣装が目に入る。見たところヨーロッパの絵画などでよく描かれている天使様が着ている服によく似ていて、質の良い一級品であることは間違いない。
耳・首・手・足に施された金の環の装飾も派手過ぎず、その服によく馴染んで見えた。
「………どちら様でしょう…か?」
思わず口元がピクリ、と動いたのには目を瞑って欲しい。本当に。
だが、仕方がないと思うのだ。
腹を満たし、さてどうするかとぼんやりしながら瞬いた間に、いきなり森の中から真っ白な何もない空間に景色が切り替わり、挙げ句目の前にまたもやファンタジー…。
これだけの出来事が、まるでスイッチを押して照明が点くぐらいの時間で成されれば………仕方がないのだ、口元がひくりと不本意な動きをするぐらい、仕方がないのだ。(大事なことなので三回言いました。)
「………ふむ…」
男は質問に答えることなく左手を胸の前で組み、右手を顎に添えて呟いた。
その動作のおかげで美術品のような気配が、酷く人間臭いものに変わる。
なんだかとても親近感が湧いてきた気さえする。それに何故かその仕草を何処かで見たような…?
「初めまして、と言うべきか…あまりそんな気はしないのだが…」
そんなことを呟きながら男は少し首を傾げる。
やはりその仕草にも見覚えがあった。
「まあ、そうだな。初めまして、だな、うん」
いつ一体どこで見たのだったかと考えていれば、ブツブツと呟いていた男の方は何か自己完結したらしく…、
「初めまして、御前にお目通りが叶い大変嬉しく思う、我が親愛なる母上よ」
…と、まあとんでもない爆弾を投下してくれた。
ちなみに無意識に足が半歩後ろに下がったのには目を瞑っていただけると大変嬉しく思う。
そしてあえてこの場でもう一度言っておこう。来栖凛24歳、独身であると…。曲がり間違ってもこんな大きな、ともすれば歳上であろう男を息子に持った覚えはない。
「(これはアレだ、ほら、お知り合いになってはいけない人だ)………すみませんが私行くところがあるので…」
目を合わさないように言ってくるりと背を向ける。
取るべき行動は戦略的撤退だ。
しかし男がクツクツと笑いながら放った言葉に凛の足はその場に縫い付けられた。
「…やはり神楽の言った通りだ」
神楽、とその名を聞いただけで心臓が大きく跳ねる。
「………ど…して、その名前、を…?」
声が、震える。
もう2ヶ月は過ぎている。
だから大丈夫だと思っていた。
でも、声は震える。
ならば、きっとそういうことなのだ。
「どう、して、死んだ神楽の名前を…」
進まない…