妖精ってなにやっても可愛く見えます
進まない…進まないったら進まない…。
「…ごちそうさまでした」
家に帰ってから食べようとコンビニで買ったパンとおにぎりを平らげて静かに手を合わせた。
苔むした倒木にパンが入っていた買い物袋を敷いて食事をしていたわけだが…、
「………なんでまだそこにいるかな、君は…?」
例のファンタジーな生き物は、未だに凛の周りでふよふよと漂っていた。
放っておけば勝手にどこかへ行くものだとばかり思っていたのだが、一向にそんな気配は見せずに近付いては離れ、時たま凛に触れては首を傾げ…を繰り返している。
用事かあるのか、興味があるのか…と考えていれば、妖精は申し訳なさそうというか、伺うような表情で手を合わせると凛の艶のある黒髪を一本その手に取った。
「…うん?」
と、凛が首を捻るより早く、妖精はその髪を勢いよく引っこ抜いた。
「った!な、なに?」
大して痛くはないが、条件反射というか思わず小さく声を漏らして、髪が抜けたであろう場所を押さえる。
妖精は何やら焦った様子でペコペコと頭を下げて謝っているようであったが、言葉が違うのか話せないのか何を言っているのかはさっぱりだった。
「あー、怒ってないよ、びっくりしただけだから…」
大丈夫、大丈夫と軽く手を振ると妖精はもう一度だけ頭を下げると、手に持っていた髪を両手で目の高さまで持ち上げ、静かに目を閉じる。
何が始まるのかと眺めていれば、妖精と髪が淡い金の光を放って発光し始めた。
すると、え…?と思う間もなく髪の毛がパチンと音を立てて光と共に消えてしまう。
ちょっぴり嫌な予感がしないでもない…。
当の妖精は随分可愛らしいドヤ顔をしつつ、エッヘン、とばかりに胸を張っていたが、何をしたのかわからない凛にはその凄さがイマイチよくわからなかった。
「で?何したの?」
尋ねてみれば妖精が身振り手振り説明してくれているようではあるものの、相変わらず妖精の言いたいことは全然伝わらない。
しばらく待ってみたが、特別何かが起こった様子もない=特に害はない、と判断してとりあえず忘れてしまうことにした。