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実は世界中に埋まってるんです

ほんと進まない…。

 






 大きな身体をしょんぼりさせながらチマチマと書類にサインし続ける大男を目の前に、ドアのなくなった寒々しい部屋の中で凛はようやく本日の目的を達成しようとしていた。


「ほら支部長、手を止めないでください」

「シリウス、お前ちったぁ手伝ってくれてもいいじゃねぇかよ…」


 シルヴィオとレオンハルトを締め上げていた勢いはどこへいったのか、冒険者ギルド・コルテアル支部長のガルフ・ノーグは後頭部に大きな瘤をつくりながら、ギルド職員のシリウス・マーキスに仕事を催促されている。


 部屋に乱入してきたときは獰猛な熊のようだったが、今の様子を見ていると飼い主に悪さが見つかって怒られている犬のようにしか見えない。


 先程シリウスが謝罪と共にガルフ乱入までの経緯を説明してくれた。


 別のギルド職員から凛たちが部屋を使っている、という業務報告を受けたガルフがどう誤解したのか「小さな子供を部屋に連れ込むなんざっ!!」とか言いながら突撃をかましたのを見て、これはヤバイ、とストッパーのシリウスに「首根っこひっ捕まえて来て」指令が出たのだそうだ。


 「シリウス!支部長が!」の一言で瞬時に色々察した飼育員(シリウス)がガルフに処理してもらう予定だった書類と共にすっ飛んできて、どさくさ紛れにその書類で後頭部をフルスイングした。というのが事のあらましだ。もの凄く大きく振りかぶっていた。


 ついさっき外で見た光景を思い出してしまったのは凛だけの秘密である。


「…シリウスさん、書き上がりました」


 凛はそう言いながら羽ペンを台に戻すと、書き上がったギルド登録用紙をシリウスに差し出す。


 先程の騒動の後、このままギルド登録を、ということになったのでシルヴィオとレオンハルトの両名は既に部屋を辞していた。


「はい、お預かりしますね。……では特に問題ないようなので識別登録に移りますね」


 シリウスは用紙に目を通すと一つ頷いて懐から掌サイズの丸い形の魔道具を取り出す。

 透明なガラス玉の周りに金属質の輪っかが取り付けられている魔道具で、例えるなら台座のない地球儀のような形をしていた。


「これは個々の魔力を識別して記録する魔道具で、技能(スキル)の開示や能力値(ステータス)を数値化して見ることができます。過去に登録された犯罪歴なんかも出る優れものですよ」


 …あ、これヤバイやつだわ。


 ひくっと頬が引き攣るのが分かった。

 「名もなき騎士」のプレイデータがベースになっている今の凛の肉体ではどんな数値が出るのか…考えただけでも面倒事の臭いしかしない。


「この登録用紙を魔道具で読み込んで…」


 そして待ったなしのハードモード。色々と手馴れている。


「…はい、では魔道具に触れてみてください」

「はい…」


 まさかこのタイミングで小細工する隙があるはずもなく、凛は腹を括って魔道具に手を伸ばす。ちょっぴり胃が痛くなってきた。


 そっと触れてみると魔道具に触れている部分から何かが吸い取られるような感覚がある。おそらくこれが魔力なのだろう。


「………おや?…変ですね…」


 なんですか、そんなに変な数値ですか。


「リン・クルスさんですよね?」

「はい?」


 改めて名前を確認されて、二人そろって首を傾げる。


「過去にギルド登録を済ませてらっしゃいませんか?」

「はい?」


 そんな馬鹿な。


「貴方の魔力データが既に魔道具に記録されているようなんですが…」

「…はい?」


 そんなバナナ。

 …こほん、そんな馬鹿な。


「いえ、心当たりは―――」


 あった。


「もしかして…登録名って「リンデル・フォン・クルセイド」になってたりしませんか…?」

「そうです。心当たりがありそうですね?」


 はい、それはもうたっぷりと…。


 外れてくれと祈りながら聞いてみれば、YESで返されて思わず天を仰いだ。


「ああぁぁぁぁぁ…」


 黒歴史だ。まごうことなき黒歴史だ。やっぱり神楽は正座させる。


 リンデル・フォン・クルセイド。

 それは『名もなき騎士』における『黒衣の大賢者(来栖凛)』の本名(プレイヤーネーム)である。


 まさかまたこんなところで中二病丸出しの歴史を掘り起こされるとは思ってもいなかった。


 唯一の救いといえば、以前黒衣の大賢者について話してくれたシルヴィオや、『リンデル・フォン・クルセイド』の名に過度な反応を示していないシリウスを見る限り、黒衣の大賢者=リンデル・フォン・クルセイドの事実がこの時代まで伝わっていないということか。


「…その反応からすると、()()()のようですね」

「リンデル・クルセイドって言やぁ何百年か前の聖国の英雄じゃねぇか!まだ生きてるたぁ流石は神族の血統ってか!」


 シリウスが感心したように溜め息を吐き出す横で、リンデルの名に反応したガルフが驚きの声を上げる。


 はぁー、とかほぉー、とか言いながらガルフがフードの中を覗こうと頑張っているが、シリウスにもう一度書類を振りかぶられていた。


 スパンッと小気味いい音が響いてから腹を括った凛が口を開く。


「えぇーと、その…諸事情で眠りについてまして…まさか登録が残っているとは思ってなくてですね…」

「眠りに…なるほど。神族などの血を引く方には『休眠期』があると聞いたことがあります。流石にこれほど長く眠られていた前例は聞いたことがありませんが…」

「あぁ、精霊とか高位魔族なんかにそんな習性があったな」


 神族とか休眠期とか気になる言葉が出てきたが、今聞き返すとボロがでそうなので後でコッソリ調べよう。


「そうなると…えっと、リンさん?リンデルさん?」

「リンでお願いします!」

「わかりました。ではリンさん、貴方の登録は既にされているので、登録情報の更新とギルドカードの再発行ということになりますがよろしいですか?」


 どうやら新規登録はできないらしい。

 まあ、ギルドに所属できるのであれば特に問題はない…だろう。


「その、登録名をリン・クルスにすることは可能ですか?目立ちたくないので…」

「はい、問題ありませんよ。魔力の識別はされているのでどのような名前でも同じですからね。冒険者の中には偽名の方も多いんですよ」


 少し失礼しますね、と言ってシリウスは登録用の魔道具を持って部屋を中座していった。

 どうやらようやく登録できそうである。


「まさかこんなところで英雄様に遇えるとはなぁ…。確かに死んだっつぅ話は聞いたことなかったなぁ」

「そう…だったんですね?」


 しみじみと話をしながらもガルフの仕事の手が止まらないのは、シリウスの躾の賜物だろうか。

 凛も始終大人しいアルヴィスを撫でながら話に応じた。


「まあ、何にしたって今起きてくるってのは神の思し召しってやつかねぇ…」

「はい?」

「いやぁ、最近どうにも魔物の動きが活発でよぉ…。ほれ、お前さんも風豹(エアロパンサー)依頼(クエスト)に関わったんだろ?あれもこの時期、コルテアルじゃぁ強ぇ魔物に出くわすことはそうそうねぇんだよ」


 風豹(エアロパンサー)と言われて牛っぽい魔物まで思い出してしまった。あれはちょっとトラウマだ。


 思わずアルヴィスを抱く手に力が入ってしまった。

 それを察してか、アルヴィスが頭を擦り寄せて来てくれるのが嬉しい。


「もしかしたら魔族領の方でなんかあったんじゃねぇかって話もあるぐらいだしな」


 ま、確かめる術はねぇがな、とガルフは話を締め括った。



















お願いキミたち勝手に話の中を動き回らないで…。

プロットがどんどん一人歩きしていく…。

手綱どこ行ったっ!!

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