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バレるのが早過ぎるんです

お待たせ致しました。

 



 凛はグルグルと喉を鳴らして二人を牽制しているアルヴィスの影に隠れるようにして身を寄せた。


 サッと周囲の野次馬に目を走らせると、アルヴィスの急な出現に驚いてはいるが、凜の『色』については話題に上っていないように見受けられる。


 割りと体格の良い二人に至近距離で挟まれていた為か、少し離れていた通行人には目撃されなかったようだった。


 しかし、シルヴィオとレオンハルトの二人には間違いなく見られた。特に真正面に立っていたシルヴィオには瞳の色まで。一瞬とはいえバッチリ目が合ったので間違いない。


 脳裏に逃走の2文字が浮かぶ。だがある程度人と成りを知っているシルヴィオはともかく、レオンハルトの方には口止めをしておかなければ後々面倒なことになりかねない。


 何も悪いことをしたわけではないのに、指名手配犯のような隠遁生活は御免被る。


 ではどうするか…。


 アルヴィスの存在もあるが、どうやら向こうもこちらの出方を伺っているようだ。ならば、


「(交渉の余地はある…)どうして付け回すの?」


 その言葉に反応したのはシルヴィオだった。

 背後のレオンハルトに剣呑な目付きで睨みを利かす。

 久しぶりに初対面の時以来の殺気を飛ばされたレオンハルトは僅かにたじろいだ。


「貴様…何をしている…」

「いや、ほら、面白そうなやつだったもんで…つい…」

「つい、だと…?そんな理由で貴様はッ」


 レオンハルトの返答がお気に召さなかったシルヴィオが、胸倉を掴み出しそうな勢いでレオンハルトを壁際へ追いやっていく。


 そのまま説教モードに突入したシルヴィオ達の様子を窺いながら、凛はチャンスとばかりに急速に魔力を集中して練り上げていった。


 魔法はイメージだ。

 過程から結果を想像すればより強力な魔法を発動できる。

 もう少しじっくり考えてから使いたかったが、こうなってしまえば四の五の言っていられない。


「(出来るだけ黒に見間違えるぐらいの濃さで…)」


 魔力特有のふわっとした温かさが通り過ぎたのを確認して、フードの中の一総(ひとふさ)を取り出してみる。


 軽く光に翳してみると深い勝色(かついろ)に仕上がっていた。


 さすがに瞳の色は自分で確認できなかったのでアルヴィスに見てもらう。非常に残念そうな顔をされたが、きちんと仕上がっているようで一安心だ。


 一段落したところでシルヴィオ達を見てみると説教はまだ終わらないらしい。


 よくよく聞いてみると普段の生活についてまで説教が及んでいるようだった。かなり鬱憤が堪っていたようである。


「あの…」


 まだ続きそうな気配がしたので凛が面倒臭そうに声を掛けると、シルヴィオが我に返って振り返った。

 その奥でレオンハルトが助かった、と呟いていたのはまあ見なかったことにする。


「す、すまないクルス…それで、その…」

「おい、坊主!それ本物か?」


 何やら聞き辛そうにまごまごしているシルヴィオを押しのけるようにして、レオンハルトが凛の方へ身を乗り出してくる。


 新しいおもちゃを見つけた子供のように目を輝かせているのは…やはり見なかったことにした。


 ずいずい近付いてくるレオンハルトをアルヴィスが喉を鳴らして威嚇するが、そんなアルヴィスをものともせずにレオンハルトは凛に近づいてくる。


 後ろでシルヴィオが引き留めようとしているようだが全く効果がない。


 そうこうしている間に周りに野次馬が集まって来ていた。


 漏れ聞こえる声から察するにアルヴィスが目立っているようだ。

 まあ乗用車サイズの狼がいれば目立つの仕方がない。


 差し当たっては…


「…シルヴィオさん、話がしたいので余り人目につかない場所をご存じありませんか?」


 アルヴィスを宥めるように撫でながらシルヴィオに声を掛けると、神妙な顔でレオンハルトの後頭部をぶん殴ってくれた。


 強めのグーで振りかぶっていたのでかなりの衝撃だっただろう。殴られたレオンハルトはさすがに頭を抱えて悶絶している。


「馬鹿がすまない…。ギルドの個室が借りられるからそこで構わないだろうか?」

「わかりました、お願いします」







 **********************************










 短気だ、暴力反対だとなんだかんだ五月蠅いレオンハルトを引き摺り、いくつかあるギルドの応接室を借りて凛達四名はソファの上で向かい合っていた。


 部屋に入って右側にシルヴィオとレオンハルト。左側に凛と獣型のまま小型化して凛の腕の中に納まっているアルヴィス。まだグルグルと喉を唸らしているのはご愛嬌だ。


 応接室は防音の魔法が張られているらしいが、念のためコッソリ結界を重ね掛けしておいた。


「…とりあえず初めまして…?来栖凛です。お名前をお伺いしていいですか?」

「おう!レオンハルト・ルドガーってんだ!Aランクで『金獅子』なんて呼ばれることもあるな!」


 快闊、と言うべきか。

 ちょっとガラが悪そうだが、悪い人ではない…と思われる。

 何というか…小学生みたいな人だ、というのが凛の正直な感想だ。


「それで…どうして付けてきてたんですか?」

「ん?ああ、なぁんか視線感じるなぁーと思ってたら上手ぁいこと『隠れて』るヤツがいるからよぉ…面白そうだなぁって!」


 前言撤回。小学生というより野生動物だ。それもスキルに『野生の勘』とか『直感』とか持ってるタイプの人。


 ついでに隣で頭を抱えているシルヴィオを見るに、普段から好奇心で周りの人を巻き込んで騒動を起こしているトラブルメーカーと見た。


 まあ、トラブルメーカーだろうが何だろうが今のところ重要なのはそこではない。


 凛にとって優先すべきはどこまで信用できるか、の一点に限られる。


「…あまり目立ちたくないので普段から認識阻害効果のあるコレを着用してます。貴方が興味を引いたのはコレですか…」


 ちょい、と夜の帳の裾を持ち上げて見せると二人とも納得顔をしていた。


「貴族様御用達のアレだな!それもあるが…俺が今一番気になってるのはそれじゃねぇ。さっきの色、もう一回見せてくれよ」

「色…」


 これはまたドストレートに聞いてきたものだ。


 単なる好奇心で裏はないようだが…仕方あるまい。


 凛は本当に仕方なさそうに一つ大きく息を吐き出してからフードに手を掛けた。


「ほぅ、見事なもんだなぁ…」


 嘆息したレオンハルトの隣でシルヴィオが大きく目を開いているのが見る。


 下からアルヴィスが凛を窺っているのだが、やはり納得できないのか伏せられた三角お耳がその心情を顕著に物語っていた。


 それもそのはず…。


「にしても綺麗な顔してんな、()()


 先程『色』を変えた際にもう一つ保険をかけておいた。


 シルヴィオには以前、暗がりとはいえ少し顔を見られているので劇的な変化をつけられなかったが、元の顔をベースにやや男寄りの中性的な顔に見えるように幻術を施してある。


 気になるのは今着ている「水精霊(ウンディーネ)の寵愛」がワンピースな点だが、夜の帳を羽織っていると全体像が見えないのでローブのように誤認してもらえていることだろう。


 何よりこの顔を見た後では=女の考えには辿り着きにくいと踏んでいた。


 先程少し街を歩いていた間にも見かけた女性は片手で数えられるほどだったからだ。


「コレだから私は目立ちたくないんです。まさかいきなり『看破』されるなんて思ってもみませんでしたよ」


 本当に予定外だ。

 何もなければ今頃ギルド登録を済ませていただろうに…。


 凛の心情を察して不機嫌そうに喉を鳴らすアルヴィスを撫でながら、もう一度大きく溜め息を吐いておいた。


 そんな凛を見て二人が「苦労してんだな」的な視線をよこしてくるので甘んじて受け入れておく。


「なのでお二人とも出来れば口外しないでもらえませんか?」


 意識的に困った顔をつくり、二人に目を向ける。

 これに応じてもらえないならば強硬手段も辞さない。


「もちろんだとも」

「まあギルド(ここ)じゃあワケアリなんてのは山ほどいるからな。心配しなくても個人の事情(そういうこと)を言いふらすようなのは爪弾きにされるんだ」


 と、概ね大丈夫そうな返事をもらってとりあえずは大丈夫そうか、と納得しておいた。


「ありがとうございます。それでは私は―――」


 これで、と退室しようとしたところで廊下の方から騒がしい声が聞こえ始めた。

 声だけでなくドタバタと大きな足音まで響いてくる。


『主様、気配が―――』


 とアルヴィスの警告より早く扉が…吹っ飛んだ。


 バァーンッ!!!と土煙と共に応接セットのテーブルの上を、真っ二つに割れた扉が通り過ぎてそのまま奥の壁に叩き付けられていた。


「子供連れ込んで何やっとるかぁーーーーッ!!!」


 怒鳴り声と共に筋肉隆々の巨漢の男が突っ込んできて、シルヴィオとレオンハルトの胸倉を掴んで持ち上げてがくがくと揺さぶっている。


 正に目にも止まらぬスピード。


 だが、始まるのが早ければ収束も早かった。


 叫びながら扉を破壊して二人を締め上げるまで、瞬き一つの間にやってのけた大男の頭にスッパアァーン!と紙束が振り下ろされる。


「だから人の話聞けっていってんでしょぉがぁーーー!!!!」


 ああ、今日はもう登録無理かなぁ…。














何故か予定にない行動を取るキャラクター達…。

あんたら出る予定なかったんだよ…?

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