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こんな予定じゃなかったんです







「・・・此処か」


 ガヤガヤと往来の激しい大通りにある、一際大きな建物を見上げて凛はポツリと呟いた。石造りのちょっぴり無骨な三階建ての建物の入り口横には、ギルドシンボルである鷹と剣の紋章旗が掲げられている。


 あの後、色々と空気を読んだ凛はこれ以上アルヴィスを刺激しないようにと、彼からの情報収集を見送って先に冒険者組合(ギルド)登録を済ませることにしたのだ。


 サクッと身支度を整えてから休んでいた宿の主人に礼を言って、ついでにギルドまでの道を尋ねると簡単な地図まで書いて丁寧に教えてくれた。それを頼りにのんびりと歩いてギルド支部コルテアルまでやってきたということである。


 厳つい男たちが出入りしているのを見ていると今になって少し緊張してきたが、意を決して建物の中に足を踏み入れる。


 中に入ると街の喧騒に負けない賑やかな声が聞こえてきた。


 入ってすぐ、正面奥には様々な紙を貼り付けた大きなボードが掲げられている。


 その右側には何人か揃いの制服を着た人がいる受付(カウンター)が3つ。


「(あそこが窓口かな・・・)」


 ともかく先に登録をしてしまおうと凛が受付に足を進めようとしたところで、元々色んな声で溢れかえっていたギルドに一層大きな歓声のような声が響いたので思わず立ち止まってそちらに目を向ける。


 ギルド一階の左側、机や椅子が並べられた区画からだ。


 少し距離があるものの、その大きな歓声は問題なくそれは聞き取れた。


「おいおい、またレオンハルトの一人勝ちじゃねぇかよ!」

「ばぁーかっ!『金獅子』相手に勝てるわけねぇだろう!」


 何やら勝負事で誰かが一人勝ちしてるらしい。


 なんとなく気になった凛は、盛り上がっているテーブルの人垣に近付いてそっと顔を覗かせてみた。


 夜の帳のおかげで割りと怪しい格好にも関わらず、近付いても注目を浴びることはない。


 屈強な男達の隙間から人垣の中心を見てみると、一際鮮やかな黄金色が目に飛び込んできた。


 シルヴィオのプラチナブロンドも目を引くが、黄金を溶かし込んだ様な色には見る者を惹きつける華やかさがあった。


「キレイ…」


 ほぅ、と溜め息を吐くように思わず口から素直な感想が溢れた。

 特に燃えるように揺らめく真紅の瞳が…。


「(瞳…?)っ!」


 ちょっぴりぼんやりしていた頭が冴えて、咄嗟に踵を返した。


 僅かな間ではあったが、確かにバッチリと目が合っていたのだ。


 人垣の間からだったので瞳の色までは分かりづらかっただろうが、凛を()()()()()事にこそ問題がある。


 凛は今夜の帳を被っているのだ。目が合ったとは即ち夜の帳の認識阻害効果を打ち破ったことになる。


 レベルが高いのか、そういった効果を看破するスキル持ちなのかは分からないが、コレは良くない、と凜の勘が訴え掛けてくる。


 とりあえず一度離れようと、凛はギルドの外に飛び出した。


 素早く左右を確認して、人の気配が少なそうな路地へと飛び込む。


 丁度、路地奥に大きめの木箱が置いてあったので、入ってきた方から見えないように木箱の側面に身を隠した。


「(ビックリしたぁ…シルヴィオさんがコルテアルの冒険者にはあんまりランク高い人はいないって言ってたから…)」


 つまりは完全に油断していた。


 夜の帳は使用者と対象者のレベル差、それと使用者の魔力値、対象者の抗魔値によって若干効果に差が出てくる。


「(そういえばステータスとかって見れたりしないのかな…?)」


 すっかり失念していたが、ギルドに登録する前に確認しておくべきだったかもしれない。


「(ありがちだけど…『自己解析(ステータス)』)…っ!?」


 流石に厨二病(若かりし頃の病)は完治しているため口に出すのが恥ずかしかったので、一か八かで心で呟くに留めたが、問題なく発動したようで助かった。


 ただ少し思っていたのとは違って、半透明のウィンドウが目の前に現れることはなく、アイテムボックスの時のように脳に様々な情報が流れ込んできた。


 ともあれ成功はしているのだから、脳裏の情報に集中するべく凛はそっと目を伏せる。



 名前:リン・クルス

 年齢:16歳?

 種族:???


 Lv:961

 HP:680/710

 MP:88956/88956

 ATK:165

 INT:999

 DEF:255

 RES:999


 スキル:属性魔法(Max)精霊魔法(Max)回復魔法(Max)状態異常無効(Max)調合(Max)テイマー(Max)

 称号:神の器・黒衣の大賢者・混沌を征する者の主・アーティファクトコレクター・古の都の主・魔の境地に至る者

 加護:創造神の加護・管理者の加護・精霊王の加護



「(…なんか、すっごい偏りが…)」


 どこからツッコむべきか悩みどころではあるが、魔法関係と物理的な戦闘力との差が激し過ぎる気がする。


 特にMPが5桁に対してHPが3桁だけというのは如何なものか…。


 確かに凛は『黒衣の大賢者』としてキャスター寄りのステータス組みをしていたが、ここまで偏ってはいなかった。


 前衛職のジョブを選択していたこともあったのだから、もう少しその辺を考慮してほしいと思うのは我儘だろうか?


 レベルも961と中途半端な数字で止まっているのも気になる。まるでレベルアップの余地があるような数字だ。


 あと気になるのが称号・年齢・種族である。


「(年齢16って…なんか中途半端に若返ってるし…いや、それより横の『?』が気になって仕方ない…なに?年齢詐称を示唆されてるわけ?)」


 今まで自分の年齢を気にしたことはなかったが、こういう表示をされてしまうと何故だか気になってくる。


「(あと…この種族『?』って…。器を用意するって言ってたけど、人間(ヒューマン)じゃないのかな?)」


 宿から離れるとき姿見を覗いてきたが、外見的特徴に違和感は持たなかった。


 今考えると24歳の自分より若かったような気はしたが、それ以外の見た目の変化は特になかったように思う。


「(称号も…ゲームで持ってたヤツもあるけど…知らないのがいくつかあるなぁ…『神の器』と『混沌を征する者の主』それと『古の都の主』は初めて見るなぁ)」


 神の器は神楽関連だろうと当たりをつけてみたが、後の2つに心当たりがない。


「(主と言えば………。っ?)」


 ふと思い付いたところで目の前に影が指した。僅かながら人の気配も感じて凛はそっと目を開く。


 そろっと視線を上げると金の美大夫の目が合って、思わずビクッと肩を震わせる。


「みぃーつけた」

「っ!!」


 口から飛び出そうになった心臓と悲鳴を一緒くたに呑み込んで、凛は考えるよりも早く骨髄反射に従って脱兎の如く走り出した。




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