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相対、です

ずいぶんご無沙汰しております。

遅筆で申し訳ありません。

 ぞわり、ぞわぞわと何かが身体中を這い回る感覚がする。全身が粟立ち、吐き気が込み上げてきそうなほどの嫌悪感が止まらない。そんな気持ちに押し潰されそうになって、凛は無意識に両手で口元を覆った。


「クルス、大丈夫かっ」


 先程と比べて明らかに顔色を悪くした凛を心配しつつも、こちらに近付いてくるモノの気配を感じているのか、シルヴィオはフェンリルに手を掛けながら前方に構えを取りつつ、チラチラと凛の様子を窺っているようだった。


 常の凛であればそんなシルヴィオに何か言葉を返すのであろうが、当人は生まれて初めて体験する言い様のない感覚を昇華するので精一杯なようで、口から溢れ出て来そうなナニかを抑え込む様に瞬き一つすることなく、青褪めた顔で得体の知れないモノのする方へ視線を投げていた。


「(なにっ、コレっ?なんなのっ!?何でこんなっ…)シル、ヴィオ…さんっ!ダメっ!あれはっダメだよ!」


 無意識に危険を伝えようと凛の口から言葉が飛び出すも、口を開いた本人ですら何が言いたいのかいまいち理解出来ない言葉を漏らすに留まってしまう。


 それでも何か必死な様子の凛に感化されたのか、シルヴィオは自分の中の警鐘を鳴らすナニカに対する危険度を一気に引き上げ、揺れていた意識を視線と共に前方に集中させた。


「だめっ!!」


 凛の悲鳴の様な叫びが早いか、禍々しい気配がとんでもないスピードでこちらに突っ込んで来た。どうやらアチラも凛たちの魔力の気配に気が付いて捕捉されたらしい。


 耳を塞ぎたくなるような轟音を響かせながら木々の間を突き抜けてきたのは、牡鹿の様な大きな角を持った牛だった。ただし、体長は一般的な(それ)よりも二周りは大きい。


 そんな巨体を持った牛がとてつもない速度でシルヴィオに向かって突進してきた。


「っ!」


 しかし単調な突進を避けられないシルヴィオではない。


 最小限、小さく左へ跳んで難なくそれを回避すると凛を後方に庇う立ち位置(ポジション)で油断なく牛に向き直った。


「クルス!こいつは上位種(Bランク以上)だ!逃げろ!!」


 普段の装備でいたならシルヴィオ一人でも何とか立ち回れないこともないが、装備不十分な上に明らかに戦闘慣れしていない凛を庇いながらでは少々…否、かなり部が悪い相手だ。


 しかも伝わってくる魔力の高さから魔獣化ーー魔物が強い魔力にあてられると危険度(ランク)が跳ね上がることがあるーーしているのは間違いない。そうすると益々部が悪い。


 自分が囮に…となんとか凛を逃がそうと考えるシルヴィオだが、相手がそれを許すはずもなく、幾度となくシルヴィオに向かって突進を繰り返す。


「くっ!」


 突っ込んで行っても器用に受け流されることに焦れたのか、牛モドキ(魔獣)は目標を切り替えて混乱の最中にいる凛に向かって走り出した。


「クルスッ!」


 シルヴィオが直ぐさま助けに入ろうとするが、魔獣の方が一足早く攻撃体勢に入る。


 震え、怯える凛を踏み潰そうと魔獣は前足を大きく振り上げた。


「逃げろ!クルス!!」


 完全に恐慌状態に陥った凛にシルヴィオの叫びが届くはずもなく、最悪の事態がシルヴィオの脳裏を駆け巡る。


「…ぁ、あ、いやっ、いやぁぁぁぁ!!」


 間に合わない、とシルヴィオが渋面を浮かべたとき、凛の悲鳴に呼応するようにそれは起こった。


 ーーーズドォンッ!!


「なっ、!?」


 雲一つない晴天にも関わらず、耳を塞ぎたくなるような轟音と共に魔獣のあの立派な角目掛けて雷が落ちたのだ。


 雷に撃たれた魔獣は大きな音を響かせてその巨体を横倒しにした。


「一体、何が…」


 一撃であの魔獣の巨体を黒焦げにするほどの威力を持った魔法など、使い手は限られる。それこそ二つ名(Aランク以上)冒険者(ギルド員)か、上級宮廷魔導師…あとは…ーーー。


「雷の…上級精霊…?」


 魔獣の倒れた先、ショックで意識のない様子の凛を後ろから抱き抱える様にして、丸焦げの魔獣に剣呑な眼差しを向ける金髪の青年を見て、シルヴィオはぽつりと呟いた。




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