よくないモノ、です
大変お久しぶりでございます。
少し短めですがご容赦くださいませ。
「多分この辺りだと思うんですが…」
翌日。
凛、シルヴィオの両名は洞窟から2㎞ほど東に離れた地点へ来ていた。
シルヴィオから聞いた話によると洞窟を中心として、南西700mに凛が歩いていたコルテアルへの街道付近、シルヴィオが倒れていた地点が北東1.2㎞、シルヴィオが風豹たちと殺り合ったのが、そこから更に東南東へ2㎞ほど行った岩場と森が入り混ざった地点だそうだ。
何故こうも詳しく位置情報を確認できたかというと、シルヴィオが持っていた補助系の魔法が書き込まれた魔道具、地図の魔道具があったからである。
冒険者や兵士、商人など街から街を移動する事が多く、補助の魔法適正がない人たちに広く愛用されているアクセサリー型の魔道具で、形状・性能は様々だ。
性能は魔法を書き込んだ術者によって異なり、世界地図的なものから地域地図のような細部まで鮮明に書き込まれたものも存在する。
現在シルヴィオが所有しているのは紫水晶を嵌め込んだバンクル型で、割りと高価な部類に入るものだそうだ。魔道具に所有者の魔力の質を覚え込ませて、現在位置と通過ルートを表示してくれる優れものである。
今二人は風豹の縄張りに踏み込んでいた。
洞窟の周囲と比べると随分木々が少なくなってきていて、森と言うよりは林に近いのかもしれない。ここからもう少し南へ下ると件の戦闘があった地点に出ることになる。
風豹は元来岩場に巣をつくって生活をする魔物だ。彼が遭遇したときはおそらく狩りに出ていたのだろう、というのがシルヴィオの見解である。
「シルヴィオさん、少し待ってください…」
凛は2、3歩先を歩いていたシルヴィオに静止を求め、自身もその足を止めた。
「クルス?」
シルヴィオが不思議そうに振り返るが、凛は構うことなく意識を集中させる。
「(ここから一番近い魔力反応は…)…あっちに多分2つ…他よりも少し大きな魔力反応があります」
そう言って凛は東の方を指差した。
シルヴィオはつられてそちらに顔を向けるものの、此処から距離があるせいか、本人が探知向きではないせいか、凛の言う魔力反応とやらは感じ取れない。
しかし、凛の術の精度を疑う気は最早微塵も持ち合わせていないシルヴィオ。一つ頷いて見せると、すぐそちらに歩を進めた。
そんなシルヴィオの様子に逆に戸惑いを覚える凛。
「…その、言った私が言うのもどうかと思いますけど、少し疑った方がいいんじゃ…?」
「これでも人を見る目は持っているつもりなんだが…?」
それともクルスは嘘を吐いたのか、と言われてしまえば首を横に振る他無い。
シルヴィオを先頭に魔力反応を辿りながら歩くと、しばらく進んだところでシルヴィオは立ち止まり、腰の獲物に手を掛けた。
凛もそれに倣って身構えると前方から近付いてくる魔力反応に意識を集中させる。
「(…あれ?この魔力反応…さっきより…)大きくなってる…?」
「どうした、クルス?」
凛の呟きを拾ってシルヴィオが振り返って尋ねるも、凛は反応を探ることに集中していてそれに気が付いていないようだった。
「(それにさっきは重なって判り難かったけど、これは…)シルヴィオさん、前方の魔力反応が一つに…それに大きくなってます!」
「なんだって?」
シルヴィオは眉間に皺を寄せて進行方向に向き直り、ゆっくりとフェンリルを鞘から抜き払う。
ぞわり、ぞわぞわと凛の背が静かに粟立った。
とてもよくないモノがこちらに向かって来ている。きっとそれはとても…とてもオソロシイモノ……。
感想等ございましたらお願いいたします。




