秘技『笑って誤魔化せ』です
お久し振り…です。
暑い…溶ける…。
凛はこの時ほどフードで顔を隠しててよかったと思ったことはない。
頬の筋肉が微妙な動きを見せているのは気のせいだと思いたかった。
「(神楽の馬鹿!!『世界を創った』ってゲームの設定を使ったんじゃなくて、なんで私の行動をそのまま使ってるのさ!?)」
新たなとんでも設定と自分の黒歴史に相当する情報をシルヴィオから聞かされて、何処か人の居ないところに引き隠りたい凛。
こんなことを聞いてしまうと他にも色々恥ずかしいことがこの世界に転がりまくってるのではないかと疑いたくなる。
と、まあ凛は現在預かり知らぬことではあるが、事実、世界各地に凛のプレイ記録がゴロゴロしているのは間違いない。
それを発見する度にじたばたゴロゴロと地獄の坂を転がりたい気になるのだが、幸いと言うべきか凛はその事実をまだ知らなかった。
「い、いえ、そん…な、ちょっと魔法が得意なだけですから…『黒衣の大賢者』みたいだなんて…あは、は…」
日本人のお家芸、秘技『笑って誤魔化せ』を発動するも、微妙な空気になってしまった。誰か、空気清浄機!!
「(い、言えない!それ、多分私のことです、とか絶対言えない!)」
凛の為に創った、と言うだけあって『名もなき騎士』は実に凛好みのゲームに仕上がっていた。
それ故に凛は『名もなき騎士』にド嵌まりし、プレイ初期はテンションが上がり過ぎて、調子に乗りまくったせいでトップランカーに君臨していた時期もあった、という今に至っては黒歴史極まりない事実も存在する。
勿論、凛一人ならそこまで調子に乗ることはなかっただろうが、何て言ったって『名もなき騎士』を創った神楽という名の最強の協力者がいたのだから、それはもう…酷かった。
まあ、こんなところで凛の黒歴史を語れば三日三晩かかってしまうので割愛させていただくが、ともかくその頃の凛の伝説級黒歴史が後世にまで語り継がれていた。…主に神楽のせいで。
「ああ、さすがに俺も千年前の人物が未だに生きているとは思ってない。だが、クルスならすぐにでも二つ名持ちになれそうだな、と…」
「あの、ありがとうございます。そうなれるように頑張りますね」
苦笑い連発でなんとかその場を凌いだ凛は、神楽に会うことが出来たら必ずや二時間の正座の後、たっぷりと説教してやろうと心に決めた。
「それで、えっと?護衛の件なんですが…私としては有難い申し出ですけど、依頼はどうされるんですか?まだ達成されてないんですよね?」
「ああ、それは気にしないでくれ。恥ずかしい話、装備が不十分だから一度コルテアルまで戻らないと…。幸い達成期限まで三日はある。ここからなら一日程でコルテアルに着くから、そのままここまで戻って来れば依頼は問題ない」
シルヴィオにそう言われて凛はふむ、と左手を口元に添えて考える様子を見せた。…そしてややあって口を開く。
「シルヴィオさんの獲物は何をお使いですか?」
「?…普段は長刀だが…?」
シルヴィオが困惑気味に答えると、凛はボックスの中に手を突っ込んだ。
「ロングソード…あ、すみません、片刃ですか?両刃ですか?」
「片刃、だが…」
益々わからない、といった様子でシルヴィオは凛の突然の行動を眺める。
しかしそんなことはお構いなしで、凛は「じゃあ日本刀かなぁー」なんて言ってボックスの中を漁っている。
「あ、因みに得意な魔法属性は?」
「水と氷だ」
日本刀・魔法剣・水系、とボックスで検索すると該当は二件。
片方は古代魔道具なので問答無用で除外。こんなもの取り出せば間違いなく質問攻めにされて、下手をすればお縄を頂戴してしまいそうだ。
そうなると必然的に選択肢は一つだけ。
こちらもレアリティとしてはギリギリの代物だが、他に該当するものがないのだから仕方がない。
凛はボックスの中から白い鞘に収まった少し長い日本刀を取り出した。
「氷の属性魔法剣で、名をフェンリルといいます。…扱えますか?」
「俺が普段使っているものとほとんど変わらないから大丈夫だ。しかしそれはクルスの…」
すい、と差し出されたフェンリルを一目見て余程の業物だと見抜いたのだろう。シルヴィオは戸惑った様子で受け取ろうとしない。
「護衛していただけるとのことですので、それに対する支援だとでも思ってください。受け取ってください」
確かにかなり良いモノだが、貸し渋りするようなものでもないし、護衛すると言うなら必要だろう。
それに…。
「風豹を相手取るには必要でしょう?」
「風豹?」
何を言っているのかさっぱり理解できません、とシルヴィオの眉間に皺が刻まれる。
そんな様子を見て凛はあれ?と首を傾げた。
「私は別に急いでいるわけではないので、討伐してからコルテアルに向かった方が色々と効率がいいと思うのですが…」
「いや、これは俺が受けた依頼だからクルスを巻き込むわけには…」
まさかそう来るとは思ってなかったのか、シルヴィオはたじだじとした様子で返してくるが、凛は譲らない。
「ギブアンドテイク、ってやつです。乗り掛かった船ですので、途中下船しろなんて言わないでくださいね」
そう言って駄目押し、とばかりに笑顔でごり押しも追加。
フードのせいで表情はわからないだろうけど、雰囲気で押されたシルヴィオは大人しく頷いていた。
秘技『笑って誤魔化せ』だよ。
装備品一覧。
・日本刀 フェンリル(SSR)
長さ120cmを超える白い鞘、白い柄の長刀。
凛が集めた水・氷系モンスターの素材で打たれた刀。
主に使われているのは氷蜥蜴とブルードラゴンの鱗や骨、血など。
切り口から相手を凍らせたり、氷の斬撃を飛ばすことが可能。
因みにこの武器についての面白エピソードは存在しない。




