第八体目 学園からの使者
着いた……ここが如月市?
九条凪は、紫の瞳で辺りを見渡した。
おしゃれな所で綺麗な所、人に酔いそうだ。
「あ……」
凪の周りを歩く人々が、他とは違う自分の容姿を珍しそうに見ていることに気付いた。凪はそれだけで泣きそうになる。
全く知らない土地。今からここに住み、過ごすわけでもないのに、なんとも言いがたい不安を感じる。全く知らない世界に、一人放り出されたようだ。
今にも挫けてしまいそうだが、そうはいかない。今から彼の家を探さなければならない。それが目的でここへ来た。手がかりは、学園長先生が書いてくれた一枚のメモ。
【如月市の森の中にある家】手がかりはたったそれだけ。メモなど不要と思ってしまう程の頼りない情報だ。
凪はスーツケースを引きながら、地図が無いか探す。
「やった。ついてるっ」
地図は見つからなかったが、近くの花壇に妖精がいることに気付いた。
「ねぇ、森ってどこにある?」
凪にとって、知らない人に聞くより、妖精に聞く方が断然聞きやすかった。
妖精は小さな手で方角を指した。凪はフェアリーにお礼を言い、その方向へ歩き出した。
彼に会えるか分からない不安と、会える期待が混ざり、凪ぎの足は早さを増していく。
五月上旬。雲一つない青空の下。薄茶の髪を風に靡かせる少女、藍川咲楽は、裏口で洗濯物を干していた。
天気が良い。今日はよく洗濯物が乾きそうだ。
洗濯物を全て干し終えた咲楽は、空になった洗濯カゴを持ち、家の中へと戻った。
喉が乾いたので、作りおきのアイスティーを飲み、喉を潤す。
「俺も飲みたい」
陽向が本を一冊抱え、こちらに来た。
「その本何?」
見覚えがない本だ。少々古いように思える。図書館かどこかで借りてきたのだろうか。
「この本、父さんの書斎にあったんだ。内容はアラン派とセシル派について」
書斎の本棚には父が趣味で読む小説。仕事で読む、武器や幻獣に関する本など、色々な本がある。どんな本があるかは、まだ把握しきれていない。
たまに借りて読んでいるが、そんな本があるとは知らなかった。
「今読んでるんだけどさ、内容が海星から聞いたのと少し違うんだよな」
「どう違うの?」
「海星によると、セシル派と呼ばれるようになった理由は、セシルがヴェルダエル王国が侵略すべきフィーネ村の中核にいたから、だったよな? でも、この本を読む限りそんなことは書かれていない。この本によると、セシルがフィーネ村で一番優秀だったからって書かれてる」
「たんにその本にその事が書かれてなかったんじゃないの?」
本によって書かれている内容は異なる。
「かもな。または、この本に書かれていないことを海星は知っている……とか?」
「有り得るかもね。施設なら色々情報手に入るはずだし」
「施設か~。あんまよく知らねぇし、どんな所か知りたいな」
咲楽は、海星に看病してもらった日に聞いたことを思い出した。
「私ちょっと知ってるよ。海星から聞いたんだけど、キャンプがあるんだって」
「キャンプ?」
ピンポーン。
陽向がキャンプについて聞こうとした時、チャイムが鳴った。
誰だろう。珍しい。
訪ねてくるような親戚はいないし、今日は誰も招いていない。それに、家は森に隠れて見つけにくい。この森に家があることを知っていないと、まず見つけられないだろう。
咲楽は玄関に行き、ドアを開けた。
「着いた~。きっとここだ!」
凪は森を見つけ、石畳を辿り、緑がアクセントの白くて綺麗な家に辿り着いた。
ドキドキする気持ちを抑え、インターホンに手を伸ばすが、手が震えてなかなか押せない。
落ち着け、落ち着け、と自分に言い聞かせる。
深呼吸をし、もう一度インターホンに手を伸ばした。
「えいっ」
思いきって押す。インターホンを押しただけだというのに、さらに緊張が高ぶる。
ドアの向こうから物音が聞こえた。だんだんこちらへ来るのが分かる。そして、鍵が開く音がした。
「ああっ」
どうしよう。緊張してきた……!
ドアが開く。気持ちが早まり、中から彼が出てくる前に凪は大声で言った。
「海星君、お久しぶりです! あなたに会いに来ました!」
返事を待つが、全く反応がない。閉じていた目を開け、前を見ると、会いに来た彼ではなく、知らない少女がいた。
長い薄茶の髪。青い瞳。面識が一切ない。自分より歳は上だろう。美人だと思った。
誰かに似ている気もするが、気のせいだろうか。
「海星君、お久しぶりです! 貴方に会いに来ました!」
ドアを開けてすぐ、見知らぬ少女にいきなりそう言われた。
誰、この子……。それより今、海星って言った?
そう思っていると、少女と目があった。垂れ気味の目は、アメジストのような美しい紫の瞳。緩やかなウェーブを描くボブの髪の毛は翡翠色。顔の幼さから、歳は下だと判断した。
「あの……お尋ねしますが、ここは希崎さんのお宅でしょうか?」
やはり、海星に会いに来たらしい。
「ううん、ここじゃないよ。ほら」
咲楽は表札を指差した。表札には、AIKAWAと書いている。
それを見た少女は顔を赤らめ俯いた。
「姉ちゃん、誰が来……誰?」
陽向も玄関に来た。陽向も面識がないらしい。
「あっ、あたし……すいません。間違えました……」
少女は頭を下げる。少女は、ここを海星の家と勘違いしたようだ。森に家は二つあるし、家は隣なので間違えるのは仕方ない。
「海星に用があるの? 良かったら、家まで案内するよ?」
小さい森とは言え、家を探すのは大変だろう。
「海星君を知っているのですか!? できればお願いします!」
少女は目を煌めかせて喜んだ。先程まで困惑していたのが嘘のよう。
「海星んとこ行くの? 俺も行く」
咲楽と陽向は、少女を海星の家まで案内することにした。
「荷物貸しなよ」
海星の家までは森の中を歩いて行くため、少女の荷物は引いて歩くには難がある。あので、持ち上げて歩くしかない。陽向は、少女がその細腕で持ち歩くのは大変だろうと考えたのだろう。
「ん」
陽向が貸せと言わんばかりに手を出した。
「い、いえ。ありがとうございます。でも、大丈夫です」
「良いから、任せちゃいなよ」
「そうそう。海星ん家までちょっと歩くしさ」
「あ、ありがとうございますっ」
少女は、申し訳なさそうに陽向にスーツケースを預けた。
海星の家に着くまでの間、自己紹介をした。少女の名前は九条凪。中学三年生だ。
「凪ちゃんは、どうして海星に会いに来たの?」
可愛いし、彼女だったりしてね。
「渡したい物と伝えたいことがありまして……。お二人は海星君と仲が良いのですか?」
「俺達、幼馴染なんだ」
「そうなんですか!?」
「うん。と言っても、昔ちょっと遊んだくらいなんだけどね? 凪ちゃんは海星の友達?」
「友達と言いますか、何と言いますか……。家族のようなものです」
え……そこまで進展してるの? やっぱり彼女なんだ。
「彼女だったりすんのか?」
陽向も彼女なのか疑っていたらしい。すると、凪は顔を真っ赤にした。
「彼女!?? ちっ、違いますよっっ!!? あたしが海星君の彼女なんて……滅相もないです!」
凪は手をブンブンと振り、全力で否定する。
「「あっ!」」
二人は気付いた。凪の手首に黒い石のブレスレットがあることに。その石は、幻石。幻獣使いの証だ。
「凪ちゃんって……幻獣使い?」
「……はい。もしかして、お二人もですか?」
二人は幻石を見せた。それを見た凪は嬉しそうに笑った。
「仲間なんですね。嬉しい……。実はあたし、森泉学園から来たんです。今日は学園の皆からの手紙を渡しに来たんですよ」
凪は肩にかけているショルダーバッグを軽く叩いた。
「そうなんだ。海星、喜ぶと思うよ」
仲間が訪れ、仲間達の手紙を渡される。驚き、喜ぶだろう。
「──さぁ、着いた。ここが海星の家だ」
黒基調の家。今度はしっかり表札を見て確認した。表札には【希崎】と書かれている。海星の家で間違いない。
凪は緊張しながらインターホンを押す。二回目なので、先ほどよりすんなり押せた。
物音が聞こえた後、ゆっくりとドアが開いた。
今度は間違いない。海星君だ!
「あ……えっと……──」
言いたいことは沢山あるのに、声が上手く出ない。
「凪? なんでここに……。咲楽と陽向まで」
海星が喋り始め、やっと声が出る。
「お二人は、あたしを案内してくださったんです。あの……あたし、これを渡しに来たんです!」
凪はショルダーバッグから手紙の束を取り出し、海星に突き付けた。手紙は白一色。三、四十通程がえんじ色の紐で纏められている。
「何だこれ……」
海星は、驚いたようだった。声のトーンが低く、眉を寄せているので、喜びの驚きではないのは明らかだ。
「学園の皆から、海星君に戻ってきてほしいという手紙です」
「戻ってきてほしい? 無理だ。俺は戻らない。手紙を持って、帰ってくれ」
海星は手紙を凪に押し返す。
え……どうして……。駄目、ここで負けて帰らない! あたしは皆の気持ちを預かってきたんだ!
「駄目です! これは受け取ってください!!」
凪は海星に突き返す。しかし、海星は手紙を受け取らない。
「凪、俺は帰らない。そう決めて出てきたんだ」
「じゃあ、せめて説明してください! どうして急に出ていったんですか!?」
本当に急に出て行ってしまった。別れの挨拶だってできなかった。
海星は答えない。それでも凪は続ける。
「皆、海星君に戻ってきてほしいんです! 聖君だって──!」
バシッ。
持っていたはずの手紙が目の前で飛び散る。
海星が凪の持つ手紙を払い除けたのだ。手紙が次々にその場に落ちる。
凪は慌てて手紙を拾うが、海星は拾わない。凪が拾うのをただ見ていた。
「聖が俺に戻ってきてほしいって? それは嘘だ」
海星は俯いて言う。
「嘘なんかじゃありません!!」
凪は海星を見るが、目が合わない。合わせてくれない。
「お前を含めて、戻ってきてほしいと言う奴は、何も知らない。俺は帰ってはいけないんだ。それは、聖が一番よく分かってるし、聖が一番俺に帰ってきてほしくないと思ってるはずだ。お前も知っているだろ? 聖が俺に怯えていたことは」
ここで、やっと海星と目が合った。とても悲しい目をしている。
「……でもっ」
「凪、わざわざすまなかった。皆によろしく言っといてくれ」
海星は家の中へ姿を消した。ガチャリと鍵がかかった音が耳に残る。
凪は何も言わず、手紙を一枚一枚拾った。汚れていないのが幸いだ。
あーあ……駄目だったや。帰らないって断言されちゃうし、学園を去った理由も聞けなかったし……。手紙すら貰ってもらえなかった。皆から預かってきたのになぁ……。本当は、学園を出た理由を教えてもらって、手紙を受け取ってもらって、久々に喋りたかったのになぁ……。笑顔で、よく来たなって言って……もらえると、思っ……って…………。
凪の目から大粒の涙がこぼれ落ちた。そして、感情が一気に溢れだし、凪は泣きじゃくり始めた。
止まらなかった。
「「…………」」
咲楽と陽向は、見ていることしかできなかった。
何も、できなかった。凪ちゃんはあんなに頑張っていたのに、海星に話を聞いてもらえなかった。私は、口を挟めなかった。
今さら後悔しても遅い。今、私にできることは……?
咲楽は凪に近付き、そっと震える肩に手を添えた。凪が顔を上げる。アメジストが潤み、光を反射して輝いていた。
「凪ちゃん。私達の家においでよ。そして、話を聞かせて? 力になれるかもしれない」
咲楽はとびきり明るい笑顔で凪に言った。凪は涙を拭いて、小さく頷いた。
──それにしても、あんな冷たい顔の海星、初めて見た。
家に帰った海星は、自分の部屋のベッドに座り込んだ。
頭を抱え、苦悩に顔を歪める。
凪には悪いことをした。わざわざ来てくれたのに……。
『せめて説明してください!どうして急に出ていったんですか!?』
俺は、学園にいてはいけない存在だと思ったからだよ。また、あんな事が起きるかもしれないと想像しただけで、俺は学園にいることはできなかった。
『皆、海星君に戻ってきてほしいんです! 聖君だって……!』
あの事件の原因が俺だなんて、皆は知らないから、戻ってきてほしいなんて言えるんだ。そして、聖が戻ってきてほしいなんて言うはずがない。あいつは知っている。俺が事件の原因だと。
昔、俺は聖に聞いたことがある。夢を、成し遂げたいことを。
それを知った瞬間。俺は、誤魔化すことしかできなかった。怖くて言い出せなかったんだ。でも、あの時ちゃんと言っておけば良かったのかもしれない。
海星は、バタッと横になる。いつもより体がベッドに沈む気がした。
「全てを、お前に話しておけば良かったのかもな……」
そうしたら、何か変わっていただろうか。
「今更後悔しても遅いか……」
海星は目を閉じた。この心境で寝ると、またヤツが出てきそうなので、寝ないように気を付ける。ならば、体を起こせば良いのだが、そんな気にもなれなくて、しばらく横になっていた。
家へ帰った咲楽は、凪をダイニングにある、食事用のテーブルの椅子に座らせた。まだ凪の目には涙が滲んでいた。そんな凪に陽向はハンカチを渡した。男物を渡すのはどうかと思うので、咲楽のを勝手に拝借した。凪はハンカチを受けとると、涙を拭いた。
咲楽は凪を落ち着かせるために、ラベンダーティーを淹れた。
「どうぞ」
砂糖で甘味を付け、凪に出す。
「ありがとう……ございます……っ」
目を赤くした凪は、そっと紅茶を口に運んだ。
「美味しい……」
ほのかに甘い。ラベンダー香りは、気持ちを落ち着かせてくれる気がした。
「落ち着いたかな?」
咲楽は、凪と向かい合わせに椅子に座った。
「は、はい……」
凪と向かい合わせで座り、咲楽も紅茶を飲む。久々にラベンダーティーを淹れたが、なかなかだ。
「どうして海星はあんなに帰りたがらなかったんだ? もしかして、施設ってひどい所なのか?」
陽向は咲楽の隣の椅子に座り、ティーカップを手に取る。
「いいえ、良いところですよ。自然豊かですし、先生は優しい方ばかりです。皆、本当の家族のように仲が良いんですよ」
それは、凪の優しい表情からして、本当のことだと分かる。
「じゃあ、海星はどうして……」
凪はティーカップを置いた。
「聖君が原因だと思います」
「聖君? 海星に怯えていたって子? 海星はその子に何かしたの?」
「いえ……あたしの知る限りは……。聖君は、確かに怯えていました。拒絶に近かったと思います。近寄るな、と。でもっ、それは、サバイバルキャンプ後の話です。それまではとても仲の良い、親友同士だったんです」
親友同士だった? サバイバルキャンプって、海星の言っていたキャンプのこと?
「凪ちゃん、詳しく教えてもらえるかな? 私、知りたいの」
知りたい。その感情は好奇心に似ていた。出会った時の幼い海星と最近の海星しか知らなかった。今日見た、冷たい海星の顔。その冷たさの原因。空白の時間。知らない海星が知りたい。
凪は頷いた。そして、一枚の写真をショルダーバッグから取り出した。
「これはキャンプの前に、二班……あたし達の班の皆で撮った写真です」
咲楽は凪から写真を受け取る。陽向と一緒に写真を覗いた。写真には海星、凪、そして見知らぬ男女。計四人の人物が写っていた。
あ……海星、笑ってる。
「海星君の隣の男の子が、秋津聖君です」
咲楽と陽向は、海星の隣の人物に注目した。黄金色の髪、青緑の瞳。爽やか系のイケメンだ。雰囲気で、この班のリーダーなのだと見当がつく。
「そして、あたしの隣にいるのが、キャンプでアラン派に捕まってしまった七岡ちさちゃんです」
「アラン派に捕まった!?」
二人は凪の隣に写っている人物を見た。短い赤色の髪、ダークピンクの瞳。気が強そうな美少女だ。
「この写真を撮った次の日、サバイバルキャンプが始まりました。あたし達は、あんな大惨事が起きるなんて、誰も思っていませんでした──」
サバイバルキャンプは中学生と高校生対象の毎年恒例行事だ。行う目的は、実践的な戦いを身に付けるため。幻獣と契約する機会を設けるため。もしもの際、生きるためのサバイバル能力を高めるため。仲間と仲良くなるため。などが挙げられる。
キャンプは幻界を通った先、先生達に用意された孤島で二泊三日間だけ実施される。孤島に行くのに幻界を通る理由は、移動時間の短縮。そして、アラン派に場所を見つけられないためだ。キャンプ中に襲われては、先生達も対処しきれない。
サバイバルキャンプにはルールが幾つかある。
一、四人一組で行う。途中、メンバーの変更は認めない。
二、二泊三日間の食料は自力で集める。これに関して、幻獣を利用することは禁止する。
三、荷物は一班一つ、支給のリックに入るだけとする。
四、キャンプ中、先生達が幻獣を使い、生徒に攻撃を仕掛ける。生徒は幻獣を殺さないように対処すること。
五、孤島に生息する幻獣は、契約しても良い。従えている幻獣は、見分けるため印として赤いバンドを付けること。
六、極力幻獣は殺さないこと。
七、緊急の際は何らかの合図を送り、近くの先生に助けを求めること。
八、生きて無事に帰ってくること。これは絶対である。
このルールに載っとり、サバイバルキャンプは行われた。
──時は遡り、一ヶ月程前。
一週間後、サバイバルキャンプが行われる。早くメンバーを決めなければいけない。
凪とちさは校舎の周りを歩きながら、相手を探していた。女子だけでは心細いので、できれば男子と組みたい。
「誰を誘いましょう? あたしは、海星君と聖君が良いです!」
海星と聖は学園でトップを争うほど頭が良く、力も強い天才児であった。そんな二人は、人気が高く、学園内にファンもいた。ちなみに、凪とちさもその一人だ。
「馬鹿ね、凪。誘うんじゃなくて、誘ってもらうのよ。力の差がありすぎて、とてもじゃないけど誘えないわ。足手まといになる」
「あたしと違って、ちさちゃんは力があるじゃないですか」
「あんたよりはね。それに、あの二人は人気がありすぎて、私達なんかじゃ……」
ちさはシュンとした。
そうですよね、と凪も言いかけたその時──。
「俺達は二人が良ければ良いよ?」
聞き覚えのある声に驚き、二人は振り返った。そこにいたのは、噂の二人。海星と聖だった。聖が校舎の窓から顔だし、こちらに微笑んでいる。
「というか、二人を誘いに来たんだ。俺達と組まない?」
え~!? あたし達を聖君が誘ってくれてる!?
「「組みたい!!」」
ちさとハモる。それを見て聖は笑った。奥で海星も笑っていた。
「じゃあ、メンバー登録しに行こっか。受付してる教室すぐそこだし。登録するなら、早い方が良いだろ」
四人は先生の所へ行き、メンバー登録を済ませた。二番目に登録したので、二班だと告げられた。そして、支給のリックを渡された。この小さいリックに、何を入れて持って行くか。それは重要である。リックの中身は海星と聖が用意してくれることになった。
キャンプ前日。聖に呼ばれ、寮のロビーに集まった。皆が集まったことを確認すると、聖はデジタルカメラを取り出した。
「集合写真を撮ろう! きっと思い出の一枚になるはずだから」
聖はカメラのタイマーをセットした。四人はギュッと集まり、最高の笑顔で写真を撮った。そうして、二度と集まることのない、集合写真が撮られた。
キャンプ当日。四人は重ね着をして、集合場所の寮前に集まった。
重ね着は作戦の一つで、汚れたり、戦闘で服が破れたときの着替えを持って行くため。そして、【布】を持って行くためだ。怪我をした際、裂いて包帯として使う。リュックに着替えを入れてしまうと、それだけで一杯になってしまうので、こうして着て持って行く。動きにくいので、孤島に着いたらすぐに脱ぐ予定だ。この方法は他の班もしている。
キャンプに行く前、学園長の森泉恭子が壇上に立ち、話をした。
「皆さん、今年も沢山着込んでいますね。もしもの際、服は着ていたものしかありません。そんな状況下でも生き延びる訓練として、本当は脱がせた方が良いのかもしれません」
生徒達は、今回から服を持って行けないのかと焦った。
「しかし、あくまでもこれは訓練。そこまでは縛りません」
生徒は皆、ホッとした。初っぱなから作戦が失敗に終わるかと思った。
「良いですか。仲間と協力して全十班、必ず生きて帰ってきなさい!」
「「「「「はいっ!!!」」」」」
恭子は道案内役のフェアリーを呼び出し、フェアリーに幻界への道を開かせた。ぱっくりと開いた世界の先に幻界はある。
午前六時半。全十班は引率の先生達と共に、サバイバルキャンプを行う孤島へ向け旅立った。
午前七時。緑生い茂る孤島でサバイバルキャンプが開始した。四人は一斉に不必要な服を脱いだ。モワッとした熱気が逃げていく。
「まずは拠点になる場所を探そう。洞窟とかがあれば良いな。二手に別れて探そう」
海星の呼び掛けで、拠点探しをすることになった。凪はちさと一緒に行こうとしたが、海星に呼び止められた。
「凪、一緒に行くぞ」
「え……ええっ!?? あ、はいっ」
何故か海星と一緒に探すことになった。海星が先を歩き、幻石から出した短剣で邪魔な草木を切り裂いてくれる。
うわ、やっぱりカッコいいなぁ……。そんな海星君と二人きり……海星君と二人きり……。嬉しすぎてちょっとヤバいかも!
一人ニヤついていると、海星に不振がられたのか、声を掛けられた。返事をする声が裏返る。
「少し聞くけど、七岡って好きな人いるのか?」
いきなり凄い質問が飛んできた。少しじゃ済まない質問だ。
「いますよ」
それは、貴方と聖君ですけどね。
「そうか……困ったな」
え、まさか? 海星君はちさちゃんが好き!? ちさちゃんきっと喜ぶよ! 早く教えなくちゃ!
「聖、七岡に気があるらしいんだ」
「へっ?」
なんだ。ちさちゃんを好きなのは、海星君じゃないのか。一人かってに盛り上がっちゃった……って。
「ええっ!?? 本当ですか!?」
「ああ。でもそうか、七岡は好きな人がいるんだな」
海星は残念そうに言う。
「いっ、いえ。ちさちゃんの好きな人は、海星君と聖君ですよ」
海星は立ち止まり、くるりとこちらを見た。
「知ってる」
何、当たり前なことを聞いているんだといった顔だ。
「知ってるのに聞いたんですか!?」
「見てたら分かる。お前も俺達が好きなんだろ?」
凪は照れた。もう、そりゃ大好きですとは言えない。
「でも、その好きは憧れだろ?」
「まぁ……そうですね」
恋愛感情とは違う。二人は自分にとって、アイドル的存在に近い。
「聖は、違うらしい。このキャンプが終わったら告白するみたいだ」
「告白!?」
海星が口の前で人差し指を立てる。慌てて凪は、手で口を押さえた。
「内緒な。それで、できるだけ二人きりにさせて、距離を縮めてやりたいんだ」
なんだ。だからあたし誘われたのか。ちょっと浮かれちゃった。
「協力してくれるか?」
「はい、もちろんです!」
ちさちゃんと聖君の幸せのため、頑張るぞっ。
拠点を探し初めて三十分。狙っている洞窟は見つからない。良さげなところは他の班がいた。
その代わり、一斗缶を見つけた。鍋の代わりになりそうだ。
「この島には洞窟が無いのかもな」
「え~っ。無いならどうしますか?」
「お前……キャンプ三回目だろ。こう言うときは作るんだよ」
あはは……怒られちゃった。
「駄目だ。見つからない。別の場所を探そう」
凪と海星が元来た道を戻ろうとしたその時。
「かいせーい! なぎぃー! 見つけたぞ~!」
聖が遠くの方で叫ぶ。
「見つけたか」
「わぁい」
凪と海星は聖の元へ駆け寄る。
「良い感じの洞窟が向こうにある。俺達お手柄だろ?」
聖は誇らしげに言う。しかし、聖の背後に立つ木の影には、ちさがいた。
「……聖、お前馬鹿だっけ? お前は頭が良いと思ってた……」
海星は気を落とした。聖は頭の上にクエスチョンマークを浮かべている。
「洞窟は近くなのか?」
「いや、ちょっと遠い」
海星はガクリと肩を落とした。
「誰かに盗られたかもな……」
聖は青ざめた。急いで見つけた洞窟へ向かう。凪達も追いかける。洞窟は、残念ながら別の班に盗られてしまっていた。
「ごめんんん……」
聖は落ち込む。
「大丈夫ですよ。他にもないか探しましょう!」
今度は四人で探すことにした。
探し始めて一時間。奇跡的に洞窟を見つけた。洞窟の周りは木が生えていないため、見渡しが良く、先生の幻獣が来た場合、発見しやすいだろう。
「待ってて、安全確認してくる」
聖が懐中電灯を持ち、先に入って蛇などの危険な生物がいないかかくにんしてくれる。
少しして、聖が出てきて丸印を作った。
凪達は洞窟へ行く。
「過ごしやすそうだな。狭いけど、これなら人の熱で暖もとれる」
海星はリュックを下ろした。
「見つけた俺に感謝だな」
「最初の分でチャラだろ。さて……拠点は決まったし、食料を集めに行こう」
「よっしゃ、行くか。ちさ達は、水の確保を頼む。浄水器は作ってきたから、それを使ってくれ。終わったら、薪になる物を集めておいて」
聖は二人に指示をし、海星と食料を集めに外へ出た。
凪とちさは、リュックの中身を確認することにした。中身は海星と聖に任せたため、何があるのか知らない。
荷物は腕時計、懐中電灯、予備電池、軍手、救急セット、ライター、ビニール袋、虫除けスプレー、ロープ、バケツ、新聞紙、ウェットティッシュ、アルミホイル、調味料一式、手作り浄水器。そして、着てきた服と拾った一斗缶だ。
凪とちさは浄水器とバケツと一斗缶を持ち、川へ向かった。
川の水は意外と綺麗だった。前回のキャンプは泥水だったので、少し得した気分になる。
聖が用意した浄水器は、ペットボトルで作られていた。底を切り取った逆さまのペットボトルに、上から布、小砂利、木炭、小石が中に入っている。蓋には穴が空いており、そこから水が落ちると言う仕組みだ。
凪とちさはバケツで水を汲み、ペットボトルに少しずつ水を注いだ。蓋から出る水は一斗缶に溜める。時間は掛かったが、一斗缶の半分まで溜めることに成功した。
二人は協力して、洞窟へ水を運んだ。
「よし、あとは加熱殺菌ね。薪になりそうなものを探しに行くわよ!」
二人は薪を探しに洞窟を出た。
夕方、海星と聖が帰ってきた。
「大量収穫~!」
聖は自慢げに獲物を置く。人数分の魚だ。凪には、何の魚かは分からない。
海星も獲物を置いた。凪ぎは悲鳴を上げそうになった。
「凪は苦手か?」
海星は野うさぎと蛙を凪ぎに見せる。
「近付けないでくださいっ! まだ慣れないんです……」
過去二回サバイバルキャンプを体験したが、どうもこう言うのは慣れない。
「あとは、山菜と茸と鳥の卵。何の鳥の卵かは分からないけどね」
山菜は、葉は先が尖っていて、縁にはギザギザがついている。茸は、カサがデコボコした網目状の淡褐色の茸と、カサの中央が出っ張っている白い茸。
「食べられるの?」
ちさが聖に聞いた。
「大丈夫!」
「ほんとですかぁ~?」
本当に食べれるのか不安な、あたしとちさのために、海星と聖はどんな山菜と茸か説明してくれた。
山菜はキク科のゴマナと言う山菜。茸はアミガサタケとハルシメジというらしい。
「アミガサタケとハルシメジは十分に加熱するように。中毒になったら困るからな」
こう言うとき知識のある二人は頼りになる。
「あと、こんなのもある!」
聖はタンポポの花束をちさに渡した。まさかの告白タイムかと凪は焦ったが、海星が飽きれ顔なので、告白ではないようだ。
「これで、タンポポコーヒー作ろう? やり方は知ってるんだけど、まだ飲んだことないんだ~」
「はぁっ!?」
ちさも少なからず期待したのか、期待が外れて残念そうだった。
「コーヒーも良いけど、先に昼食にしよう。せっかく二人が火を起こしてくれたんだしな」
凪とちさは、水を加熱殺菌した時に付けた火を、消さずに置いておいた。大きな石で火床を囲み、かまども作った。ちなみに水は一斗缶ごと十分程火にかけ、冷ました水をバケツに入れて、蓋として、ビニール袋を被せておいた。
「凪とちさは魚を焼いて。内蔵とかはもう取ったから、この串に刺して焦がさないようにね」
聖は手作りの串をちさに渡した。少し太めの枝の先を鋭く尖らせてある。
二人は言われた通りに魚を串に刺す。塩も少々振ってから焼いた。
そして、聖はY字型の木にアルミホイルを巻いていた。何か作っているらしい。海星は少し離れた場所で、短剣を使い、野うさぎを捌いていた。
その日の昼食兼夕食は、焼き魚、ウサギの焼肉、山菜と卵と蛙肉の炒め物、ハルシメジのスープだ。
炒め物は聖が作ったフライパンで炒めた。聖はついでにお皿も作ってくれた。新聞でお皿を作り、アルミホイルを被せて完成だ。
「ん?」
食事中、聖は洞窟に入って来た虫を捕まえた。しばらくその虫を見て、一言。
「コレ食えるかな」
凪とちさは必死で止めた。そんな姿見たくない。
「海星どう思う?」
聖は海星に虫を見せた。凪は見たくはないが、虫を見た。どう見ても蜘蛛だ。
「……食えるんじゃないか? 本当かどうかは分からないが、蜘蛛はチョコレートの味がするとか……」
余計なこと吹き込まないで! と、凪は心の中で叫んだ。
「ああ、知ってる。味じゃなくて食感らしい。本当かな? この小ささならイケるかも……」
やめて~~~~!!
「けどやめた。二人は嫌なんだろ?」
二人は何度も頷いた。
「分かった、分かった。食料にも困ってないし、やめとくよ」
聖は蜘蛛を洞窟の外へ出した。
凪はここまで一気に話終えた。乾いた喉を紅茶で潤す。
「聞いてる限りは楽しそう。なんか、サバイバルキャンプって言うより、ただのキャンプみたい」
「はい。海星君と聖君がいたお陰で、充実していましたから!」
思い出しながら話す凪は、凄く楽しそうに言う。咲楽は本当に楽しかったんだと思った。
「それで、その日の夜は無事に過ごせたのか?」
陽向は本題に入る。
凪は首を振った。
「事件はその日の夜に起きました。あたし達は油断していました。アラン派が孤島に乗り込んでいたんです」
完全に日が落ちた夜のこと。凪達は夜食のアミガサタケのスープを飲んでいた。
「フランス料理の高級食材をこんな所で味わえるなんてな!」
「ああ、予想外だったな」
そんな情報を貰ったせいで、スープが輝いて見える。
「つか、来ねえな」
今までの経験上、高確率で一日目にも先生達は幻獣を送り込む。もうあと数時間で一日目が終わる。四人は念のために起きておくことにした。日付が替わってからは、交代で眠る。
ちさは身震いした。夜は冷える。
「もっと服着とけよ」
聖が上着をちさに掛ける。
「ありがと……」
聖は薪を足した。揺らめく炎、パチパチとした音。良い雰囲気だなと思っていると、海星が立ち上がった。
「外の様子、見てくる」
海星と目が合った。
「……あっ。一人は危ないですよ」
凪も海星に続き出る。
二人きりにすることができた。
海星は、洞窟から離れた所で立ち止まった。凪は隣に並ぶ。
「…………」
月の光で煌めく海を眺める。綺麗だなと、しばらく見ていた。すると、何かが跳ねた。
「今、何か跳ねましたね! 尾ひれがあったので、マーメイドでしょうか? ケルピーでしょうか?」
「両方いたら困る……。多分、魚だろ」
「そうですね……」
マーメイドもケルピーも、危険な幻獣だ。
凪は洞窟の方を見た。ちさと聖が暖炉を囲み、話をしている。炎のせいか、二人の顔は赤みを帯びている。
「ちさちゃんと聖君、良い感じですね」
「ああ」
「聖君はちさちゃんのどこに惚れたのでしょう?」
「さぁ……詳しくは知らない。でも、たまに顔を赤くしてたな」
「はは、ちさちゃんもですよ」
頬を赤らめたちさは、髪色のせいもあり、林檎のようだった。
「二人が付き合う可能性はあるな。俺は陰ながら応援するとしよう」
「あたしも!」
「そうか」
……ちょっと待って、今あたしと海星君も良い雰囲気!? 一応、二人きりだし……。いや、でもあたしはただのファン。好きとかそんなんじゃなくて、憧れの方が近いけど……。もっと海星君のこと知りたい。
「海星君は好きな人いないんですか?」
「好きな人か?」
海星がこちらを見る。月光の光を受けた髪は青く、影の部分は黒い。月下の海星はクールさが増して、素敵だ。
「いない……というか、作らない」
「作らない?」
おかしな答えが返ってきたので、凪は聞き返した。
「俺は付き合うつもりもないし、恋なんてするつもりはない」
「どうしてですか?」
海星が体ごとこちらを向いた。
「俺がずっといられる保証がないから」
凪は失笑した。
「そんなの、皆そうじゃないですか。死と隣合わせねこの世界。いつ死ぬかなんて分かりませんよ」
「……そうだな」
海星は海の方を向いてしまった。その背中はどこか悲しそうだった。
二人は無言になり、さざ波の音だけが聞こえる。さざ波に耳を傾けていると……。
「やっ、二班の諸君!」
木の間から、凪の三つ上の先輩が出てきた。
「どうしたんですか?」
海星が訪ねる。
「ちょっと聞きたいんだけど、先生来た?」
「いえ……四班もですか?」
「そ! 俺が知る限り、先生達があんま出現してないみたいなんだ。来たのもほんの数班みたいで……。なんか変だよな?」
「はい。今回は一日目は控えめなんですかね?」
「さーな。とりあえず気を付けろよ。じゃっ!」
先輩は森の中へと姿を消えた。
それから何も起こらず、深夜十二時になった。眠気に負けそうだ。
「そろそろ寝るか。海星と凪が先寝ろよ」
やったぁ……寝れる。
そう思った瞬間、物凄い悲鳴が聞こえた。眠気が一気に吹き飛ぶ。
「なんだ、今の悲鳴……。先生やり過ぎ」
聖は苦笑い。
「いや……少し様子が変だ。俺、様子見てくる」
海星が立ち上がり、洞窟から出ようとした。
「待てよ海星。皆で行こう」
聖が海星を止める。
「そうよ。班行動でしょ!」
「あたしも行きます!」
怖いけど、行かなくちゃ。胸騒ぎがする。
四人は各自武器を出した。凪は日本の長柄武器。海星は黒作大刀。聖は長い剣。ちさは三叉の槍だ。
四人は悲鳴が聞こえた方へ、暗い森の中を駆ける。
「止まれ」
海星が凪達を止めた。
「海星君、どうしたんですか?」
「血の臭いがするわ……」
海星に代わり、ちさが答えた。凪も集中して臭いを嗅ぐ。僅かに臭う、鉄のにおい。
「近くに怪我人は!?」
聖は先立って探す。三人も探す。
「きゃああぁぁっ!!?」
見つけたのはちさだった。ちさの悲鳴に三人は駆け付ける。
ちさは一本の木を示した。幹には血が垂れており、太い枝の上には人影があった。
「見てくる」
海星が木に登り、人影の正体を突き止めた。
「先生だ。首を掻き切られている」
皆、言葉を失った。
「まっ、まだ生きてないか!?」
海星が生死を確認する。海星は木から降りてきて、首を振った。死んでいたらしい。
凪は腰を抜かした。死体を初めて見た。
「どうして先生が!?」
ちさもパニック状態だ。海星と聖も青い顔をしている。
「この島にいる幻獣の仕業か、侵入したアラン派か……」
「アラン派が来たってのか? ありえない……」
「いや、確かめるまでありえないとは言えない。どちらにせよ。先生を殺った奴を捜すんだ。放っておくのは危険すぎる」
四人はさらに森の奥へ進んだ。悲鳴があちこちから聞こえる。
「っ……!」
ガシャっと何かが崩れた様な音。海星が襲ってきたスケルトンを斬り倒したのだ。暗くて全く見えなかった。海星は札を貼った。
「何でスケルトンが……!?」
ちさは後退る。この島に墓地はないはずだ。先生も生徒もスケルトンを従えていない。つまり、敵が出したスケルトン。アラン派の可能性がより一層濃くなる。
「くそっ。暗い上に、島の幻獣なのか、味方の幻獣なのか、敵の幻獣なのか、気配が多すぎて分からない!」
「こんなことになるなんて!!」
恐怖で涙が出る。
バンッ。
海星に背中を叩かれた。
「しっかりしろ! こう言う時のために今まで訓練をしてきたんだ。大丈夫、なんとかなる」
「ああ、そうだ! 俺達には幻獣だってついている! それに皆、柔な奴らじゃない」
二人にそう言われると、なんとかなる気がした。凪は怖くても、二人について行った。
四人は島の中腹へ来た。そこで目にしたのは、スケルトンの大軍と戦う、仲間の姿だった。怪我人も多い。倒れている人もいる。
どこかの班の火種が散らばり、火が様々な所から出ていた。木々が近くに無いことが幸いだ。
四人は木の影に隠れた。
「あんなにスケルトンが……! こんなの予想外よ!!」
ちさが頭を抱える。震えるちさの肩を聖が掴んだ。
「ちさ、落ち着け。お前には力もあるし、この最悪な状況を打開する幻獣もいる。大丈夫!」
「っ……ええ!」
ちさは小さく頷き、涙を拭いた。
そうだ。ちさちゃんにはカハクがいる。カハクならスケルトンを倒せるかも!
ちさは幻石に力を送った。
「出でよ……白装束を纏った樹木の精、カハク!」
ちさはカハクを呼んだ。大きさは五寸ほど。樹木の精だが、炎を使う幻獣だ。スケルトンは炎も弱点である。
「カハク、緊急事態よ! 貴女の力が必要なの!」
カハクは愁いと苦しみを湛えた目でちさを見つめる。インコに似た声で何か伝えようとしているが、全く理解できない。しかし、協力してくれる意思は伝わった。
「聖、早く皆を助けに行くぞ。このままじゃまずい」
「おうっ。ちさ、お前は凪と一緒に皆を助けろ」
「分かったわ。二人とも気を付けて……」
ちさは聖の手を握った。
「お前達もな」
海星と聖は二手に別れて、皆を助けに行った。
「私達も行くわよ!」
「はいっ!」
凪とちさも戦場へ行った。凪は札を出した。
札は二枚しかない。スケルトンは、札が自分の弱点だと知っている。だから、札の破壊を最優先でしてくる。剣で切られたらおしまいだ。大切に使わないといけない。皆もそんなに持ってきてないはずだ。
「凪ッ! 伏せなさい! カハク!!」
「わっ!」
凪は伏せた。カハクの出した炎が頭上を通過する。近付いて来たスケルトンはカハクの炎に焼かれ、倒れた。
凪は体を起こした。周りにはスケルトンが数体いる。倒さなければ先に進めない。
二人はスケルトンを倒しにかかった。倒しても次から次へと現れる。
助けにすら行けないなんて……! 自分のことで精一杯!
凪は札をスケルトンに貼ろうとした。しかし、まだ動くことのできたスケルトンが、剣で札を切ってしまう。凪は急いでもう一枚の札を貼った。スケルトンから悪霊が引き剥がされたことを確認し、札を回収した。
札はあと一枚。あたしは、スケルトンを倒せるような幻獣は従えていない。この札が無くなれば、あたしは何もできなくなる! それに、あたしの持つ力は少ない。札があったとしても、どのくらいもつか!
力を温存しつつ、凪は戦った。
それに比べちさは、力があった。カハクと札を使い、次々スケルトンを倒してゆく。
「おやおや。君みたいな子がいるとは……少し興味がありますねぇ」
どこからか、声がした。低い男の声。
「「……!?」」
二人の前に、黒いマントを纏った男が現れた。こんな時に、おにぎりを食べている。
「やはり、昆布は良いですねぇ」
凪とちさは矛先を男に向けた。
「何者!? あんたがスケルトンを!?」
「はい、私が首謀者です。アラン派、高野倖明と申します。少々お尋ねしますが、赤髪の貴女。貴女は、我々の捜している者なのでしょうか?」
「私が捜してる者?」
「貴女は、予知夢を見ることはありますか?」
「……いいえ」
ちさちゃん、今嘘ついた。過去、何回か見たことあるって言ってた。
『あれ? まただわ。この光景、見たことある』
『本当ですか!?』
『ええ。この後、聖が戻ってきて、コケて──』
『七岡。それ滅多に言わない方が良いぞ』
『何でよ』
『良くない虫が寄ってくる』
でも、海星君に隠した方が良いって言われてて……。
高野と名乗る男は、ジーッとちさを見ていた。
「ん~? 私の勘が正しければ、貴女もそうだと思うのですが……。致し方ありませんねぇ。自覚がない者、知らない者がほとんどだと聞きますし……。念のため、手合わせ願います」
高野倖明と名乗る人物の周りにスケルトンが集まった。
「貴女の力を見せてください」
一斉にスケルトンがちさを襲った。
「ちさちゃん!」
凪も一緒に戦おうとしたが、高野が凪の近くへ来た。
「貴女はおとなしくしておいて下さいね」
耳元で囁かれた瞬間、凄まじい衝撃が凪を襲った。体は宙へ飛ばされ、地に落ちた。衝撃で息が詰まる。あばら骨が折れ、激痛が走った。
「ちさ……ちゃん────」
視界が霞む。
「あ……ぁ……────」
凪の目に、海星と聖がこちらへ駆け付ける姿が映ったところで、凪は意識を失った。
凪から聞いた話は、壮絶だった。咲楽は、スケルトンの大軍の恐ろしさをよく知っていた。あれはとても恐ろしい。
そして、高野が出てくるなんて思わなかった。
「その後のことは、知りません。ずっと気絶していましたから……。聖君から聞いた話によると、ちさちゃんは高野って人に連れて行かれたそうです。今もまだ助けを待っているかもしれません……」
場所が分かればすぐに助けに行くのに……!
凪は唇を噛んだ。
「その後、皆は助かったの?」
「数名の死者が出ました。そのほとんどが先生と、サポートとして先生と共にいた高校生以上の生徒です。そして、多くの人が酷い怪我をしました。聖君もです」
「今の話じゃ、凪さんも大怪我をしたんだろ? 一ヶ月で直るのか?」
「学園には幻獣の力を借りて治す、優秀な先生がいます。お陰で早く治ったんですよ。まだ全快とは言えませんが……」
なるほど。エルフのような幻獣がいるのだろう。
「それで、どうして聖さんは海星に怯えたの?」
「事件後、学園はスケルトンの数を調べました。すると、百近くの頭蓋骨が見つかったそうで……。そして、聖から聞いた話によると、海星君がスケルトンを全滅させたそうです。あたしや皆もスケルトンを倒しましたけど、海星君は一人で半分近い数を倒したはずです」
咲楽と陽向は驚いた。
回復するスケルトンを一人でそんなに倒したというの?
「聖君も途中で気絶してしまったらしくて、目を覚ましたのは、アラン派の人達がちさちゃんを連れて、幻界に姿を消す寸前だったそうです。そして、その時の海星君が怖かったみたいなんです」
「海星が怖かった?」
戦いに必死だった顔が、ということだろうか。
「はい。よく分からないんですけど、目が怖かったらしいです」
「目?」
「目が怖かった? それが海星と聖さんが不仲になった理由か? 意味分からねぇ!」
陽向は髪の毛をぐしゃぐしゃにした。
「つまり、聖さんは海星のことを怖いと感じて怯えたんだよね? そして海星は施設を出た」
凪は頷く。
「でも、そんなことで二人の絆は切れるはずがありません」
「一体、凪さんが気を失っている間に何があったんだ?」
「すいません。あたしがしっかりしていれば……」
凪は申し訳なさそうに何度も謝る。
「もうっ」
咲楽は余計なことを言った陽向の頭を叩いた。
「聖さんが怯えているから、海星は施設にいれないと思った。それも理由の一つだろうけど、きっとそれだけじゃないよね」
凪ちゃんが気を失っている間に何かあったのか。今回私達の相手だという、アラン派、高野倖明。高野が海星の前に再度現れたのには理由があるのだろうか。
「あと、高野の質問。予知夢を見るから、ちささんは連れていかれたのかな?」
「予知者を仲間に入れたかったとか? 戦況を知る上で必要だった、とか!」
「違うと思います。アラン派にご家族を連れ去られた方々の話にそのようなことは……。それに、ちさちゃんの見る夢は、ごく稀で内容も短いので、役立たないかと。ですから、予知夢を見るからではなく、連れ去る要因の一つが予知夢を見るということだったのではないでしょうか」
連れ去る要因の一つか……。何か海星知ってそう。
「分からないことだらけだけど、今悩んでも仕方ないよね。海星から聞き出そう!」
それが解決の近道のはずだ。
「そうだな!」
「あの……無理矢理は駄目ですよ。海星君にも色々あるみたいですし……」
「大丈夫。無理維持はしないよ」
凪はホッとした。
「凪ちゃん。今日は、お話ありがとう」
今回、凪のお陰で分かったことがある。以前疑問に思っていた、何故海星は変な時期に如月市にやって来たか。それは、元々施設を離れるつもりはなかったが、何らかの理由で、施設にいられなくなったから。
しかし、疑問が解決したと同時に新たな疑問が生まれた。施設を出るほどの理由、それは一体何なんだろうか。
気になるが、考えたところで分からない。気持ちを切り替えよう。今日は凪ちゃんがいる。
「ところで凪ちゃん。今夜の宿は決まってるの?」
凪は窓の外を見た。外は暗くなっていた。
「あ、いえ……本当は海星君の家に泊めてもらうつもりでした。でも、ちょっと無理ですね」
凪はシュンとした。
「この家は明き部屋があるの。私達は女の子一人くらい大歓迎だよ!」
凪はパアッと明るくなった。
「ありがとうございます!」
「よし、宿は決まったし、晩御飯は何にしよっか」
咲楽は立ち上がりキッチンへ行った。
「あたしも手伝います!」
「ありがとう。ほら、陽向も手伝いなさい!」
「はいはい。言われなくても」
三人は晩御飯を作り始めた。
幻獣使い【第八体目 学園からの使者】を読んでいただきありがとうございます!
ここにきて、やっと学園のお話が出てきたって感じですね!
では、いつものように長い後書きスタートしますよ。
読みたい方だけ読んでいてください( *´艸`)
今回書きたいこと多くて……。
サバイバルキャンプ。一回体験してみたいです。今回、海星達は良い感じに過ごしていましたが、あたふた姿も見てみたいですね。書きたいなとは考えています。
今回ほぼ初登場の聖。
第三体目で海星が「俺はまだまだ弱いよ。こう……、学園の友達とはなかなか決着つかなかったし」と漏らしています。聖のことです。
聖は当初、もっと子供っぽかったです。火をおこすのに、テレビとかでよく見かけるあの方法でやりたがるような子でした。成長したのかな?
続いて凪。
海星達とは兄弟みたいに仲が良いのにも関わらず、年上なんだと理解したあたりから敬語を何故か使っています。ちさにやめろと言われても直りませんでした。
当初は、海星の超大ファンみたいな子で、うちわとか作ってました。キャー! 海星君!! みたいなテンションで……。今からしたら考えられません。
ちさ。
ここにきて漢字かカタカナにすれば良かったと思う子です。読みにくい……。でも、平仮名の方がしっくりくる。
一応、海星&聖のファンとなっていますが、言うほどじゃない感じです。
海星はちさだけ七岡呼びなんですが、これも理由は後々出てきます。
カハク。
ちさに合う幻獣に悩み、友人のMelusineに炎系で可愛のいないかと相談したところ、返ってきた幻獣。
可愛いので結構好きです。
挿絵ですが、今回はデジタルも混ぜつつ、頑張ってみましたよ(*'▽')
この挿絵ために二日間ほどパソコンとにらめっこしてました(笑)
もう全然分からなくて!
皆さん凄いですよね……。もう実感しまくりです。もっとうまくソフトを使いこなせるように頑張ります!
……まずはペンタブ欲しいな!!
凪は描きやすくて、案外(おい)可愛くて楽しかったです。今回は凪だらけですね(笑)
髪型が和花奈さんに似ているなぁ、と思いながら描いていました。目も垂れ目ですし。血の繋がりとかはないんですけどね。
凪の髪型は旧咲楽の髪型に似せています。気に入っていたので、使いたいなと。あの、前髪の波々の辺りです。
幻獣使いなのに幻獣あんまり描いてないなぁ……。スケルトン出てくるし描こうと思ったのですが、焼かれてあんなんです。また次の機会にでも骨々しいのを描きたいです。肋骨とか。
次回予告。
今回、海星が学園を出て行った話でしたが、次回は、海星が学園に来たときの話が出てきます。
アランとセシルの話も少し。
次回、幻獣使い【第九体目 知らない姿】。