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幻獣使い  作者: HELIOS
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番外編 船井幸子

 彼女、船井幸子の日課は生徒ウォッチ。今日も校内の生徒達の様子を、第二本館の屋上で見ていた。

「あら?」

 中庭のベンチに三年生のカップル。よくいるのを見かけるが、今日もイチャついている。

「あらあら、そんなに濃厚なキスなんてしちゃって……。誰もいないと思ってちゃだぁ〜めよっ☆ ワタシが見てるなんて思いもしてないでしょうに……。やぁねぇー、まったく……」

 口が裂けても彼女に彼氏は三股してるなんていえない。しかも、もうすぐ四股になろうとしてるなんて……言えない言えない。

 ま、言ったとしても聞こえないか……。

 船井はフワッと浮き上がると屋上の鉄柵を越えた。

「幽霊って楽よね〜。いちいち階段降りなくても良いんだから」

 船井は中庭に降りた。

「それにぃ〜」

 船井は軽い足取りで彼氏の隣へ行き、ベンチの端に腰を下ろす。

「こぉーんなことしても見えないしねっ。……さてと」

 船井はカップルの話を盗み聞き、タイミングを伺う。

「んねぇ、私のこと好き?」

「当たり前だろ。俺にはお前しかないって」

「本当にぃ? 最近会ってくれないじゃん」

「ごめん。忙しくて……」

「え〜もぅ」

 二人の唇が近付く。

「んふふ〜♪ 今ねっ」

 二人の唇が重なったその時、船井は彼氏の脳内に言葉を送り付けた。


「そりゃ、三股は忙しいわよねぇ〜?」


 その瞬間、彼氏はキスしたまま吹き出した。

「あらまっ、大変!」

「うっ、やだ! 汚い! 気持ち悪っ!」

 彼女は立ち上がって口を袖で拭く。

「ご、ごめん!! 今、変な声が……」

「失礼ね! このbeautiful voiceを変とは!」

「声なんて聞こえなかった! 吹き出すなんて、何言われたわけ!?」

「そ、それは……」

「言えないわよね〜♪ 三股なんて」

「もういい! 教室戻る!」

「待って!」

 彼氏が教室へ戻ろうとする彼女に手を伸ばす。

「えいっ☆」

 船井は彼氏のセーターの裾を引っ張った。

「なっ!?」

 彼氏はバランスを崩して、前のめりに倒れ込んだ。

「ごめんなさいねぇ〜。でも、これを期に一途に想う人つくればぁ?」

「いてて……最悪。うっぜぇ……なんだ今の……」

 彼氏は起き上がった。

「一年の子に会いに行こ……」

「んま、懲りない子。一年ってことは、今狙ってる子の所に行く気ね。でも、あんまり首突っ込みすぎるのは良くないわよね〜。でもでも、このままじゃモヤモヤって感じぃ〜」

 あ、そうだ。確か、耳が弱かったはず……。

 船井は耳に息を吹き掛けた。

「ひぃぎゃああ!??」

 彼氏は驚いて腰を抜かした。

「ちょっとすっきりしたわぁ」

 船井は宙に浮くと、屋上へ戻った。そして、再び中庭に視線を落とした。

「あ、咲楽ちゃん」

 中庭を挟んで向かいの弟一本館二階に咲楽がいた。次の授業は移動教室らしい。歩きながら、こちらをじっと見ている。

「バレたみたいね……。まずいわぁ」

 船井は苦笑いした。

 

 次の休み時間、予想はしていた通り咲楽が来た。

「先生……また何かしましたね?」

「え、えっとぉ〜……。 あれは仕方なかったっていうかぁ……。何と言うかぁ……」

 咲楽はそこまで聞くと溜め息をついた。

 あ、まずい?

「やっ、あれよ! あの子がね、ちょっと悪いことしてたからお仕置きしてあげようと思って──」

「船井先生が妖精(フエアリー)達と違って、本当に困る悪戯はしないと思っています」

「あら、嬉しい」

「ですがっ、今日の先輩のように脅かし過ぎなのは困ります。幽霊が出る学校なんて噂が立つのは困るんです」

「幽霊が出る学校?」

 船井は小さく笑った。

「咲楽ちゃんは知らないのね。この学校は昔から幽霊が出る学校なのよ?」

「そうなんですか!?」

 今となっては忘れかけられているが、この学校は昔から幽霊が出ると言われている。


 ワタシは約三十年前、英語教師としてこの如月高校へ来た。何年か働いた後、ワタシは一年生の担任を任された。初めてのことで、不安だったけどやる気はあった。目標は、仲の良いクラスにすることだった。

 だけど、まさか、自分のクラスでイジメがあるなんて思ってもいなかったんだ。

 イジメを知ったのは騒ぎになってからのこと──。


「船井先生! 第二本館屋上に山本が!」


 他のクラスの先生の声に驚いた。

 急いで屋上に向かうと、担当のクラスメイトが全員と、野次馬に駆けつけた人達がいた。その視線の先には山本という普段目立たなかった女子生徒がいた。

 山本は鉄柵の先、下を見下ろしていた。

「やめなさい!!」

 ワタシは止めにかかった。最前列に出て、こちらに来るように必死に言った。

 すると、山本は涙を流しながら振り返った。

「先生がっ、イジメに気付いてくれなかったから!」

「……イジメ?」

 ワタシは後ろを見た。後ろの方で目を逸らした生徒達がいた。クラスで権力が強い方だと思っていたが、イジメをしているなんて思っていなかった。

「何が、仲の良いクラスにしましょうよ!! (なん)にも見てない……!」

「っ……」

 その言葉はグサリと、胸の奥深くまで刺さった。

「御免なさい……。()れから変えてみせるわ! だから、戻って来て頂戴(ちょうだい)!」

 山本は首を振った。

「もう遅いよ……。もう……生きていたくないの」

 山本の目に映っていたのは希望の光が一切ない、絶望の闇だった。

 山本は前を向いた。

「駄目ぇ!!」

 ワタシは走り出した。無意識だった。後ろから聞こえる生徒と先生の声がとても遠くに聞こえた。

「さようなら──……」

 山本の片足を前に出した。

「駄目ぇぇぇ!!!」

 鉄柵を乗り越え、山本の手を掴んだ。

挿絵(By みてみん)

 間に合ったと思った。でも、ワタシに人一人(ひとひとり)を支えられる力があるはずもなく、ワタシは山本と一緒に中庭に落ちたのだった。

 死んだ直後のワタシは後悔の塊で、運が良いのか悪いのか、幽霊になった。


 成仏の仕方など分からないわけで、ワタシは山本に言われたことを思い出して、第二本館屋上で一年生が見えるその場所で、元自分の生徒達の様子を見ていた。

 生徒達は日に日に事件のことを忘れ、二年生になった。無事このまま卒業して欲しい。

 そして、ワタシは新しく入った一年生の様子を見ていた。

「嗚呼……ワタシ、何も見ていなかったのね……」

 様々な中学校から集まって、一つの学年が出来上がる。同じ中学の友達がクラスメイトにいれば良いが、山本のように友達と別のクラスになってしまっては、話せる相手がいない。ワタシのクラスは、同じ中学仲間がいるという子達が多かった。

 例え最初は一人でも、そこで皆と話せることができれば孤立はしないだろう。だが、山本のように大人しく、話しかける勇気を持てなかった子はどんどん孤立してしまう。それでも、話し掛ける子がいれば良いのだが、ワタシのクラスにはいなかったのだ。

 そして、誰とも話せない子は見ていて暗い。山本は少しドジで、うじうじするところがあった。そのため、イジメの対象となったのだろう。

 ワタシが何かすれば、こんなことにならなかったのだろうか。女子特有のグループが完全に作られる前に、クラス全員で簡単な遊戯(ゲーム)をするだとか、クラス全員を巻き込んで英語だけで話すという授業をしてみれば良かった。

 ワタシは、山本のイジメに気付かなくてはならなかった……。

 もっと見なくては。今更だが、見なくては。


 それからしばらく、ワタシは学校の様子を見ていた。

 ある日、男子生徒の話を聞いていたところ、部活の遅練習(おそれんしゅう)で職員室に部室の鍵を返しに行ったとき、女の子の泣き声を聞いたような気がしたという話を聞いた。

 そのときは気に止めなかった。


 後日、警備員宮下が学校に来た。夜は暇なので、宮下の後ろに付いていた。この頃はまだ自発的に声を聞かせるやり方など分からなかったので、ただ毎日後ろにいた。

 今日も宮下が第一本館に入ろうとした。いつも警備員が第一本館に行くときは屋上に戻っていた。行きにくかったのだ。

 でも、今日は入ってみようと思った。少しだけ山本のことを理解してきたし、自分の教室から逃げていてはいけないと思ったのだ。

 そして、男子生徒の言っていたように泣き声が聞こえてきたのだ。霊感のある宮下と共に声が聞こえる二階の教室へ行った。

 そこにいたのは山本だった。

 山本も成仏できずに、イジメられた教室に居続けていたのだ。

「山本さん?」

 山本に反応は見られなかった。山本はイジメられていた過去に囚われていて、ワタシの声が届かないのだ。

 次の日の夜も教室へ行った。山本は泣いていた。

「山本さん。貴方はまだイジメられていた過去の中にいるのね」

 山本は、やめて、助けてといった言葉を繰り返し言っていた。

 山本を成仏させたい。ずっと苦しむ生徒の様子なんて見てられなかった。

 でも、何度話し掛けてもワタシの声は聞こえていないようで、ワタシは何もできなかった。

挿絵(By みてみん)


 そして、如月高校に幽霊にが出るという噂が流れた。

 そのせいなのか、少子化のせいなのか、一クラス分生徒数が減った。


 山本を成仏させられないまま、数年の歳月が流れた。

 春になり、また新しい生徒が入ってきた。そこである生徒と出会う。薄茶の長い髪と空色の瞳を持つ、咲夜(さくや)という名の女子生徒だった。

 咲夜は幽霊(ワタシ)が見えた。

 咲夜に事情を話すと、咲夜は協力してくれた。

 咲夜の声も最初は山本に届かなかった。だが、次第に山本に届いた。

「別れの挨拶を」

 咲夜のおかげでやっと山本と話すことができた。お互いに沢山謝った。

 山本は成仏した。咲夜によると、山本はほとんど悪霊になっていて危険な状態だったらしい。

「ありがとう」

「良いのよ。これは私の仕事の一つみたいなものだし。それより、あなたも成仏しないの?」

「いいえ。ワタシは、もう少しこの学校を見ていたいの。それに、あなたともっと話したいわ」

「……そ。悪霊にならないでよね」

「あん、冷たいっ。きっと大丈夫よ。よろしくね、咲夜ちゃん♪」


「──船井先生?」

「あ、ごめんなさい。ちょっとボーっとしちゃった☆」

 そういえば、咲楽ちゃんと咲夜ちゃんは似てるわねぇ。髪の色とか。目とか。幽霊(ワタシ)も見えるし。

 でも、咲夜ちゃんの方が美人だったし、性格も大人だったかしら。

 それに、苗字も違う。確か咲夜ちゃんの苗字は……も、もぉ……もい? もり? ……もりもり? 違う!!

「あんっ! 思い出せない!! とにかく【も】は確実なのにぃ〜!」

「わっ、急に何ですか」

「なぁ〜んでもないわよ……。ついに脳の老化が始まったみたい」

「幽霊に脳の老化って関係あるんですか……? 脳無いのに」

「さぁ〜ねっ」

 苗字は思い出しても、結婚してたら名前変わってるはずだから意味ないわね。

 それに、もし咲楽ちゃんが咲夜ちゃんとが例えば親子関係だったなら、咲夜ちゃんはかなり早くに結婚し、子供を産んだことになる。

 親子……?

 船井は咲楽を見た。

「……なんですか?」

「うん。どっちでもいいわ。咲楽ちゃんは咲楽ちゃんだものねっ」

「良く分からないんですけど……」

「いーのよっ! それより咲楽ちゃん。ワタシの長年の感が、そろそろチャイムが鳴るって言ってるんだけど?」

「えっ。帰ります!」

 咲楽はドアへ走った。

「あっ」

 咲楽が振り返る。

「程々ですよ!」

「分かってるわよ〜ぅ」

 咲楽はドアを開けて中に入った。

 船井はクスッと笑うと生徒ウォッチを再開した。

 幽霊になって三十年。まだまだ見るものがある。きっと成仏するのはまだ少し先だろう──。

 テストだ。十月に第六体目投稿できるか分からない! そうだ、番外編を書こう!

 ということで初の番外編は、船井さんについて書きました( ・ω・)

 基本的にHELIOSの小説は書きたいポイントだけ決めて、あとはキャラに動いてもらって書きます。なので、考えもしなかった話になることが多いです。

 しっかし……この人、船井さんは暴れ回るんですね。そこ出てくるの!? ということが多々あります。

 そして、今回も暴れ回っておりました( 笑 )

 今回書きたかったポイントが、【中庭のカップルに悪戯する】【咲楽に怒られる】【咲夜のことを思い出す】だったのですが、何故か過去編になってしまいました。今回書く予定ではなかったので、船井さんの過去は大まかにしか考えていませんでした。なので、こんな過去だったのか! とHELIOSも驚かされる部分も沢山ありました( 笑 )


 挿絵ですが、カラー時間かかるし、白黒の方がこの話には合うんじゃないだろうか? つか、久々に白黒で描きたい! というわけで白黒です。

 山本の暗さと重さの表現に手こずりました。


 さて、最初にお話したように第六体目を無事投稿できるか分かりません。出来上がり次第載せます(*`・ω・´)

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