トリノ新監督、チーム期待の若手とともに~ヨーロッパ一周!?~(2)
スペイン。情熱的な国民性で街行く人々の顔がどことなく暑苦しい。
そんなことを考えながら鏡夜はスペインの風に吹かれていた。
「ねぇねぇねぇねぇ!勝負しようよ、キョウヤ!僕とさぁ!」
隣の少年を傍目に。
時は数十分前にさかのぼる。
「じゃあキョウヤ!今から君が会うのはブラジル人のルイス・ファルコ、五輪代表にも選ばれているトリッキーなアタッカーだ。君とは正反対だな。それでルイスの相手をしていてほしいんだ、俺は今からバルセロナにもう一人を拾いに行かなきゃならないんだ!」
「え、ちょ、待ってくれよ!」
「じゃあガンバレ!もう少し進んだ公園に待たしてるから!」
と言ったブラウンにおいて行かれた鏡夜はブツクサと文句を言いながら件の公園へと向かったのだった。
そこにはたしかに少年がいた。しかし、その子はとても自分と同じ年(22歳)とは思えなかった。
足元のボールを器用にいじりながらいるその少年は、とても小柄で華奢であった。黒髪の天然パーマの下の顔は恐ろしく童顔だ。大人に見えない。
しかし、あの子が件の少年に間違いないと感じた鏡夜は、とりあえず話しかけることにした。
「お、おい、君がルイスか?」
「……東洋人、黒髪、長髪のポニーテール、切れ長の目、整った顔立ち、君がキョウヤだね!?」
いきなり自分の見た目を口にしたと思えば、彼は一気にテンションを上げて鏡夜につかみかかってきた。
「うわっ!?な、なんだよ、それがどうした?」
「アハッ!キョウヤ!僕と勝負しようよ!」
「はぁ?やだよ、負けそうだし」
こうしてルイスが隣に座りこむ羽目になったのであった。
「ねぇ、ねぇってばー!キョウヤ、僕と勝負しようよ!」
鏡夜はいい加減この隣のガキがうるさくなってきた。彼自身は勝負してもよかったのだが、自分の小さなプライドが勝負を怖がっていた。
「ははーん、そこまで拒否するってことはさ、僕と勝負して負けるのが怖いんだ!」
「ああ?そんなことねぇよ、ただ面倒くさいから」
「面倒くさい?そんなこといってー、こわいんでしょー?」
その言葉に鏡夜の自尊心はすっかり鳴りを潜め、鏡夜の中の負けず嫌い精神が現れた。
「そこまで言うんならいいぜ!後悔すんなよ、クソガキ!」
「僕たち同じ年だよ!でも後悔はしないさ、なんて言ったって、僕、天才だからね」
自分を天才と自負する少年の目に嘘はなかった。本当に確信しているらしい。
鏡夜はその自尊心を折ってやろうと思った。
「じゃあこの木と木の間が僕のゴールで、そっちのジャングルジムの端から端までがキョウヤのゴールね!」
「いいぜ、さっさとはじめよう」
そうして勝負が始まった。
まず最初にボールを持ったのはルイスだ。「いくよ」とつぶやいてゆっくりとドリブルで鏡夜に近づく。
(足元にボールが吸い付いてやがる、ブラジル五輪代表のエース様っていうのは嘘じゃねぇみたいだな)
鏡夜は自分の守備範囲を設定している。それはいつものことで、その範囲内に相手選手が入ると自分はスピードを上げてプレスをかけにいく。その範囲は半径十五メートルだ。
ルイスが鏡夜の範囲に入ると、鏡夜は仕掛けた。
ルイスはそれを嘲笑うかのように鏡夜を超すほどの高さのループパスをだし、自分は向かってくる鏡夜を追い越してゴールにドリブルを始めた。最初のようにゆっくりなドリブルではなく、敵にとられることを想定していない大きく伸びたドリブル。
しかし、鏡夜も負けていなかった。パスが自分の頭を超えた瞬間に体を反転させボールを追いかけた。惜しくもルイスにボールはとられてしまったが、すぐに体を寄せてルイスのドリブルを邪魔する。ルイスがボールを大きく伸ばした瞬間、鏡夜は目の色を変えてボールを追いかけ奪取した。それはルイスにとっては想定内であった。
鏡夜はすぐに前を向いたが、そこにはすでにプレスをかけにきたルイスの姿があった。ニヤリと不敵に笑い、鏡夜は右に鋭いパスを出してルイスを追い越した。ルイスがすぐに反応して振り向くと、ブランコを仕切っている金属のゲートにあたった鋭いパスが跳ね返ってちょうど鏡夜が自分を追い越したところに戻っていくのが見えていた。
鏡夜は上手く抜け出し、そこからすぐにシュート体勢へ入った。しかし、後ろからの強烈なスライディングによりボールは彼の足元から離れて行ってしまう。もちろんルイスのスライディングタックルだ、的確にボールだけを射抜いた彼もすぐに立ち上がりボールを追いかける。
二人とも自然に笑顔になっていた。特にルイスは満面の笑みであった。
(こんなに楽しい勝負は久しぶりだなあ!キョウヤスゴイや!楽しい!)
鏡夜もいつものクールな表情はどこへやら、完全に表情は崩れ笑顔を見せていた。
(天才というだけはあるぜ……ルイス!)
二人の天才が一進一退の攻防戦を続ける中、ブラウンはバルセロナのとあるカフェについていた。
入ったカフェは物々しい雰囲気だった。入るとすぐに店員に店内を案内された。そこには浅黒い肌をしたモヒカンの青年が座っていた。
ブラウンは彼に向けて小さく手を上げる、すると彼もニッコリとその端正な顔立ちをゆがめた。
「やあ、ジュリエ・ダビド・アーリー。ひさしぶりだね」
「ブラウーン、会いたかったぜ。何年ぶりだ?まあ座れよ、ゆっくりコーヒーでも飲みながら話をしよう。それとも何か頼むかい?ああ、それとこちらは俺の代理人のカーミッルだ。」
何年ぶりになるだろうか、懐かしのマシンガントークを聞きながらアーリーの隣の代理人に軽く挨拶をする。
適当に昔話や世間話をすませると、すぐにブラウンは本題に入った。
「それで移籍の話なんだが……どれぐらいの移籍金をレアルは提示しているんだい?」
「おそらくですが…約30万ユーロ(日本円で約4千2百万円)ほどだと思われます」
「ふむ……それで、君の希望契約年数と年棒は?」
ブラウンがそう問うと、アーリーはいつも通りの笑みで答えた。
「二年契約で約10万ユーロ(日本円で約1400万円)ほどかな…レアルにいたおかげで金には困ってないしね」
「それはありがたい偶然だな……ちょうど予想金額とあったよ。正式に君にオファーしたい」
ブラウンがそういうとアーリーは何も言わずに右手を差し出してこういった。
「アンタの下でプレーできるなら喜んで!」
ブラウンが一人公園へと戻ってくると、そこにはなぜか人だかりができていた。
嫌な予感がした。
「おいおいおい……まさかなぁ!」
人だかりをかき分け進んでいくと、そこには思った通りの二人がいた。
プロでも中々見れないほどの一対一を繰り返す彼らに声をかけることにした。かなり嫌々ながらだったが。
「キョウヤ!ルイス!何をしてるんだ!?」
「あ、かんと…っとあぶねぇ!」
「ちぇ、これでもダメかぁ…君も化け物だねぇ」
ブラウンの声に反応した鏡夜の隙をつこうとルイスがボールを奪いにいったが、鏡夜が器用にボールを足の指先だけで逃がした。
そんな姿に野次馬の感嘆の息が漏れた。
だが、鏡夜もルイスもブラウンに連れられ車に乗せられると、すぐに出発した。
こうして彼らの一週間の旅は帰路へとついたのであった。
ユーロはちょっと不安なんで、間違いがあればご指摘お願いします!
やっと5人そろいましたな。