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トリノ新監督、『才能』と出会う(2)

Q、トリノの中で気になる特に気になる選手はいるかい?


A、そうだね…ヒガシは面白いプレイヤーだよ、とても日本人とは思えない。イタリア生まれらしいし、イタリア国籍も持ってるらしいから、ぜひともイタリア代表でプレーしてほしいと思うくらいだよ!

 それとDFのリピッドはかつてのパオロ・マルディーニを彷彿させるようなプレイヤーだね、まだまだ粗削りだが、今季にはイタリアを代表するような選手になるはずさ。



Q、これは個人的な質問なんだが、奥さんとはうまくいっているのか?


A、あー、うん、まあね。(妻ジェシカ・ブラウン、元ハリウッド女優)






「ではこれで記者会見を終わらせていただきます。みなさんお集まりいただき本当にありがとうございました!」

 その言葉をきっかけに記者たちは颯爽と席を立ち、部屋を出て行った。数分後、部屋に残っていたのはブラウンとヒルネコ、そしてユーのみだった。

「まさかお前が監督になるとは、予想外だったよ」

「ハハハ、僕も思わなかったよ、ヒルネコ。でもね、僕はイタリアに新しい風を吹き込みたいんだよ」

「それは昔から言っていたな、ブラウン、無茶だけはするなよ。お前はいつもそうだ、現役時代にアーセナルを突然離れたのも……」

「おっとぉ、わかってるよ、じいさん。それじゃ、そろそろ僕は会議があるからいくよ、またね!」

「そうか、せいぜい頑張れよ、ブラウン!」

 そう言ってヒルネコはユーを引き連れて会見場を出て行った。



「ヒルネコさん、どうしてブラウン監督はアーセナルを出たんですか?」

 ユーは帰り道、ヒルネコにこう質問した。彼はさっきの話が気になって、スマートフォンで何度も調べたがブラウンの移籍についての話は見つけられなかった。だから、事情の知ってそうなヒルネコに聞いたのだった。

「ん?怪我だよ、右足首の靭帯を切っちまったのさ」

「靭帯……それなのにそのあと三年もプレーしたんですか!?」

 ユーは驚いた。靭帯が切れてしまえばもう治ることはない。そのことを分かっていたユーはブラウンのことが非常に気になり始めた。

「あぁ、利き足じゃあないほうの左足を使ってプレーし始めたんだよ、あのバカは。右足は走ることくらいにしか使えなくなった、左足を中心に使うことにしたのはいいが、以前より多大な負担がかかったことによってよぉ、アイツの足は使い物にならなくなっちまった」

「そ、そんな…すごい人ですね」

「……これからはお前に取材を頼みたい、お前の育成にもなるし、わしは記事を中心に書きたいからよ」

 ユーはこの言葉を聞いて嬉しかった。師であるヒルネコに認められた感じがしたのだ。

「はいっ!」

 と運転席で良い返事をした。ヒルネコの車はスピードを上げて、まだ明るい夕方の町を抜けて行った。












 その数日後、トリノFCのクラブハウスは騒然としていた。

「ブラウン!ブラウンはどこにいる!!」

 こう怒鳴るのはトリノFCの代表、クラウチト・インブルム氏だ。白に染まりきった髪をオールバックに固めた老人は、そのしわをいつもより寄せて怒号を放っていた。

「代表!監督の部屋にもいませんでした!」

 こういうのはイタリア人ヘッドコーチのボヌ・ティッチ。少し茶色がかった黒髪にパーマをあてたような髪型の彼は、中間管理職であるためか、非常に困った顔をしていた。

「落ち着いてください、ミスター・クラウチト。ブラウン監督は書置きを残していますよ」

「なにぃっ!見せろ!」

 クラウチトが、広報部の女性広報、ミシカ・ミティリッチから書置きされた紙を奪った。クラウチトが持つ紙にスタッフや、コーチたちが集まって覗き込む。

 その紙にはこう書かれていた。

『友人に会ってきます、一週間くらいはボヌに任せます。ブラウン』


「「なっ、なにぃぃぃっ!?」」

 トリノの街の一角、街の人々に愛されるサッカークラブのクラブハウスは大きな音で揺れた。











「いやぁ、ヨーロッパを一週間で車で回れるっていうのはいいもんだよなぁ、ヒガシ!」

 一方、場所は変わって、ミラノの街中、サングラスをかけた明るい茶色の髪をなびかせ、ブラウンはオープンカーを走らせていた。

「なんで俺まで……」

 隣の助手席に座り、腕組みをしているのは東鏡夜だ。恐ろしく長い黒髪は瞼の上でパッツンにし、それでも長い後ろの髪は頭の頂点で跳ねるように縛られていた。サムライのような見た目だ。

「お前がキーなのさ、アイツラ(・・・・)を獲得できるかはね」

 ブラウンはニヤリと笑う。

 オープンカーのスピードがどんどん緩み、一つの喫茶店の前で止まる。ブラウンが運転席から降り、喫茶店へ向かい、鏡夜もそれに次いで車を降りる。

 喫茶店の一角では一人のゴツイ体格をした男が悠々とコーヒーカップを口にしていた。

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