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トリノ新監督、『才能』と出会う(1)

 六月初旬、トリノFCは新たな監督を招聘した。トリノFCのクラブハウス、記者会見場ではパシャパシャとカメラのシャッター音がある男性に集中していた。


「いやあ、どうもどうも!みなさん、お久しぶりッですね!」


 このテンションの高い口調の男は、色素の薄い金髪を右に軽く流したようなキッチリとした髪型を気にせずボリボリと頭をかいていた。

 この男こそ、イタリア人新監督、ビアレロ・ブラウン。1974年トリノ生まれで、サッカーをこよなく愛する少年はトリノFCでそのキャリアをスタートさせた。ポジションはボランチ、類稀ない戦術眼を持ち、非凡なパスセンスを持った選手だった。トリノで3年間を過ごすと、イングランドプレミアリーグの強豪アーセナルに移籍。ローマやACミランにも声を掛けられたと噂されていたが、本人が


「僕はトリノ以外のセリエAのクラブでプレーすることはない」


 と断言し、トリノへの正真正銘の愛を語った。そして、30歳の時にアーセナルからトリノに復帰、その後引退する33歳までの3シーズンをトリノで過ごした。

 その後は監督としてセリエBでデビュー、その1年後にはそのチームを昇格一歩手前までに成長させ、その手腕を認められR・マドリードの下部組織の監督を2年間務めた。その後は名門の下部組織を転々とすることになった。ドイツのバイエルン・ミュンヘン、ブラジルのサンパウロを経てトリノの下部組織に戻った。

 その翌年、セリエSと呼ばれるセリエAのクラブの下部組織で行われるリーグ戦で2位、カップ戦で優勝を果たし、その手腕をトリノFC現代表のクラウチト・インブルム氏に認められ、今日、この日に至る。




「お久しぶりです、ブラウン選手、いや今はブラウン監督ですか。懐かしいですな、君がトリノFCのトップチームに帯同してきたあの日が昨日のように感じられる」


 こういうのはトリノFCをもう30年ほど追い続けているベテラン記者、ビオン・ヒルネコだ。トリノ生まれの60歳で、28のころからトリノを追いかけている大ベテランだ。地元新聞に『ヒルネコのトリノFC考察』というコーナーを持ち、TVにもたまに出演しているダンディな老人だ。


「おやおや、ヒルネコのじいさん。まだ生きてたのかい?もう引退したものかと思っていたよ、アンタがまだいるなら、俺は随分としゃべらされるな」

 ブラウンは満面の笑みでこう返した。会場が笑いに包まれる。

 その中で一人、おどおどと何故か焦っている男がいた。ヒルネコの部下にあたる新人記者、ユー・オブルだ。

(あ、あのヒルネコさんにあんな軽口を…!あの監督、頭おかしいのか!?)

 ユーはヒルネコにいつも怒られてばかりで、彼の温厚な面も知っていたが礼儀知らずにはとことん厳しいところも承知していたため、当事者でもないのにかなり焦っていた。


「ほっほっほっ、その軽口も変わっておらんのぉ。本当に懐かしい」

 だが、礼儀に厳しい老記者は静かに笑い、本当に懐かしそうに目を細めた。

 ユーはかなり疑問に思ったが、次にこの場をよく見渡してみた。よく見ると、ほかの記者もいつも見るような顔ぶればかりで、本当に地元の記者たちしかきていなかった。

(トリノFCってあんまり注目されてないのかな?で、でもビアレロ・ブラウンって結構有名な選手だったはずなのに…まぁいいか、僕はヒルネコさんの仕事を見て良く学ぼう!)

 ユーはすぐに疑問を捨て、仕事に集中した。

 以下は記者の質問内容と、ブラウンの答えである。Q&A方式で明記されている。





Q、今季からトリノFCを率いていくわけだが、具体的な目標は?


A、もちろん優勝を目指すよ、確かに去年は屈辱的な位置に終わってしまった。それにベテランの選手も何人か引退したし、レギュラーも半分は引き抜かれた。だけど、そのアテはもうあるし、それに今チームは良いコンディションを保てているみたいだし、優勝を狙うしかないよね。



Q、そのあてというのは、やはり君が以前率いていたような若い選手が中心かな?


A、その通りさ、レアル、バイエルン、サンパウロ、そしてトリノ、いろいろなチームのユースを率いたけど、そこで僕はいつも結果を出すことができた、そのおかげでコネクションが少しばかり生まれてね、今季の補強は下部組織からとかトップ昇格すぐの選手が多いと思うよ。



Q、トリノのユースからも何人か昇格させるのかい?


A、ああ、今考えているのは3人、その中でも1人は確実に上がってもらって即レギュラーかな(笑)



Q、今季、最も危険な対戦相手はどこだと思う?


A、ユーヴェ、ローマ、それと…ナポリかな。



Q、どうしてそう思うんだい?


A、まずユーヴェはどこからどう見ても危険だろう(笑)、ゴヌエスとディエロは成熟された連携を持ってるし個の力も強い、正に『鬼に金棒』とかいうやつだね。

 次にローマは確実に力をつけてきているチームだ。アラトも2年目だし、しっかりと仕事のできるFWも、非凡なパスセンスを持つボランチも、強固な守備陣もいる……ないものがないチームだよ。一番危険なチームだ。

 ナポリは去年4位で惜しい成績だったが、実力は本物さ。ボエロ1人でチームが変わる、ボエロの活躍で相方のFWが素晴らしい成績を出せる。実際、去年ボエロの相方を務めていた今はレアルのウクライナ人、アドリュー・ゼフチェンコは得点ランキング2位だったしね。

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