『カルチョット!』
まことに勝手ながら再開させていただきます。
『カルチョット!』とは、セリエAが発足し、テレビ番組が盛んになってきたころからセリエAのことだけを特集してきたテレビ番組で、セリエAファンの間では毎週見るのが日常となっているほどの長寿番組だ。視聴者の年齢層はまさに老若男女。セリエAの人気が下がったときも欠かさず見ている人が多い。
サッカー選手や監督たちも見ている人が多く、トリノFCの新監督ビアレロ・ブラウンもその一人だ。
「うーっし、今日もカルチョット見なきゃね」
ここはクラブハウスの監督室、開幕戦を控えたブラウンは、プレシーズンマッチのくやしさを抱えながらも監督業務に追われていた。しかし、昔からの『カルチョっ子』であるブラウンに『カルチョット!』を見ないことなどありえない。それこそ、どんな日でも欠かさず放送時間が近づくとテレビの前で集中していた。フロントとの会議中であっても、トイレでおなかが痛くても、妻といい雰囲気になっていてもだ。
チャンネルをつけると、おなじみのタイトルロゴがこれでもかと言わんばかりに画面を支配する。そして、出演者3人がスタジオで出番を待っていた。
左の司会者はキャスターのマルコ、その横に座っているのが左から元イタリア代表でブラウンともプレーしたことのあるMF、ルイージ・モッタ。その隣が同じく元イタリア代表のDF、ネロ・メロウだ。ルイージはセリエAだけならず様々なクラブを渡り歩いた旅人、ネロは全く逆でACミランで20年間在籍し続けたレジェンドだ。
そんな二人がメインキャストで、毎回もう一人ゲストを呼んで始まるのがカルチョット!だ。今回のゲストは昨年現役を退いたセリエAを代表する名監督、ベルーニョ・スマノフ。トルコ人ながらイタリアのクラブ一筋で、現役時代からセリエAを渡り歩き、監督になってからもセリエA、昨年はジェノアをギリギリで踏み止まらせた。トリノFCを率いていた時代もあり、その時はブラウン32歳の時だった。
「おお、ベル爺さんか。この人は辛口だからなぁ。俺も現役時代何度詰られたことか」
少し感慨に浸りながらテレビの内容に没頭する。『カルチョット!』の内容は下記のとおりである。
マルコ「さあ、今年もセリエA、開幕の時期がやってまいりましたね!ルイージ、ネロさん!そして今回のゲスト、ミスター・ベルーニャ!今日もよろしくお願いします」
ルイージ「オイオイ、なんで俺だけ敬称略?ま、よろしく頼むぜ」
ネロ「よろしくお願いします」
ベルーニャ「ふぉっふぉっ、よろしくお願いしますじゃ」
マルコ「まあまあ落ち着いてくれ、ルイージ。では早速ですが、今年もコレ聞いときましょうか」
そういうマルコが取り出したフリップにはこう書かれている。
『今季の注目クラブ!優勝候補クラブ!残留争いクラブ!』
この企画は毎年恒例のように行われている、いわば順位予想のようなもので、キャスト2人とゲストがそれぞれ今年注目しているクラブ、優勝争いに参加、もしくは優勝しそうなクラブ、残留争いをしてしまいそうなクラブと一つずつ挙げて、理由と注目選手を一人挙げる。そしてそれについて議論を交わすといった内容の企画だ。
この企画はなかなか人気の企画で、セリエAの選手たちも開幕前にはこの番組を見ている選手が多い。自分たちの今の立ち位置を、3人もの人間の目から議論されれば、きちんと確認できるからだ。
マルコ「みなさん、今回も予測をつけてくれましたかね。ではみなさんフリップをお願いしますよ!」
以下は3人それぞれのフリップ内容である。
ルイージ
注目:ナポリ
注目選手:バーレン・モクス
優勝:ユヴェントス
注目選手:レン・シュタイン
残留:トリノFC
注目選手:ルイス・ファルコ
ネロ
注目:トリノFC
注目選手:フェルゼン・マオアー
優勝:ASローマ
注目選手:レオ・エドワード
残留:インテル・ミラノ
注目選手:フェリペ・ドロイト
ベルーニャ
注目:フィオレンティーナ
注目選手:ジョルジ・ロベルト
優勝:ユヴェントス
注目選手:ヤン・マコスキー
残留:リヴォルノ
注目選手:マルコ・アソンテ
マルコ「ほぉう。とりあえず話を聞こうか。ルイージ。まず、注目クラブについて意見をお願いしますよ」
ルイージ「今季こそはナポリが来ると思うんだよ俺は!ゼフチェンコは移籍しちまったけど、新加入のバーレンは良い選手だ!小柄だが、足元の技術はハンパない。それに得点感覚もすごい。ボエロの相棒はバーレンで決まりだね」
ネロ「ルイージにしては珍しく手堅いですね。というか疑問なのはなぜ、トリノFCが残留争いをすると予想しているのかなのですが。やはりその眼は節穴ですか?」
先に言っておくと、このルイージとネロは現役時代から反りが合わない。共に40歳と同級生であり、代表でも何度も組んできたが、何処に行っても喧嘩ばかりしている。だが、それをまさかテレビでも披露し、それがカルチョット!名物になろうとは、だれも予想していなかっただろう。
ルイージ「ハン、君の方こそ節穴だろう。トリノは穴だらけで、それを修復できていない。個人技頼みのサッカーなんて流行らないさ!ブラウンは確かに名監督になり得るポテンシャルはあるだろう、しかしだ。ユーヴェとのプレシーズンマッチを見たかい?あれはひどかった。相手がユーヴェとはいえ、ライバルクラブ相手に6失点してるようじゃ降格待ったなしだね!」
ネロ「君は試合内容は見たのかい?トリノは後半にほとんどベストメンバーのユーヴェから1得点している。カウンターとはいえこれはポジティブに捉えるべきです。今年のトリノには面白い若手が多い。ブラジルの至宝のルイス・ファルコとかね」
ルイージ「ブラジルの至宝?ハン、そんなの何処にでもいるだろ!ブラジルの至宝はフェリペ・ドロイトだけで十分さ。彼は素晴らしい!今年はインテルが優勝できるとはとても思えないが、フェリペにはどうか活躍してほしいね」
ベルーニャ「確かにわしも、インテルは厳しいシーズンになると思うのう。まさかエースストライカーのジャンに続いて、10番を背負っておったクロノスまでとられるとは。インテルのフロントには失望しかない。監督として頭を抱えざるを得ないのう」
マルコ「インテルは今年厳しそうですね。ネロさんも残留争い候補に選出していますね。これについてはベルーニャ監督と同意見ですか?」
ネロ「ええ、我々はコラムニストなので、散々に言わしてもらいますが、ジャン・ディエゴ、クロノス・ファーウィル、さらには守備の要であるテッジョ・フォナハンを放出し、その後釜がトリノのFWシュローネや、セビージャのバンガ、マンBのラダン。完全にスケールダウンです。昨年は優勝も期待されていただけに今季のスケールダウンが本当に残念でならない。残留争いをしていてもおかしくないと思い、選びました」




