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プレシーズンマッチはいつも燃える。

 この日、キャンプを終え、三日ほどの休暇をすましたトリノFCの面々は、トリノ郊外・ユヴェントススタジアムに揃っていた。そろっているとは言っても、そこには17人しかいない。プレシーズンマッチとはいえ本気の勝負に違いはない。そのため、ブラウンはおそらく彼の中で今出せるベストメンバーを選んできた。

 逆にホムロムが選んだ17人は若手中心のメンツであり、彼にとってこれはシーズン前の腕試しにすぎない。だが、その中でも練習の時から異彩を放つ二人の選手がいた。一人はメガネをかけた銀髪の好青年で、もう一人はいかにもスピードタイプな黒人の選手だ。どちらも若く、それでいてどこか落ち着いてる。その二人の若手をベンチから見て、ブラウンは苦い顔をしていた。

「まさか、秘蔵の黄金の卵をこの試合に使ってくるとは、予想外だったよ」

「あれがユーヴェが隠していた原石、レン・シュタインとジョージ・ダイアンですか。遠目で見ていても素晴らしい技術ですね」

 レン・シュタインとジョージ・ダイアン。この二人が、ユヴェントスが大事なサイドアタッカー二人、ゼノ・アルターとアマンダを簡単に手放した理由そのものだ。ドイツとイタリアのハーフでユーヴェ下部組織所属の天才MFのレン・シュタイン、そしてアマンダと交換でイングランドからやってきたスピードスターのサイドアタッカー、ジョージ・ダイアン。この若く、素晴らしい原石を手に入れたホムロムは、どうやらこのトリノダービーでそれを試すつもりらしい。

「あーあ、やんなっちゃうよ。若手中心なら勝算100%だったのに」

「あったんですか、100%」

 ボヌはそこに驚くが、ブラウンは本当にそう思っていたらしく、「当たり前じゃないか」と何でもなさそうな顔で返した。

「あそこまで選手たちをあおったんだ、私が勝たない気でどうする」

「まあ、そうですね。そろそろ練習も終わりますし、ロッカールームに一度引き揚げましょう。選手入場が始まりますよ」

「そうだね、まああの二人を見たかっただけだ。さっさと戻ろうとしよう」




 二人がロッカールームに戻ると、何故かロッカールームは殺伐としていた。

「また言いやがったなアンドレェ!!」

「あー、またテメェかよ。うざってぇ、小言くらい聞き流せや」

「その小言ってのは外にまで聞こえてくるもんなのかよ!お前の粘っこい声が外まで聞こえてきてんだよ!」

「俺様の声は誰もが聞き惚れる美声だろうが!ぶち殺すぞ!」

 論点はずれていたが、他の選手が止めに入っても止まらないくらいには両者ヒートアップしていた。

「おい!アンドレ、キョウヤ、落ち着け!」

 慌てて止めに入るボヌ、しかしブラウンはボヌより先に彼ら2人の真ん中に立ちその鼻をつまんだ。

「これから同じピッチ、同じ陣地で戦う仲間同士で喧嘩をするんじゃない。キョウヤ、お前は少し暑くなりやすいぞ。アンドレ、お前はこのクラブの小言を言うことしかできんのか」

 ブラウンの登場により、二人はなんとか落ち着いたが、関係は日々悪化しているに違いない。チームのホープと、不器用な王様の対立。ブラウンは彼らをどうにかする方法を発見できずにいた。

 しかし、今はそんなことを気にしている場合ではない。もう宿敵との試合はすぐそこなのだ。

「まあ、トラブルもあったが、もう試合は始まる。ユーヴェはベストメンバーではないとはいえ、油断してはならないよ?さあ、あの白い悪魔のピノキオのような鼻をへし折ってやろうではないか」

 ブラウンの言葉に沸き立つトリノの面々。宿敵を前に高揚しているのはサポーターだけではない、彼らもまたその有り余る血気を盛んにし、戦いの場へと向かっていくのだ。





トリノFC メンバー紹介


GK 40 フェルゼン・マオアー


DF  3 キャンディ・ベルバーロ

DF  2 リク・アレサンドロ

DF 17 フォン・マッテオ


MF 20 アダン・ツェッリ

MF 10 アンドレ・ティガー

MF 11 キョウヤ・ヒガシ

MF 77 ルイス・ファルコ

MF  4 ファン・ウィレム・ガート


FW  9 ケイト・ズラーカ

FW 16 バッフォン・ミミングストン


ベンチ


GK 21 ルカ・ドリオン

DF  7 リピッド・アンゴラ

MF 18 サンタ・テレシア

MF 30 ジョン・ウィルソン

MF  8 フォッジ・ガルシア

FW 99 ジュリエ・ダビド・アーリー



 トリノのフォーメーションは3-2-3-2。新規加入の選手を多く使う新鮮な顔ぶれ。ゴールキーパーには期待のドイツ人マオアーを据え、リクを中心とした3バックを構成。ボランチにはアダンとアンドレという珍しい組み合わせ、アダンを中盤の守備に走らせなければならなくなるが、アンドレがパスワークを作ればなんとかなるか。二列目には破壊力抜群の3人を起用。特にブラジルの至宝ともいわれるルイスには注目か。最前線には昨季と同様、破壊力のケイトとスピードのバッフォンの2トップ。また、控えにはDF1人という大胆な選出。これが吉と出るか凶と出るか。レアル・マドリーのカンテラ育ちのアーリーはベンチスタート。




 ユヴェントスは期待の若手、レン・シュタインをトップ下に置き、ジョージ・ダイアンを右に据えた4-4-2のフォーメーション。ベンチには一応の備えか、ゴヌエスとディエロが鎮座している。個の力でなりふり構わずにふるう暴力のようなパスサッカー、トリノはこれをしのぐことができるのか。

 今、選手たちが整列を終え、握手を終え、それぞれのポジションへと移動していく。シーズン前のダービーマッチ、それが始まろうとしていた。

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