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彼らはぶつかりあう。

 ついに練習が始まった。この日の中心の練習になったのは、ほとんどが紅白戦だった。2チームに分かれての紅白戦で、12人ずつで試合を回した。

 何度も何度も紅白戦をしたが、その間にブラウンが口を出すことはなかった。

 ちなみに、チーム分けはこうなっている。


RED


GK サニッチ・モルフ

GK ルカ・ドリオン

DF リク・アレサンドロ

DF フォン・マッテオ

DF ジョン・ハワード

MF アダン・ツェッリ

MF ジョン・ウィルソン

MF フォッジ・ガルシア

MF スウェン・ウォンジヤー

MF アンドレ・ティガー

MF マリオ・ミケレリ

FW バッフォン・ミミングストン


WHITE


GK フェルゼン・マオアー

DF キャンディ・ベルバーロ

DF リピッド・アンゴラ

DF チャールズ・ホナベルト

DF ピールオル・シャンジュ

MF キョウヤ・カガミ

MF ファン・ウィレム・ガート

MF ルイス・ファルコ

MF サンタ・テレシア

FW ケイト・ズラーカ

FW ジュリエ・ダビド・アーリー

FW ジジ・ジュニオール




「…移籍選手対既存選手みたいな感じですね、監督」

 ボヌがブラウンに話しかける。レッドの方は昨季のスタメンから移籍した選手を抜いたような感じで、逆にホワイトは既存の選手プラス移籍してきた選手というありがちな感じである。

「ふっふー、まぁそうかな。まぁ厳正なルーレットの結果だし、文句は言わせないよ」

 彼の手元には、昨日徹夜で自作したという大仰なルーレットの針が回っていた。もちろん自分で回している。盤面には単純に赤、白とイタリア語で書かれている。

「監督、スタメン決めました」

「こっちもよ。不満もなし」

 レッドのキャプテンサニッチ、ホワイトのキャプテンマオアーからそれぞれのスタメンが書かれたメモを受け取る。そしてその場で出場選手やポジションが間違っていないかの確認をする。

「ふむ、一試合目のレッドはサニッチがキーパー、DFはリク・マッテオ・ハワードの三枚、中盤はアダンとジョンのボランチ、右にスウェン、左にフォッジ。トップ下にはアンドレとマリオね。んでワントップにバッフォン。控えはルカ。うん、予想通りのスタメンだ」

「まぁ、昨年までの選手ばかりですから。これが一番的確かと」

 そういうサニッチに、ブラウンは「うん、まあその通りだ」と言ってメモをボヌに渡した。そして次にホワイトのスタメンの書かれたメモを読み上げた。

「キーパーはマオアー、DFは…二枚、リピッドとキャンディ。ボランチはウィレムだけ。右にはキョウヤ、左はピールオル。トップ下はルイスとサンタ。FWがケイト・アーリー・ジジ。控えはチャールズ……これまた予想外だね」

「でしょ?アタシもまさかブラジルの至宝ルイス・ファルコがアホだとは思わなかったわ。これじゃ守備なんてあってないようなもんじゃない?」

 呆れ顔で言い放つマオアーだが、その表情はワクワクしているように見えた。ブラウンはハハッと笑って、メモをボヌにわたす。そのメモを見たボヌも驚愕の顔をしていた。

 控え選手二人がベンチに座ると、選手たちはそれぞれのポジションについた。もうすぐ紅白戦が始まる。




 結果から言うと、ホワイトがレッドを圧倒した。変則的なフォーメーションで挑んだホワイトは最初こそ戸惑っていたものの、ルイスを中心としてすぐに順応した。一方、レッドは昨季までと同じポジションということもあって上手く機能したものの、最後の最後でミスが目立った。

 スコアで言えば、2-7。先制したのはレッド、バッフォンがアンドレのスルーパスに抜け出して先制。だが、そこから攻勢に出たのはホワイトだった。

 ルイスのミドルシュートのこぼれ球をアーリーが押し込んで同点にし、更にキョウヤのクロスをケイトが頭で決めて追い越した。試合は完全にホワイトのペースになった。しかしこの時点ではレッドもあきらめなかった。マリオがドリブルで抜け出したのをキャンディが痛恨のファウル。ゴール近くのフリーキックをアンドレが決めてまたも同点に。それでも、この紅白戦のペースはホワイトだった。

 再開直後に、サンタの縦パスに反応したピールオルが一陣の風となってサイドを独走、マイナスのクロスに反応したのはケイト。ボレーで勝ち越し点を決めると、ここからホワイトの攻撃陣が爆発した。4点目はキョウヤのグラウンダーのクロスに、ルイスがオシャレにヒールで流し込む。更に得点したばかりのルイスがキョウヤとのコンビネーションで守備陣をスルスルと抜け出してシュート。これはサニッチがパンチングで弾いたが、こぼれ球をまたもアーリーが押し込んで5点目。コーナーキックからキャンディがヘディングで叩き込んで6点、紅白戦終了間際にはサンタが自慢のテクニックでレッド守備陣を翻弄し、最後は敵を欺くロブのパス、それをアーリーがバイシクルでゴールを決めてハットトリック。移籍加入組が自分の良いところをアピールした。




(ここまでとはな……)

 そう心中で呟いたのはアダンだ。怪我明けで体が鈍っているとはいえ、元はチームのバンディエラだ。彼なりのプライドがあったに違いない。しかし、それもこの試合で叩き潰された。特に監督が直々に移籍交渉しに行ったという4人の活躍は素晴らしかった。

 どれだけシュートを浴びせてもすべて弾くマオアー、2バックという難しい役割を簡単にこなして得点まで決めたキャンディ、アンドレ以上のボールコントロールと意外性を武器にするルイス、ずば抜けたセカンドボールへの嗅覚に合わせて正確なシュート技術を持つアーリー。

 新監督が直々に交渉してきた新戦力、その爆発的能力にレッドの面々は圧倒されるのみだった。

 アダンが水の入ったペットボトルを口にしたそのとき、誰かの怒号が聞こえた。思わず咳き込むアダン。すぐに彼は怒号が聞こえた方へと走っていった。



 走っていくと、その状況に気づいたアダンはすぐに間に入った。そこにいたのはチームの王様アンドレとキョウヤだった。二人は胸ぐらをつかみあい、今にも殴り合いの喧嘩を始めそうな、剣呑な雰囲気でにらみ合っていたのだ。「何をしてる!」と怒鳴って二人を無理やり引き離したアダンは、すぐにアンドレを問い詰めた。

「おい、アンドレ!キョウヤも!どうしたんだ!」

 アンドレはふんと鼻を鳴らすと、何も言わずその場から離れる。

「アンドレ!答えろ!ったく、キョウヤ、何があったんだ」

「あのクソナルシスト……またここのことを掃き溜めってぬかしやがった」

 キョウヤはトリノ愛の強い選手だ。日本からやってきた彼は、トリノに育ててもらったと日頃から言っていて、アダンやリクといったチーム愛の強い選手たちの影響が強い。

 反対にアンドレは、名門アーセナルでその才能を開花させ、セリエAのインテルに戻ってきた。当時こそイタリアでの活躍を期待されていたものの、その性格が災いしチームから孤立、そしていろいろなクラブを渡り歩いてきた。そして今、セリエAでもギリギリ残留の位置にいるトリノでの生活に嫌気がさし始めているのだった。

 そんな正反対の二人が仲良くやれるわけがなかった。昨年からその対立はドンドン深まっていって、最近では目が合っただけでお互いをなじり合う。キャプテンアダンの悩みの種の一つだった。




「フフ、面白いねぇ。チームの核になれる二人の対立、悩むキャプテン、さぁこれからどう適応していくのかな、移籍組選手たちよ」

 彼らのいざこざを見て、ただ一人にやつくブラウン。ブラウンは楽しげに微笑んだ。

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