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持っている手駒と大誤算

 狭い遺跡の中をガチャガチャと金属音を鳴らしながら走り回る男達が数人。先頭を走る男は黒い甲冑に身を包んでおり、黒い兜も装着しその顔は見えないが明らかに後ろに続く者達とは違う鎧だ。つまり、彼は逃走者であり後ろの列は追跡者と言うことになる。

 彼――黒騎士は遺跡の通路を駆ける。途中で出くわしたT字路を前に彼は曲がって入った。当然追跡者もそれを追い黒騎士が入った通路に曲がり――。

「ぐわぁっ!?」

 悲鳴が響く。何が起きたのかと続いて入った者達も同じ様に斬られていく。黒騎士はその見た目に似合わずまさかの待ち伏せ戦法を決行していた。黒騎士は元の通路に戻り、自分が通ってきた道を見る。そこには更に増援が出て来ていた。

「くそ」

 呟くと彼はまた走り去る。

「ああもう、本当、林檎の奴何処に行ったんだよ……!」

 と呟いた途端、この遺跡で爆音が響く。この音は何なのか黒騎士は瞬間的に理解していた。

「林檎か……! あいつ、また無茶を」

 呟くと黒騎士は走り始めた。

「さて、取りあえず脱出ルートは幾つか検討は付けた、な」

 林檎は言いながら腕に付けた時計を見る。

 彼女の行っていた偵察と言うのは一言で言うと脱出ルートの確認である。風の魔法を手繰り、この遺跡の出口を文字通り手探りで探すようなものである。何故なら林檎的にもう此処で行うべき目的は済んでいるのだ、此処には完全に用はない。ならば長居は無用、早々に立ち去るべきである。林檎はそう判断すると顎に手を当てる。

「あの林檎さん、此処を出るにしても戦闘は避けられないかと思うのですが……」

「ああ、その点については既に覚悟は出来ている。ここが魔術コーティングされてなければ一気に遺跡を破壊して脱出してるよ。全く、面倒なことを」

「な、何て怖いこと考えてるんですか……」

「危険指定された遺跡が、謎の集団によって崩壊……よくある話だと思わないか?」

 林檎はフェリナの言葉に対して言いながらにやりと笑う。確かにそれはそうかも知れないが、彼女の言う台詞は相当にバイオレンスである。と言うか、この女には一応連れが居る筈なのだが。それの回収についてはどう考えているのか、一度聞いてみたい物である。

 紗羅は一歩前に出ると疑問に思ったことを口にする。

「魔術コーティング?」

「魔法による大掛かりな術式防御の総称だ。基本的にはこう言う脆い建物に展開し、永久保存する……が、基本的にこういう術式は何に使うか知っているか? まあ、知らないだろうから教えると冒険者などが通る道の途上にある建築物だ。古くなって渡ると崩壊の危険性がある橋等な。少なくともこういう封鎖すれば誰も入らない遺跡にはせん。ある程度の保存魔法かけたり、修理はするだろうがな」

 林檎はそう言って周りを見渡す。紗羅は不思議そうな顔で。

「ねえ、この遺跡って何の遺跡なの?」

「さあ。大昔の貴族の屋敷とも言われてるし、大昔の巨大都市とも言われている。ほら、天井のあの飾り。朽ちてはいるがよく見ると巨大な照明器具にも見えないか?」

 そう言って林檎は天井を指差す。紗羅は釣られて上を見上げれば確かに巨大な何かが釣られている。見ようによっては確かに何かの照明器具にも見なくはない。

「アーステラの人間の歴史は紐解けば億年にも及ぶと言う。ならば、こんな建築物があってもおかしくは無いだろう」

「凄いですねぇ……林檎さんは何故そんなことを知って? もしかして林檎さんは遺跡関係の研き」

「パンフレットに書いてあった。百年前に封鎖された遺跡のパンフレットのあまりがまだある。興味があれば今度冒険者サポートセンターに行ってみろ」

「……余ってるん、ですね……」

 フェリナは杜撰な公共機関の管理体制を垣間見た気がする。

「ちなみにこれは封鎖されることを惜しんだ一部の団体からの要望で最後の一万部だけ発行したんだ。まあ結果は見ての通り、あまりに余って百年も残っている。ちなみに残り四百六十七部だ」

「……一体、何処から突っ込めばいいんですか?」

「さっさと燃やせよと言えば?」

「林檎さん……」

 林檎はあっけらかんと処分を推し、フェリナの気持ちはぐちゃぐちゃになる。

「さて、どうするか……一応出口は数個見つけたが取りあえず周囲に居る人間の数も膨大だが……」

「人の少ない所から一点突破するんですよね?」

「取りあえず、一番密集率が多い所を一掃して通るか」

「何故に!?」

 林檎の口から飛び出た台詞は大凡理知的な人間が言い出すものではない。何せ此方の人数は三人、対して向うは軽く四桁は越える人数だ。どう考えても負けに行こうと言っているのと変わりは無い。

「この狭い遺跡の中、変に暴れれば増援が呼ばれ、それこそ一網打尽となる可能性が高い。それを回避するなら密集率が多い所を一点突破すればいい」

「……あの、幾らなんでも無茶過ぎませんか?」

「無茶をどうにかしろ。それにいざとなればこの入り組んだ遺跡の中でゲリラ戦を決行すればいい。連中は大人数、この入り組んだ遺跡なら紗羅の暗殺能力が輝くしな」

「な、なるほど」

「それに」

 林檎は親指を立てて後ろに向ける。そこから徐々に何かの音が聞こえて来る。何かと言えば。

「見つけたぞ!」

「くっ、部隊を分断するとは……!」

「あの騎士の格好をしながら、騎士の誇りももっていない奴は貴様らの仲間か!?」

「……誰?」

「刃燈か。丁度いい感じに敵の撹乱をしているのか、たまには役に立つ」

 この人は彼に対する扱いが非常に悪い気がするのは気のせいであろうか。林檎はぴっと指を敵を指差し。

「フェリナ、前線で敵の進行を押し留めろ。その間に私は魔法の準備をする。紗羅、お前はフェリナの援護だ、抜かるなよ!」

 林檎は言って一歩下がって魔力を練り、フェリナは困惑し、紗羅は影も無く消え去る。

「え、え、あの、え!?」

「魔導師を仕留めろ!」

「わ、きゃっ!」

 フェリナは困惑してると突如出て来た槍の一撃を交差させた双剣を受け止め、更にそこから振り下ろされる斧の攻撃に思わず尻餅をついてかわし、次に飛んで来た矢を身を捻ってかわして次に突き出された剣を慌てて防御するとそれを弾かれ、続いて魔法の攻撃が飛来するがフェリナは構わず双剣を重ねて大剣に変化させて目の前の敵部隊一列を薙ぎ払う。直後、魔法が着弾し氷塊が舞い風が巻き上がり炎が弾け溶岩が炸裂する。

 魔法が乱舞する中、フェリナは渦巻く魔法に構う事無く大剣を振り回す。仰け反るどころか物怖じせず苦にも感じず踏み進む。

「な、何故だ!? この魔法の中、構わず動けるだと!?」

 特大の火球が幾つもフェリナの下に降り注ぎ、彼女の足に胸に頭に直撃し爆発が起きるがフェリナの体には一切傷が付くことも無く大剣を振るいながら敵を薙ぎ払い続ける。

「姫様の魔法の実験体をやっていればこの程度の魔法、気にもなりません! 私を魔法でどうにかしたければせめてAランク級の魔法でも撃ち込んで来て下さい!」

「愚か者! 前に出るな! 貴様の役割は戦線の維持だ、敵の殲滅じゃない! 紗羅、援護射撃は如何した!?」

 フェリナは叫びながら魔法をその身で受け続ける。Aランク級の魔法、と言うと上級クラスの魔法でありそんなものをがんがん乱射出来る様な魔導師等、もはやSランクを越えていると言うものだ。

 だがそんな彼女を林檎が制する。更に紗羅にも指示を下すが紗羅は一切動きを見せない。フェリナもびくっとなり、剣を振る手を止めて後ろへと跳ぶが。

「愚者が! 誰が情けをかけろと! おい紗羅!? お前如何した! さっさと動け!」

『え、えっと……援護ってどうするの?』

 紗羅の声が響くように林檎の耳に届く。その内容は酷く彼女の意にそぐわないものであった。林檎はなるべく感情を抑えて紗羅に詳しく指示を送る。

「は、はぁ!? フェリナに当らない様に周囲の敵を攻撃しろ! それくらい出来るだろ!?」

『しゃ、紗羅、そういうのやったことない、フェリナお姉ちゃん、邪魔!』

「何、だと……!?」

 林檎は思わず絶句する。当然といえば当然であろう。よりにもよってこの場で期待した援護射撃が出来ないと言う返答が来たのだから。更に追い討ちをかける様にフェリナも泣くように叫ぶ。

「り、林檎さぁ~ん! ぼ、防御って、どうやるんですかぁ~!?」

「は、はぁっ!?」

 林檎はフェリナの叫びを聞くと即座に視線をそちらに向ける。そこには多少強引ながらも戦線維持の為に物理攻撃だけを器用にかわして回るフェリナの姿がある。

「お前、実戦経験は!?」

「あ、ありませーん! きょ、今日が初めてですぅぅぅー!」

 林檎はもしやと思った疑問をフェリナにぶつける。林檎としては予想外と言うレベルではないほどの衝撃を受けていた。何せ前線で防御を任せた相手は今日が初陣、しかもその動きは酷いと言うレベルを既に超越している。こと防衛線にのみではあるが。

「まさか、紗羅、お前もか!?」

『え、あ、うん。模擬戦以外の戦闘をするのは、今日が初めて……かな?』

「――っざけんなぁぁぁぁぁぁッッ!」

 林檎は精一杯感情を抑え、抑え切れずに一部の声が漏れ出るが完全に怒鳴り声が響く。林檎はそれだけ聞き終えると即座に作戦を変える。

 まず、最初に行ったのは荷物の中を漁ること。そしてまずはとボールを四つ取り出す。それらを発火させると彼方此方に投げつける。投げられたボールは燃え上がると黒い煙を生み出す。中身は木屑などの木材の類。使用目的は単純、簡易的な煙幕だ。黒煙は立ち上ると一気に周囲を埋めていく。

「え、え?」

 この黒煙の中、フェリナは平然としていた。周囲は勿論黒煙にまかれて咳き込み、目をやられたらしい。フェリナが幾ら魔法抵抗力が高いとは言えども魔法で生み出された黒煙を吸って平気な訳ではない。多少なりとも影響は出るだろう。そこへフェリナの前に誰かが躍り出る。それが緑髪のショートカットの少女と分かった瞬間、フェリナは風によって吹き飛ばされる。

 同時、潜伏していた紗羅にも氷杭が舞、一部が突き刺さり連れて行かれる。

 これらの症状にフェリナに影響が無いのは、林檎が彼女の無意識の内に仕込んだマークの効果である。これはマーキングと言う味方識別テクニックの一つであり、魔導師の魔力を相手の体に染み込ませる事によってそれがマークとなり、そのマークが付いた対象にはマークを付けた魔導師の放った魔法の影響を一切受けなくなるものである。ただ、こういった物は行うには相手の確認を取る必要などがある為、行き成り出会った相手にするものではない。だが、林檎はそういうことを一切気にしないと言うだけである。

 氷杭に連れ攫われた紗羅は途中で首根っこを引っ張られる。一体誰がと思った瞬間。

「一旦離脱する!」

 林檎は叫ぶとポケットから何か――本日初使用となる作り置いた術式の一つだ――を煙の中に放り投げると風に巻かれてういてるフェリナを抱え込んで飛び去る。直後、黒煙の中で巨大な爆発が起きる。



 林檎は再び周囲に人が居ない事を確認するとフェリナと紗羅を放り捨てると足元を強く蹴り付け、強く奥歯を噛むと自分の前髪を掴み上げる――今、彼女の中で渦巻いているのは憤怒だ。あの状況、本当ならあの程度時間さえ稼げればどうにかなる。或いはこの二人さえ居なければ自分一人でどうにでもなる。それだけは自信を持って言える。そう、こいつらさえいなければ。

(いや待て、今更こいつらを捨て置いてもどうしようもない。そもそも困難でも弾除けになればいいと思って連れて来たのは私だ。つまり責任は私に……い、いや、そもそも、こいつ等と出会ったのは今日が初めて、それでこいつらの経験不足を見抜けと言うのもそもそも無理難題いや、後衛として参謀役を名乗った以上自分の手駒の確認するのは当然だ、それを怠ったのは私自身で)

 林檎は気付かぬ内に自分の髪をかき回す。その様子から彼女が如何に怒り狂っているのか見て取れる。そんな彼女の様子に圧倒されたのか、二人とも林檎に話しかけることが出来ずに居た。

「はぁ、はぁ……」

「り、林檎さん、大丈夫ですか……?」

「……ああ、大丈夫だ」

 そう言ってフェリナに向けた顔は何時もの冷静な林檎だった。

「え、えと、その、御免なさい!」

「気にするな、後の祭りだ。それよりフェリナ、今までお前は防御の訓練はしたこと無いのか?」

「え、あ、はい。私は実戦経験もありませんし、姫様も私は殲滅力を上げて攻撃力特化が良いと言っていましたし。私は防御の練習したこともありませんし」

「そうか……紗羅、お前は?」

 林檎はフェリナから聞き終えると続いて紗羅に問いを投げる。

「紗羅は防御とか教えられてないよ。何と言うか、防いだら負けって言うか動かれたら負け、ってくらいに教えられているから」

「人に当てないように教えは?」

「それも無いよ。そもそも射撃は牽制用で当れば儲けものって具合に狙ってるから」

「……とことん矛盾してるな、いやこれは単純に先手必勝一撃必殺の究極系か。ああ、それなら納得だ。射撃による牽制も相手の虚をついて一撃で仕留める為のもんか。それも精度を上げればこうもなる、か」

 林檎は納得した様に地面に座り込んだ。

「うーん、林檎姉ちゃんに魔法を撃たせる為に防御するんだよね……じゃあ一番防御できる人が前に行けば良いのかな?」

「あの紗羅ちゃん、そういう問題でも」

「――あそっか! その手があった」

 と、叫ぶと途端に林檎が指を弾いた。

「その、手、ですか?」

「お前ら、これから行う作戦の内容を伝える。一先ず、これなら問題はない筈だ」

 そんじゃ今回は此処までです。それじゃーね。

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