偽りの太陽神
林檎と言えば何かと問えば、誰もが何処までも高いプライド、そして限界まで張り続ける意地であろうと言う。誰よりも激しく、厳しく自分の決めた通りと意地のみで生きる彼女。故、誰もが彼女を皮肉を言うように、そして称える様に呼んだ。
あいつは、烈火の如く生きる人だから、と――。
林檎は視認から術式の解析を行っている。そこから察するに。
(これは……映像中継術式、に良く似た映像記録術式を使ってるのか。やたら凝ってるなぁ……しかもこれ、市販物じゃない。手製の物か。しかもやたらと複雑な術式まで入れ込んでると来た。恐らく、あいつの拒絶の意思か許容の意思に対応してあの映像が出る仕組みって所か)
林檎はそこまで結論付ける。根拠は先程の映像に出て来た少女の台詞。そこには一つ、気になる部分がある。
(あの部屋、闇属性の魔力に満ちていたこととあの服装、そしてフェリナとか言ってた奴が姫様と言う言葉。これらを統合するとあの女は深淵の闇姫、安藤梨絵である可能性が高い。ってことはあいつは姫の騎士となるな。
しかし、あの女の言葉……面白いなぁ、実に。演出が良すぎる、ああ素晴らしい。素晴らしすぎてあの映像の不自然さに気付かずごらんの有様だ)
林檎は目線を周りの大人どもに向ける。味方であったものに裏切られ、怒りの視線を彼女に集中させている彼ら。
(この通り。気付けよ、愚か者共。あの女、一言も肯定も否定もしていない。言い換えれば、あいつはフェリナの言葉を肯定しただけで一言も奴らに対して敵か否かを言ってない。裏切る? 愚かな、あの女は演出しただけでフェリナの一時的な敵対を後押ししただけに過ぎん。どちらにしても)
林檎は哀れみの表情を浮かべながらフェリナの後ろに近付くと肩を叩く。
(哀れだな、こいつ。お使い感覚でメッセンジャーをやらされ、敵とも味方とも取れるような演出をしておくとは。どうやらこいつのお姫様は使い捨て感覚で騎士を使ってるらしい。私刑にされる心配さえないとはね)
「あ、あの、何か……と言うか何で全財産盗まれた人でも見るような目で見るんですか」
林檎は振り返って周囲を見渡す。状況は依然、いやそれどころか最悪と呼んでも良い。周囲は見事に敵だらけ、この状況を切り抜ける為にはどの様な策を講じるべきかと林檎は頭を回す。
「あの無視しないで、全く如何でもよさげな空気を作ってスルーしないで下さい」
「さて、じゃあ逃げるか」
「人の話くらい聞いてー! 無視しないでー!」
林檎はフェリナの頼みに対して舌を打って答える。そしてそれだけすると林檎は前を向く。
「うわーい……」
フェリナはもう諦めの思いを胸に引き下がった。
「裏切り者に制裁を! 貴様ら全員、無事に帰れると思うな!?」
「者共、一気に掛かれぇッ!」
周囲の敵が一気に動き出す。それを見て林檎は慌てず騒がず。
「十秒稼げ。それだけあれば逃げられる」
そう言って林檎は指先に魔力を練り込む。紗羅は涙を拭うと首を振った。
「林檎姉ちゃん」
「私を姉と呼ぶな。お前は言われたとおりの事をしろ。それとも、意味が分からんのか?」
林檎は背中だけで語り、指先に溜めた魔力で虚空に絵を描く。そんな彼女の額目掛けて矢が飛ぶも放たれた銃弾がそれを撃ち落す。次の瞬間には紗羅は疾風となっていた。
一秒。
林檎の魔法陣制作を阻止せんと様々な遠距離攻撃を行う。剣を投げ槍を投げ魔法を放ち銃弾が放たれる。が、それら全てを薙ぎ払う様に一閃が舞う。正体は疾風となって林檎の周囲を駆ける紗羅。そしてもう一人。
二秒。
フェリナは軽く呼吸を行うと双剣を重ね合わせる。と、重なった双剣の刃から闇が溢れ、巨大な剣となる。それを一払いすると。
三秒。
「ってええあああああああああああああああああああああああッッ!」
フェリナは敵陣に切り込み、闇の大剣を振り回す。振るわれた闇の一閃が大勢を飲み込み、一気に切り払っていく。その様は黒い嵐と呼んでもおかしくはない。
四秒。
フェリナの剣閃は人よりも攻撃の妨害を主としている。魔法を叩き切り、飛び舞う武器を叩き落す。その剣筋は見事に林檎の防衛となっている。
五秒。
僅かな間に林檎の頼んだ時間の半分は過ぎていた。高々十秒、されども十秒。誰もが彼女の魔法の発動を阻止しようと躍起に動く。だが疾風となった紗羅、闇の暴風と化したフェリナがそれらを認めんと薙ぎ払う。
六秒。
しかし、幾ら暴風となろうと幾ら疾風になろうと結局は一人の人間。物量と言う決して覆せぬ差はどうしようもなく、僅か二・三秒の間に押し切られかける。
七秒――三秒前。
林檎は周りに目も向けずに作業を続ける。そんな林檎に目もくれずに紗羅とフェリナは戦っている。後もう少しだからと言って油断も出来ないしても抜けない。前衛職ならば、魔法を止めるに一秒も掛からない。故に彼女に傷一つ付けさせてはいけないのだ。
八秒――二秒前。
此処がラストスパート。林檎の周りに押し込み、魔法の妨害を行う行動その全てを紗羅とフェリナが薙ぎ払う。遠距離攻撃をすれば銃弾が打ち抜き、近付こうものなら闇の大剣が切り払う。
九秒――一秒前。
此処に来て林檎の動きが変わる。急に指を鳴らして周囲を焼き払う。その理由とは何か? 紗羅もフェリナも何事かと林檎の方を見る。
「――よく、やった。後は私に任せろ」
林檎はそう言って宙に浮かぶ魔法陣を握り締める。まだ十秒には早い? 林檎は十秒で放つとはいっていない。十秒稼げと言ったのだ、十秒以内に終らせても問題は無い。元より、十秒稼げと言って十秒以内に終らせる気だったのだ。いや、それより終らせなければ林檎のプライドが許さない。
「灼熱の豪腕、万象悉くを焼払えッ! 出でよ」
握り締めた魔法陣を地面へと叩き付けながら林檎は雄々しく叫び上げる。魔法陣は広がり、中から燈と赤に彩られた灼熱の太い腕が伸びる。腕は地面を握り締め、体を引っ張り出す。その姿は燃え盛る赤き機械の魔神。
「太陽神ッ! アポロンッ!」
林檎は這い出る魔神――太陽神の肩に飛び乗り、這い上がっていく太陽神と共に天井近くへと上る。
「な、何だ、あれは……ッ!」
「太陽神、だと……まさか、あいつは噂の」
「そう言えば聞いたことがあるぞ、太陽神を模した魔法を操る魔導師が居ると……その言われ名は、確か」
「太陽神の、担い手……! 偽りの太陽神を率いる、四色魔導師ッ!」
彼女を称えるかのような声が響いた直後、太陽神の腕が振るわれると同時に爆炎が上がり、虫けらの様に人々を焼払う。その眩しいばかりの輝きを持った灼熱の巨像はそこに居るだけで空気すら焼く炎の魔神。林檎はその魔神の肩の上で腕を組み、仁王立ちをして下を見下ろしている。炎の魔神の上に立ってはいるが、彼女は一切焼かれない。当然だ、彼女は言わばその身自体が炎の様なもの、自身の炎で焼けるものか。焼けたとしても、それは彼女の魂と闘志。より大きな炎として変貌させる程度だ。
熱気が風を生み出すが如く、彼女のマントがはためき、巻き上がる。太陽神は重量感たっぷりな動きを持って地面を殴り付け、薙ぎ払う。その余波だけで鉄が融解しそうなほどの高熱が生み出され、敵対者を悉く焼払う。此処まで派手に動き回っていると紗羅とフェリナの所在が気になる所であるが、二人は何処にもいなかった。そして周囲の人間を粗方焼き尽くすと魔神はその両手を胸の前にかざし、炎が一点に集まっていく。林檎は今まで組んでいた腕を開き、両手を掲げ。
「インフェルノオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
その間に光が集い、輝く球体となり、魔神の胸の前に炎が渦巻いて収縮する。
「サッアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッンッ!」
林檎はその光を振りかぶり、その動きに合わせて巨人もその球体を一旦後ろに置き。
「スフィアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!」
輝く太陽の塊を前方目掛けて一気に投げ放つ。林檎と巨人、同時に放たれた二つの光が一つに重なって混ざり、真っ直ぐに前へと飛翔し、遺跡内にて小規模の太陽が着弾と同時に爆炎と轟音を響かせて全てを打ち砕き、焼き尽くす。
「えっと、林檎、さんでしたっけ!? 此処、結構ぼろい遺跡なんですがー!?」
そう言って巨人の体からフェリナがひょこっと顔を出して叫ぶ。林檎は再び腕を組んで仁王立ちとなり、フェリナの方へと見下ろす。
「……ならば、着弾位置を見ろ愚者」
「え?」
言われたフェリナは着弾位置、太陽の爆炎が炸裂し、極炎が舞うその場所を。炎の海と化したその場所は轟音が響くほどの爆発を起こした筈の場所。が、そこは炎が舞い上がるだけで何も崩れては無かった。
「魔術コーティング!? そんな大仕掛け、何時の間に……!」
「分かったか、愚者。あいつら、恐らく相当昔から此処を拠点として動いていたようだ。目的は分からんし、知ろうとも思わんが」
林檎は風を纏い、炎の巨人は揺らめいて炎と解体され、林檎を焼き尽くす様に溶けた。フェリナも紗羅も炎の中から摘出され、風が二人を巻き上げる。
つまり、消えた二人は最初から偽りの太陽神の中に取り込まれていたと言うことだ。林檎は真下へと目を向ける。炎に焼かれ、呻き泣き叫ぶ人々が居た。林檎は鼻で笑うと踵を返して。
「行くぞ、お前ら。一旦退くぞ」
「いやぁ、此処までしておいて退くぞは無いんじゃ……」
林檎は周囲に顔を向け、風が縦横無尽に動き回る。
「無視しないでー! 鬱だー!」
方向を定めた林檎は二人を連れ、風を纏って宙を翔る。
遺跡の中を飛翔し、誰も居ない場所に降りる。
「あ、有難う、林檎姉ちゃ」
「貴様は、何処まで愚かだと言うんだ!?」
紗羅に対して林檎は怒りの形相でつめより、胸倉を掴み上げる。
「な、何で」
「お前歳幾つだ、ええ!? 一人のされた途端に大泣きだ? ふざけるな愚者が!」
「ま、待って下さい林檎さん! こんな子供相手に」
フェリナは林檎の対応に驚いて割ってはいる。
「おい、貴様。歳は?」
「え?」
林檎の唐突な質問に一歩退きながらも。
「えっと、十七、ですけど」
「おい紗羅、お前の歳は?」
「じゅ、十七……」
「なあ、おい。フェリナ、お前はこいつと同年代と言われて納得出来るのか? こいつと同じ学校に通って、同級生と見れるのか? ええ、見えるのか!?」
あまりにも迫力のある林檎の問いに慄く。
「そ、それは……で、でも精神年齢の低い子だって確かに」
「おい、十七ってどういう意味か分かっているのか?」
林檎は紗羅を放り捨て、尚も彼女は背中で語る。
「三年だ。あと三年、それで二十歳となり、一般世間では大人と扱われる。分かるか? この餓鬼はあと三年で世間じゃ大人と扱われるんだよ!」
「で、でもまだ三年」
「後三年だ! お前、三年がどういう時間か分かってるのか!?」
林檎はフェリナの方へと振向いて語る。
――彼女がこう語るのは、何も知識で言ってるんじゃない。それは実体験から来るものだからだ。
二年。
この時間は彼女にとっては刹那の時間だ。十六の頃に旅立ち、二年半近く経ち、今此処に立っている。その時間は決して長くは無かった。あまりにも濃密な体験は彼女の時間を酷く短く感じさせた。小規模な戦いにも何度も出た。世界の命運をかけて戦った時もあった。だからこそだ、こんな濃密な時間を刹那となって駆け抜けた彼女にとって、三年など短いのだ。もう直ぐそれだけの時間を駆け抜け続けた彼女だから、こそ。
「だ、だからって、こんな扱いをしなくても良いと思います!」
「……ほう?」
「誰だっていつかは成長します! そんな急かしたって意味はありません!」
「いつかって、いつだよ」
林檎はフェリナを威圧するように問う。気圧されながらもフェリナは林檎を真っ直ぐ見ながら。
「いつか、です。でも、必ず来ます! いつか、ちゃんと人が成長する時は来ます!」
「――あのさぁ」
林檎は視線を項垂れる紗羅に眼を向ける。
「私はな、歳不相応ってのが一番嫌いでな……必要以上に背ぇ伸ばしてる餓鬼も、精神年齢の低い餓鬼もな!
大体、こいつは今まで何をしたと思う? 紗羅、お前はどれだけの人間を切った? 魔力の影響で人は殺していないが、それでもこいつは大勢を切り裂いた。こんな餓鬼が、自分の勝手で沢山の人間を切り裂いた。中には確りとした信念もあったろう、そいつらもこいつは斬った。その意味を、重要性を、こいつは理解しているのか?」
「た……確かにそうですけど、その子にだって何かの事情があったんでしょう?」
フェリナはそう言うと紗羅の肩を支えて立ち上がる。
「ふん。まあ、今は如何でもいい。今は脱出を優先するべきだ。くそ、刃燈の奴どこにいった」
林檎は連れて来た壁役の不在に対して不満を言いながら周囲の索敵を行う。ちなみに今頃彼は狭い通路を利用してゲリラ戦法を繰り返して戦っていた。
どうもー、やーです。今回はやたら林檎が動いてますが、彼女の活躍はまだまだ続きます。では次回。




