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収束する物語

「ああ、故に祝福させてくれ。君はよくやったと。此処までの戦果見事なり。だが、ああしかし潮時だ、君の様な人間を此処で失うには惜し過ぎる故に――君は、此処で帰りたまえ」

 暗い部屋の中、誰も居ないと言うのにフードを目深に被った男がまばゆく光る術式を見下ろしていた。男の顔の半分はよくは見えないがその顔は愉悦に浸っていた。

「時間? 何のことだね。時間の制限など設けた覚えは毛頭無いのだが。ああ、確かに存分にやりたまえと言った覚えはあるね。もしや、時間とは本日の会議のことかね? ああなら及ばんよ、君の活躍次第では君は要らなかったが、この活躍を見て気が変わった……と言う所だよ」

 男から漏れる言葉はまるで歌う様で、演劇役者にでもなったかのような芝居の掛かったもので。

「ん? 部下……ああ、その雑兵達か。宜しい、では指揮官無しで何処までやるのか見せてもらおう。場合によっては、私の直属にしても構わんよ。では、始めようか」

 男の口端が釣りあがる。そして術式を消すともう用は無いと言わんばかりに男は立ち去った。



 紗羅は壁を蹴り続けて壁を伝って伝って目標目掛けて真っ直ぐに突っ込むが。

「――へ? 消えた?」

 舞い散る光の粒を突き抜けた紗羅は目標を失ったことで軽く放心した。それをみた誰かが紗羅に襲いかかり、林檎も口を開きかけるが――直後、紗羅の近くに寄った者達は一瞬にして崩れ落ちる。

(こいつ――無意識下に? 敵意を向けられた程度で瞬間的に反応したのか? さっきからこいつの戦い方といい、何でああも人を斬る事に抵抗が無い? 人に銃を向けること、抵抗も無く引き金を引けること、人の急所を簡単に狙えること……こいつの育て親はプロの殺し屋か何かか? 如何仕込んだら此処まで無抵抗に殺人術を扱えるんだ?)

「林檎お姉ちゃん! あのおじちゃん、消えちゃったよ!?」

「あ、ああ」

 林檎は炎を纏って紗羅について考察するが正気に戻った紗羅の言葉で彼女もまた思考を現実に戻す。

「何にしてもチャンスだ、指揮系統が崩れたなら一気に叩くぞ!」

「舐め」

 誰かが叫んで襲い掛かるが林檎は知らんと口上を聞かずに燃やす。

「やかましい、後は貴様らを潰すだけだ。残る軍勢は約九百九十九弱、総大将が失せたんじゃいよいよを持って私らで潰せそうだ」

「ほざけえええええええええええええっっ!! あのお方は去ったのみだ、何処かで見ておられるのだっっ!!」

 喉を潰さんとするほどの勢いで男が絶叫する。指揮官は戦場から消えただけ、自分達は未だに彼の膝元に居るのみなのだと。

「その通りだ! 貴様如きの酌量で」

「うざい。落ち着けよ愚者」

 林檎は指をパチンと鳴らし、叫ぶ連中を滅却処分する。

 彼女は一度落ち、軽く寝た……つまり休憩したとは言えども、それでも最初期の状態に戻ったとは言い難い。故に、それだと言うのにこの遠慮の欠片も無い大火力を放つ。紗羅が側にいるからか?

 否。断じて、否。

 元より彼女はそういう人間。自身の消耗など一切頓着していないし初めから計算に入れてない。限界と言うものは一種の足枷手枷重りだ。それを設けるからそこに縛りが生まれ、不自由が生まれる。だから林檎はそれを嫌って度外視する。自分が囮になると言い、省力で動いていた時でさえ、彼女は最初から最後まで魔法の出力を動かさず、それどころか上げてばかりだ。つまりはだ、彼女は単純に。

 鋼を超越するほどの強固な意志(プライド)を持っていると言うことだ。

「さあていくぞ紗羅。残党狩りだ、さっさと片付けて帰るぞ」

「抜かせぇぇぇいッッ!! 貴様ら何」

 男が叫び、何かを伝えようとした瞬間には既に燃えていた。

 紗羅は既に動いてる。影となり風となり縦横無尽に動いている。ただしその動きは真っ直ぐで、姉と仰いだ彼女に恥じぬ様にと隠れもせず、堂々と真正面から突撃を繰り返す。

 フェリナは闇を広げながら闊歩する。闇に飲み込み、闇で奪い、闇に溶かして取り込む。

 この三人が全力で暴れ回る。正しく烏合の衆と成り果てた彼らに抑える道理はいよいよを持って無くなっていく。正しく逃げ惑う以外にする事などもはや無いと言えるだろう。だがしかし。それでもしかし。彼らは黙って殲滅などされはしない。己を英雄と誇るのならば、誉と言うのならば。此処で足掻かず、どこで足掻けと言う。

 正しく最終決戦。その火蓋が改めて切って下ろされた。



 そもそもの疑問。何故紗羅は林檎のお零れを拾うだけで平気だったのか。何故フェリナの背後が狙われなかったのか。

 確かに増援は来た。それは確か。しかしその数は少なく、全て林檎が焼き払う程度にすんだ。何故だろうか? 入り組んだ遺跡とは言えども、場所は分かっている。寧ろこの時にだって数千の増援が雪崩れ込んで謎の軍勢の逆転勝利とも言えなくは無いのだ。

 その原因は此処に。全ての要因はこの場所にある。

「貴様ああああああ! 逃げるなあ!」

 遺跡の通路内、その一角で誰かが叫んでいた。

「分かった」

「なっ!?」

 追われていた黒い騎士は言われてくるりと裏返って突進する追いかけていた者達は突然に方向転換に間に合わなかった。さて、向うは全身黒甲冑の男。それが盾を構えて突っ込んでくる――と言う事はだ、真っ黒な鋼鉄が砲弾のように突っ込んでくると言うことであり。

「まっ」

「たない!」

 騎士は一気に目前の敵へと突っ込んで弾き飛ばす。無論それで終わりなどはしない握っていた剣を構え、押し退けた相手へと目掛けて自身の身体を重力を駆使して押し出して突撃して追撃と言わんばかりに切裂き、返す刃で更に切り刻んで突き進む。甲冑を着込み、狭い通路で片手で振るえる程度の剣で突き進む男は正に無双だ。

 狭い通路で戦う防御主体の戦士ほど厄介なものは存在しない。防御力の高いと言うのは勿論厄介だが何より厄介なのは、援護攻撃のし難さである。銃も弓もこの様に人間二人分も立ち上がるのがやっと、いやそれさえも不可能なほどの高さしかない通路。跳躍力に自身がある者が全力で跳べば天井に届くか勢い余って激突か、その程度の高さ。そんな場所では飛び道具など真っ当に作用しない。しかもこの様にぎっしりと人で詰めてしまえば弓で山形に射るか、銃で兆弾で撃ち抜く以外に方法は無い。

 最も確実な方法といえば、正に魔法を放つ……だが、此処まで人がぎっしりみっちりと詰まっていては魔法など放ちたくても放てない。幾らマーキング――自身の持つ魔力をしみこませて味方に魔法の被害が出ないとは言えども立った一人相手にそんな事すれば味方へまで被害出るだろう。

 つまり、前衛職――特に足の速い人間を纏めて釣り上げてこんな場所に誘きだす。つまり、まんまと彼らはこの騎士の策には見事にはまったと言っていいだろう。あまりにも手馴れた作業だからか騎士はあっさりと追撃者を片付けた。騎士は広い場所へ顔を出して周囲を見渡す。

「……ふむ、今ので最後か。意外とあっけない……いや、増援でどっかに行ったのか?」

 騎士は言って広場に出る。そして置物の様に立ち尽くす。

 彼の持つ(ぞくせい)()。地面、そして壁にリンクすることで大地へと響く音を聞き取って、いや感じ取っているのだ。

「……指揮官が、消えた? で、さっきから増援要請が出ている、と言うと。更にそこには漆黒の氷姫の仲間も居る……と。林檎か!」

 騎士はそういうとかけ出した。何処へかはわからないがガチャガチャと鎧の音を鳴らして駆け出した。

 やがて見えた別の通路へと出ようとした瞬間に足を止めて通路の先を覗く。その先には先ほどまで彼を追っていた者達と同じ格好をしている。そしてやっている事は、倒れ込んだ仲間の救出だ。頬を張り、肩を貸し、気を失った者達の手当てをしている。だが気絶しているものと手当てをしている者との数がまるであっていない。手当てを行っているものは凡そ二十人前後か、対する気絶者は数百を越えており、いや下手をすれば四桁に届く勢いとなっている。その誰もが鎧を砕かれるほどの勢いで切裂かれており、例え目が覚めても直に動けるかどうか不明だ。

 だが、最も気にするべき問題はこの大惨事を誰が起こしたのか、と言うことだろう。

 見た所、全員切り傷の様ではある。だが、だからと言ってこれだけの人数を誰が切裂いたと言うのだろうか。この大体の中で一人、思い出した様に呟いた。

「そう言えば、別働隊が暗殺者に半数をやられたらしい」

「馬鹿を言え! 暗殺者が首を切るにしても、胸や首を兜や鎧ごと粉砕するなどどうやって行うと言うんだ!? そんな馬鹿力を持った男が早々居る筈が……」

 男は突然喋るのをやめた。理由は一つ、喋っていた相手が突然糸が切れた様に倒れたからだ。何故? と疑問を思う前に、答えがやって来た。

 薄暗い遺跡の中、突如目の前に真っ黒な騎士が現われてブンッと空を切って黒い刀剣を振り下ろして胸を抉るように切裂く。その剣圧は魔力で補強されていた筈の鎧を易々と砕いた。

「き、貴っさ」

 返す刃で騎士に襲い掛かった誰かを腰から切裂いた。

「ほ、炎よ、渦巻いて」

 誰かが詠唱を始める。続けるように己の魔力を練って魔法の準備を始める。騎士は切裂いた刃を振り抜いたそのまま重力で殴りつける様に吹っ飛ぶように駆け抜ける。魔法が乱舞するが剣で払って突きぬけ。

「う、うああああああああ!?」

 魔導師は恐怖に顔を歪ませながら切り捨てられ、返す刃は無くそのまま剣は吸い込まれるように地面に叩き込まれ、衝撃波が発生してそのまま数人を貫通して撒き散らし、直後に浮いた者達は全員地面に叩き付けられる。

「相手が魔導師なら」

 再び巻き起こる重力ダッシュ。そして騎士は剣を構え。

「星の引力よ、我が刃に宿り」

 落とされた者達目掛けて剣を突き出し一人に命中すると同時。

「爆ぜよ!」

 詠唱が完了すると同時。重力が爆発する様に膨れ上がり魔導師達は一気に壁に叩き付けられる。叩きつけられた者達はあっさりと体中の息を吐き出すような声を出すとそのまま動かなくなる。

「……ふぅ。流石に、疲れた」

 騎士はそう言うとその場に座り込んだ。どうやら休憩中らしい。

 つまり、此処で起きた惨劇の全ては彼一人で起こしたと言うことだ。流石に一度には相手をしてはいないだろうが、敵をおびき出したり後衛を潰したり先程の様に狭い通路に引っ張り出して戦い続けたのだろう。結果出来たのはこの人の山だ。

 やがて騎士は立ち上がると歩き出す。

 ガチャガチャと鎧の音を響かせながら遺跡の中を歩いていく。時には分岐通路に出くわしたりもするが迷う事無く道を選んで真っ直ぐ歩く。そして、ある部屋に出た。

 そこは正しく、言うならば焦熱地獄。灼熱の炎が舞う戦場がそこにあった。そこにはさっきの通路の非ではないほどの、尋常ならざるほどの人が倒れていた。多くが意識をなくしているようだが、不幸にも無意味に抵抗してこの焦熱地獄に身を委ねる愚か者まで居た。

「来たれ太陽の神ッ! 太陽神・天照ッッ!!」

「おいおい、オーバーキルにも程があるぞ……」

 緑の髪の少女は術式を描くとその魔法陣より浮かび上がる。そこから浮かび上がるはや張り巨大な機械人形。更に彼女は更に手で術式を構築していく。

「輝け黄金の灼炎、目覚めよ太陽の舞台劇。太陽劇・黄金灼滅の聖輝焔ッッ!」

「林檎、幾らなんでもやり過ぎだっ……!」

 緑の髪の少女――林檎は絶叫と共に術式を起動すると黄金の輝きを生み出し、炎が舞い、機械人形へと集って黄金の爆炎が巻き起こる。

 周囲に居た者達は宙を舞って地面に落ちた。部屋に入ってきたばかりの騎士――刃燈の足元にまで燃やされながら飛ばされて来た。

 機械人形は消え、林檎は崩れ落ちるようにその場に座り込む。刃燈はそんな林檎の元へ全力で駆け寄ると兜を取って彼女を見下ろし、呟いた。

「やっと見つけたぞ、林檎」

 それでは、次回を最終回と祈って。んじゃ。

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