Verweile doch,du bist so schðn――
熱く燃え上がるあの人達が羨ましい。
だって、私には許されないことだから。
だからこそ、もう一度あの方への忠誠を誓いましょう。
今、この時、この瞬間。
ZumAugenblicke、duerftichsagen。
全ての始まりは、十二歳の時でした。
そう、あの日。あの時私は泣いていました。当時の私は、泣き虫で気弱で、それが原因でよく虐められていました。虐めと言うよりは、からかうと言うか。そういう感じに私はよく泣いたりして、次の日には忘れて皆にごめんねって言われて仲直りしたり。
でも、その日は違った。
私は泣いていて、きっと友達も誰もいないんだと思い込んでいた。また明日には皆からごめんって言われて元通り……その筈だった。
「どうしたの?」
その時、私はあの人に出会った。
しゃがみ込んで泣きじゃくっていた私は、声に導かれる様に見上げてみる。そこに居たのは、吃驚するほどに、まるでお人形みたいな綺麗な女の子だった。真っ黒なドレスを着て、綺麗な黒髪を長く伸ばした、女の子。その子は当時ポッキーを咥えながらにこやかに私を見下ろしていた。
「あ、えっと。わた、し?」
「貴方以外誰が居るの? ねえ、どうして泣いているの?」
女の子はくりくりした目で私を見ていた。好奇心の塊の様に私を見て問いを投げる。それを聞いて私はまた泣きそうになった。だって、何故泣いてしまったのかを思い出してしまうから。女の子はまた口を開く。
「お友達は?」
「……いない」
そんなの噓だ。いや、当時の私はそう思っていたのだろう。しかし、実際はそんな事は無い。
「そう……じゃあ」
ああ、今でも鮮明に思い出せる。この見る人を魅了する輝くような笑顔を。その裏に見え隠れする、悪魔の笑みを。今、こんな場面に遭遇すれば私は迷わずこの子と関わるなと言えるだろう。
「私と、友達になる?」
「え……いい、の?」
「勿論。私を最初の、初めての友達にしてくれるかしら? それとも、私じゃ駄目かしら?」
「そ、そんなことないよ! む、むしろ、わたしなんかでいいの?」
「ふふっ、寧ろそれは私の台詞よ。本当に、わたしなんかで良いの?」
彼女はコロコロと笑ってそう返した。こんな風に笑う彼女の事を、今思い出すとどこか悪魔めいていて、どこか擦り切れていて。
「ほ、ほんとに?」
「ええ、私の名前は梨絵。安藤梨絵。貴方は?」
そう言って手を差し出す。私は恐る恐る手を出す。ああ、それを取っては駄目だ。取った瞬間、全てが終る――そう思った刹那、彼女はその手をとった。そして、私は地獄に落ちる。
「ねえりえちゃんりえちゃん、りえちゃんは何でこの部屋に居るの?」
これは私が彼女の友人として彼女のラボに来たときのものだ。
「家に私の居場所が無いからよ」
「りえちゃん、何で眼帯つけるの?」
「ちょっとね。最近、魔力の暴走が激しくて。服用している術式のせいかしら? これからは自分を偽らないと駄目かもね」
彼女は闇魔法の研究をしていた。理由は単純、暇だからだ。姫様は昔から何でも出来る天才だった。彼女の着てる服も、彼女持ってるラボも、殆どが自分で作って用意したもの。僅か十歳の少女が自力でそこまで揃えたのだ、恐ろしい話だろう。小さい私にはよく分からなかったが、今なら彼女――安藤家がそういう家であったと言うのが分かる。
当時の私にはよく分かりませんでしたが、今ならあの家が普通の家ではないことが分かります。何度会っても何か違和感のする両親と家、彼女に昔実家には帰らない方が良いと言った事があるが遠からずも当ってたと言うことだろう。
そして運命の日が来た。
「り、りえちゃん! りえちゃん! 姫連合から通知来たよ!」
「あら、もう? 目ざといわね」
姫様の研究は、とあるダンジョンの攻略する術式を制作していました。何故か、と言えば暇だから。漸く完成した術式を送った結果、術式は見事に成功。その結果、彼女は姫連合へと加入を勧められた。
「りえちゃん、どうするの?」
「無論、受けるわ。撥ねたってもっとうざい連中が騒ぐだけだもの」
そう言って彼女は暇そうに返した。まるで価値が無いといわんばかりに。
「あ、そうだ! りえちゃん、姫には騎士が居るよね!?」
「ええ、そうね。姫と言っても所詮子供だもの。友人と言った身近な人間の支えは必要かもね」
言いながら姫様は自分には特に関係ないと言わんばかりに言っていた。
「じゃあじゃあ! わたしが騎士になる! いいよね!? あ、騎士になるならりえちゃんじゃ駄目だよね」
そう言って私は咳払いして跪いて頭を垂れた。漫画やテレビで見た騎士の様に。この時に、言う言葉なんて昔から決まっていた。
「――貴方に憧れました」
姫様に出会ってから、私の人生は変わりました。彼女を悪魔と呼ぶ人間も居る。でも、そうかも知れない。
メフィストフェレス。
魂と引き換えに最高の物語を用意してくれると言う悪魔。
ああ、なら私は喜んでこの魂を差し出しましょう。貴方のいる場所に、その高みへと。貴方となら、何処までも。
「どうか、膝をつかさて下さい――姫様」
深淵の底へと。
「例え、貴方の行く先が地獄であろうと」
何処までも。
「永遠に、貴方のお側にいると誓います」
「ええ、来なさい。貴方を飽きさせることは決してしないと、私も誓うわ」
姫様はそう言って、怪しく微笑んだ。
そして、今。
今この瞬間、この場所で。
ああ、故に。Zum Augenblicke duerft ich sagen。
フェリナの元に爆炎が飛ぶ、水玉が飛ぶ、暴風が吹き荒れ、岩がなだれ込み、氷結が飛び、雷電が弾け、閃光が煌く。
だが、フェリナはそれがどうかしたのか? と言わんばかりに頭をかいて闊歩する。
そもそも彼女一人を送り込んだのは全てこの為だとも言える。姫に弄られるように高魔力を晒されて来た彼女にとってこの程度の魔法など息を吐くだけで踏み砕けると言うもの。と言うか、光の魔法が一寸痛いと言う程度で特に問題もなく、一体何がどうだと言うのだという感じだ。
「うう、鬱だなぁ……」
フェリナはそんな事を呟きながら大剣を構える。今も上級魔法の嵐は続いているものの、フェリナにとっては特にどうでもよかった。実際意味は無いし、フェリナ的にはもう結構な敵を倒している。実際問題としてフェリナの戦果は徐々に実を結び始めている。圧倒的な数の魔導師部隊を相手していた筈だが、もう半分以上はフェリナの手に蹴散らされている。そんな彼女は一体何が鬱だと言うのだろうか。
「何で、私だけここなんだろう」
フェリナが鬱なのは今、中央で熱く燃えてる二人が原因だ。ああ、あれこそ戦士冥利に尽きる瞬間なのだろう。しかし、そこに自分は居ない。居てはいけない。なぜなら自分は彼女について地獄へと落ちた人間。決して上を見上げることなど許されない。故にこそ。
「今一度、強く誓いましょう」
もう二度と思いを揺らさない様に。騎士はそう思って双剣の柄先を連結させて一本の双刃として剣を振るう。更には剣の先を少し曲げて弓の様な形にし、刃先と刃先の間を摘む。すると闇の糸がぴんと張り、漆黒のオーラが矢の様に弓に番えられる。
「カイザーアサルト」
闇が鳴動する。獲物は何処だと、早く寄越せと野獣にも似た衝動が迸る。そして狙いを定めると。
「ネガティブイートッ!」
弦を放し、闇の野獣達を一気に解放する。暗黒の弓から放たれたのは漆黒の野獣達。巨大な獣の群れが魔導師部隊に群がり、一気にむさぼっていく。フェリナは素早く弓を真っ直ぐに曲げ直して双刃にすると未だ舞う魔法を無視して追撃に入る。
これこそ彼女が一人で此処に居る理由。姫の手によって鍛えに鍛えられたその魔力抵抗力は女子高生の一般数値を遥かに上回っており、言わば対魔法用の切り札か要塞とも言うべき存在である。そう、此処まで鍛え上げられた彼女が完全に逃げに徹底すれば此処から逃げることも可能だろう。故にだ。彼女は知らないだろうが、一人で此処に送られたのは全部一人でも何があっても平気だからである。
流石にフェリナが真っ向からこの軍勢に立ち向かえば確かに真っ向から潰されるだろう。だが、今三人でその無謀なことをしている。
今、フェリナの胸の内は凄く熱い。彼女達と共に歩めはしない、これは真実だが全て己が信奉する姫の導きならば。たった三人で、幾数千の軍全に戦いを挑む。こんな非日常的な出来事、普通はあり得ない。もしもこれが神の導きや悪戯ならフェリナは即座に否定するだろう。何故なら、彼女にとって最もこの状況を歓迎するべき存在が居る。
メフィストフェレス。
この名を初めて口にしたのは一体誰だったか? フェリナの記憶を辿れば中学の友人だった様な気がする。あの当時の彼女は妄信的に姫を信奉し、あらゆる交友関係を彼女を中心にしていた。その姿を見て悪魔に取り付かれてると思われていても仕方は無いといえるだろう。
故にだ。彼女にとって、これが姫の導きなら全身全霊を持って讃美歌を捧げよう。ああ、これこそ待っていた。魂を焼き尽くす瞬間へと巡りあえたのだから。ああ故に祝福しよう、遠慮もせずに全力を搾り出そう。
(今こそ言おう。言わせて下さい)
フェリナは双刃を振るって叫ぶ。
「貴方に憧れました」
あの日、あの時、あの瞬間。姫様に出会えた全てに祝福を。
「ゆえに片膝を付かせてください、姫様」
あの深淵に住まう姫にへと。
「例え貴方の行く先が地獄であろうと」
双刃を分割して双剣として。
「永劫傍に居続けると誓います」
双剣を交差させる様に頭に突き刺した。同時、術式が巡り。
「故に、ZumAugenblicke duerftichsagen」
髪留めが弾けとび、髪が落ちて影と溶け込み、影が広がっていき、漆黒の涙を撒き散らす。そして、あの人が悪魔なら言う言葉はこれのみだ。そう――。
「Verweiledoch、dubistsoschðn――!」
貴方は誰よりも美しいから。彼女の前には、時の流れさえも霞んでしまう。
闇が溢れる、影が伸びる。闇の真髄は究極的な静。故に闇があらゆる物を奪い去っていく。この空間の熱量、存在感、闘志、果てまでは時間さえも奪い去っていく。
そして最後に告げるはこの言葉のみ。
「DasEwig―WeiblicheZieht――」
どうか、私を。その深い深淵へ。
「Ziehtunshinan.!」
かつて悪魔を呼び出したと言う男が交わしたと言う契約の言葉とその最期の言葉。それこそ、彼女が信奉する姫への最大の契約の言葉となる。
影が周囲を侵食していく。暗黒の涙を撒き散らして周囲の陰と言う影を侵食して更に影の触手が伸びていく。そう、此処はもとより遺跡、屋内。つまり、光が入り難い此処なら、彼方此方に闇がある此処なら彼女の魔力がより力を発揮する。そして時間までも彼女の味方をしていのだ。
外は夜。
影が影を伝って影を侵食し、闇と闇が同化していく。更には溢れ出した闇が遂には外の闇までも侵食する。夜の闇さえも食って影は本体であるフェリナへと力を補充していく。
「闇の堕ちろぉぉぉぉぉぉッッ!!」
漆黒の大剣が鼓動する。もっと贄を寄越せと闇が蠢く。それを遠慮なく、魔導師部隊に叩き込んだ。人が闇に食われて闇に溶けていく。フェリナの行動自体はゆっくりだが周囲はもっとゆっくりだ。人によってはまるで動いていない。恐怖によって縛られたか、あるいは、本当に時間が止まっているのか。
あっと言う間にフェリナの周りは殲滅される。フェリナはゆっくりと歩いていく。体中から闇を撒き散らして。周りから闇を取り込んで。
そこへ割って入る様に鎧を纏った人間たちがやって来る。
「かかれええええええええええッ!!」
「邪魔を」
フェリナは大剣状態から分離して双剣状態に変更する。
「するなあああああああああああああッッ!!」
双剣の刃から吹き出る闇のオーラ。双剣状態は他の形態と比べると平均的なステータスではあるが、特化型と比べると性能が酷く落ちる。
攻撃力では大剣に負け、防御力では双刃に劣り、リーチでは弓よりも狭い。しかし、これには二つの特性が存在する。一つは二刀流による手数の上昇。この点に置いては他の形態に唯一敵う特性だ。そしてもう一つ、それはこの剣一本一本が強大な魔力の触媒器である事だ。連結してしまうと魔力触媒炉までも連結して一つとなる為、双剣状態では二つの魔力触媒炉が機能することによって魔力出力の上昇値が激しくなる。そう、つまりフェリナの今の状態。魔力を放出してるこの状態で双剣状態にすれば。その数値を物質化するとなると。
双剣の刃から闇が噴出して大剣を超えるほどの刀身を展開し、闇が溢れかえって無数の触手が獲物を求めて伸び始める。
触手が鎧を纏った前衛部隊を次々に飲み込む。誰かが叫び上げて銃を乱射するが闇に飲み込まれて溶けていく。フェリナの元に届かず、誰の攻撃とも届かぬままに消えていく。フェリナは駆け出して一気に距離を詰めていく。
「うあ、うああああああああああああああああああ!?」
「お、おい逃げるな! 戦え!」
「こ、この俺が、恐怖している? ふざけるなあああああ!!」
「錯乱するな、落ち着け!」
怒号が飛び交う。目前に迫る漆黒の恐怖を前に誰もが恐れて逃げ惑うばかりだ。フェリナの接近により闇の中に放り込まれた者達が次々に飲み込まれるように斬り捌かれていく。
「断罪を与えん!」
フェリナは双剣で斬撃を飛ばして投げ捨てる様に周囲に浮かべると闇を両手で抱えるとそれを放出するように投げつける。それだけで闇の濁流が生み出されて一気に目前に居た者達が飲み込まれていく。
「同じ苦しみを思い知れええええええええええええええええええッッ!!」
飲まれた者達は闇の獣に食されて行く様に闇に沈んでいく。その闇による捕食はフェリナが何時も食らってるお仕置きである。一歩間違えば廃人なってしまうが、まあいい。フェリナはあふれ出る闇を両手で無造作に掴み取って投げ付ける。闇は更に残って抵抗する者達をまた飲み込んでいく。
「終焉の時です」
増えていく闇の矢を展開し、それを一気に開放すると闇の外に居る者達を貫いて飲み込む。
双剣を構え、暗黒を太陽を頭上に掲げる。いや、それは太陽ではなく闇で縫い付けた人の塊。フェリナはそこに剣を向けると。
「忘我の果てへと落ちるが良いッッ!!」
叫びと共に斬り付け、太陽が爆散して人を雨の様に撒き散らす。フェリナが闇の海に降り立つと次の獲物を求めてまた歩き出す。
「――まさか、姫の騎士など、取るに足りぬ。ただの魔法抵抗力が高いだけか……そう思っていたのだが、これほどのモノを持っているとは思っても居なかった。なるほど、彼女が一人で此処に来たのはそう言う事だったのか」
指導者の男はちらりと迫って来たフェリナの方へ視線を向けると、淡々と呟くが直後に疾風と爆炎が同時に着弾する。男は鬱陶しそうにそれを払うと今度は返す様に水の塊を投げ飛ばすが。
「その程度で、どうにか出来ると思ってんじゃ」
同時、灰さえ瞬時に散りに変えるほどの灼熱が燃え上がる。燃え上がった炎は一点に集うと一気に放たれる。
「ねえよ!」
「全く、厄介な。これだけの」
迫る炎に意識さえ向ける事無く男の正面から突撃して来る紗羅に向けると男は突如動きを止める。やがて急に血相を変えた様子を見せた。
「お待ち下さい! まだ、まだ時間では!?」
その様子に構う事無く紗羅は斬りかかるが男は怯むどころか全く意にもかいさずそのまま受け止め、呆然と立ちつくす。紗羅は知らんと言わんばかりに更に斬り付ける。
「そん、な……! では此処にいる部下達は!? 部下達を如何すると言うのですか!? ――っ、貴方っ、様は……ッ! それが、貴方の答えだと言うのですか!?」
男は泣き叫ぶ様に咆哮する。紗羅も同じ様に叫んで剣を突き出すが、直後、男は光と共に消えていた。
え、今回のドイツ語っぽい奴って一体何何って? 疲れたので説明省略。問えば答えるよ。タイトルの和訳は「時よ止まれ、お前は美しい」です。
じゃ、また。




