プロローグ
酒場に一人の少女が紛れ込んでいた。いかつい荒くれ達が酒盛りをしている中、一切の武装もせずにノンアルコールドリンクを飲み続ける少女。誰が見ても分かる。
彼女は未成年の魔導師だと。
少女の容姿は緑髪を短くカットしてその頭に飾り付け程度にカチューシャを付け、マントを羽織、女性らしい普通の格好、と言う感じだ。そんな少女に一人のいかつい男が歩み寄る。
「おい嬢ちゃん、此処は大人の男の世界だぜ?」
そう言って彼女の肩に手を置く――瞬間、男の手に電流が走る。規模で言えば静電気と同じだが威力は確実に人に痛みを刻むものだ。
「……大人、ねえ。こんな子供にちょっかいを出すのが大人の男と、でも?」
「な、なにぃ!?」
手を押さえながら男は彼女の言葉に逆上する。なんだなんだと集まる視線集まる人々。
「おい嬢ちゃん、あんま大人を舐めると痛い目に会うぞ?」
「会わせてみなよ、チンピラ同然の大人」
と、そこに彼女の目の前に新しいドリンクが置かれる。
「まあまあ、そこまでにしなさいって」
「あぁん? おいマスター、割って入ろうってのか?」
マスターは長い年月を生き抜いたような大人がかもし出す微笑を浮かべながらグラスを磨きつつ。
「いやいや、私としても長年守り続けたこの城で暴れられるのも困るのでね。どうだい? 此処は一つ、私に免じて彼女の非礼を水に流すと言うのは」
「横槍いれんじゃねえよ」
と、大人の対応をするマスターに荒くれその二が突っかかる。
「やれやれ、彼女の言うとおりこれではどちらが大人なのか分からんね。大人の男なら、こんな少女の言葉など流してしまえば良い。どうだい、一杯飲まんかね? 今ならサービスでつまみも出そう」
「……マスターの言うとおりだな。こんな餓鬼の言うことに付き合ってちゃ男の価値が下がるってもんだ。おいマスター、ビールもう一杯。ついでに特上のつまみもくれ」
そう言って荒くれたちは少女から立ち退いていく。マスターは一息はくと。
「君もあまり挑発するもんじゃない。魔導師はこう言う場所に来ないんじゃないのかね?」
「……ふん」
そう言って彼女はドリンクを飲み干すとお金を置いてマントを翻し、出口へと向かう。酒場のドアを開いた瞬間、全身を鎧に身を固め、茶髪の髪を短く切った青年と顔を合わせる。青年はマスターに向けて腰を折り、少女の顔を見。
「肝が冷えたぞ、林檎。あまり俺が居ない所で無茶するなよ。幾ら俺が防御主体の前衛と言っても護衛対象が傍に居ないんじゃ意味が無い」
「……刃燈、貴方が守りたいのは私じゃないんでしょ、どうせ」
そう言って少女――林檎はそう言って歩き出す。青年――刃燈は溜息混じりにその後を追う。
「……で、どうだった? もしかして、やる事もせずにあんなことしてたって訳じゃないだろ?」
「ええ、その辺りは抜かりないから安心して」
林檎はそう言って髪をかき上げると。
「聞いた情報が正しいなら、近くの遺跡に奴らが居るって」
「ねえ、何処……何処にいるの……?」
一人の少女が街の中を走る。季節は秋になった頃ではあるが別に肌寒いと言うわけではないのに長いマフラーをし、全体的に露出の多い服を纏っている。髪は黒く、セミロング程度に整えている。突然止まると周りを見渡していきなり通行人、サラリーマンの服を掴みかかる。
「ねえ、この辺りで金髪で髪の長い人見なかった!?」
「な、なんだい君は!?」
「良いから答えてよ!? この間闘技大会に出てた人だよ! ティンって人!」
「と、闘技大会? ティン? し、知らないね」
答えを聞いた少女はふっと走り去る。ただただ駆け抜ける。見つけなきゃいけない誰かを探して。彼女は走りながら周りを見渡しながら駆け回る。何かを探し回るように。時には人に強引に問いただす。黄昏の神剣使いのことを。黄金の輝きを放つ輝光の聖騎士の居所を。
「金髪の剣士? 知らないな」
「ああ? 手前人に物尋ねるには礼儀って物が」
「え、えーっと、知らないけど」
「んー見た事は無いねぇ」
「そう言えば……そんな感じの人、何か見たね」
少女はその言葉に目の色を変えて反応する。
「あ、いや、遠めに見ただけだし……」
「何処に行ったの!?」
「え? あ、いや、よくは知らないけど……冒険者なら近くの遺跡にでも行ったんじゃないかな」
それを聞いた少女は弾けた様に駆け出した。そして僅かばかりの希望を搾り出す様に。
「ティン姉ちゃん……!」
真っ暗闇の部屋の中、魔法陣が浮かび上がる。その中から跪き、頭を垂れた一人の人間が浮かび上がる。魔法陣の輝きからその人物が女性である事が辛うじて分かる。格好はよく分からないが、黒く長い髪を結い上げ、真っ黒な服を着ていると言う程度のことは分かる。
「お呼びですか、姫様」
「ええ、ちょっと。何やら私に用がある連中が居るそうよ」
何も見えない暗闇の中、二人分の女の声が響く。
「……それで、私を?」
「ええ。私が直に行くのはちょっとあれだからね」
女の声が吐息と共に漏れた。それは溜息か、はたまた何かを吸ったからか。この暗闇ではその真実は分からない。
「……あの姫様、私一応今授業中なのですが」
「そう。行ってらっしゃい」
「あのー私もう直ぐ中間テストが」
「頑張ってね、学業は気にしなくていいから」
「私を普通に卒業させて下さい! 義務教育でも魔法学校には留年制度だってあるんですよ!?」
「大丈夫よ、だって貴方姫の騎士なんだからいざと言う時は学校に口を利くくらいしてもいいわ」
「まともに卒業させる気もなし!? 鬱だあああああああああああああああっ!」
女子高生の嘆きが暗闇に木霊し、バタバタと駆け抜けてドアが開閉する音が響いた。
そして――此処に交わることが無かった三人が集う。では、今回の喜劇を始めようか。
じゃ、こっちと平行更新されると思うから。またねー。




