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中2の桜が舞う頃

作者: 巳ノ星 壱果
掲載日:2026/04/23

あれは、中学二年に上がる直前

桜が舞い散る、少しだけ切ない季節だった。


香苗とは家が近く、よく一緒に遊んでいた。

ある日、そんな香苗から連絡がきた。


「智也と遊ぶ予定があるんだけど、壱果も一緒にこない?」


突然の誘いだった。


智也とはクラスも違い、ほとんど話したこともなかった。

それでも彼は、どこか中学生らしくない落ち着いた雰囲気をまとっていて、少し大人びて見えた。


童顔の私とは不釣り合いなほど、大人びた彼。

それでも、確かに同級生だった。


もともと男子と遊ぶのは得意じゃない。

それなのに、不思議と彼には惹かれるものがあった。


少し考えたあと、私は返事をした。


「うん、いいよ。三人で遊ぼう」


それがすべての始まりだった。


気がつけば、三人で過ごす時間は増えていった。

やがて私は、智也と二人で連絡を取り合うようになっていた。


ある日、私は香苗に打ち明けた。


「ねえ、私、智也のこと好きかもしれない」


ぽつりとこぼしたその言葉に、香苗は少しだけ間をあけて答えた。


「そうなんだ」


「香苗は、好きじゃないの?」


そう聞くと、彼女はあっさりと笑って言った。


「私は好きじゃないよ。壱果の恋、応援する」


その言葉に、どこか安心してしまった自分がいた。


三人で遊ぶ日もあれば、放課後に二人で過ごす日もあった。

クラスが離れていたから、廊下ですれ違うこともあった。


長く話すことはなくても、目が合えば、自然と笑って手を振り合う。


そんな何気ない時間が、たまらなく好きだった


ある日、智也から着信があった。


「明日、放課後おれの家こない?」


胸が少しだけ強く鳴った。


「うん、行くね。楽しみにしてる」


そう返事をしてから、しばらく画面を見つめていた。


次の日は、いつもより少しだけ早く起きた。

鏡の前で、何度も髪を整える。


ただ会いに行くだけなのに、

どうしてこんなに、胸が落ち着かないんだろう。


いつもはあっという間に過ぎる時間も、この日だけは、やけに長く感じた。


「智也の部屋、どんな部屋なんだろう」


そんなことを考えながら、胸の高鳴りを持て余す。


智也の家は学校から近くて、私の家は少し遠かった。

だから今まで、一緒に帰ることはなかった。


下駄箱で待ち合わせをしていた。


先に着いて待っていると


「壱果、ごめん。遅くなって」


振り返ると、智也がいた。


「全然待ってないよ。大丈夫」


そう答えながら、こぼれそうになる笑顔を必死に隠した。


初めて一緒に帰る帰り道。

肩が触れそうで触れない、その距離がもどかしい。


少しぶつかりそうになるたびに、心臓がドキドキした。


智也の家にはすぐに着いた。


玄関でお母さんに挨拶をして、家に上がる。


通された部屋は、きれいに整えられていて

やっぱり智也らしく、どこか大人びて見えた。


私は緊張しているのを隠すように、棚に並ぶ漫画に目を向けた。


「あ、この漫画、私も好きなんだよね」


できるだけいつも通りの声で言った。


「壱果も好きなんだ。これ、面白いよね」


少し嬉しそうにそう言う智也に、胸がくすぐったくなる。


「でも、まだ最新刊は買えてなくてさ」


そう言うと、智也は少しだけ間をあけてから


「じゃあ、一緒に見る?」


と、自然に言われた。


ベッドの上に並んで座り、一冊の漫画を開く。

肩が触れそうで触れない、その距離が落ち着かない。


ページをめくる音だけが、やけに大きく聞こえた。


ふと、視線を感じた気がして、顔を上げる。


目が合った、その瞬間だった。


言葉は何もなかった。


ただ、気づいたときには

私の唇の上に、智也の唇が重なっていた。


一度じゃなかった

離れては、また触れて

何度も、何度もキスをした。


ファーストキスは、よく言うレモンの味なんかじゃなくて何の味もしなくて、


ただ、智也の味がした。


少し照れたように、智也が言う。


「一緒に写真、撮ろうか」


並んで座って、スマホを向ける。

何枚も、何枚も写真を撮った。


画面の中の私たちは、ちゃんと笑っていて

少しだけ、大人びて見えた。


この時間が、このままずっと続けばいいのに


そんなことを、ぼんやりと思った。


智也と過ごすこれからの時間も

きっと当たり前のように、続いていくんだと


どこかで、信じていた。


その後も何度か、智也の家に行った


そのたびに、キスをした。


少しだけ、智也のことを知れた気になっていた。






二週間後、友人に言われた




「智也と香苗が付き合ってるらしいよ」




何枚も撮った写真

智也からの連絡も、途切れることなく続いていた。


私は、二人が付き合ったことが悲しかったんじゃない。


二人に騙されていたことが、ただ、ただ悲しかった。


幸せから一気に突き落とされたような気がした。


「私、付き合おう」って言われてない


そのとき、やっと気づいた。


ただ、香苗でもいい

智也でもいい


第三者からじゃなくて

どちらかの口からでいいから


「付き合ったんだよ」って

そう言ってほしかった


桜が満開で、幸せだった日々も

気づけばあっという間に過ぎていって


桜は、私の心と同じタイミングで散っていった


今でも、桜を見ると思い出してしまう


叶ったようで、叶わなかった。私の中2の春の恋の話





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