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復讐の後宮妃 この恨み絶対に忘れない  私を殺した悪徳妃に復讐を ー処刑された貴妃は、二度目の人生で牙を剥く―  作者: 島崎紗都子
第1章 新たな人生を生きる

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5 希少な薬草を求めて

 母を救いたい一心で屋敷を飛び出した。だが、準備もなく身一つで山に入るのは最初から無謀であったのだ。

 辺りに夕闇が落ち始めようとしていた。じき、進むのも戻るのも困難となるであろう。そうなれば、自分がどこにいるのかさえ分からなくなる。たとえ月明かりが差そうとも、それだけで暗い山の中を歩き回るのは心もとない。

「薬草を見つけなければ。母上を助けられるのは私しかいない。絶対に見つけてみせる」

 その思いだけを胸に、雪蘭は山の中を歩き回った。

 木の根につまずき何度も転んでは起き上がり、木の枝で衣服が破け、足や腕が傷ついてもあきらめなかった。だが、夜の闇が落ち始め、不安と心細さに泣きそうになった。それに、夜ともなればいっそう冷え込み、軽装の雪蘭は寒さに凍えた。すでに手足の感覚もない。

 空を見上げる。

 遠くで獣の遠吠えが聞こえ、身体を震わせた。

「狼?」

 身を丸め側の木に寄りかかる。

 草木ががさりと音がした。

「山賊? 狼?」

 雪蘭はごくりと喉を鳴らし、地面に手を這わせた。一本の木の枝を掴み身がまえる。

 再び草木が揺れ、そこから何かが現れた。暗くてそれがなにか分からない。

「やーっ!」

 声を上げ、握った木の枝を振り上げる。

「ま、待て! 俺だ、俺。黎飛(リーフェイ)だ!」

 雪蘭は目を丸くする。

「黎飛? どうして、黎飛がここに」

 草むらから現れたのは、幼なじみの黎飛であった。

「雪蘭が薬草を探しに山に入ったと聞いて探しに来たんだ。とりあえず、それをおろして」

「あ……」

 雪蘭は慌てて手を下げ、木の枝を地面に落とす。

「大丈夫だったか? 怪我はないか?」

 差し出された黎飛の手を雪蘭は取る。寒さで凍えた手に、黎飛の温もりが心に染みた。

「山賊か、狼が出たのかと思って……」

 黎飛に抱き寄せられ、背中をポンポンと叩かれる。

「怖かったな。だけど、俺がいるからもう大丈夫だ。安心しろ」

 雪蘭はうん、と頷いた。頬に熱いものが落ちる。そこでようやく、雪蘭は自分が泣いていたことに気づく。

「雪蘭?」

 張り詰めていた緊張が一気に解け、涙が止まらない。黎飛の胸に顔をうずめ、雪蘭は肩を震わせ泣いた。

「泣くな。何があっても俺が必ず雪蘭を守る」

 守ると胸を張って言う黎飛は、武術が達者で頼りになる幼なじみだ。子どもの頃に両親を亡くした彼は、今は叔父の家に引き取られ暮らしている。

 叔父が経営している反物店で店子として働いているが、接客にはまったく向いていない、剣を握る方が自分には合っていると、黎飛は苦笑いを浮かべて言う。

 黎飛は雪蘭に思いを寄せていて、雪蘭が如琳や慈桂に嫌がらせを受けると、いつもかばってくれた。

 もちろんそんな黎飛を、雪蘭も好いている。

「お母さんが大変だってこと聞いた。だけど、一人で山に入るのは無謀すぎる」

「分かってる。でも、母を救うには薬草を見つけなければいけなかったの」

「せめて俺に声をかけてくれたら、一緒についてきたのに」

 そこまで考える余裕がなかった。

「ごめんなさい」

 頭の上でかすかに笑う声が聞こえ、黎飛の手に頭を撫でられる。

 不思議なことに、先程までの怖さも不安も涙も、すっと消えていく気がした。

「それで、薬草は見つかったのか」

「ううん……」

「そうか。だが今日はもう遅い。屋敷まで送るよ」

 しかし、雪蘭はいいえと首を振る。

「薬草を見つけなければ、母上が危ない状態なの!」

「落ち着いて。これ以上山を歩き回るのは危険だ。明日、明るくなってから探そう、俺も手伝うから」

 確かに黎飛の言う通りだ。暗い山の中を歩くのも困難な状況だ。これでは目当ての薬草を見つけるのも難しい。

「ありがとう、黎飛」

 黎飛の手が頬に伸び、涙のあとを指先でぬぐってくれた。

 剣を握る手なのに、黎飛の指は長く、女性のようにしなやかできれいだった。

 雪蘭はそろりと顔を上げ、黎飛を見上げる。しばし、二人は見つめ合う。先に視線を逸らしたのは黎飛であった。

「か、身体が冷えてるじゃないか! これを羽織れ」

 視線を泳がせながら自分の上着を脱いだ黎飛は、雪蘭の肩に羽織らせた。

「だめよ。黎飛が風邪をひくわ」

「俺は鍛えているから大丈夫だ」

「ごめんなさい……」

「なんで謝るんだ? 大丈夫、そんな顔をするな。明日こそ絶対に薬草を見つけよう」

 黎飛の言葉に雪蘭はうんと頷いた。黎飛がそう言えば、大丈夫な気がした。

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