4 母を助けて
母の手首に指先を当て、医者は難しい顔をする。
寝台の上では母が青ざめた顔で、細い息を吐いていた。かたわらで雪蘭は胸に手を当て不安な面持ちで医者の言葉を待つ。
屋敷を飛び出し、母が貯めたわずかな銀子を握り締め、町医者の元に飛び込み連れてきたのだ。
お願い母上、どうか無事でいて。
時間をかけて母の脈をとっていた医者は、雪蘭を見つめ、ゆっくりと首を振る。
雪蘭の唇が震えた。
「残念だが、子どもは……」
信じられないと雪蘭は首を振る。
「嘘ですよね……母上も私も、ずっとこの日を待ち望んでいました」
「男の子だったよ」
弟が生まれる予定だった。
呆然とした顔で雪蘭は母を見る。
「母は……母は大丈夫ですか?」
医者はうーん、と唸り、雪蘭から目をそらした。
「かなり身体が衰弱している。このままでは母君の命も危ないだろう」
「お願いです、母を助けてください!」
「うむ……滋養に効く薬草があれば、助かる見込みはあるだろうが……」
「薬草……それはどんな薬草ですか?」
「山参だ。それを煎じて飲ませれば、弱った身体も回復し気力も体力も回復するだろう。だが……」
「先生はその山参を持っていないのですか?」
医者は頷く。
「残念だが希少な薬草ゆえ、それに値もはる」
「いくらするのですか?」
医者に値段を教えられ雪蘭は腰が抜けそうになった。どんなに頑張って銀子をかき集めても、とても買える金額ではなかった。
あまりの雪蘭の落胆ぶりに同情したのか、医者はポツリと言う。
「どうしても手に入れたいと思うなら、呂景山に入れば、もしや……」
雪蘭はすくっと立ち上がった。
「呂景山に行けば、山参が見つかるのですね」
医者は慌てて雪蘭を引き止める。
「ちょ、待ちなさい。子どもには無理だ。山には山賊や恐ろしい獣もいる。それにさっきも言ったが、希少な薬草だから必ず見つかるとは限らない!」
賊よりも獣よりも、母がいなくなってしまうことの方が恐ろしかった。
「ありがとうございます、先生。母上、待っていて。必ず薬草を見つけてくるから」
医者に深々と頭を下げ、雪蘭は呂景山へと向かった。




