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復讐の後宮妃 この恨み絶対に忘れない  私を殺した悪徳妃に復讐を ー処刑された貴妃は、二度目の人生で牙を剥く―  作者: 島崎紗都子
第2章 後宮の頂点に登り詰めるために

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4 肥桶洗いの侍女

 ふと、誰かの視線を感じ、常夜は顔をあげた。視線の先に美しく着飾った少女たちが歩く姿を見る。

 皇帝陛下の妃として選ばれ、この後宮にやって来た若い娘。

「懐かしい……」

 試験によって妃に選ばれた慧雪とともに、常夜もここへやって来た。

 忘れられない過去の思い出。

 栄華を極めていた慧雪の側に仕えていた自分も、他の侍女たちから羨ましがられた。ところが主は普通の罪で殺され、自分もこのありさまとなった。あらためて後宮の恐ろしさを痛感した。

 冷たい水で洗濯をし、あかぎれで血だらけの指先に息をふきかける。

「なにサボってんだい!」

 つかつかと歩み寄ってきた女官長が鞭を振り上げた。

「ひっ!」

 手を温めるために仕事の手をとめただけで、女官長に叱られ鞭を打たれた。

「申し訳ございません。水が冷たくて」

「水が冷たいだって! だからって、仕事をさぼっていい理由にはならないだろ?」

 女官長の鞭が再び常夜の手の甲に落ちる。

 あかぎれに爛れた常夜の手から、さらに鞭によって皮膚が裂け血が流れる。

「ふん! 貴妃の侍女だったからっていい気になるんじゃないよ。おまえの主は罪人。つまり、おまえもそうなんだよ!」

 常夜が悔しそうな顔で奥歯を噛む。

「それが終わったら、次は糞桶の掃除だよ。サボった罰として食事は抜きだからね」

 常夜は無言で立ち上がり、糞尿の桶に手を伸ばす。

「ふ、かつては栄華を極めた雪貴妃の侍女も、今は落ちぶれた肥だめ桶洗い。みじめね」

「罪人の侍女だもの、お似合いよ」

「そうね。雪貴妃も死んだことだし、常夜は一生、辛者庫で惨めにこき使われ死ぬだけ。哀れよね」

 常夜は陰口を無視し、桶を洗い始める。

 桶にこびりついた糞が飛び散り、顔にはねた。衣の袖にも汚れがつく。

「泣いて許しを請うかと思えば、なによあの生意気な態度!」

 常夜の態度が気に入らなかったのか、宮女たちは顔を見合わせ眉をひそめた

「気に入らないわ。ほんと、雪貴妃も陛下の寵愛をいいことに、我が儘言い放題でいい気になっていたそうじゃない」

 常夜は手を止め、主を悪く言う女官を睨みつけた。

「その目はなに!」

 宮女の一人が常夜の頬を叩く。即座に常夜は、叩いてきた相手の頬を仕返しとばかりに張り倒す。

 常夜の気の強さはここに追いやられても変わっていなかった。もっとも、そうでなければ、ここまでどん底に落とされても、生きてなどいられないだろう。

「なにするのよ! 実際、おまえの主はとんでもない女だったじゃない。そんな主に仕えていたおまえも同類よ」

 叩かれた宮女は頬を押さえ涙ぐむ。常夜はかつて仕えていた主の悪口を言う宮女の胸ぐらを掴んだ。

「私のことは何を言われてもかまわない。けれど、雪貴妃さまのことを悪く言うのは絶対に許さない。それに、雪貴妃さまは無実。陛下を裏切るような真似はしていない!」

「は! 聞いた? 許さないだってさ」

「肥桶洗いのくせに、なにさまのつもりなんだろうね」

 そこで数名の宮女たちと常夜はとっくみあいの喧嘩を始めた。宮女たちはよってたかって常夜を叩き蹴り飛ばす。

「おまえたち、何をしているんだい!」

 騒ぎを聞きつけ、女官長が再び駆け寄ってくる。

「女官長さま! 常夜がさぼっていたので注意をしたら、反対に怒りだして叩いてきたんです」

「嘘言わないで! あなたたちがちょっかいをかけてきたのでしょ!」

「ひどい……」

 常夜に叩かれた宮女は、頬を手にあて涙目で女官長に訴える。

「私は注意しただけなんです……本当です!」

 涙ながらの宮女の声に、女官長は常夜を睨みつけた。

「罪人に仕えていたおまえを、ここで引き取り働かせてやっているんだ。それだけでも感謝するべきなのに、なんて生意気な態度をとるんだい! 桶掃除が終わるまで休むことは許さないからね」

 そう言って女官長は去って行った。

「いい気味ね」

 宮女たちはざまあみろとあざ笑い、常夜の足を踏みつけた。

「ほんと、いつまでも侍女気取りでいるのかしらね」

「さっさといなくなればいいのに」

「ふん、どうせそのうち首でも吊って死ぬかもね」

「それは勘弁よ。私たちに迷惑がかかるじゃない」

「相手にするのはやめましょう。それよりも夕餉の時間よ」

 そんなやりとりを交わし、宮女たちはこの場を去って行った。

 常夜は足元に残された大量の肥桶を見渡し息を吐く。

「今夜中に終わるかしら」

 思わず独り言がもれる。

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