34 いよいよ始まる試験
そして、選抜試験が始まった。
集まった候補者たちは、陛下と皇太后の前に一列に並ぶ。
順番に名前を呼ばれ、娘たちは一人ずつ陛下の前に進み出た。
陛下の目にかなった者は玉佩を授けられ、選ばれなかった者は、そのまま宮廷を去る。
いよいよ慧雪の名が呼ばれた。
ごくりと唾を飲み下し、慧雪は皇帝陛下の前に歩む。
焉国、皇帝陛下。李鶯。
久しぶりね、陛下。
私を捨て、無慈悲にも毒酒を飲ませた憎い男。この男のせいで私の人生は壊された。絶対に許さない。だが、この男に復讐するためには、私はあの場所まで登りつめなければならない。
慧雪は握り締めた手を震わせた。
今すぐ皇帝の元に駆け寄り、首を絞めて殺してやりたい衝動にかられた。だが、ぐっと堪え慧雪は微笑む。
李鶯陛下は目を見開き、そろりと椅子から立ち上がった。
「雪貴妃……」
今はこの世にいない、かつての寵妃の名が陛下の口からもれた。かすれた声であった。
「どうしたのです、陛下?」
陛下の呟きに、隣に腰をかけていた皇太后は訝しむ。
「い、いえ……何でもございません、母上」
慧雪に視線を向けたまま、李鶯陛下は椅子に座り直した。
「そなたの得意なものは舞と聞いた」
「はい、皇太后さま」
「では、舞ってみよ」
よほどの技量がなければ、目の肥えている貴人たちを納得させられない。だが、慧雪は舞の名手。それに、陛下に寵愛されていた頃は、毎夜のごとく慧雪の部屋にやって来ては舞を求めてきた。
慧雪は陛下のために、舞を舞い、歌をうたった。
陛下がどんな踊りを求め、どんな仕草が好きで、どんな目線を送れば心を掴むか慧雪は知り尽くしている。
案の定、李鶯陛下の目は慧雪に釘付けであった。皇太后もそんな陛下の様子に気づいた。
舞が終わり、慧雪は礼をする。
「見事な舞であった」
「お褒めにあずかり光栄です、陛下」
奢らず、かといって謙遜もせず、慧雪は淡々と答え頭を下げる。
「他の女子が緊張で顔が強ばっているのに、おまえは堂々としているのだな」
「いいえ皇太后さま。正直、終わった今も手足が震え、立っているのがようやくです」
偉大なる皇帝陛下と皇太后を前にし、畏怖していると態度で表す。
慧雪の言葉に、皇太后は気を良くしたらしい。
「陛下?」
この者は試験に合格か? と問いかけたのだ。
「うむ、この者に玉佩を」
側に控える太監が頷き、慧雪の前に進み出る。慧雪は太監が携えている盆の上に乗った玉佩を手に取った。
瞬間、慧雪は全身を震わせた。
試験に合格した。再び後宮に行ける。復讐の第一歩を踏み出せた。
最初の難関を越えたのだ。
「次、許明林」
「は、は、はい……」
うわずった声を発し、明林がぎこちない仕草で足を踏み出した。
明林と目が合う。
慧雪は軽く頷いた。
あなたなら大丈夫よ。
目でそう合図すると、明林は口元を引きつらせ笑う。
明林は歌を披露した。
澄んだ歌声であった。
明林の清らかな声に、周りの者は息をするのも忘れ聞き入っていたほどであった。
その歌声に引き寄せられるように、一匹の揚羽蝶がひらひらと舞い、明林の髪に挿した小花の簪にとまった。
その様子に陛下はほう、と感嘆の声をもらす。案の定、可憐な明林の姿に陛下は興味を示したようだ。
「母上」
「陛下、妃として迎えるには見劣りがするのでは?」
「ですが、あの者の簪を見てください。蝶がとまっています」
「うむ」
「蝶がとまるのは、縁起が良いと聞きます。あの者を迎えれば、宮廷に幸運を呼び寄せるのでは」
陛下は太監に命じる。
「あの者に玉佩を」
「ありがとうございます」
玉佩を手にした明林は、恭しく頭を下げた。
明林がこちらを見る。
嬉しそうな表情をする明林に、慧雪は微笑んだ。
そして、いよいよ慈桂の名が呼ばれた。




