31 まさかの慈桂乱入
試験当日。
宮殿の門には、秀女選抜試験を受ける名家の令嬢たちが集まっていた。
みんな自分より美しい者はいないかと、こそりと視線を走らせ周りの女子を値踏みしている。そして、自分よりも劣る娘を見つけてはほっと息をもらしていた。
皇帝陛下の妃に選ばれるため、そして、後宮でも高い地位を得るため、誰もが心の中で希望と野望を抱いていた。
「あら、その衣装とても素敵ね」
「ふふ、都で一番の仕立て人にお願いしたの。そういうあなたの衣も珍しい生地ね」
「あら、おわかりになって。西国の絹を取り寄せたのよ」
「西国の絹ですって!」
「どうりで美しい光沢だと思ったの。本当に素敵だわ」
目を見張るほどの煌びやかな衣をまとった少女は、得意げであった。
少女の名は劉麗蓮。
秀女試験の中でも、一番の有力候補といわれている。
代々、皇后を輩出した由緒ある名家の令嬢で、父と兄は陛下も一目置く重臣。間違いなく彼女が妃に選ばれるだろうと噂されていた。
誰もが羨むほどの衣装を身にまとった劉麗蓮は、わざとらしく簪に手を当てる。
「その簪も貴重な玉では?」
「あら、気づいたかしら。夜光石よ。父がわざわざ東方の商人を呼び寄せ買ったのよ」
「羨ましいわ~」
娘たちはそれぞれの衣や髪飾りを褒め合った。だが、心の中では自分が一番だと思っているはず。
陛下の寵愛を得られれば、後宮内で自分の地位を確立できる。後宮で生きて行くには重要なことだ。さらに高位の妃になれば、実家にも貢献できる。後宮で権力を得た妃たちの実家も、恩恵にあずかれるのだ。
馬車から降りた慧雪は、落ち着いた態度で周りの様子を窺った。それもそうだ、慧雪が選抜試験を受けるのは二度目。
復讐のためにも、ここにいる娘たちの誰よりも秀でた存在でなければならない。そして、皇帝陛下の目にとまらなければ、妃にはなれない。
「秀女たちはこれで全員か」
年配の女官が、集まった娘たちを見る。
「はい」
役人が名簿を確認し、集まった者が全員だと答える。
「門を閉めよ」
女官の声に役人が門を閉めようとしたその時、一台の馬車が凄まじい勢いでやって来て門の前に停まった。
馬車から一人の少女が転がり出るように現れた。
「待って! まだよ、あたしも試験を受けるわ!」
馬車の中から現れたのは驚いたことに。
「慈桂」
慧雪は驚きの声を発した。
慈桂は昨夜から体調不良で思うように動けないはず。それなのに、試験を受けるため会場にやって来たのだ。
慧雪は眉根を寄せた。
よもや、慈桂がここまで、試験に執着するとは予想しなかった。一歩間違えれば、己自身も処罰を受ける羽目となるのに。
「誰だこの娘は」
胡散臭そうに、その場にいた女官や役人が慈桂を見やる。
「徐家の娘でございます」
慈桂を知る女官の一人が答える。
「徐家? 徐家の妃候補はすでにここにいるではないか」
慈桂はいいえ、と首を振る。
「試験を受けるのはあたし! その女は卑怯な手を使い、あたしから試験を受ける資格を奪い取ったの! あたしこそが妃候補よ!」
慈桂は凄まじい目で雪蘭に指を突きつけた。
「騒がしい、何をしている」
そこへ、別の女官がやってきた。
「実は、この者が試験を受けるのは自分だと言い張っているのです」
「試験を受けるのはあたしよ。雪蘭ではなく、あたしが受けることになっていたの! 誰にもこの役目は渡さない。死んでも絶対にね!」
「死んでも、か?」
女官は口角を吊り上げて笑う。
「そうよ! 試験を受けられないのなら、ここで死んでやる!」
慈桂は目を剥き、唾を飛ばして言う。
女官は薄く笑った。
「おまえの心意気は分かった。だが、試験を受けさせるわけにはいかない。これは決まりだ。運が良ければ三年後に来るがいい。さあ、さっさと帰りなさい」
「三年なんて待っていられないわ! あたしは本気よ、ここで帰れと言うなら本当に死ぬから!」
「ほう? ならば、死んでみせよ」




