27 行方不明になった雪蘭 そして、迫る選抜試験
雪蘭が行方不明となり、五日が経った。そして、いよいよ秀女選抜試験の日が間近に迫ろうとしていた。
「あれはまだ見つからないのか! いったいどこに行った!」
黄渓は怒りと焦りを滲ませた声で、地面に額ずく奴婢たちを怒鳴りつける。
雪蘭が見つからなければ選抜試験を受けられない。そうなれば、徐家は厳しいお咎めを食らう。
王命に背いたとして、黄渓自身も官職を失う恐れがある。
「あやつは、どれだけ徐家に迷惑をかければすむのだ!」
黄渓は吐き捨てるように言う。
そこへ、如琳と慈桂がやって来た。
「旦那さま、怒りを鎮めください。お身体に障りますわ」
「この状況で冷静でいられるか!」
如琳は卓に歩み寄り、茶を注ぎ黄渓に差し出す。
「雪蘭さんも年頃ですもの、気持ちは分からないでもないわ」
「それはどういう意味だ?」
如琳は袖口を口元に持っていき、うふふと笑う。
「雪蘭さんは、選抜試験を頑なに拒んでいました。何故だと思います?」
さあ、と黄渓は首を傾げる。
「好きな男がいるからですわ。だから、逃げ出したの」
「あやつに好きな男が?」
「ええ、あら、ご存知なかったのですか? 雪蘭さんと陸家の黎飛が恋仲であることを」
「ばかげている!」
黄渓は怒りに手を震わせ、声を荒らげた。
「雪蘭さんは大事な選抜試験を投げ捨て、その男と逃げたのです。旦那さまが困ることを分かっていながら。一族がどうなろうとかまわない、自分さえよければいいと思っているのですわ」
「そんなことが、許されると思うか! 母親も愚かなら、娘も愚か。花憐はあれの躾を誤った!」
黄渓は机の上の書簡を乱暴に掴み、床に投げつけた。
「なんとしてでも、あやつを見つけ出し連れ戻せ。よいか、あやつを見つけられなかった時は、おまえたち全員に罰を与える。心しておけ!」
黄渓は奴婢に命じる。
如琳は朱い唇に笑みを刻み、黄渓に歩み寄る。
「旦那さま、ですが試験まで日にちがありません。それまでに雪蘭さんが見つかればいいですけれど、もし、探し出せなかったら……」
黄渓は握り締めた手を怒りに震わせる。
「旦那さま、こうしてはいかがでしょう」
如琳はにやりと笑い、続けて言う。
「宮廷からは徐家の娘を試験に、とのことですよね。雪蘭さんがいないのだから、慈桂がその役目を果たすべきではないかしら。今は、慈桂が徐家の長女です」
黄渓の前にすっと歩み出た慈桂は、頭をさげる。
「父上、雪蘭の代わりに、私が選抜試験を受けます!」
「だが……」
「父上! 徐家を見捨て、男にうつつを抜かし逃げ出した義妹を私は許せません。だから、私がこの大任を果たします。私は徐家の人間です。徐家の栄華と繁栄のためにも必ずや試験に受かってみせます」
慈桂の真剣な目に黄渓は頷く。
「うむ。ならば、おまえを正妻の花憐の養女として迎え、徐家の嫡女として試験に受けることを許そう」
慈桂は瞳を輝かせた。
「私が嫡女」
「そうだ。今日よりおまえは亡き花憐の娘。そして、花憐の喪が明けた後、如琳を正妻として迎える」
「旦那さま……」
「如琳よ、よくぞ慈桂をよい子に育ててくれた。感謝しているぞ」
目を潤ませる如琳の手を黄渓は握りしめる。
「これまで辛い思いをさせた。だが、ようやくこれで、そなたを正妻として迎えられる」
如琳は、いいえと首を振る。
「旦那さまに尽くすことが私の喜び。側にいられるだけで幸せでした。だから、辛いと思ったことは一度もありません」
「父上、ありがとうございます」
慈桂は黄渓に対しては拝礼する。
「必ず徐家のために役にたってみせます」
慈桂は口角を吊りあげ笑う。
ああ、ようやく念願が叶う。
宮廷に行ける。華やかな宮廷に相応しいのはこの私。
妃になって陛下の寵愛を賜り、皇子を産んで必ずや、後宮でのし上がってみせる。
その時であった。屋敷の外が騒がしいことに気づき、黄渓は厳しい顔をする。如琳も慈桂も首を傾げた。
一人の奴婢が部屋に飛び込んできた。
「だ、だ、だ、旦那さま! 雪蘭さまがお帰りになりました!」
如琳と慈桂は互いに顔を見合わせ、目を見開く。
「そんなばかな……」
そう呟き、二人は大急ぎで門へと駆けつけた。




