24 慧雪との再会 そして奇跡
「あなた……」
その女は驚いた声をもらす。
雪蘭は足を引きずりながら、女の元に歩み寄る。
「助けて……」
倒れそうになったところを、女に支えられた。
「大丈夫……!」
相手の女が息を飲んだのが分かった。
「雪蘭、あなた雪蘭ね!」
どうして私の名前を?
遠のいていく意識の中で、雪蘭は胸をどきりとさせる。
なぜ、自分の名前を知っているのだろうか。薄く目を開いた雪蘭は思わず息をつまらせた。
そう、目の前に現れた女性は――。
「……慧雪さま?」
消え入りそうな声で雪蘭は相手の名を口にする。
「ええ、そうよ」
「ああ……」
雪蘭の目から涙がこぼれる。
こんな偶然。いや奇跡があるのだろうか。
「最期に慧雪さまにお目にかかれるなんて、私は幸せ者です」
「しっかりして、この傷はどうしたの? 賊に襲われたの?」
雪蘭はゆっくりと首を横に振る。
私の人生、本当に報われないものだった。母を失い、愛する人とも結ばれない。
私が何をしたというのだろう。
望むものが何一つ手に入らないのなら、生きていても意味がない。死んで楽になればどんなにいいだろう。
「しっかりして!」
慧雪の両手に肩を強く掴まれる。その痛みに雪蘭は遠のきそうになる意識を呼び戻す。
雪蘭はかすかに笑う。
慧雪に向かって伸ばされた雪蘭の手が、握りしめられた。
「医者に連れて行くわ。大丈夫、傷は浅いから助かる。気をしっかり持って!」
助かる?
もういいの。命が助かったとしても、私を愛してくれた母も、好きだと言ってくれた黎飛も、もうこの世にはいないのだから。
「いいのです。これ以上生きていても辛いだけ……」
「いったい、何があったの?」
「母を殺されました。側室に……弱った母を父は少しもかえりみることはなかった。私も義姉に陥れられ……命を狙われる羽目に。もう死んでしまいたい」
目がかすむ。
息をするのも苦しい。手足に力が入らない。
死んで楽になりたい。この先生きていくことが辛い。
はやく母の元に行きたい。
あの世で待ってくれている黎飛に会いたい。
黎飛ごめんなさい。
来世こそ、必ずあなたと結ばれることを願います。
「何を言うの。あきらめてはだめ! 雪蘭、あなたはまだ助かるわ。きちんと医者に診せて手当を受ければ助かるの。だから希望を持って! あきらめてはだめ!」
ふと、雪蘭は思う。
何があったのか分からない。けれど、よくよく見れば、自分を励ましてくれる慧雪自身も、無事とは言いがたい姿であった。
雪蘭は感じた。慧雪の命が今にも消え入りそうであることを。
焦点の定まらない目で雪蘭は夜の空を見上げる。
「死んで楽になりたい。来世こそは、人並みに幸せな人生を送りたい……」
本当にもう生きるのが辛い。
「ならば、あなたのその身体を私にちょうだい!」
突拍子もない慧雪の言葉に、雪蘭は微笑んだ。
「難産で苦しむ母に薬草を分けてくださった慧雪さまの優しさは、今でも忘れておりません。あの時、受けたご恩は必ず返すと誓いました……私のような者の身体でよければ……慧雪さまに差し上げます。好きに使ってください……」
慧雪の手が自分の手を握りしめる。
「私が雪蘭の無念をはらしてあげるわ。あなたにひどい仕打ちをしてきた奴ら全員、一人残らず、私が復讐すると約束する!」
「慧雪さまが、私の代わりに復讐を?」
「ええ」
雪蘭は泣いた。
もうこれで思い残すことはない。
「慧雪さま、ありが……」
雪蘭の目から涙がこぼれた。




