23 命を狙われるわけ
やっぱり、つけられている。
身の危険を感じ、雪蘭は走り出す。
屋敷はもう間もなく。中に入ってしまえば安全だ。しかし、行く手をふさぐように、黒装束の男二人が立っている。
咄嗟に背後を振り返る。後ろにも先程の男たちの姿。
男たちがじりじりと詰め寄ってくる。その手には剣が握られていた。
「あなたたちは、誰……」
どういうこと?
命を狙われる理由が分からない。
雪蘭は脇道に身を滑らせた。男たちが追ってくる。
無我夢中で走った。
次第に人気の少ない場所へと追いやられていく。それが男たちの狙いか。
町外れの向こうに、暗い森がぽかりと口を開けるように広がっていた。
雪蘭は森に逃げ込んだ。
闇にまぎれ、雪蘭はひたすら走る。
慣れない山道を必死の思いで逃げた。
「あ!」
地面から盛り上がった木の根に足をとられ転ぶ。
振り返ると、背後には男たちの姿。抜き身の剣の刃が月明かりを受けギラリと鈍い光を放つ。
「あなたたちは誰? どうして私を殺そうとするの」
しかし、雪蘭の問いに男たちは答えない。
一人の男の剣が振りあげられた。逃げようとして背中を向けたところを斬りつけられる。
「きゃああ!」
斬られた瞬間、もんどりうって側の崖に足を滑らせ雪蘭の身体が沈んだ。枝葉や岩に身体を打ち付けながら、雪蘭は崖の斜面を転げ落ちていく。
しばらくして衝撃がとまった。
「うっ……」
身体を動かそうとして、雪蘭は呻き声をあげる。身体中のあちこちが痛い。特に背中に焼け付くような激痛が走った。痛みの部分に手を回すと、手のひらがしっとりと濡れている。
血だ。
先程の男に斬りつけられたのだ。
私、命を狙われているの?
とにかく逃げなければ。
雪蘭は上空を見上げた。月が遠い。どうやら、深い崖に落ちたようだ。暗闇の中、崖の斜面を登って行くのは無理。だが、これで先程の男たちの追跡から逃れられたかも。
「雪蘭!」
その時、自分を呼ぶ黎飛の声が聞こえた。
「雪蘭、どこだ! 返事をしてくれ!」
「黎……」
声をあげようとして雪蘭は慌てて口元を押さえた。黎飛の声に反応すれば、男たちに自分の居場所を知られてしまう。それだけではない。黎飛を巻き込んでしまう可能性も。それだけは避けなければ。
「雪蘭!」
黎飛の声がじょじょに近づいてきた。
黎飛、だめよ。
来てはだめ。私を探さないで。あなたまで殺されてしまう。
雪蘭は手を震わせ、声がでないよう口元を押さえた。
いったい何が起きたのか分からないが、とにかくここから逃げなければ。
「雪蘭ーーー!」
黎飛の呼びかけを振り切るように、雪蘭は立ち上がった。
「うう……っ」
足首を痛めたようだが、なんとか歩ける。剣で斬られた背中が痛い。背中のあたりが血でびっしょりと濡れているのが分かった。
視界がぐるぐると回る。それでも、逃げなければと思い、雪蘭は足を引きずり歩き出す。
「……蘭……うわーーーーっ」
遠くで黎飛の悲鳴が聞こえた。
「黎飛……! まさか……」
雪蘭は立ち止まり後方を振り返る。
もしかして、黎飛があの男たちに殺された?
私のせいで、ごめんなさい。
あなたを巻き込んでしまった。
涙がこぼれる。
どうしてこんな辛い目にあわなければならないの。
ささやかな幸せすら望んではいけないの?
私には許されないの?
泣きながら雪蘭は足を一歩一歩と前に進める。
背中が痛い。
足の感覚もない。
どのくらい歩いたか分からない。追っ手から逃れなければと、その思いで必死であった。
ふと、前方の草木がガサリと揺れた。
またしても男たちが先回りをして待ち構えているのかと思い、咄嗟に雪蘭は木の陰に身を隠した。
呻き声が聞こえる。
女のものだ。
追っ手ではないと確認し、雪蘭はおそるおそる木の陰から姿を現した。
目の前に女が身をかがめるように立っていた。
相手もこちらに気づいた。




