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復讐の後宮妃 この恨み絶対に忘れない  私を殺した悪徳妃に復讐を ー処刑された貴妃は、二度目の人生で牙を剥く―  作者: 島崎紗都子
第1章 新たな人生を生きる

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21 あなたと別れたくない

 それからの雪蘭は、試験を受けるための準備に日々追われていた。部屋には今まで雪蘭に決して与えられることのなかった絹の仕立てた衣や装飾品、化粧品などが運ばれた。

 これもすべて試験に受かるため。

 雪蘭は卓の上に置かれた衣に指を滑らせる。

 滑らかで指先に馴染む生地。異国から仕入れた高価な反物を、町で人気の仕立屋に依頼して作らせたと言っていた。

 それらすべて、慈桂が見たら間違いなく羨ましがるだろう。

 慈桂に限らず、娘たちが喜びそうな品々だが、雪蘭の表情は暗い。


 試験を受けるなんて嫌。

 宮廷になんて行きたくない!

 黎飛、あなたに会いたい。


 ふと吹く風に窓が開いた。

 雪蘭は窓を閉めるため歩み寄る。屋敷の外れにある雪蘭が暮らす部屋は、手入れの行き届いていない物置小屋のようで、半分朽ちかけている。こうして風が吹けば立て付けの悪い窓が開いてしまうことも。

 窓に手をかけ、空に浮かぶ月を見上げた雪蘭は、突然窓によじ登り部屋の外へと出た。そして、屋敷を飛び出した。



 雪蘭はぼんやりと町を歩いていた。

 賑わいを見せる大通りは、これからが夜の始まりだと言わんばかりに人であふれている。

 店の軒先に吊された提灯は煌々とした明かりを放ち、道行く客を誘っていた。

 ふと、幼い頃母に手を引かれお祭りを楽しんだことを思い出す。

 見たこともない人の群れと熱気。

 数々の屋台で売られているお菓子や雑貨に目を輝かせた。

 あの時、母が買ってくれた山査子飴(タンフールー)を思い出し、雪蘭は目尻に浮かんだ涙を拭う。

 何も知らなかったあの頃は幸せだった。

 滅多に父に会えなくても、母が側にいてくれるだけでじゅうぶんだった。

 慈桂や如琳に意地悪をされ泣いて帰っても、母に頭をなでられ一緒にお布団にくるまって眠れば、嫌なことも忘れられた。

 だが、その母ももういない。

 如琳に殺されたのだ。

 雪蘭は唇を噛みしめる。


 試験を受ければ宮廷に行く。

 そうなれば、母の無念を晴らすことも出来ない。


 雪蘭ははっとなる。


 私は本気で母の無念を晴らしたいと思っているの?


 その時、目の前ににゅっと何かが伸びてきた。

 驚いて反射的に振り返る。すぐ後ろに満面の笑みを浮かべた黎飛が立っていた。黎飛の手には棒に刺さった山査子飴が握られている。

「雪蘭の姿を見かけたから」

 雪蘭は目の前の相手を見上げた。

 三年前よりも背が高く、身体つきも男らしくなった黎飛は今は自立して、鏢局で働いている。鏢局とは荷物や人を護衛しながら運送する、用心棒兼運送業者のことである。

「山査子飴、好きだろ?」

「うん、好き。ありがとう」

 差し出された山査子飴を受け取り、雪蘭は口にする。

 甘酸っぱい味が口の中に広がり、母の思い出と重なった。

 あの時は母が、そして今は黎飛が側にいてくれる。

 そんなことを思う雪蘭の目に涙が浮かんだ。

「だ、大丈夫か? どうして泣いてんだ」

「ううん、何でもないの」

 泣き笑いで雪蘭はもう一口、山査子飴を食べる。目に浮かんだ涙が落ち頬に伝っていく。

 黎飛の指が伸び、雪蘭の涙を拭う。

「こんな夜遅くに一人で町を歩いてどうした? またあいつらに嫌がらせをされたのか?」

 如琳たちの無茶振りで、町に買い物に行かされたのだと黎飛は思ったのだろう。そんなことは日常茶飯事だったから。

 しかし、雪蘭は首を振る。

「話を聞くよ。静かな所に移動しよう」

 何か事情があるのだと察知した黎飛は、雪蘭の手を引き近くの川辺に移動する。

 町の喧噪が遠のき、辺りは静かだ。

「私、屋敷を抜け出したの」

「え? 抜け出したって、どうして」

 川縁に腰をかけた雪蘭は、屋敷を飛び出した理由を黎飛に話した。

 秀女選抜試験を受けることになったこと。もし妃に選ばれたら、宮廷に行かなければならない。そうなれば、一生後宮から出ることはかなわない。

 次第に黎飛の表情が強ばっていく。

「宮廷に行けば、黎飛に会えなくなる。そんなの嫌」

 黎飛はぽんと手を叩いた。

「それなら、試験を受けなければいい。何か理由をつけて逃げれば」

 簡単に言うが、おそらく黎飛は宮廷のことを何も知らない。

 雪蘭は首を振る。

「それは無理よ。試験を受けなければ、父上がお咎めを受けることになるの。最悪官職を剥奪されることも」

「そうか」

 黎飛はうーんと難しい顔で唸り、腕を組む。

「なら、陛下の目にとまらなければ?」

「え?」

 雪蘭は目を開いた。

「たくさんの女子が試験を受けるんだろう。だったら、妃に選ばれなければいいんだ」

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