19 異国の者からの求婚
雪蘭は背後を振り返る。思った以上に相手の顔が間近にあったため、雪蘭は慌てて顔を前に戻す。
粗野で無骨な印象があったが、近くで見ると華岩の顔立ちは男らしく端整なものであった。
草原の民は野蛮と聞いていたが、華岩からはそんな雰囲気を感じさせない。むしろ自分に対して丁寧な態度だった。けれど、それは雪蘭の思い違いだったか。
初対面の者にいきなりそんなことを言うなんて、やっぱり草原の民は粗暴なのか。
「さらわれるって、あの、それは……」
「家に戻っても、そなたを気にかけてくれる者はいないのだろう?」
「どうしてそれを……」
「そんな顔をしていた。なら、俺のものになれ。おまえの居場所を作ってやる。大切にするぞ」
「えっと……その」
「一生、贅沢な暮らしをさせてやる。毎日うまいものを食い、綺麗な衣を身にまとう。煌びやかな宝石を身につけ、自分の思うように暮らす。どうだ? 悪くはないだろう?」
「けれど、私には思う人が……」
しどろもどろに答える雪蘭の背中で、華岩の笑い声が響いた。
「あはは! 冗談だ。本気にするな」
「冗談……」
雪蘭はほっと息をもらす。
華岩の口調があまりにも真剣だったから、本気にするところだった。もっとも、自分のような人間を本気で相手にしようなんて思うはずがないのだが。
そんなこと考えれば分かるのに。
本気にするなんてバカだわ。
「行くぞ!」
「ま、待って! 本当に馬に乗るのは初めてだから怖いの!」
「はは、大丈夫だ! しっかりつかまれ!」
「ひゃっ!」
雪蘭は情けない悲鳴をあげる。しかし、初めて馬に乗る雪蘭を気づかってか、華岩は控えめに馬を走らせた。
流れる景色に雪蘭は目を輝かせた。顔にあたる風が気持ちいい。馬は町の入り口に辿り着いた。
華岩は軽やかに馬から降り、雪蘭に手を差し伸べた。
「俺の手に」
「は、はい」
雪蘭は恐る恐る華岩の手に手を添える。
ごつごつとした大きな手だ。そして、逞しい腕に支えられ雪蘭は馬から下ろされた。
「家まで送ってやれず、すまない」
「いいえ、それよりも早く妹さんの元へ」
「ああ、ありがとう雪蘭。そうだ、こんなものしかないが受け取ってくれ」
雪蘭の手に革紐でくくられた珠を渡された。
「え? 高価なものはいただけません」
「はは、売ったところでたいした金にもならん。雪蘭と出会えたことに対する友情の証しだ」
「友情?」
華岩は頷く。
私なんかを友だというの?
「ありがとうございます。大切にします」
「さっき言った約束。いつか必ず、雪蘭のために力になろう。嫁に来るのも大歓迎だぞ」
「それは!」
「はは! 気が変わったらいつでも来い。歓迎するぞ」
そう言って、華岩は馬に乗り、この場を去って行った。
よもやこの先、華岩が雪蘭、否、雪蘭の人生を背負う慧雪にかかわることになるとは、今は知るよしもない。




