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復讐の後宮妃 この恨み絶対に忘れない  私を殺した悪徳妃に復讐を ー処刑された貴妃は、二度目の人生で牙を剥く―  作者: 島崎紗都子
第1章 新たな人生を生きる

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17 愛する人の告白に揺れる気持ち

 雪蘭は徐家の廟堂の床磨きをしていた。

 魚の件はうやむやにされ、母の死の真相も突き止められなかった。

 今では、そのことを口にすることさえ当主によって禁じられている。命令に背いた者は罰を受け屋敷を追い出された。

 あれから半年、禁足は解けたが外出は許されず、如琳と慈桂の風当たりはますますきつくなった。

 母が亡くなって以来、こうして奴婢のように働かされている。いや、奴婢なら給金が与えられるが、雪蘭には何もない。だが、廟堂に入れるのは一族の者しか許されず、徳を積むためと言われれば従うしかない。

 床磨きを終え、立ち上がった雪蘭はふらりと足元をよろめかせた。

 まともな食事をとっていない。出される食事はいつもわずかばかりの米が浮かぶ粥ばかり。

 すべて、如琳の指示だ。

 慧雪に教わった通り、毎回必ず粥に簪を差し毒が混入していないか確かめた。今のところ毒物の混入は認められない。だが、このままでは体力が落ち、倒れるのも時間の問題。

「雪蘭!」

 桶の水を取り替えようと廟堂を出た雪蘭は、目眩を起こし足をふらつかせた。そこへ、駆け寄ってきた黎飛によって抱きとめられる。

 禁足の間も、何度か黎飛が屋敷に忍び込み、くじけそうになるのを支えてくれた。

 黎飛には感謝しかない。

 黎飛に支えられ、雪蘭は顔をあげる。間近にある黎飛と目が合い、雪蘭は胸をどきりとさせた。

「大丈夫か?」

「ええ、少し目眩がしただけ」

「痩せたな。顔色も悪い」

「平気よ」

 今のところ如琳は自分を殺すつもりはないようだ。

 いたぶり自分が弱るのを、ただ面白がって見ているだけ。

 父は如琳のやることにいっさい干渉しない。

 自分の娘がどうなろうと興味もない。

 黎飛は深いため息を落とす。

「今では、あの妖婦が徐家を我が物顔のように仕切っている」

 苦々しい表情で、黎飛は握ったこぶしを震わせた。

 正妻だった花憐が亡き後、今や屋敷は如琳が当たり前のように仕切っている。母の喪が明けた後、如琳は正式に黄渓の正妻となる。

「ふふ、お母さまが正妻になったら、あたしもこの屋敷の嫡女となるわね。おまえなんてお払い箱よ」

 先日、義姉の慈桂がこれみよがしに自慢しに雪蘭の元にやって来てそう言った。さらに、良家のご子息からいくつもの縁談話を持ち込まれたと、鼻の穴を膨らませ得意げだった。

 母を死に追いやった女とその娘が、我が物顔で屋敷にのさばっている。

「それなのに、母上の無念を晴らすこともできないなんて」

 黎飛は驚いたように目を見開き、雪蘭を見つめ返す。

「まさか、雪蘭は復讐を考えているのか?」


 復讐?


 そんなこと、考えたこともなかった。だが、たった今自分の口から無念を晴らせないと言葉にした。

 心のどこかで、無意識に母の死に対する報復を考えていたのか。

「雪蘭、俺思ったんだ」

 黎飛はいったん言葉を切り、そして続ける。

「花憐さまが化粧で発疹を隠していたのは、如琳に命じられただけではなく、雪蘭の身を守るためでもあるのではと」

「どういうこと?」

「もし、自分が側女の毒によって殺されたと雪蘭が知れば、きっと如琳に食ってかかり仕返しをするかもと恐れたのかも。花憐さまは雪蘭には何事もなく、屋敷で過ごして欲しいと願っていたからかもしれない。そう……雪蘭が無事に嫁ぐ日を願って」

 嫁ぐと言われ、雪蘭は顔を真っ赤にする。

「そんな、私には縁談すらないのに」

「雪蘭」

 黎飛の手が雪蘭の頬にかかった。

「このままここにいたら、雪蘭まで殺される。だから、俺と一緒にならないか!」

「え?」

 雪蘭は目を丸くした。

 何を言われたのか分からず、ぽかんと口を開ける。

 殺されると言われて驚いたのか、その後の言葉に耳を疑ったのか。

 どちらに反応すればいいのか。

「いや……その、だから」

 黎飛は顔を真っ赤にして頭をポリポリと掻く。

「俺の気持ちは知っているだろ?」

「え?」

「ずっと雪蘭のことが好きだった。雪蘭も俺と同じ気持ちだと思っていた。その……雪蘭が嫌でなければ、俺と夫婦になって欲しい!」

「夫婦……」

「嫌か?」

「ううん!」

 雪蘭は慌てて首を振る。

「嫌なんかじゃない! 私も黎飛のことが好き!」

 黎飛は目を見開く。

「ほ、本当か」

「うん」

「まじかよ! やった!」

 黎飛はその場で拳を握って腕を振り上げた。

「雪蘭」

 黎飛は雪蘭の身体を抱きしめ引き寄せた。

「大切にする、雪蘭のことを。一生、守る」

「私も黎飛のために、いい妻になるわ」

 黎飛の手が雪蘭の頬に触れた。

「何を言ってるんだ。雪蘭は今のままでじゅうぶんさ。雪蘭がいてくれたら、俺は何もいらない」

「本当に私でいいの?」

「雪蘭だから、いいんだ」

 黎飛の腕が背中に回りぎゅっと抱きしめられる。痛いくらいの力に雪蘭は眉根を寄せた。だが、その痛みは嬉しい痛みだと思った。

「黎飛、苦しいよ」

「ごめん」

 黎飛は雪蘭の身体からぱっと手を離した。だが、すぐに黎飛の手が雪蘭の頬に伸びた。

 言葉もなく二人は見つめ合う。そっと黎飛の手で頬をなでられた。

「雪蘭、好きだ」

「黎飛、私もよ」

 黎飛の顔が近づいてくる。ごく自然に雪蘭は目を閉じた。

 いっさいの音が遠ざかって行く。

 この世界にいるのは二人だけ。

 そして、二人は唇を重ねた。

 短い口づけ。けれど、胸に広がる今まで抱いたことのない満ち足りた思い。

 幸福と頼りになる存在がいるという安心感に、自然と涙がこぼれ頬を濡らした。

「俺の家柄は、雪蘭みたいに立派でないけれど」

「家柄なんて関係ない」

 そもそも自分は名家の令嬢でありながら、奴婢のような扱いだ。

「雪蘭ならそう言ってくれると思った」

「うん」

 二人は目を見合わせ笑った。

「俺、早く大人になって雪蘭を守れる男になる」

「今だって、私のことを守ってくれているわ」

「まだまだだ。俺は雪蘭を辛い目にあわせない。悲しい思いは絶対にさせない!」

 力強く言い切った黎飛に、雪蘭は瞳を潤ませる。

「雪蘭を幸せにする」

「ありがとう黎飛。今でもじゅうぶん幸せよ」

 雪蘭のこぼれる涙を黎飛はそっと指先で拭った。

「もっと、たくさん幸せにしてやる」

 雪蘭はふふ、と嬉しそうな笑みをこぼした。


 でもこれでいいの?

 如琳をこのままのさばらせて。

 母の無念を晴らさなくていいの?

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